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17話目

リューキにはこれから会う少女の何が奇跡なのかさっぱりわからなかったけど、私は無表情。押し隠しているのは何かを悟ったような、そんな色。目的に近づけば近づくほど余裕すら感じる。

最後の部屋の扉を開けると、そこはものすごく広い部屋であったが、メルヘンなおもちゃや家具でごった返していた。端っこにベッドがあり、そのベッドも妙なほどメルヘンだ。マリ・アの趣味なのか、もしくは、両親の趣味なのか。どっちでもいいがとにかく凄まじいメルヘンっぷりには度肝を抜かされた。肝心のマリ・アはどこだ?

部屋の真ん中に目を向けると、そこにはいたことにすら気が付かないほど澄んだ少女が座っていた。その少女の存在で、隣にいる両親の存在にも気が付かなかった。なるほど。確かに少女は奇跡であり、神の肉体を持つ者だ。その名はマリ・ア。両親がつけてくれたいい名前だ。

「こちらの方が、一昨日港に現れた悪魔を倒してくれた方です。なんと、悪魔の狩人をしているそうですよ、お嬢様」

ヒツジのじいさんが説明してくれ、そのまま部屋を出ていった。マリ・アの顔はあくまでも無表情だが、両親は正反対でものすごく明るかった。マリ・アのために余計に明るく見えるほど。一応、自己紹介しておくか。爺さん。職業教えただけで、名前も言っておいてくれ。

「えーと、俺はリューキで・・・こっちが」

「リビィズ・・・」

俺が適当にノウンのことを説明しようとしたところ、ノウンが俺を制して何かを言った。もしかして・・・名前?でも聞いたことはない。どういう意味だ。その場の全員の頭にでっかい?が出ている。・・・ノウンとマリ・アを除いて。

「えーと、リューキ様と・・・すみませんがなんでしたか?」

「リビィズ・・・」

戸惑う母親の問いに答えたのはマリ・アだ。明らかに、今までの無表情とは違い、いかにも人間らしい感じだ。両親もあまりの娘の変化に明らかに動揺しているも、娘から感じる今まで以上に発せられる神々しい雰囲気に、自然と涙が流れていた。無意識の涙だ。俺にも別の感情が芽生えてきている。殺しの感情。・・・でもまだやらない。

マリ・アはノウンには鋭く、怒りの感情をぶつけているが、何故だか俺には優しい感情を表している。両親には特別何もない。あまり興味がないようにも感じられるが、一応、この世に生をもたらしてくれた存在なので、何か特別な念はあるようだ。

「あんたが、神の肉体を持つ者か。久しぶりだな?覚えているか?」

何も知らない両親の手前、これは俺の残された良心からナイフも短剣も見せられないし、出すこともできない。でも、マリ・アは覚えていたらしい。神はほぼ、俺が殺したのだ。だから覚えているに決まっている。だが、殺された割には恨みもあまりないようだ。それもそうか。俺の今の状況を見れば、恨むどころか同情もするだろう。魂を縛られているのは神だけじゃない。俺もそうなのだ。

「ええ、当然覚えていますよ。忘れる訳がありません。そう、何年、何百年経とうとも、忘れる訳がありませんよ」

俺はその言葉に思わずニヤッと笑った。そう、この瞬間にマリ・アに憎悪の感情が全くないことが分かったからだ。魂で証明された。よし。

「マリ・アちゃん。突然、一体どうしたの?」

両親が困惑するのも無理はない。完全にマリ・アは神に戻っている。混乱し始めた両親は完全に無視され、ノウンがマリ・アに語りかける。

「正直、会ってみないとお前がどの神なのかが分からなく、正直に言おう。正直怖かった。だが、なんてことはない。お前はあいつではなかった。それが今この瞬間に証明された」

ノウンは今にもマリ・アを殺そうとしているようだが、そうなれば最悪なシナリオだ。どうにかしなくては。楽観視している時ではない。この場にはマリ・アの両親と少し離れた場所にヒツジの爺さんだけ。人間は。ならば、見捨てることも可能。被害は最小限と言える。言える?最小限と言えるだと?最小限とは、ノウンだけを殺すことだ。それが最小限であり、人が一人でも死ぬことは最小限でも何でもない。

「おい、リューキ。やれ」

ノウンがボソッと言い放つ。しかし、そんなことに従うはずがない。どうにか両親とヒツジの爺さんを逃がさなくてはならない。マリ・アを見た。マリ・アも俺を見る。どうにか引き離す方法はないか?瞬時にマリ・アが両親をかばった。マリ・アが小さな体で2人に覆いかぶさる。ならば、俺の行動は?

「今さら人間の命を守ろうとするとはな!それが命取りだよ。私の目的はお前ひとり。お前の体を破壊して、2度と復活できないようにしてやること。これで、本当に私の不安がひとつ減る」

と、ノウンが得意げに言った瞬間、いや、途中で咄嗟に短剣を取りだし、マリ・アの背中、ではなくノウンの胸にそれを突き刺した。全力であり、全速であり、全体重を乗せて、心臓に届くようにと。しかし、手ごたえはない。ノウンには心臓が吸収した神の数だけ存在する。運よくノウンの真実の心臓にその短剣が突き刺さっていたとしても、その程度ではノウンは死なない。それは百も承知だ。

だが、ノウンもこれには驚愕の表情を浮かべていた。さっきも言ったがこの攻撃にダメージはほとんどない。これで致命のダメージがあるなら初めから苦労などしていない。しかし、運ぶことはできる。突き刺したまま持ちあげられたノウンを、体ごと館の外まで運んでいく。引きはがさなければ、最悪全員、死ぬ。あっけなく。簡単に、死ぬ。

「なんのつもりだ、リューキ!!今さら何のつもりなんだ!!!!!?????」

ノウンが怒りと困惑と哀愁をそのまま吐き出して叫んだ。答える意味はなかったが、答えてやった。俺たちの関係を忘れちまったらしいから、思い出させる意味はある。

「言うまでもないだろう。俺は、お前を殺すために一緒に旅をしてるんだ。こんなチャンス、無駄に出来る訳がないだろう!!」

館の外に出て、100メートルほど森の中を走り抜けたが、流石にそこまででノウンも身動き取れるようになり、砕かれるほどの強力で俺の両肩を掴み、へし折ろうとしやがった。激痛が走り、痛みに耐えかねて思わずノウンを投げ捨ててしまった。

「ここで、私を殺せると思っているのか?」

ノウンがまたも吐き捨てた。今度は言葉に殺意が入り込んでいる。その殺意に臆しそうになりながらも、俺も啖呵を切った。

「さあね。でも、いいとこまではいけるんじゃない?それに、お前から一つ、神の力を奪えるチャンスなんだ。黙って見ているだけのはずないだろう」

ノウンがフッと笑った。俺もつられてフッと笑う。

「お前は私の兵器であって奴隷ではなかったか。だが、こんなことをしてタダで済むと思うな。殺せなくとも、お前から・・・意思を奪うことはできるんだぞ!!」

ノウンが離れた状態にもかかわらず手を伸ばす。合わせて俺の体が崩れ落ちた。大汗が流れ落ち、苦しみの表情で悶絶している。苦しくて胸元を抑え、動けない。

「な・・・な・・・・何して・・・るんだ?」

ノウンが手を伸ばしたまま、ゆっくりと近づいてくる。近づけば近づくほど、体は重力に押しつぶされるようにますます動けなくなっていく。

「縛る者の特権ってやつさ。お前の自由は私に支配されているのだよ。だから、もう無駄な考えはやめたまえ」

必死に顔だけあげて、ノウンを睨み付けた。睨む顔の中にも、余裕を見せているのはただの強がりだ。実際にはそれ以外にできることがない。

「やめ・・・るわ・・・け・・・ないだろ。こ・・・これが・・・お・・・俺の・・・いき・・・きる・・・意味だ・・・(からな)」

(からな)は言えなかった。

「そうか・・・なら・・・死ね」

その言い方は実に淡々として、実に事務的だった。


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