10話目
リューキは黙ると、すぐに眠りに落ちたようだ。私はしばらく外を見ていた。私はリューキを使ってそれこそすべての神を殺させ、すべての神の力を持つ者だ。それなのに、生まれ変わった神の入れ物ごときに初めて会うのがこれほどとは。
かつてないほどに、嫌なものを感じる。体に埋めし魂の一つが疼く。これが恐怖か?どの魂が体を求めて疼き出しているのが分からないから怖いのか?リューキから感じて以来、恐怖など感じたことのない感情だ。この私が死ぬことはない。それはない。絶対にない。
「神どもの肉体は・・・完璧に葬り、私が本当の・・・神になってやる」
私は、リューキが知っているのか知らないが、眠らない。眠らなくていいのだ。だから長い。生きるというのが人の2倍も3倍も長いのだ。ただでさえ寿命が長いというのに。窓から流れ入る風が気持ちいい。自然と髪の毛がたなびく。風に身を置き、時間が過ぎるのを待つ。そうするしかない。眠りの代用はあまりにも少なく、やりつくしてしまった。
長すぎる一人の夜が終わろうとしている。太陽がようやく顔を出し始めた。リューキはまだ布団から顔を出さないが、朝が訪れた。世界の反対側はようやく夜となり、また人々が眠るという。光と闇は交互に訪れるが、世界の基本も光と闇のようだ。
「まだ寝てんのか?いつまで寝てるんだ、お前は?」
私はリューキの寝坊癖にため息をついた。もっとも、何時に起きろと提示したわけではないので寝坊したわけではないが、リューキは何も言わずに目を覚ます。
めんどくさかったので布団からは出なかった。朝日が目の前を塞ぐ。光が逆に眠りに誘う。起きるのがめんどくさいが、そういえばそんなことを言っていられない。この自然が起こした、たった一度と言ってもいい起き上がるチャンスを無駄に出来ない。それを悟られないようにそのままの流れを保つ。
「もう起きてるよ。今起き上がるわ。てめーは準備できているのか?今起きる俺より遅いなんてのはなしだぜ」
「誰に言ってんだ?私は着替えないから。早いに決まっているだろう」
「きたねーな」
と言いつつも、俺も同じ服を着ている。風呂でいっしょに洗い、次の日にまた着る。生乾きのにおいがするがもうそれも慣れた。1000年も嗅いで嗅ぎなれたにおいだ。つまり、俺にとっては汚くなければいい。
空き家を出ようとすると、変な女が慌てて走ってきた。その早さは尋常ではない。呆気に取られ、何事かと聞く前に切れた息を整える間も作らず、乱れたまま言葉も一緒に吐き捨てる。正直聞き取りにくいが、それどころではないと言った感じで仕方なく聞くことになった。本来は無視しているところだ。
「おおおお、おまえ様。おまえ様はどこかの騎士かななななにかでしょううか?」
変な女が俺の肩を掴みながら必死に訴える。その指は肩にしっかり食い込み、血がにじみ出て、流れた。すごい力だな、枯れ木のような指なのに。
「違うが、それなりに剣は使える。何か俺の剣が必要なことでも起こったのか?」
俺はこの薄汚い女を見つつも、意識ではノウンに視線を向けている。ノウンは白々しくも心配そうな顔を女に向けていた。なんとなくだが、お前が原因だろ。そう言おうと思ったがやめた。
「みみみ港に船がもど戻ってきたのですが、その船に悪魔がとりつ・・・いていたのです」
ごほごほっと、必要な情報を話した安堵感からか、女はせき込み、それ以上まともに話もできない。ひたすらに乾いた声で「み・・・み・ず」と繰り返すだけで、こちらの質問等には答えない。もはや反論もましてや断るなどという余地はないらしい。せめてもっと詳しく教えろと、普通の奴なら言うだろうが、俺たちはそんなことは言わない。
どんな奴らだってかまわない。てか、一番聞きたいことは、あんた誰?ノウンは知っているのか、クスクスと他人事のように笑っていやがる。相変わらずむかつくやつだ。
「しょうがねーな。てか、あんた誰なの?」
女は答えない。誰だよ?
読んでくれた方、ありがとう




