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34話目

「お前がマリ・アになんて言われたが知らないが、大体こんなところだろ」

「し・・・知らないなら予想するな」

知らないからこそ、予想するんだろうがと思いながら、ノウンは言葉を続ける。

「・・・魂を、肉体に戻せばいくらでも元に戻せる。みたいなことだろ。・・・言っておくが、そんなことは有り得ないからな。肉体が滅べば死ぬ。私たち神がそれでもなお、生きているように見えるのは、神だからだ。だから、マリ・アが初めにお前に魂を預けた時には、すでに人間としては死んでいた。すでに、神と化していたんだよ」

「・・・リューキ。こんな奴の言うことは聞かないで」

マリ・アは優しく言う。それを馬鹿にするようにノウンが被せて言う。

「こいつが何を言っても無駄だ。私の言うことが正しいのだから」

「リューキ!!!!」

リューキは、私と目を合わせたまま、黙っていた。ショックなのか?何も言えないでいるのか?私は、そんなリューキがかわいそうに思えてきた。やはり、早々に意思のないただの奴隷にしてやらねば。と思っていると、リューキの堅かった表情が一気に溶け、そこから、今までに見たことのない安らぎにも似た優しさを浮かべるリューキが立っていた。

「だと・・・思ったよ。すでに2回も肉体の死を迎えているんだから。正直、死んでいるとは思ったよ。ただ、そこにありもしない希望を持ってごまかしていただけだ」

「そ・・・おうでうか」

「・・・そうだ・・・?」

私とリューキは、対峙したまま動かない。リューキのほうは、明らかに様子を窺っていて手が出せないだけだが、私は違っていた。いくら、リューキの力が格段に上がっていたとしても、いくら私の影たちが呆気なくやられていたとしても、格下相手に様子見などしない。体の動きがおかしいのだ。それに、コンディションも最悪。さっきまでは普通だったのに・・・何が起こっているというのだ?

「・・・死ぬ前に、まままマリ・アに言っておく言葉でもなななないのか?」

「なに?」

「わわわ私は優しいから、おおおおお前に遺言を言わせてやろうとおおお思っただけだ」

本当はただの時間稼ぎ。でもうまく言葉が出てこない。どんどん体調不良は悪くなっていく。良くなる兆しもない。しまった。時間稼ぎなんかしないでさっさと動けるうちに攻撃を仕掛けておくべきだった。私は神だ。自らの問いかけを聞かずして、リューキを殺したとしても、それに関して天罰など下らないだろう。なんたって、私は、私こそが、天罰を下す側の、神だからな。

「遺言など・・・い」

と、俺が言ったとたん、ノウンの体が、ねじれ、ふくらみ、地面をはい回るように転がった。俺は続ける言葉をすっかり忘れてしまった。何事?いきなり苦しみだして、必死にコロコロコロコロと転がり回る。俺が呆気に取られて無謀にも隙だらけだったにもかかわらず、やめる様子もない。わざとじゃないのか!?その様子は尋常じゃない。周りに散らばる葉木を撒き散らしても終わる様子がない。

「ぎゃあああああああああああああああ!!!!」

しまいには悲鳴をあげ始めた。なんなんだ、突然?胸を掻き毟り、思いっきり掻き毟ったためか、勢いよく血が噴き出す。いよいよ意味が分からない。雨が降り始めた。雨が、染まっていく。いや、ノウンが雨に染まっていく。俺も・・・森も・・・何もかもが染まっていく。

「あああああああああああああああああ!!!!!」

ノウンが突然立ち上がった。・・・立ち上がったものの、なんだか様子がおかしい。ノウンの下に、足元にもう一人のノウンが倒れている。立ち上がっている方のノウンは、いつもの様子と違い、白っぽい色をしていた。まるで・・・魂そのもののだ。ノウンが死んだ?でもなぜ?

ノウンが突然立ち上がった。・・・立ち上がった?今さっき、立ち上がったよな?あれ?目の錯覚じゃないよな?白いノウンは消えていた。いつの間にか消えていた。次に現れたのは黒色のノウン。・・・なんなんだ?その2人・・・いやまだ、下に眠っているノウンもいるので3人か。・・・3人のノウンを見ていたマリ・アが声を荒げた。その声に不覚にも俺がびっくりするほど。

「あれは・・・ひょっとしたら・・・」

俺は首をかしげる。でかいハテナが頭の上に出ているのが見えるか?

「今のは・・・まさか・・・」

もったいぶるようになかなか確信を付かないマリ・アにイライラしてきた。早く言えよと急き立てる。

「あれは、もしかしたらレイスと・・・悪魔の王の魂・・・まさか、でも、そうとしか考えられない・・・」

「・・・まさか?でもなぜ、出てきた?」

「そんなことより、リューキ。彼らを早くとめないと!!!」

「そ・・・そうだよ・・・」

いきなしノウンが会話に参加していた。倒れていたところをつい見てしまうと、そこには誰もいなかった。そりゃそうだ。今、真横にいるのだから。

「なんだよ、いきなり?」

俺は横目で冷やかにノウンのことを見ていた。ノウンがその視線と俺の意図にすぐ気がつくように、じっとその眼を見つめた。マリ・アも見つめた。4つの目に冷やかに見られ、バツが悪そうなノウンだが、どうでもいい。この場でめんどくさいから殺しちまおうかとも考えたが、マリ・アが静かに俺の背中をさすり、首を横に振る。冗談だってと俺。

「い・・いや、まあ・・・危ないってことは確かだよ」

「・・・」

「・・・な・・・何?」

再度送る、俺の疑るような視線にノウンがたじろぎするが、ノウンは笑ってごまかす。笑ってもごまかせる問題じゃないが、今のノウンからは殺気も覇気もない。今までのノウンとは思えないほど、弱弱しい。まるで別人・・・というよりは、マリ・ア曰く、これが本来のノウンなのだろう。リビィズ。マリ・アが呼んでいた神だった時の名前だ。

そのリビィズに、ノウンは戻ってしまったようだ。レイスと悪魔の王の力を失った彼に、虚勢を張る勇気はないのだろう。こんな軟弱なリビィズとの決着は後回しにして、問題はレイスと悪魔の王の魂の行方だ。まだ遠くへは行っていないだろうけど、2体はバラバラに行動している。

「で、なんだよ?」

「・・・えーと、リューキ。り・・リューキさん」

「・・・」

「・・・えーと、ちょ・・・ちょっと、私と協力しませんか?」

「・・・」

リビィズ曰く、悪魔の魂と、神の魂の力の均衡がリビィズの中で崩れ去り、体の中で魂を保ち続けることができなくなったらしい。レイスと悪魔の王の魂は、その2つがあってやっと均衡が保たれていたのだ。もしくは、他の神々の力も駆使すればなおのこと。

しかし、先の戦いでリビィズは神々の力を影という形で使い過ぎてしまったし、その神々の魂も俺がほとんど倒した。リビィズにとってもこんなこと初めてのことだった。すべてが初めて。むしろ知らなかったのだ。そして最後に、悪魔の力を体に取り入れすぎたのが最強の2つの魂を失ってしまった最大の要因だった。

「俺は、当然、分かっていると思うが、レイスの魂を追うぞ」

「・・・そうだと思っていた」

レイスの魂の元に向かおうとするとマリ・アが突然、俺の足を止めた。俺がなんだと聞く前に、マリ・アは自分の肉体に魂を戻してしまっている。思わず、「なんでだ?」というセリフが飛び出すと、驚いたのは俺自身だった。マリ・アは俺に何か言いたそうだが、何も言わなかった。言えなかったのだと思う。だから代わりに聞いてやった。

「・・・や・やっぱり、もう神に戻ってしまったのか?」


読んでくれた方、ありがとう

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