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19話目

神や悪魔、この2つに共通の弱点は、人間の体から出た物。なんだっていい。一番有効なのは体液。血液などだ。なので、同じ体液である汗も神や悪魔にとってはかなり有効な武器と言えるだろう。なぜ、それらが弱点なのか?それは正直分からない。ただ単に、感覚で気持ち悪がられているだけなのかもしれない。だって、武器にあらかじめ血や汗が付いていたりしたら嫌だろ?まあ、勝手に出まくった汗も少しは役に立ちそうだと、この状況を少しはプラスに考えようじゃないか。

「見縊られたものだな。まさか逃げずに立ち向かってくるとは。なあ・・・リューキ。まさかだが、まさかこの私に勝てるなんて思ってはいないよな?」

ノウンの形相はまさに悪魔だった。神の気品も欠片もない。悪魔の王は俺とノウンの2人がかりで何とか殺した。しかも不意打ち、だまし討ち、神と人間の力で無理やり力を封印し、拷問をかけるようにじわじわじわじわと時間をかけてその力を奪い取ったのだ。まともにやっていたら、2人とも簡単に呆気なく、戦いを挑んだことを後悔することすらできないまま、即殺されていただろう。それほどの力を持っていた。

その力が、今再び俺の前に立ち塞がっている。しかも、その悪魔の王の力は更に一人の神の力も得てより、完璧に最強の力になっていた。その上、相方のマリ・アの力はあまり役に立たないと来てる。何度も言うが、そう、勝てるはずがないのだからこその逃走だったのに。それを役に立たないマリ・アに阻止されてしまったのだ。

応えなかったが、答えは今さら言うまでもなく勝てるなんて思っていない。答えずとも体が勝手に反応し、屈辱だったが無意識にうなずいていた。そのわずかな頷きを見逃さず、ノウンはニタ~と笑った。その顔に一番恐怖したのは他でもない。俺ではなくマリ・アだ。

この時、私はこの瞬間に本当の後悔をした。リューキの言うとおりに逃げればよかったと後悔した。両親などほっておいて、ヒツジなどほっといて、リューキなどほっといて、街の人々などほっといて。すべてを捨ててでも、逃げ出してしまえばよかった。リューキが作ったリビィズに対する裏切りの時間に。何も考えず、逃げればよかったのだ。魂など、神の魂など今さら要らなかった。

「マリ・ア・・・今さら自分のしたことに後悔なんかしてるんじゃねーぞ」

そう言ってきたのはリビィズだ。すべてを見透かしている。私は分かりやすいほど泣き出しそうな顔をしていたから、心理を読むにはこれほど簡単なこともなかっただろうけど。マリ・アがまだ人間だった頃に着ていたお人形さんのような服が、今ではただ動きにくく、単に動きの妨げになるだけだと思い、私の気持ちは更に暗くなっていく。

神の力を有した影はリビィズの後ろにいる。普通は影を盾にするのだろうが、リビィズは自ら前に来ている。自信と実力が前面に出てきている。確かに、リビィズが初め、慎重だった理由がうなずける。一人の神の肉体を持つ者に出会ってしまったら、リビィズにも勝てるかどうかが分からないのだ。奪い取った神の力は、本来の肉体を持つ者のほうに当たり前だが強く影響される。

「おい・・・」

「なんだ?」

リューキが私に小声で話しかけてきた。

「両親さえ・・・あああ・・・あとヒツジの爺さんもか・・・。・・・取り敢えず今はその三人を逃がせれば、俺たちも逃げていいんだよな?」

「ええ。・・・そうね」

こくりと頷いた。リビィズも当然、会話して作戦を練っていることはバレバレに気が付いているが、余裕から待ってくれている。

「正直に言う。俺はお前さえ神の力を取り戻せれば他の人間はどうでもよかった。それに、神ってやつは自分の魂を取り戻すことと、ノウンに対する復讐のことしか考えないと思っていた。が、俺のそんな予想を簡単に裏切った。・・・お前はまるで違っていた」

「ええ・・・あなたの予想通りに行かなくて、ごめんなさいとは思っているわ。でも、復讐はしたいし、それはあなたとて一緒よね?」

リューキがチッと吐き捨てると、リビィズがくすっと笑って言う。内容は聞こえてはいないはずだが、感覚で言ってきた。

「まだ話は終わりそうにないかい?」

大袈裟なリアクションと共に大声を出すリビィズ。てか、両親たちは今現在、ちゃんと逃げているんだよな?・・・誰も応えはしないが、両親たちはまだ逃げていない。

「あいつは取り敢えず無視しといて。攻撃もしかけてこなそうだし」

「そうね。信用はできないけど・・・」

「そこは・・・仕方がないが・・・。とにかくチャンスは一回だ。俺が、完全に囮になるから、その隙にお前が魂を完全に手に入れる。その後は街から反対のほうに逃げ、街と両親らの安全を確保する。ここまではオーケー、いいか?」

「え・・・ええ」

ちらっとリューキの顔を覗く。やはりリビィズから視線を外せないでいた。

「そのあとで、お前は完全にこの街から逃げてもらう。ただし、その逃避行に俺はついていけない。ノウンに魂を縛られているのからだ。だから、お前に、俺がまたノウンに殺されないようにお前の神の魂と肉体の一部を俺に寄こしてもらいたい」

「どうするの?」

 私のことなど一時も見れないでいるリューキの横顔を覗き込みながら聞いた。彼に私の姿が見えているのか分からないが、それでもちゃんと会話は成立しているのだから良しとしよう。

「お前の肉体を食えばいいんだ。あの力が神のものだとしても、悪魔の力だとしても、人間の魂だけでは対抗できない。・・・もっとも、あの力は予想外の力だったからな。くくく、お前の肉体の一部を取り入れたところで、俺に神の力が宿るかどうかは未知だ。方法も原始的な方法が一番確実な気がする。ただそれだけ」

マリ・アが、ため息を吐いた気がする。確認は出来ないから何とも言えないが、ため息とわずかな笑みが感じられた。視線を感じる。俺のことを見ているのは確かだ。

「わかったわ。まずは、魂を取り戻そう。隙を作るといっていたが、合図か何かはあるか?」

俺もマリ・アに合わせてため息と笑みをこぼした。確認はしてないから感覚だけの話だが。つられてノウンも笑っていたから感覚だけではなく、実際だろう。


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