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25話目

「な・・・」

「なんだと思う?」

声が聞こえた。私の驚愕し、漏れた言葉に反応する者がいた。

「だ・・・誰だ?」

そんな心当たりはなかった。いや、あってもそんなはずはない。有り得ない。・・・有り得ないなんてことはない。首の骨を折って、体から力がなくなったからといって、死んだというのは単なる思い込みだったのではないのだろうか?現に、私は何者かに体を掴まれている。私の心臓の一つを確かに掴まれている。鷲掴みだ。その一つの心臓は、偶然なのかマリ・アの心臓だ。

「私が初めての神との接触のようだな。こうも簡単に死んだふりに引っかかるとはね」

マリ・アはこねるように心臓を掴むと、壊れたように大笑いをした。こねられるたびに、私に妙な感覚と痛みと恐怖が走り、薄くだが、悲鳴が・・・なんということか、私の口から悲鳴が出るとは。なんという屈辱か。それでも、それでも数ある心臓の一つとはいえ、心臓を掴まれるというのは恐怖の何物でもない。この心臓を潰されでもしたら・・・死ぬことはないにせよ、想像を絶する痛みに襲われることだけは分かる。

「き・・・きさま。その心臓を潰した瞬間、どうなるかわかっているんだろうな!!!???必ず、今度は体の一部すら残さないで、粉々に粉砕して、殺すぞ!!!!」

殺すどころではない。喰らいつくし、私の血と骨にしてお前も私の奴隷にしてやるよ。マリ・アの手は、相変わらず心臓をこねているが、少しだけだがその力は弱まった気がした。

「私が、私が自分の心臓を潰す?そんなことするわけないだろ」

マリ・アは再び高笑いをあげた。その笑いに屈辱的な何かを感じたのはなぜだろうか?答えは分かっていた。このマリ・アに私は侮辱されているからである。いちいち自分で解説するのもかなりの屈辱だったが、まあいい。

闇夜にけたたましく鳴り響くマリ・アの笑い声は、神とは思えず、むしろ悪魔的な様子を呈していた。悪魔よりもむしろ悪魔らしい笑い声に私ですら一種の気持ち悪さ、一種の戦慄が走ってしまった。

「返してね。私の心臓」

その言葉、その言い方が妙に優しく、いやらしかった。マリ・アの表情はどんな顔をしているかはよく見えない。そう言うと、いや、言い終わる前か・・・それは分からないがどちらでもいい。確実に抜き取られた。鮮血は手を抜いたと同時にザッと出ただけでもう止まっているし、胸にガッポリ空いた穴も、手を抜いた瞬間にはもう消えていた。ただ、マリ・アの心臓も消えていた。

心臓を取り戻したマリ・アは、これで完全な神へと復活を成し遂げたという訳か。

「それで・・・私と対等になれたと思っているのか?私には、悪魔の王の力も持っているのだぞ。それに対抗できるのはレイスの神の力だけだ。お前には勝てる可能性はない」

マリ・アが私の前に立っている。逃げも隠れもせず、私の目前に立っている。自信なのかなんなのか、この状況では伝わってこない。何も伝わらない。私が言う言葉、すべてが言い訳のように聞こえてくる。それがものすごく悔しく屈辱的だった。

「勝てるさ」

マリ・アがそんなことを言う。神の魂を得て、やはりうぬぼれているのか?

「私から魂を奪い取れたことを自身の実力かなんかと勘違いしているのか?あんなのはただの不意打ちだ。実力では・・・ない」

マリ・アの様子を探っているが、変わらずなぜか余裕だ。余裕を感じられる。なぜだ?有頂天になりすぎて私の言っていることが分からないのか?

「不意打ちなんてことは百も承知です。問題は方法じゃない。結果が大切なんだ。結果、私は自分の魂を取り戻した。時間はかかったが、取り戻せたことがもう勝ちに等しいことなのです」

「負け惜しみを・・・。では、どうやって私を倒す気だ?やってみろ、見せてみろ!!倒してみろ、殺してみろ!!!!」

「な~に動揺してるんだよ?すべてを超越したんだろう?さっき自慢気に話していたじゃないか?なら、もっと冷静に賢そうに話してみろよ」

マリ・アも壊れたように高笑いを繰り返しているが、やはりハッタリをかましているだけなのかもしれない。現にしゃべるだけで何も仕掛けてこない。何もないのだ。結局のところ。ならば、しゃべることにより、何かを待っているのかもしれない。

「マリ・ア。さっきから何を待っているんだ?」

カマかけてみた。その瞬間、マリ・アに明らかな動揺が見えた。やはり、何かを待っていたようだ。それはなんだ?まあいい。もういい。もう終わらせよう。お前に待つ何かは訪れない。お前に訪れるのは死だ。私が送ろう。私が捧げよう。お前がやった、同じ方法で殺してやる。

「それを、待っていた」

私の心臓への一撃を待っていたのかとも思った。しかし違っていた。では何を待っていたというのだ?マリ・アは私の攻撃を死に物狂いで躱すと、私に攻撃でも仕掛けてくるのかと思った。そこでマリ・アは思いもよらぬ行動に出る。なんと、あれだけの啖呵を切っていたというのに、マリ・アは私から背を向けて、全速力で逃げやがった。

「逃げるが勝ちってか?そんなもの勝ちでも何でもないぞ」

私は、敢えて追わなかった。どこに逃げようが、本当に逃げ果せるとでも思っているのか?そう思っているのも束の間、マリ・アはまた、私の思惑とは裏腹の行動に出る。逃げるはずのマリ・アが、なぜかその場に足を止め、こちらを見ている。なんなんだ?なんだというのだ?

「逃げないのか?逃げることしかできないだろう?」

「逃げるが勝ちなんて思っていないよ。逃げた先には何もないから。だから、私の行動は、すべて勝つための挑む行動です。逃げて勝てるのはむしろ、リビィズ。お前のほうだろ」

「マリ・ア、恐怖で言っていることがおかしいぞ?なぜ、私が逃げなきゃならないのだ?私に逃げなどはない。勝てる相手に、なぜ逃げる?」

マリ・アがまた笑う。なんなんだ、本当に?負け惜しみにしては、本当にプライドだけは高いな。しかし、段々とマリ・アの笑いと言った意味が分かってきた。その場所は、単なる港ではなかった。港には変わりはないし、特別な空間でもない。そこにいる者の存在が問題なのだ。それはマリ・アではない。

「き・・・きさま。初めから、これが狙いだったのか?」

マリ・アはもう答えない。もう答えられないのだ。代わりに答えたのが、最悪な予想通りにあいつだ。そう、私に唯一対抗できる存在。そういうとレイスと思われるかもしれないので言い直しておこう。対抗できる存在になってしまった存在。

「・・・どうもそうらしいな。寝てたからよく知らないけど。そうらしいなら、俺はマリ・アの意思を継ごう」

リューキは短剣を握りしめ、立ち上がってこちらを見ていた。人間の力という攻撃力と、神の力という防御力を手に入れ、リューキは人間にして、私という最高で最強の神に対抗できる力を得たという訳だ。

「・・・もっとも、元々は俺の意思だしな」

 リューキの外見は全く変わっていない。にもかかわらず、その立ち姿は夜の闇と相まって美しさと凛々しさを感じさせるものがあった。本来は屈辱的だったし、頭の中では殺したいほど蹂躙された気分だった。でも、どこか違う気がする。この感情はなんだ?

考えている間のうちに、今度はリューキがそっぽを向いて、文字通り、一目散に逃げ出した。その行動を見て、私はこれこそ文字通り、我が目を疑った。

「お・・・おい」

その声は、あまりにもか細く、もう見えなくなったリューキには聞こえるはずもなく・・・リューキは完全に逃げ果せたようだ。

「に・・・逃がさんぞ!!!!!」

その声は馬鹿でかい声量にも関わらず、それに見合うほどの虚しさももたらしてくれた。見ると、マリ・アの肉体が死んでいた。その肉体を完全に破壊しておこうか考えもしたが、そんなことはしなかった。その行動だけは敬意を表してやったのだ。

「私を出し抜こうとするとは・・・その勇気に敬意を表しただけだ。こんな形ではなく、私がこの手で殺したかったということは覚えておけ」

完全に出し抜かれていたが、どうでもいいことだ。マリ・アは死んだのだから。問題はリューキだ。あいつをどうするか?最悪、殺さなくては勝てない。殺すのか。殺せばレイスの肉体を持つ者を殺すことが限りなく困難になるだろう。しかし、殺らざるを得ないか。

「あいつの短剣は私にとってはグングニルの様なものだから。有り得ないことだが私が負けることも・・・有り得ないことだが」

ノウンはリスクを負うことにしたようだ。魂を減らすことになろうとも、自分の中にある神々の魂を開放していく。俺たちの隠れる場所をなくしているのだ。更に、悪魔の力も開放していく。これにより、この街に悪魔をも呼び込んでいる。絶対に逃がさないという決意が、ムカつくほど感じられた。


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