17 余興
ひどく不気味に響いた音と共に、ド=ジラルガンは背後に冷たい気配を感じた。シュッと何かが擦れるような音がして、隣でゴトンと重いものが落ちた。
「ユグリム殿・・・?」
振り返った先には、赤い水溜まり。どんどん広がり、高価そうな絨毯に染みを残す。ユグリムの身体には頭がついていなかった。
「何事・・・!キナリ殿!」
にやつくキナリの顔を見て、ジラルガンの顔色が変わった。
「まさか・・・図ったな!」
腰の剣に手をかけたが、キナリの短い呪文と共に見えない何かで縛られ、なす術もなく倒れた。
「甘いんだよ・・・どうせ条約結んで、安心してたんだろ?」
ジラルガンの頭を掴み、目を合わせた。
「『休戦』。いつでもまた戦えるんだよ。・・・せっかく姫様と王子様をお招きして、この場で一気に亡き者になってもらおうと思ってたのに。」
「最初から・・・そのつもりか!」
ジラルガンが声を絞り出す。
「当たり前だろ。安心しろ、ダルキアのヘボ将軍と違ってあんたは強そうだ。宴の余興にしちゃあ、身に余る光栄だろ?」
部下に命じてジラルガンを壁に磔にする。ジラルガンは呻いて抵抗しようとするが、先程のキナリの魔術のさいだろうか。少しも身体が言うことを聞かない。
拷問、というべきか。身動きの取れないジラルガンに、トルキアとダカンの兵が死なない程度に斬りつけ、鞭打つ。ジラルガンは必死に耐えた。ハルジーとハクドは笑いながらそれを見ていた。
血を流しすぎたせいで、ジラルガンの意識が朦朧としてきた頃だ。だいぶ時間も経ち、二人の王はそろそろ飽きてきたのだろう。ハルジーがキナリに命令した。
「そろそろ楽にしてやれ。」
宴は他にもユグリムとジラルガンについて来た兵士達を巻き込んで、赤い海の中で行われた。
「それにしてもハクドが・・・虫も殺せぬ奴が、こんなになるとは・・・凄いものだ。これもキナリ、そなたのおかげだ。」
「なんの・・・簡単なことでございます。このようなことで魔王様のお力をお使いいただくことこそ心苦しゅうございます。」
それぞれに首から上のついていない将軍二人を見て、キナリは目を細めた。
「後のことはお任せ下さい。」
酒泉の宴から数日後、ハルキア王城に悲鳴が響き渡った。
「ジラルガン・・・!!」
腰を抜かしているクナの前には木箱があった。トルキアから送られてきたものだ。中には人の頭が入っていた。
「これは・・・酒泉の宴でいったい何が・・・」
クナの横で、セ=ジラルガンが唇を噛んで震えていた。
「兄上・・・なぜ!」
呟きの後ろで、ざわつきが段々と大きくなる。
「戦だ、トルキアを潰せ!」
「ジラルガン殿の仇を!」
「トルキアのゴミ共を殺せ!」
クナはジラン王を探した。ティハが気づいてクナの側に来た。
「ジラン様はご容態が悪く、昨夜から臥せっておいでです。」
つまり、全てクナが何とかせねばならない。
「セ=ジラルガン・・・この宴は本当なら私が行くはずでした。私の代わりにこうなったことを思うと・・・。」
あまりのことに、クナは言葉を詰まらせた。
「いいえクナ様!姫様をお守りすることこそ、此度の戦で我等兄弟に課せられた責務であります。役目を果たせて死ぬことが出来て、兄も本望でしょう。」
「ジラルガン・・・。」
セ=ジラルガンの、悲しみの奥にもまずあるべき姿を保つ瞳を見て、クナは決意した。
「外交官のアンドクーイを呼びなさい。」
王宮にひときわ響くクナの声に、広間がしんとなる。
「クナ様・・・まさか!」
「トルキアと開戦します。将軍達は後で月光の間に来なさい。」




