16 酒泉の宴
「ハルジー王にはご機嫌麗しく・・・。」
宴の席ではド=ジラルガンが慇懃に挨拶していた。ハルジーの顔は相変わらず黒いマントに覆われて見えない。黒い爪の生えた醜い手で銀の盃を持っている。
「これは・・・ジラルガン殿。お久しゅうございます。」
誰かと振り向くと、ダルキア将軍、ユグリムだった。
「ユグリム殿。五年ぶりですかな。いや、懐かしい。」
ユグリムはジラルガンの隣に座った。ひそひそと話し始める。
「ジラルガン殿、もしやと思いますが、最初にクナ姫様をご招待されませんでしたか。」
「いかにも・・・するとダルキアは、」
「ええ。テジン様です。」
二人の将軍は顔を見合わせた。何か嫌な感じがする。なぜ、ほとんど実権を握っている者が忙しい中、わざわざ来なければならない?
「実を言いますとね・・・テジン様は最初は官人の中でも文官を遣いにしようとしていたのですが・・・文官なら気の利いた詩歌くらい当たり前ですからね。なのに、なぜかトルキアの使者がひどく拒むのです。」
「文官を拒む・・・?」
「ええ、そうでなければ私みたいな武骨ものが酒泉の宴など来ませんよ。」
ますます怪しいぞ、とジラルガンは感じた。だが、今更帰ることも出来ない。
宴が始まった。ほとんどがトルキア人だが、ダカン王国の者もいる。ハルジーの隣にはダカン国王ハクドの姿もあった。
「いかがですか、我がトルキアの酒泉の宴は。珍しい食べ物も沢山取り寄せました。好きなだけ食べて下さい。今宵は月も美しい。楽の音もいっそう澄みわたる・・・。」
酔ったような目でキナリが二人に話しかけた。
「ええ、故郷のものとはまた違って、何とも風情があります。姫様がいらっしゃらないのが残念です。」
「ハルジー王にもてなしていただいて。テジン様にもしっかりとご報告しましょう。」
キナリがニヤリと笑った。
「ときに、ハクド王とハルジー王はあんなに仲が良かったのですか。」
「ええ・・・トルキアにもいろいろありまして。それと・・・。」
すっとキナリが立ち上がった。
「あなた方がお伝えせずとも結構。我らが代わりにお伝えしよう。」
「え・・・?」
キナリがパチンと指を鳴らした。




