23話目
「逃げ場なんて元々ないぜ。特に、この私から逃げられる場なんてない」
突如、背後からすぅーと手が伸びてきて、私の首に絡みつく。いやらしいその動きは、私を不快にさせることよりも、私に十分すぎる恐怖を与えることに成功した。
「リ・・・リビィズ!?」
「私は本体ではないし、正確には影だ。だが、影からでもお前たちの位置は本体の私に伝わる。もっとも、もう私の出る幕ではなく、影だけで十分そうだな」
切り裂く光の刃を両腕にまとい、私は一心不乱にこの纏わりつく悪魔以上のこの悪魔に斬りかかった。が、あまりにも手ごたえがなく、それでも暴れた甲斐はあったようで数センチ単位の距離が開き、その隙を生かして体を転がし逃げに転じた。そして、それは成功した。が、あまりそれは事態の好転には結びつかなかった。
「だから、逃げれないって言っただろ!!」
転がった先からまた聞き覚えのある声が聞こえ、私は思わず落胆のため息を吐いた。
「影は・・・何体いるのでしょうか?」
影はただ口角をあげ、その顔はやはりむかついた。仲間の神々を殺し、あまつさえ、自分の力に加え、全神と悪魔と人間を支配した堕天使。堕神。その、殺されたうちの一人に私もいるわけだ。
「影は、ここには3体いるよ」
影の能力は基本的には神の力だが、リビィズの力の影響から悪魔の力も多少混じっていた。多少程度なので、私の持つ神の力ではあまり効果はない。力を無力化することはできない。でも今は、泣き言は言っていられないようだ。
3体の影による影響は、影にも私を殺せはしない。ただし、足止めしてリューキを連れ去ることはできるよう。彼に、私の神のご加護を施さなければ、リビィズに簡単に殺される。無理にでもあの時、私がリューキを助けることに懸命にならず、一旦私の魂を完全に取り戻してから逃げていても遅くはなかった。
「でも私は後悔するなら、私はすべてを行い、すべてに失敗してからにしたい」
ウソか誠か知らないが、今見えている影は2体。しかしながら、リビィズは確かに『3体』と言っていた。どこかに潜んでいるのか?この場所は街の末端、つまりは背中には、海が広がっている。背水の陣。港のような場所だし、殺風景で隠れられるようなところはない。言葉でのトリックか、本当に見落としなのかはわからない。
徐に光を打ち込んだ。弾丸のように弾き出された無数の光の弾は、影の一人の体を無数に貫通させ、その五体をばらばらに弾き飛ばす。だがしかし、空中に散るであろうはずのその体は、すぐに放射線状に散らばることをやめ、見えない鎖にでも繋がれているかのように再び導き、元の体に戻らんとしている。
「そこまでは、予測できていたよ」
私は、私の力を今度は私自身に向けて放った。ただし、それは私の右腕のみ。私の腕は案の定、ズタズタのボロボロとなり、辺りにはおびただしい量の血が飛び散った。ちらっと、横を見ると、もうひとりの影が私に近づいているのが確認できた。しかし、構っている余裕はない。今は目の前の敵を殺すことが重要だ。
影は、その体を軸にし、体の再生を果たそうとしている。行っていることはかなり凄いことだとは分かるが、その間、いかに早く再生しようが、完全に体の動きは止まっていた。
「つまり、予測通り狙いがつけやすいと言うこと!!」
私は、激痛などこの好機の前に忘れ、素早く・・・違うな。持てるスピードの最速を意識して、最速にならんとしながら、この血塗られた腕を影の中心に叩き込んだ。影は、なるほど、その感触は確かに影だ。まるで実体がない。まるでただの空間に手を伸ばしただけのようだった。それでも、効果は抜群のようで、血塗られた腕を嫌がるように影は再び、今度はさらに細かく空中に分散すると、夜の中に逃げ場を求めるように蒸発し、消えていった。
「神の・・・仲間の力には強かったようだが、人間の力にはやはり弱いですね。リビィズ。私が元々人間の体を使い生まれ変わってきたことは、もはや言う必要もあるまいな?」
いくら、人間の血が悪魔や神の弱点だと言えども、その代償は大きかった。失ったわけではない。完全回復がいつになるかわからないが、まだまだ、痛みが残ろうがこの血塗られた腕は使われることでしょう。
だから、その逆もしかり。影が、伸びてきた。私に頬を掠めたのは、ひとえに私の反射神経が良かったからなだけであり、言い換えるならば、偶然だ。言い換える必要もないのだが。
影は、まるで実体がないようで、立体ではあるが肉質は全くない。影の指が伸びようが伸びまいが、それは影にすぎない。はずなのに、なぜ、その腕には切れ味があり、何故その体は私を掴むことができるのか?本当に謎である。
影は私を重力の概念をなくしたように空高くに頬り投げ、本当にいたもう一人の影が空から漆黒の流星みたいに降りてきて、私の腹を思いっきり空中で踏みつけた。神でいたころから1000年の年月は、私に少なからずブランクをもたらしたようで、・・・それとも、人間として生まれ変わった影響からか、そのまま顔面から地面に叩き付けられ・・・踏みつけられた私の体はバウンドもせず、その場で微塵も動かない。
口から血が吐き出される。私は呼吸がしたかっただけなのに。地面がこれほどまでに堅かったなんて知らなかった。リューキはまだそこらへんに転がっていて、影たちの攻撃はまだ受けていなかった。それが、何よりも救いだが、時間の問題だ。
「まだ、生きているようだね。人間の肉体の割には意外としぶといものだな」
忌々しいリビィズの声が聞こえるも、返事はできない。しようとしても口から出されるのは血だけだ。
「答えられないならそれでいいが、私ももうそこに向かっているから。お前には死んでもらい、リューキは返してもらう」
そんな・・・そんなことはさせない。第一、リューキは君のことを嫌っているだろう?無理やり連れて行っても意味はありませんよ。と、言いたかったがやはり発せられるのは鮮血の飛沫のみ。起き上がろうにも、再度背中を踏みつけられ、やっぱり出るのは鮮血のみ。力も気力も何も出ない。もう、もはや、私には立ち向かう力もリューキを守り抜く力もない。私は開き直ってこう言ってやった。
「勝手にして。そう・・・勝手に」
鮮血ではなく、ちゃんとした言葉が出たのは偶然であり、どうでもいい奇跡だった。影は・・・反撃を恐れてか・・・一定の間を取って何もしてこようとはしない。リビィズが来るのを見張りながら待っているようだ。今の私に、反撃どころか攻撃を躱す力も残っていないというのにね。動けない体のまま、そのままの姿勢で夜の空を感じながらつぶやいた。
読んでくれた方、ありがとう




