15 黒い誘い
ダルキア領内の小さな村が見えた。勝ったわけではないが、敗戦しなかったことと被害を広げなかったことに村人は喜び、出迎えてくれた。今までどの村でも歓迎の意を表してくれた。
こうして手を振ってくれているのは俺の国民なんだ・・・。そう思うと一気に誇らしさも増した。
首都ニマには軍が整列してテジン達を出迎えた。
「父上、ダルキア国境を広げることは出来ませんでしたが、トルキアならびにハルキアの侵入は食い止めましてございます。」
ゴダーイは満足そうに頷いた。
「大変結構。まだほんの子どもだと思っていたのが間違いだったかな。いつの間にそんな成長しおったのか。父としては喜ばしい限り・・・もう軍を預けても大丈夫なのだな。私が位を譲る日がますます近づいたわけだ。」
笑顔のゴダーイとは裏腹に、テジンはいたって真面目な表情だ。
「どうした、テジンよ。何かあったのか?」
「いえ・・・ただ、砂漠の様子が気になります。」
ゴダーイも急に真面目な表情になった。
「これからこの国を守るのはお前だ。」
テジンは一礼してゴダーイの前から去った。
砂漠にもう一度行ってみよう。ジゴクサナギの被害がどの程度か調べる必要がある。場合によっては人間が介入せねばならないだろう。
「テジンは・・・どうであったか。」
ゴダーイの傍にはナルーが控えていた。
「兵士達にも好かれております。下手な戦もなさいません。」
「私はそんなことを聞いているのではない。・・・分かっておろう、申せ。」
ナルーは少々答えにくそうに口を開いた。
「ゴダーイ様の思っていらっしゃる通りでございます。ハルキアの姫君に惚れておいでです。一度はわざわざハルキア方面からの出撃もなさいました。テジン様がそちらから攻めねば、ハルキアは総崩れだったかもしれません。」
「そうか・・・作戦の上ではハルキアをトルキアの持ち駒にされては困るとも言えよう。しかし私情を挟むことはならん。・・・頭が痛い、ハルキアと同盟さえ組めれば楽なものを。」
ゴダーイとナルーは暗い表情だ。
「ハクド王か・・・。しかしダカン王国は中立を保つ姿勢を見せている。勝算はあるのか。」
ひび割れた黒い爪で小皿の中に入れた砂をかき混ぜながら魔王が低く呟いた。
「お任せ下さい・・・あんな小者ごとき、魔王様のお手を煩わせる間でもありません。私めがダカンに行きましょう。」
その数日後、ハルキアにトルキアから使者が来た。
「酒泉の宴か・・・。戦にとり紛れて忘れておったわ。・・・姫様、どういたしましょう。」
クナは何とも言えない困惑した表情だ。
今回、使者はトルキア王ハルジー直々の命令でハルキアに来た。毎年このオアシスが一段と繁る頃、太陽と月の恵みに感謝して、宴を催すのがルキア王国以来の習慣だ。分裂しても三国はその宴を各々で行っていた。今年は何を思ったか、三国で一緒にやろうというのがハルジーの提案だった。
「では私が参りましょう。」
ド=ジラルガンが名乗り出た。
「クナ様をお招きしたいとの王の仰せで ございます。ダルキアよりもテジン王子をお招きする予定でございます。」
「では私が・・・。」
クナが席を立とうとした時、ド=ジラルガンがそれを制した。
「私が参りましょう。」
「しかし・・・。」
「姫、貴女に何かあっては困ります。行かれることはなりません。」
結局クナが折れて、宴にはド=ジラルガンが行くことになった。




