表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/44

20話目

「合図なんてあると思うか!?・・・ノウン!!!!もおいいーーーーよ!!!」

マリ・アの隣に確かにいた。それはさっきまでの話だ。マリ・アもノウンから目を離してはいないので、ノウンの姿が俺の後ろ姿に変わったのは本当に一瞬のことだったと思う。その突進を、ノウンはひらりと躱した。さっき当たったのは本当に不意をつけただけだったからか?それでも左手のナイフがノウンの肩をかすめることができたのは、偶然じゃなく実力あってのことだろう。

「まるでかくれんぼのような掛け声だったな。見えているのにかくれんぼか?そのかくれんぼの鬼は私ってわけか?」

「ここ1000年で一番のテンションの上がりようだな」

更に追撃するも、衣服にかすめるのがやっとだった。しかもというか当然か、ノウンは一切反撃してこない。余裕ぶっこいているのだろう。ノウンは俺をまだ一応生かしておくらしい。そんな意思が見える。やはり、裏切られたとはいえ、それは初めからわかりきっていた成立済の裏切りだ。分かっていてほったらかして生かしておいたのは俺を暗に甘く見ていただけであり、この俺を利用しようとしているからだ。

「久しぶりの好敵手だからね。敵の一人もいないとやはり、人生にメリハリがない」

「俺にはただの弱い者いじめ好きにしか見えないけどな。でも俺は弱くないから、しくじったな」

ちらっと見たが、影は動きそうもない。だが、俺の動きはノウンの意識からマリ・アを完全には消しきれてない。むしろ、マリ・アしか見ていない。ノウンの目的は本当にマリ・アの命だけだ。その意識を一瞬でも消し、マリ・アがノウンに近づく隙を完璧に作らなくちゃならない。一瞬・・・そう一瞬。意識が脳から体に伝わるまでの間。反射で動いてしまう本能をも超越するほど動き封じを行わなくてはならないが、実際には奇跡が起きても不可能に思える。

「何に・・・どなたがしくじったと言うのです?」

単純なこの一言で少しだけムキになったらしい。残像すら残りそうな、空気が切り裂かれていく様すら肉眼で見えそうな両手ナイフを、まるで目を閉じているような細い目をしながらさらっと躱すと、伸びきった左腕を掴まれ、上に挙げられ、こじ開けられた脇の下に貫き手を喰らわせられた。

「ガっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!!!!!」

・・・と!!!の分、遠くに吹き飛びそうにされるも、左腕を掴まれているので大きく手を伸ばしただけで、どこにも行けなかった。腕は肩から捥げそうになったが掴まれていることは分かったので、まだあるんだとだけ分かった。

「・・・かかったな。釣れたぜ。お前だよ、しくじってるのはやっぱりさ」

聞き返される前に、ノウンの首に右手のナイフを根元まで深々と突き刺し、返しがあるわけではないがそれでも抜けないように、そのまま俺の喉がつぶれるほどに噛みしめる力を込めて押し付けた。

「マリ・ア!!!!今しかない。こいつのようにしくじるなよ!!!!」

「あ・・・はい」

結果から言おう。マリ・アはしくじった。俺はノウンのことを2秒、止めることに成功した。ノウンから生まれた影もその間動かなかった。マリ・アも動いた。ちゃんと。それでもしくじった。それは、その2秒間に俺がまさか殺されかけたからだった。ノウンはわざわざナイフを抜こうとは思わなかった。ナイフの効果はノウンに微弱の電撃のような感覚を味わわせるしかなかった。

左手を掴まれ、それでも右手のナイフをノウンの首に突き刺している。足は空いているも、意識は腕に集中しすぎているためか、足は無反応を決め込んだようだ。だからかな。ノウンの拳が俺の心臓に突き刺さるのを防ぐことができず、みすみす見過ごした。その一撃目はなんとか耐えられた。というより、意識がかろうじて残った程度だが、それでも、マリ・アが魂を取り戻すと信じて、ナイフに込めた力を緩めることだけはしなかった。

しかし、立て続けに浴びせさせられた刃のようなノウンの腕に、胸を切り裂かれたときには、はっきり意識がなくなった。マリ・アはその瞬間にはノウンの肩に触れていた。触れた途端、ノウンの中にある自分の魂が、マリ・アの体の中に流れようと移動するのを感じたようだ。それはマリ・アにもノウンにも感じられたことだろう。もうあと数秒、ノウンのことを触っていれば、触ってさえいれば、マリ・アに魂が移動し終わっていた。

私の目に飛び込んできたのは、今にも死にそうな瀕死のリューキでした。もしかしたら、魂を取り戻してからでも間に合ったかもしれない。もしかしたら、ただそう見えただけなのかもしれない。だから、私の行動は大失態だと言える。リューキもそれを知ったら怒るだろう。でも、怒られるのは当分先のことになりそうだ。

もう二度と意識を取り戻せないと思えるほど、リューキの呼吸は微弱で、私の胸に抱かれて眠っている。胸からの出血は止まっている。左肩からの出血も気が付けば止まっていた。失ったのはナイフ二本と、それを握っていた左腕・・・肩から下の部位すべて。私は魂を犠牲にして、リューキを助けてしまった。彼を抱きかかえ、一心不乱に逃げた。両親とヒツジを助けるべく、わざわざリビィズの足止めをしていたというのに、そのリューキを抱えて森から街へ、一心不乱に逃げるなんて、本末転倒も甚だしい。

本来助けようとしていた両親とヒツジの爺やを助けられなかった。リビィズを殺すために私が魂を奪い取らなければならなかったというのに、その魂も中途半端にしか奪い取れなかった。すべてが失敗としか言えない様。何をやっているの、私は。

「ここまで来れば、なんとかなるかな?」

走り、走り、走り抜けた先。ここは街の離れ。この街で、言う必要がないほどに、私は有名だ。普段は聖女そのものの服装をしているが、今は逃げる途中に落っこちていた布っきれを体に巻きつけている。一見すると、死体を布に包んでいるだけの浮浪者に見えるので、逆に安心だろう。


読んでくれた方、ありがとう

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ