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13話目

「見えて来たか!早く逃げろ!!」

俺の声に反応し、残りの2隻の船内から人間たちが湧き出てきた。聞こえていたのか、俺の声は。山ほど人間が残っているんだな。悪魔は船を襲っときながら、一体何をしていたんだ?悪魔の肩を持つつもりは毛頭ないが、それにしても襲うならちゃんとやれよと言いたくなる。

船内から逃げ惑う人々は、我先にと力のない者を蹴飛ばしながら我先にと逃げ惑う。イワシの大群みたいに、周りを犠牲にしながら逃げる、そんな弱弱しい人間たちを果たして守る意味はあるのか?

俺には、いつもその理由が分からなかった。でも、どうやら答えはもうすでに口にしていたことに気付く。弱いんだから守る。それ以上には意味はないが、それだけで十分だろう。悪魔の思い通りに人間たちが死んでいく。それも癪だしな。数本の腕を残しつつ、悪魔たちは残りの腕を使い漁師たちを襲撃する。やけくそなのか?

悪魔の腕は、初め無限とも思えたが、斬っていくごとにその数はちゃんと減少していき、今ではもう残りわずかと成していた。俺を襲う数本の腕は、数本になったことで、実にあっという間に塵と化して消えた。すでにそのスピードには慣れていた。悪魔たちに表情はないが、あまりの一瞬の出来事に、悪魔たちにも冷え切った汗が流れたことだろう。

「この時点で、お前らは敗北しているんだよ!!自分たちの習性を呪うんだな。その前に、俺と会ったことも後悔しろ」

漁船がルアーさながらの悪魔専用のおとり船に思えるほど、この獲物は大物だ。みなさーん、はい、お店から魚拓セットを買ってきてくださーい。一つじゃ間に合わないから念のため100個ほど買っといてくださーーーーい。

悪魔たちもいよいよ必死になってきていると言ったところか?今頃?遅くない?その油断が命取りになったな。もぐらたたきよろしく、逃げ延びようとする漁師たちをぶっとい腕が押しつぶそうと迫っていく。それを、漁師を発見した瞬間に腕の動きを予想して斬り飛ばす。悪魔と俺の血に染まった両腕のナイフを振り払い、辺りに汚い血が飛び散る。辺りも、すでに血まみれになっていたのでどこに飛び散ったかはわからなかった。

もはや、俺はどこも見ちゃいない。奴らの腕のスピードは正直、とてつもなく速い。そう、とてつもなく。ただ、ただそれだけ。

「動きに変化がなさすぎる。絶対の自信ってやつは工夫することを忘れさせてしまうからなー。もう飽きたぜ」

海の青さすらも、流れた血の圧倒的な量には譲らなくちゃならないものがあるようで、海がどんどん汚染されていく。そして、波が船体に当たるたびに、海はまた浄化され青色に戻った。

ここで一つ、アドバイスをしようじゃないか。自信を持つということは、生きる上で、いや、成功する上でとても重要なファクターの一つだ。だが、成長するという点では自信ってやつはそんなに威力を発揮しない。多少は発揮するものの、爆発的な効果は望めない。成長を促してくれるのは絶望か探究心、好奇心。つまり、自信の反対。自信からかけ離れてれば離れているほどいい。それと、生きようとする思い、そして、その意思。

「長い間、弱いものしか捕食してこなかったお前たちにはわからないよな。生まれ落ちた時から強者として生きるお前たちには思いもよらないことだよな。時として、創意工夫ってやつ次第で弱者が強者を打ち砕くことだってあるんだぜ。今日はそれを学べただけでもよかったろ?」

でも、その経験を活かす前に、今日ここで死ぬが、そんなことは気にするな。そういうこともよくあることだ。それが生きるってことでもあり、死ぬってことでもあるんだからさ。それに今日も弱者が強者を殺すんじゃない。いつでも変わらない。強者が弱者を殺すのだ。

木こりのように、次々と悪魔の腕を斬り落とす。顔にはべったり悪魔的な笑みを浮かべて。悪魔以上に悪魔な人間。そう思われることと同時に、それ以上にすべての生物が恐れ、恐怖される人間になろうと思う。最後の漁師が逃げ切った時には、悪魔2体の腕はすべて塵となり、もう1体の悪魔は腕だけでなく、体も半分上から斬り飛ばした。

しかし、しつこいがまだすべての悪魔が生きている。自信に見合うだけの生命力は持っているらしい。そこは素直に認めよう。

太陽が昇ってきた。風も、海から泳いできたとは思えないほど、暖かくなっていた。その風が、俺の体だけを避けて街へと流れていく。漁船も、波と風に当てられて、小刻みに揺れた。服も髪も血潮もすべてが風に揺らされ、たなびいていたが、俺だけは芯から絶対に動かさない。勝つときは不動で相手を見下ろすものだ。

「悪魔を殺るには、心臓に錆びついた短剣を突き刺さなくてはならない」


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