表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/44

16話目

悪魔が死に、一気に軽くなったはずみで大きく揺らいだ漁船は、その衝撃、その反動に耐え切れず、結局沈んでしまった。しかし、沈んだことによる死者は出ていない。むしろ沈んでよかったのかもしれない。あの船には死んでしまった魂たちがそれでもたくさんいたから、埋葬ではなくとも、これで墓代わりにはなったことだろう。

俺は当然、船と心中する気はないので、すぐさま脱出して港に飛び移った。港には、俺以外誰もいなかった。それでも、その場で少し深く息をついていると、先に逃げた漁師たちが集まってきて、次々に俺へとお礼を言ってくれた。

次第に街の人々も事態が収拾したことを知り、ぞろぞろと集まってきた。この街の人や中でも漁師の人たちに礼を言われたし、街総出でお祭り騒ぎ。町長があの聖女、「マリ・アにも会ってください」と言ってきたが、今日は会わずに空き家に戻った。主役であるはずの俺がいなくとも特には問題なくお祭りは続いて行く。

ノウンは祭りにも参加せずに、空き家で待っていた。一人で会う意味もないのでマリ・アには会わないでおいたのだ。あくまでもノウンと一緒に会わなければ意味がない。ノウンがいなければ何も意味がない。

空き地に戻ると、謎の女が泣きながら抱きついてきた。嫌だったが躱すのはあまりにもかわいそうだったのでそのまま受け入れてあげた。よく見たら今朝、俺たちに悪魔が来たことを教えに来た女だ。誰?

「あんた、すごいねーーー。まさか、あの蛇を倒しちゃうなんて」

蛇じゃないけど、ムカデだったけどね。と言いたかったが、すでに消滅したのでもうどっちでもいいことだ。てか、誰だ?

「まあね。少し休ませてもらってもいいかな?あと、ここって、もしかしてあんたの家か?」

女は涙を拭きながら、大笑いをする。どっちなんだその笑いは?てか、あんたほんとに誰なんだ?

「私の家の訳ないじゃない。でも、泊まるには全然いいわよ」

女は無理にウインクするも、本当に何者なんだ?自分の家じゃない家なのに勝手に好き勝手言ってらー。こいつが何者なのかはもうどうでもいい。もう休みたかった。隠してはいるが、腕が片方飛んでしまっている。血も出ていなけりゃ、痛みもないが疲れた。純粋に疲れ切っている。

「どうも」

と、一言だけ告げると部屋に戻り、無造作に床に崩れ落ちる。布っぽいものがひいてあったのは、ノウンの計らいだ。きっと、悪魔との戦いの後、俺が眠りに付くことを分かっているのだろう。いつものことだし。そのノウンの姿はみ・・・え・・・な・・・。

眠りに付くと、すぐに誰かが話しかけてきた。夢と現実の区別はわかるようになっていたが、それどもしばらくすれば分かった。間違いなくここは夢の中だったが、声は確実に現実だった。ノウンが隣にいた。起こしたのはおそらくこいつだろう。

「起きたか?怪我は、大丈夫だったのか?」

部屋には、外の夕日が許可なく入り込み、明かりもないこの場所は、夕日色に染まっていく。受け入れられない部屋のあちこちには、いち早く夜になっているようで、そこには影ができていた。リュークの顔には夕日が、私の顔には影が覆いかぶさる。夕日はまぶしすぎるから丁度いい。

私はリューキに優しく語りかける。この優しさの意図が彼には未だに分からない。死なれると、自分でいろいろやらなくちゃならなくなるからだと、もしかしたら勘付いているのかもしれないし、ただそれだけだが。リューキの左腕は、いつも通り、もう完治している。完全な性能は取り戻していないが、日常生活は問題なくこなせるだろう。

「じゃあ、今日はマリ・アという女の子に会いに行くんだろ?早く行こうぜ」

リューキは起きたそばから元気だ。でもきっと、すぐにこいつはまた眠る。

「・・・寝てたくせに」

 毎度のことながら、リューキには呆れる。リューキが寝てから丸一日経っていたが、当然、彼は気が付いていない。でも、もうすぐ気が付くだろう。

「よし行こう」

 と、行ったリューキがそのまま倒れたのは言うまでもない。どーんと、埃をまき散らしながら倒れ込んだ彼は、口を広げて涎を撒き散らす。腕を再生させることに全エネルギーを費やしているのだ。毎度のことながら、何故気が付かない?

その日はやはりマリ・アの家には行かず、食事と睡眠で潰れた。マリ・アのところに行けたのはその翌日の昼間。その日の朝は日も高く昇り、見合って明るい晴れ渡った朝だった。しかし、昼になるにつれて、太陽は雲にも隠れることはなかったが、空気は肌寒くなり、私にとってはいい空気になってきた。リューキも全く肌寒さを感じていないのか、気にしていないのか。なんの変化もない。何かを考えているような表情を見せるが何を考えているかまでは読み取れない。私には元々そんな力もない。

マリ・アは街はずれの森の中にある豪邸と呼んでも差し支えのない館に住んでいた。入口、つまりは玄関の前に立つも、そこには呼びベルはない。鉄の輪っかが扉にくっ付いているので、それでノックをした。礼儀正しくも、意外とそのノック音は大きく、森に住む鳥たちが一斉に飛び立った。ノックの度に鳥たちもいちいち飛んでいては、いい迷惑だろう。もう慣れろよ。

「もう一度叩いておけ」

偉そうに言ったのでカチンときたのか、今度はリューキが不貞腐れながらも鉄の輪っかをノックした。さっきよりも音は大きく鳴り響いたけど、今度は鳥は飛ばず、代わりに反応して出てきたのは、この館の者だった。ヒツジの爺さんだ。

「あなたが・・・えーと。一昨日の・・・」

「俺はリューキ。こっちは、シスター」

どうやらこの爺さん、リューキのことは知っていたらしい。多分、先日の騒ぎは知っていてもリューキの姿自体は見ていないだろう。でも、明らかに格好がおかしい奴がここに訪れるという話は聞いていたはずだ。その話から憶測で言い当てたのだろう。それにしても私の説明が適当な一言とは。爺さんは街を救ってくれた剣士がこの屋敷に訪れてくれたことに対して素直に喜んでくれているようだ。分かった途端、声色が明るくなった。

「リューキ様で、一昨日はありがとうございました。この街は、マリ・ア様が生まれてからほとんど悪魔に襲われたこともないのです。なので、もうあのときはこの街も終わりかと思いました。さすがに」

爺さんは思い出して涙を浮かべながら、感謝の意を見せる。私はどうでもいいのだが、リューキはなんだかばつが悪そうにしている。元々、悪魔が来た原因は私たち2人の所為。もっと厳密に言えば完全に私一人の所為だ。だから、悪魔退治はただのけじめの様なもの。リューキが持つ罪悪感の様なもの。

「リューキは当然のことをしたまでですから」

私がワザというと、彼はあからさまに嫌な顔を見せた。でも、ため息を吐き、弁解するように勝手に話し始める。

「この街に、来たこと自体、たたまたま偶然だから。・・・そんなに気にすることじゃない。それに、俺は狩人だから・・・悪魔の狩人」

一昨日についた衣服の汚れはうまいこと落ちていて、少しは信じてもらえそうな狩人。爺さんはそうですかという顔をしながらやはり、感謝をしてくれた。

そして、いよいよ案内をしてくれる。はじめの馴れ合いはもともとどうでもよいものだったのだから、早くしろと思う気持ちを押し隠し、爺さんの後をついて行く。建物はやはり大きく、奥の間の奥の奥に案内された。それほど大事なのだろう。


読んでくれた方、ありがとう

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ