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砂漠の月  作者: 沖津 奏
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01 王子と姫君

 かつて、砂漠の広がる大地には大きな国が二つあった。ルキア王国と、ダカン王国。この二国は互いに寄り添って、何百年も歴史を刻んできた。

 しかしある時、ルキア王国で二人の魔術師が反逆を起こした。この戦争は長く続き、後の世には十五年戦争と呼ばれる。ダカン国王の仲裁でなんとか戦争は治まったものの、ルキア王国は三つに分裂してしまった。今日、ルキア三国と呼ばれるハルキア、ダルキア、トルキアである。三国はその後安定し、貿易で生計を立てている。そして、いつか遠い未来に、再び三国は一つになるという予言のもと、砂時計の砂は確実に落ちていた。




「やっぱりトルキアは違うなあ・・・。西の物が多いな。」

 十五年戦争の終末、カシード条約が結ばれてから三百年が経った。今では三国は東西交易路の中心部として栄えていた。そのうちの一つ、トルキア王国に、ダルキア第一王子テジンが貿易視察に来ていた。十八歳、日焼けした肌に焦げ茶の短髪、それに髪と同じ茶色い瞳が煌めく。頭には王位継承の印である、白く長い布を頭に一周だけ巻き、左耳の上で結んでいる。垂らした先には金で出来た飾りがしゃらしゃらと音を立てている。彼は、かつてのルキア王国の正当な王位継承者でもあった。

「王子、王子!」

 側近が息を切らせながら、スナアシという動物に乗ってやって来た。

「どうした、ナルー。」「どうしたじゃありませんよ。勝手にいなくならないで下さい。王子の身に何かあったら、私は・・・私は・・・。」

「死刑になりたくありませんってか?」

 側近と同じ動物に乗ったまま、テジンはふっと笑って言った。

「王子!」

「悪かったよ、テノリシロミミザルが珍しかっただけだ。」

 視線の先には灰色の毛だが耳だけ白い、手の平に乗りそうな猿がいた。この店で飼われているのだろうか、店の机の上でヒメオコシの赤い実をかじっている。

「たしかにダルキアにはいませんが・・・おっしゃって下さればすぐに取り寄せますのに。」

 テジンは黙って宿の方へ向きを変えた。側近が慌てて後を追う。

「王子・・・分かっていらっしゃるとは思いますが、用心して下さいよ。トルキアは今、危険なのです。」

 テジンはこくんと頷いた。トルキア国王は強力な魔術師だ。それが最近、黒魔術に傾倒しているらしい。魔王、と囁かれるほどだ。そのせいか、国民も何だか暗く見える。ハルキアとダルキアでは、内密に対トルキア戦の準備もされていた。

 二人が市を歩いていると、何か人だかりが見えた。合間に、ちらりと少女が見えた。白いベールで頭を覆っている。額には、大ぶりな雫型のエメラルドが輝いていた。あれは―。

「ハルキア王女・・・!?」

 テジンは思わず見入った。公式の場で何度か会ったことはある。こんな道ですれ違うのは初めてだ。ベールの下から除く茶色の髪。砂と同じような色だ。結っているので短髪に見えるが、髪は長い。瞳はオアシスのような、黒に近い濃い深緑。ハルキアの民族衣装だろうか、くすんだ薄桃色の服を着ている。首には王位継承の証、青い石と金のネックレス。

「クナ姫ですね・・・占い学を学びにトルキアへ来ているとは聞いていましたが・・・。」

 側近が素っ気なく言った。テジンに届いているだろうか。テジンはさっきから口を半分開けたまま、クナ姫に見入っている。


 以前会った時はそんなでもなかった。だが、何年かぶりに見てみると、何ということだろう。あの笑顔が頭から離れない。目に焼き付いたみたいだ。

 宿に帰ってからも、テジンはぼうっとしていた。昼は暑いが夜は寒い。冷たい夜風に朧げに浮かぶ月を見て考えた。・・・今、同じ国にいるんだよなあ。


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