13 異変
クナはその日、体力を使いきって早々に床に就いた。明け方近くになってジラルガン兄弟が一緒に帰って来た時も、迎えに出るのすら辛かった。結局侍女に言伝てを頼んだ。
日が高くなってから、クナはようやく起き上がった。陣中で地図を広げている将軍達の輪の中に入って行った。
「姫様!もうよろしいのですか?」
「ええ、ありがとう。私はもう大丈夫。」
ド=ジラルガンに向き直って尋ねた。
「テジン様は、あの後ダルキア本陣にお帰りになったの?」
ジラルガンは眉間に皺を寄せた。
「はい。ルキア家の秘宝、月明かりの衣を着ていましたからな。怪我なく本陣までお戻りになったことでしょう。」
ほっとクナが胸を撫で下ろすのを見て、今度はジラルガンが訪ねた。
「なぜ姫様は奴等を救おうとしたのです。」
クナはムッとして答えた。
「いけませんか!?どんな国の者だろうと、命は皆等しいものです。共に戦っている中でなぜ彼等を見捨てることが出来ましょうか。」
ジラルガンは姫をちらと見た。
「本心から・・・第一にそのようにお思いですか。」
クナはドキッとした。テジンの顔がちらつく。
「いらぬ詮索はせぬものです・・・私はまだ少し寝ます。何かあればティハに申しつけなさい。」
そそくさとその場を立ち去るクナの後ろ姿を見送った後、ジラルガン兄弟と他の将軍達は目を見合わせた。
「姫様はやはりテジン殿に心を奪われておいでか。」
「らしいな・・・。これが男娼奴隷とのお遊びならともかくも、本気であられるから質が悪いというもの。ジラン様がお許しになるはずもない。」
「しかし、此度の戦、ダルキアと組めれば勝ちは見えておる。」
「盟約を結ぶには国王の承認が必要だ。ジラン様がお許しになると思うか。」
「姫様を・・・悲しませるような真似はしたくないが・・・我らにはどうしようもない。」
将軍達はため息をつくばかりだった。
その後、戦局になかなか変化が見られなかった。そんなある日のことだ。テジンの送ったパトロール隊が、必死の形相で陣に帰って来た。
「テジン様ーっ!」
「何事だ、騒々しい。」
ただ事ではないことを予測し、テジンは出来るだけ落ち着いたふりをした。
「大変です!砂漠が・・・狂ってしまいました!」
隊長は息も絶え絶えに話す。
「どういうことだ、詳しく話せ。」
「は、はい・・・。ジゴクサナギが大量に増えて、砂漠の生態系が崩れつつあります。パトロール隊の二十名のうち、三人が犠牲になりました・・・。そこでトルキア兵を遠くに見たのですが、様子がおかしいのです・・・。」
「おかしい・・・とはどういうことだ。」
隊長は深呼吸した。
「奴等はジゴクサナギを忠実に命令に従う奴隷に人工的に改良したと言いましたが・・・トルキア兵を襲ったのです。」
周りで話を聞いていた者も皆、注目した。
「襲った?ジゴクサナギが?トルキア兵を?自然界に前から生きていた奴らじゃないのか。」
隊長は首を振った。
「いいえ、違います。トルキア兵はなんとか従えようと鞭をふるっておりましたし、おそらく人工のものでしょう。砂漠に住んでいるはずのセビレドクトゲトカゲも全く姿を見ません。恐らくジゴクサナギに食い尽くされたかと・・・。そのせいか、トカゲの餌になるスナナキムシが大量にいたのです。」
テジンはぞっとした。だから忠告したんだ、キナリ。こんなことになるのではないかと恐れていた。スナナキムシが増えれば、砂漠のオアシスは潰れてしまうかもしれない。
「そんなにまずい状況か。」
「まだそこまでではありません・・・しかし、時間の問題でしょう。」
砂漠に迂闊にはいるわけにはいかないとなれば、考えていた作戦は使えない。
「暫くは様子を見る。パトロールはいっそう注意して行け。」




