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砂漠の月  作者: 沖津 奏
14/41

14 休戦協定

 ひたすらにらみ合う日が続いたが、あるよく晴れた日、トルキアから使者が来た。黒い衣に身を包み、足の丈夫そうなスナアシに乗って来たらしい。だが、かなり怯えていた。

「大丈夫か。」

「は・・・途中でジゴクサナギの一団に襲われて・・・。」

「一団・・・?おかしいな、奴らは群れを作らないはずだろう?」

「その事でお話がございます。」

 銀のコップに水を注ぎ、テジンは使者に渡した。使者は恭しく受け取り、一口飲むとほっとため息をついた。

「話とは?」

「休戦していただきたいのです。」

 あまりに驚いたので、テジンは自分用に注いでいた水をこぼしてしまった。

「ふん、勝手にそちらから戦をけしかけておいてから、都合が悪くなると休戦か。」

「反論も出来ませんが・・・一つ申し上げるとすれば、決めるのは私ではありませんので、この場でそう不服を仰られても困ります。事態は深刻なのです。我がトルキアでもジゴクサナギによる被害が相次いで参りました。この上は砂漠からの撤退しかないと存じます。ダルキアも・・・無駄な戦に留まり、兵を疲れさせるのは論外と存じます。」

 テジンは少々苛つきながらも、兵達のことを思った。この使者の言う通り、長居は無用だ。

「よかろう、休戦協定を結ぼうではないか。」

 使者はほっとした表情になった。

「ありがとうございます。二日後の正午に、三国の国境線の交わる場所でお会いしましょう。」

 暑い陽とジゴクサナギの蠢く砂漠の中に、使者の姿はどんどん小さくなっていった。


「では・・・お互いに以後は休戦ということで、覇権を争うことはしない。そういうことでよろしいですね。」

 砂漠の中心でクナが言った。白い大きな布を頭から日除けに被っている。その白さが目に痛い。太陽よりも眩しい。

 テジンはいつもの月明かりの衣を着て、休戦協定に調印した。魔王は相変わらず真っ黒なマントを着ていて、その姿は分からない。ただ、調印する時に見えた手は岩のように血色が悪く、爪は黒ずんで長く獣のようだった。あの黒ずみは血の跡ではないだろうかと思うと、テジンはぞっとした。


 協定を結んで、三国の指導者達はそれぞれ帰途に着いた。クナは白っぽいスナアシに乗って来たようだ。色のせいか、ますます華奢でか弱く見える。

 手綱をとったクナがテジンを振り返った。二人の他にも沢山の人がいる。クナは声を出さずに口だけ動かした。

「あ り が と う」

 テジンはカッと顔が熱くなるのが分かった。きっと顔が赤くなっているに違いない。そう思うとますます恥ずかしい。そっぽを向いて無言でスナアシの腹を蹴ると、クナはクスッと笑った。


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