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3話

もっとも、そんな日だったことすらも忘れてしまうほど、私はリューキに出会った時、簡単に殺されかけていた。その時のリューキは神である私から見ても、人間とは思えない、悪魔そのものだった。見た目は1000年経った今もあまり変わらず、長いマントを身に纏った少し変わった格好をした単なる人間のガキだった。

そんな単なるガキ風情に、人間も悪魔も支配しているはずの私、神が、体のつま先から全身に震えが起こるほどの恐怖を覚えたのだ。

そんな私が死にたくないという一心だけで、私は口から出まかせをまき散らした。これ以上の血は吐きたくはなかったから、出まかせぐらいいくら吐いてもよかった。

「私は、神の中でも最も弱いから、殺したところでお前の、おお前の強さの向上には一切ならないぞ。これは言い切れることだぞ」

リューキにとってそんなことはどうでもよかった。それに、さっき出まかせをまき散らしたと言った私だが、これはでまかせではない。真実。しょうもないほどの真実だった。私は神々の中でも一際弱かった。更に、その時のリューキは強さに関係なく仇だから神を殺さなくてはならないし、相手が神でも悪魔でも天使でもどうでもよかった。もっと言うのなら、人間すらもどうでもよかったリューキが、神である私の言葉に耳を傾けることは有り得なかった。

それでも私は続けた。何故なら死にたくはない。死にたくなかったからだ。

「私の力を知っているのか?まさか、知らずに私を殺すのか?そんなことはないよな?・・・お前の願いを言ってみろ。私にはその願いを叶える力がある。叶えられる力がある」

言い直したことからわかるように、それは真っ赤なでたらめ。私にそんなことができる訳がなかった。でもまあ、腐っても神なもので、人間に力や幸運を与えることは多少できる。一時的なものだが。けど私は、そんな浅はかな考え、駆け引きにもならない駆け引きで、この場を出し抜こうと考えたのだ。

それでもリューキを出し抜くためには、少しでも会話にならなければならなかった。私からの一方的な話ではウソすら通らない。何を言っていても、正直に言っても殺される。なんでもいい。会話だ。会話をすることが必要だ。

「なあ、お前の願いを言ってみろよ。その前にお前、名前はなんていうんだ?俺の名前はアン・ノウン(本当は適当に何か言ったので、なんて言ったかすら覚えていない)。願い事を叶えることと、人類に幸運をもたらすことが神としての使命だ」

真っ赤な嘘。先も言った通り、私たち神は基本的には神々が・・・一人の絶対的な神が勝手に定めた正義で人間と悪魔を統一している。そんな奴が人間に幸福をもたらそうなどという考えは、当然毛頭ない。それでも自信満々に言い放つ。出来るだけ自信満々に言い放つ。若干のラックは齎せるのだから、嘘は言ってないと自分に言い聞かせながら。

私はリューキの持つ、固執した強さに対する思いにかけた。そしたらそれが成功した。成功したから今の構図ができたのだ。私は、この時だけは自分が神であることに感謝した。晴れた、澄みきった空もその時ばかりは私に祝福をくれているように思えた。

リューキは静かに私のでまかせに答えた。私を見おろし、見下すこともせず、単に見下ろしながら言った。

「なら、俺を今以上に、いや、どの生物、どの生命以上の生き物にしろ」

私は思わずにやりと笑った。勝った。この時点で勝ちが確定した。リュークの願いはなんでもよかった。ウソを信じ込ますことができたのだ。私は、駆け引きに勝ったことにより、それまでにない欲までもが芽生えていた。何故、そんな野心ともいえる欲望が、その時私に芽生えたのか・・・それは説明できない。・・・いや、私には元々あったのだ。腹の・・・脳の・・・心の奥底に隠していた感情が、今まさに現実に姿を現したのだ。


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