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8話目

リューキとノウン。私の裏切りからすでに1000年も時が流れている。もはや運命共同体と呼べる関係になり、恨みのような感情はもうリューキの中にはなかった。もうそんな恨みだなんだなど、どうでもいいのだ。リュークは私を殺す。それこそが彼の生きる意味となっていた。死ねず、ただ私に従いながら生きることだけは我慢できないよう。

だからかはわからないが、会話は自然だ。何のわだかまりも感じない。これが普通なのだ。彼も分かっている。殺せないことも承知だ。だから、私は何も気にしない。

私はこの世界で唯一の暴君だ。小さいことをいちいち気にするはずもない。

「あ、あんたは誰だい?」

突然の声に、私の心臓は恥ずかしくも飛び出すほど跳ね上がった。

「だ!!」

心臓は跳ね上がるほど大きく鼓動を打っておいて、言葉は口から出ても声にはならず、私の思想で止まってしまった。声は、女のものだった。男じゃない。まるで老人のような、若くはない。

「あんた誰だい?」それは私のセリフだ。この空き家は、人の家だったのか?しかし、入る前も入ってからもこの家には人が暮らしている様子、気配はない。声の主は浮浪者か?

浮浪者は止まったようにゆっくりと家の影から出てきた。お互いに沈黙のまま、お互いがお互いを探るように観察する。やはり、単なる浮浪者の婆だ。髪は長いが手入れはされていなくぼさぼさな上に臭そう。この家自体も黴臭いのでこの老婆の髪が、体が臭いかなど分かりようがない。着ている服もボロボロだが、元の素材が丈夫だったためか原型だけはしっかりと残っている。いい買い物をしたな。と、感心してしまった。

老婆は、私の身なりを査定して、私が裕福だと察したらしい。初めは血走った目を見開き、野獣のように警戒と威嚇を繰り返してたが、それが嘘のだったような笑みを不意に顔に張り付けた。相変わらず目だけは血走っていたので、奇妙な不気味さだけが残った。

「あんた、金持ってそうだね」

私の名前を聞く気はないらしい。もちろん自己紹介など毛頭する気はないようだ。もしかしたら、名乗る名を忘れてしまったのかもしれない。名前を捨てなきゃ生きていけないのかもしれない。生きることは、犠牲だ。その象徴のような女だ。

「金は持っています。ほしいのですか?」

私が丁寧に話をする理由。偽りと蔑みに他ならない。女は私が金を持っていると告げると、更にその顔を和ませる。目は血走っているが。私は興奮して何も言えなくなっているこの女の足元に、いくらかの金を投げた。金は、色々に便利だ。しかし、こんな使い方まであるとは知らなかった。

「持っていきなさい。私には私の分があるから、遠慮しないで」

女は足元の金を一瞥すると、ニタ~と狂気な笑みを浮かべた。それはさっきまでの相手に媚を売るような笑みではない。その血走った本来の笑みと納得できる。狂気の笑みだった。私がまだ金を持っていることを察知し、躊躇なく奪い取ろうと腹で決めた本来の人間性。隠さないなんて正直なところもあるんだなと、感心しながら女の頭に意識を向けた。

女は、軽く2~3メートル後ろに吹き飛んだ。触れてもいない。女はきょとんとし、痛みすら感じている様子もない。痛み以上に、何が起こったのかを考えているようだ。その額からゆっくりと血が流れる。ゆっくりと、透明な指でなぞられていくように、血はそのまま顎先まで伝い、床に落ちた。

ポタポタポタ・・・。垂れる音につられて目を下に向けると、そこにはお金が散らばっている。私が投げてやった金。

「その金はあげます。・・・それとも、いりませんか?」

女は首をでんでん太鼓のように振りながら、金を必死に拾う。いらないか、命。そう聞こえるように言ったからな。そんな身になっても、まだ命がほしいらしい。哀れむと同時に、何かよく見たことあるその姿に、軽く嫌悪感を覚え、気持ち悪くなった。何かがその姿と重なった。


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