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21話目

リューキは、生きてはいるものの、その生命力は微弱そのもので、呼吸もろうそくの火ですら、消せないほどに弱弱しく儚かった。今頃になって私は、両親のことを心配し始めていた。

「今頃、ちゃんと逃げられているかな?」

私は今から12年前にマリ・アという名前でこの街に生を受けた。その頃からか、私の両親の家は経済的にも右肩上がりに上りはじめる。それは思えば私の肉体が母親の胎内に宿った瞬間から・・・両親の健康も、とりわけ母親の健康状態は今までにないほどに良好となった。この両親がどこで選ばれたのか、いつ選んだのかは不明だが、影響は両親だけでなく、その街にも及ぼし始めていた。

街は一言で言うのならば、観光と港町だ。それまでは普通に悪魔にも襲われ、観光も漁そのものもパッとしない鳴かず飛ばずの観光地だった。常に人々は言う。

「悪魔さえ来なければ、あの悪魔さえ来なければ、この街もいい街なんだけどねー。おいしい魚は採れ、山の幸は採れ、空気はおいしく、魚の街の名にふさわしいいいところなのにねー」

悪魔はそれまで、年に1回から2年に1回ほど、街を襲い、その都度、街の復興、漁の復興を余儀なくされ、街の発展は遅れていった。でも、それはどの町においても言えることだし、だからみんなある種、仕方がないと思いながら生きていました。

神がいなくなってからすでに1000年ほど経っている。リューキとリビィズの犯した過ち。それからすでにそんなになるのか。悪魔はすでに、人間にとってはもう辛うじて被害を少しだけ抑えられる災害。そう災害として扱われていた。そのために、街のレスキュー隊のような団体は、みな武術のような戦いの心得を取得していた。それでも、先にリューキが戦った強大な悪魔も時には襲ってくるので、追い払うだけでも犠牲も大きかった。

そんな時代に、私はこの世に生を享け、産まれた。両親は、今生まれたばかりのこの生命力あふれる女の子に、マリ・アと名付けた。両親はよく言っていた。「不思議なことに、マリ・アの生命力は人並み外れて大きかったのに、マリ・アは生まれて今まで泣いたことがないのよ」

生まれた時ですら、誕生という人生で最初の彩られたときだというのに、その祝福はとても、とても静かなものだった。

生まれたての赤子は、泣くことによってはじめて呼吸をするというが、私は泣くこともせず、しかし、とてつもなく生命力に溢れ、とてつもなく力強く、呼吸し、力強く生きた。私はその生命力とは裏腹に、とてもおとなしく育つ。私は未だに覚えていることがある。母親のおなかにいた頃からの記憶がまだあります。

ただ今思っても、そのおとなしさはどこか神々しく、人間離れをしていた。それは神の生まれ変わりだと理解した今でなら納得もできるが、今の時代に神という概念はない。あの2人が殺したからだ。それでも、古き文献などによって文字通り、神話として神の存在は語り継がれてきている。よって、私が神の化身だと言われることも、そんなにおかしな話ではなく、むしろ必然的だったと言えよう。

私が生まれ落ちた日を境に、この魚の街に悪魔が近づくことすらなくなった。それは、実際にも体感したからだけではなく、雰囲気のような、実際にそうなったという確証もないままに、それでも人々の心には無意識レベルで安心感がもうそこにはあった。その要因も、言わずもがな、誰もが私のお陰だと分かっていた。それは私を知らぬ者にも・・・。

この街にも四季は巡る。しかし、神がいなくなってからというもの、四季というのは形、言葉、時の流れだけにとどまり、世界からは本当の季節がなくなってしまった。私の誕生は、同時に失われた季節までも復活させ、この街だけだがいつしか、気持ちのいい晴れ空が澄み渡っていた。この街が栄えた一つにそこも関係している。

それでも、当の本人、私には生きる意味が見出せずにいた。みんなは、自分のことを聖女と崇め、両親も、自分が生まれたから幸福が舞い降りたと言ってくれている。しかし、私の感情、ましては心に、喜び・・・いや、喜怒哀楽そのものの・・・感情という感情が一切なかった。


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