五回目:大家のタコさん
――土曜日。
四人は、アパートに向かうために公園で待ち合わせしていた。
「待ち合わせ時刻9時ジャスト」
雪路が腕時計を見ながら公園に到着した。
公園には西嘉と東が待っていた。
「雪ちゃん、時間ぴったしやな」
「ちょうど間に合うような時間に出たからな」
「おいおい、雪路。なんだよその格好は!」
東の指摘に雪路は自分の姿を見る。
「何か変な点でもあったか?」
「お前んち貧乏だって言ってたじゃないか。なのに俺よりカッコいい服装だなんて認めないぞー!」
東は赤を基調とした服装、西嘉は黄色を基調とした服装で、なかなかに似合っている。
そして雪路は黒のジャケットを羽織った出で立ちで、都会で歩いていたら芸能人かと思ってもおかしくないお洒落な格好である。
「……そうか?全部近くの店の安物だが。ほら見てみろ、このジャケットなんか合皮だぞ」
雪路はそう言うが、どれも全く安物に見えない。
「……全く、俺の服なんかどうでもいい。それより、熱海は一体どうしたんだ。もう9時は過ぎている」
「まぁ、そうカリカリせんともう少し待って――」
言い終わらないうちに一台の車が公園の近くに止まったのが分かった。
三人が見ると、どっからどう見ても高級車であった。リムジンのような大型車ではないが、それは車に興味のない彼らでさえも分かるほどの有名な車だった。
そこから降りてきたのはジャージ姿の熱海である。
「三人共、遅れてすまんかった!」
「お、お前……なんでジャージなんだよぉぉぉっ!あれ、高いやつだろ?なんで高い車からジャージ姿で降りるんだよ!」
「これはだな、動きやすい上に吸水性も抜群でな」
「そうじゃなくて……」
東が言おうとした所で、車の方から声が聞こえてきた。
「熱海様、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
運転手が窓を開けてそう言うとエンジンをかけて車を発進させ、行ってしまった。
「今の人、誰だよ」
東の問いに熱海ではなく雪路が答えた。
「俺は会ったことがあるが……確か鞍馬さんって言う熱海の家の執事だ」
「執事ぃ!?」
驚く双子に熱海は「がはは」と豪快に笑う。
「そこまで大したことじゃないぞ」
「大したことだろ!」
そんなこんなで、彼らはアパートへと向かった。
公園から歩いて10分ほどで、アパート『ノッテ大和』へとついた。
簡素な看板と普通の外観のアパートである。
「大和って、このアパートの大家は大和って苗字なのか?」
「いや、違うで。八文字さんっちゅうハゲのおっさんや」
「俺たちも含めてタコさんって呼んでるけどな」
そう話しているとアパートから誰か出てきた。
「よお。元気な声が聞こえたと思ったら双子共か、お帰り」
声の主はスキンヘッドに頬キズ、咥えタバコをしていた。
「ただいま、タコさん。今日は友達連れてきたぜ」
東が愛称を呼んだことから彼が大家の八文字なのだろう。
「おお、お前らのダチか。学校でうまくやってるようで何よりだ」
八文字は双子の頭をわしゃわしゃと撫で、雪路と熱海の方を向いた。
「こいつらから聞いたかもしれねぇが、俺はここの大家の八文字銀助ってもんだ。気軽にタコさんって呼んでくれや」
「大和雪路です、会長をやっています」
雪路が礼儀正しくお辞儀をする。その後も熱海も自己紹介をしながらお辞儀をした。
「大和熱海です、副会長をやっています」
そんな熱海の姿に双子は驚愕した。普段が豪快なだけに、その礼儀正しく挨拶をした瞬間はまさに良い所のお坊ちゃまに見えたのだ。
「熱、海……?」
東が頬をヒクヒクと引きつりながら言葉を投げかける。西嘉は黙っていたが、呆けたようにぽかんと口を開けている。
熱海は二人の反応の理由に気付いて「がはは」と笑った。
「目上の方には礼儀正しく。そう教えてこられたモンでな」
「だからっていつもと違いすぎだろー」
東の様子に、八文字も熱海同様に笑う。
「楽しそうな連中じゃねぇか。……って、おい、連れてきたのは二人か。確かおめぇら生徒会は五、六人くらいいるんだろ。数が合わねえがどうしたんだ」
もともと低い声に強面の外見で聞いてくるので、雪路は思わず怯みかけた。だが双子は慣れているのか当たり前のように平然としている。
「もう一人、書記で四夜っちゅうのがおるんやけど、用事があるとかなんとかで来れへんって」
四夜と聞いた途端に、八文字は驚いたのか目を見開いた。
「よつや……?どういう字だ?」
「漢数字の四に、夜って書くんや」
「な、に……?」
彼はうろたえているようだった。
そんな八文字の額から汗が滲んでいたのに、彼らは気付いた。特に彼を知っている双子からしたらそんな狼狽した大家の姿は見たことがなかったので、何があったのだろうと思った。
「どうしたんだ?」
東が聞くと、八文字は我に返ったようにはっとした。
「あ、ああ、すまねえ。まさか尊敬する方の名前が出ると思わなくてな」
四人はいま彼が何を言ったのかが理解できなかった。四夜が尊敬する方とはどういうことなのか。
雪路が思わず問うた。
「すみません、タコさん。その、どういうことですか?」
「ん?お前らもしかして若から聞いてねぇのか?」
「わ、若……?」
八文字は「おうよ」と返事をした。
「若は、現在の大和組の跡取り――つまり、頭の大事な大事な一人息子さ」
四人の表情が一気に硬くなる。一方、大家は「俺もその組の一人なんだ」と笑っていた。
四夜の家は極道一家。
東と西嘉のアパートの大家さんの八文字さんは組の一人。
次回から四夜くんの過去や家族に焦点を当てていきます。
ちゃんとした文章で書けたらいいなと思います←