四回目:彼らの家庭環境
菊凪学園会議室。今、ここでは生徒会定例会議が行われていた。
本年度予算案、生徒会主催行事について。
それは熱海の進行でスムーズに事が運び、決定した。
「それでは、これにて定例会議を終える。熱海副会長、東会計、西嘉会計、四夜書記は残れ。他の者は解散してよし」
雪路の言葉で会議は締めくくられ、委員長たちが会議室から出ていく中、いつもの生徒会役員が雪路の前に集まった。
「四夜、今の会議のノートを寄こせ」
四夜は雪路にノートを渡す。この会議での内容をまとめていたノートだ。
雪路はぱらぱらとノートをさっと見た。速読したのだ。
「ふむ。予算案についてのまとめプリントの製作は東西兄弟がやれ。行事に関しては熱海、お前に頼む」
それぞれが「はいよ」と返事をした。
「以上だが、何か質問はあるか?」
誰も何も言わなかったので、解散の言葉をかけようとした時だった。
西嘉が挙手をし、雪路が「何だ?」と聞いた。
「全然関係あらへんことを聞きたいんやけど、ええか?」
「関係ないこと?私情か?」
「だって他のみんなはなんも質問あらへんのやったら、会議の話は終わりやろ?っちゅうことで生徒会としての問いやなくて普通の友人として質問や」
「いいだろう」と、雪路は答える。
「あんなー、自分らどんな家に住んどるん?」
雪路は、否、他の者たちも「は?」とぽかんと口を開けた。
「自分らの住所は知っとってもどんな家か知らんなぁって、ふと思ってなぁ。ほら、自分らは俺や東がアパート暮らしって知っとるやろー?」
西嘉の言葉に熱海が会議室に響き渡る大きな声で叫んだ。
「それもそうだな!わしらが言わないと不平等だ!スポーツマンシップに則り言うべきだ!」
「熱海くん、うるさいです。スポーツも関係ないですよね?」
四夜が耳を押さえながら呟く。東はなんだか頷いていた。
「よくよく考えたら本当に知らないよなー。西嘉にしてはいい疑問だぞ!」
「なんで上から目線やねん。……とりあえず、雪ちゃんちって豪邸なイメージがあるんやけど……アドレス帳に登録してある住所を見る限りあそこにでかい家なんて無いんや。だからこん中だと雪ちゃんちには一番興味があるんやけど」
西嘉が問うと雪路が言うべきか言わないべきか迷う素振りをしていた。
「……まぁ、お前らになら言ってもいいだろう」
思案の末、口を開くと携帯を開いてキーをカチカチといじると画面をこちらに向けた。
そこにはボロボロとまではいかないが古い昔ながらの木造建築の家が映っていた。
「これが、雪路んち!?幽霊が出そうじゃないか!」
画面を見つめながら東の顔が真っ青になる。どうやら幽霊屋敷を脳内に想像したらしい。
「予想外かもしれんが、俺の家は貧乏なんだ。中学の時にクラスの奴に見せたらそいつはひきつった笑いをしてな。見せないようにした方がいいということがよく分かった」
「……あ、ああ、これは本当に仲がいい奴以外には見せん方がええで?ただでさえ雪ちゃんはファンがおるんやさかい」
西嘉がひくひくと顔を引きつらせた。西嘉自身は、雪路の家を中学の時に見たというクラスメイトがこんな顔をしていたのだろうなとか思っていた。
「豪邸と言うのならば、熱海の家だろう。俺の家とは比べものにならない」
「熱海くんの家が!?」
雪路の言葉に三人がざわめいた。熱海は「そこまで広くないぞ?」とがっはっはと笑っていた。
「で、四夜はどうなんだ?」
「えっと、ですね……。普通よりは大きめな家だとは、思いますね……。そ、それ以外に説明のしようがない、です」
四夜が目をそらしながら曖昧に答えた。額からはなぜか汗がにじんでいた。
そこに東が突如右腕を真上に上げてびしぃっと指を立てた。
「そうだ!みんなの家に遊びに行こうぜ!」
「なぜそうなる」
雪路がため息混じりに言葉を返した。
「だってさー、このままだと普通に生徒会の仕事して勉強して卒業だぞー?何か思い出作りたいと思わないのかい!」
「……東くんは精神年齢が子供なんですか」
四夜が毒を吐いてもめげずに東は喋り続けた。
「そうだ、第一回は俺たちのアパートにしよう!西嘉もいいよな!」
「なに勝手に一人で決定事項にしとるんや」
「まぁまぁ、いいではないか、西嘉よ。わしも東の考えに乗ろう!思い出作りとはよい考え!雪路、お主も来るよな!」
「ふん、つまらなかったらお前らは今度の生徒総会で猫耳つけて出席しろよ」
「それならさっそく明日来いよ!どうせ明日は土日で休みだしな」
四人がわいわい話す中、四夜が口を開く。
「あの、僕、明日は用事があるので、すみませんが……いけません」
四人の会話がピタッと止まる。
「ご、ごめんなさい。そ、そそそれではお先に失礼します。また月曜日に感想を聞かせて下さいね!」
だだだっと駆け足で四夜が部屋から出た。
「なんやあいつ……?」
「ほほぉ……これは何かあるな……」
雪路が悪い笑みを浮かべていた。
「雪路、鞭しまえ」
「東、明日はお前ら、次は四夜で決まりだな」
「了解だぜ☆」
会議室に残った彼らはにぎやかな雰囲気で、部屋を後にしてそれぞれの家へと帰っていった。
翌日の期待を膨らませながら。
大和くん四回目でした。次回はアパートへ。
彼ら生徒会の家の詳細は別話でやります。