27話目
「ここにいるぞ、ノウン!!!」
「そうか」
影に語りかけると、影はノウンの声で答えた。だからなんだと言いたげな感じだな。俺はテンションあがって影に手を振ってみた。影はノーリアクション。反応なし。
「もう、俺の位置は分かったんだろ?それに、教えてやるよ。俺は今から灯台に向かう」
「それがなんだ?」
言いたげではなく、実際にも言いやがった。分かれよ。空気読めよ。てか、察しろよ。
「それがなんだ?・・・じゃねーよ!さっさと悪魔たちをひっこめろ。もう用はないだろ!!!」
ノウンはそんなことかと馬鹿にしたように笑いやがった。いちいち人をイラつかせるのがうまい奴だな。ノウンの答えはこうだ。
「それはできない。奴らの意思を私が操ってここに、この街に誘き寄せたわけじゃない。あくまでも、奴らの意思だ。悪魔だけに」
その、背筋も凍るほど虚しくなるダジャレに更に頭に来たが、それ以上にこの状況がやはり問題だと気付かされた。悪魔も倒し、影も倒し、そして、ノウンは中途半端に痛めつける。なんだ、この無理難題のような問題は?だけど、こんな状況でも俺には自信があった。状況を打開する自信があった。新たな力も得ている。
それに俺は今、自分の中にあった1000年前から使わなくなった力を解放する。新旧相互の力の融合。ここから何が生まれるのか、俺にも全く想像できないが、ワクワクして、心臓から流れる血液たちの高ぶりも感じられるほどだ。その力は、俺の持つ、本来の人間の力だ。
得意げかどうかは表情のない影なのでわからないが、ノウンは確実に得意げだろう。それを想像しただけで、俺の力は爆発した。俺の意識が、初めて遅れた。俺の感覚が、まるで追いつかない。なのに体は反応している。・・・何に?わからない。
「こ・・・この力は?」
マリ・アに尋ねるも、きっとわからないと答えられるだろう。でも聞いていた。行動が、考える前にすでに終わっているのだ。
「私にも、分からないわ」
ほらね。
影の体はすでに細切れになって夜の闇に散った。俺は自分でやったことに気が付いた時には、まるで狼にでもなってしまったかのように叫び、吠えていた。街中に鳴き声が響き渡る。
「こんな力、すでに神だって凌駕しているわ」
マリ・アがボソッとつぶやくも、それは誰に言うことでもなく、まるで恐怖を吐き出したような口ぶりだった。
気が付くと灯台の下までたどり着いていた。感覚が追いつかない。悪魔たちは、困惑するように空を浮いている。悪魔の王の力以上に、今、発生した得体のしれない力への恐怖に次の行動が分からなくなっているのだろう。迷子になった子供のようで、可哀そうでもあり憐れでもある。
灯台に上ろうと思うと、すでに最上階まであと一歩のところまで来ていた。俺は、この力を受け入れるというよりも、逆に混乱した。使えているというよりは、暴走している。便利と言えば便利だけど。
「これは一体なんなんだ?」
「あなたの・・・元々のあなたの力じゃないの?」
こんな力があったら、そもそも使っているし、そもそも驚かない。新たなる力の正体は、マリ・アの魂との融合か、怒りか、もしくはその両方か・・・はたまたノウンからの影響か・・・なんなんだろう?もしくはその全部か。
「しようと思ったことが、すでに行動を起こしている・・・便利っちゃ便利だが、なんの力かわからないから使いたくはない。使いたくもないのに使ってしまうから困っているんだけどね」
ごまかすように俺は笑った。マリ・アには当然その表情も本音も伝わっているが、俺は本能的に無意識に笑っていた。その顔を見た悪魔たちは不気味な存在にますます恐怖しているも、各々逃げないのは、悪魔ゆえのプライドからだろう。哀れなプライドだ。
「なら、私たちが融合したからだと思えば、そう思えばいいじゃない?」
灯台の上に出た。翼の生えた悪魔たちが一斉に俺を見た。というよりも、全員がすでに俺のことを標的に定めていた。でも仕掛けないのは悪魔のくせに、随分と臆病だからか。しかし、その数は100体ほど、いかに怯えているとはいえ、あまり刺激したくはない。
「へ、俺もビビっているってか?」
こんなことは1000年間はなかった。ノウンに生かされていたから、ほとんど死ぬこともなく、不死ではないけど、俺を殺せる存在などこの世界にはいなかったから。俺の本来の裏切りによって取り囲む全部が俺の敵になってしまったような感覚。めんどくさいことになぜか守るものも増えてしまった。その中に、自分の中にいるマリ・アも入っている気がして、何故か悪い気はしなかった。不思議と、悪い気はしなかった。
「ノウンがあなたをどうするかわからないから、体が勝手に怖がっているのね。でもね、リューキ。その恐怖は人間として、生き物にとっても証だから」
俺は、マリ・アの魂を見た。
「なんの証なんだ?」
「さあね」
「ふざけるな」
「・・・生きている証だから。人は、恐怖を感じるの。逆に言えば、恐怖を感じなければ、生きていることも感じられない。複雑なのね。私もあなたも・・・きっと、リビィズ・・・ノウンもそうなんじゃないかな?だから、レイスに恐怖を感じていた」
哲学者か?神は何を考えているのか分からない。単純な問題を自分のロジックでより複雑にしている。俺は妙にムキになってしまった。単純すぎるのかな?
「そんなのは、複雑だなんて言わないだろ。生きているのに、生きている証が必要だなんて奴は、逆に俺には死んでるとしか思えないね」
「リューキは、しっかり生きているのね。うらやましいわ」
マリ・アは少し悲しそうな色を浮かべる。複雑なのはマリ・アだけだろ。でなきゃまるで、いや、まるっきり俺は間抜けじゃないか。
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