三回目:大和西嘉
俺は大和西嘉や、よろしゅう!
この菊凪学園の生徒会役員をしとる一人や。
その生徒会で会計の役割を与えられとるんやけど、もう一人俺と同じ会計のバカがおる。
そいつは、大和東。不本意ながら俺の兄弟や。
双子として産まれたせいか俺と東は見た目がそっくりやねんけど、俺はいつもメガネをかけとるし性格は全然違うし喋り方も違う。
そのせいかは知らんけど何かと馬が合わない。どっちが兄なのかとか争うこともある。
そいつがなんやって思うかもしれんけど、あいつ会計の仕事をするどころか邪魔しかせぇへん。
今までの会計の仕事はほとんど俺がやってきたも同然やと思うほどや。
「ああ、イラつくわぁ……」
「西嘉、何を呟いとるんだ?」
しもた、声に出とったみたいや。
今声をかけてきたこのガタイのいいあんちゃんは熱海っちゅう名前で副会長をしとる。
「熱海ぃ、東のアホがどこ行ったか知らんか?」
「東?今日はなんか用事があるとかで帰ったぞ?」
……今、なんやって?帰った?
「な、なんでや?」
「そこまでは知らんが……。西嘉は東と兄弟だろ?用があるんだったら電話でもしたらどうだ?」
俺は思わずため息をついとった。仲良くないことを知っとるはずやのに熱海はケンカするほど仲がいいっちゅうてそういうことを言うんやから。
「もしや、言いづらいことなのか?よし、なんならわしが同伴するぞ!」
「いや、別にいいんやけど……会計の仕事がなぁ……」
「ん?それがどうかしたのか?」
「……これを見てみぃ」
何枚か紙を熱海に渡してやった。この紙は東が適当に仕事した結果や。
「なんっじゃこりゃあああっ!」
熱海の顔がけわしくなったりショックを受けたりころころ変わっとる。
それもそうやろうな。あの紙には運動部の部費について書かれとる。熱海はいくつかの運動部を兼部しとって、入っとらん部活にも助っ人に行く。熱海にとって関係が大ありな紙やろ。
「運動部の部費にしては少なすぎるだろおおお!?野球部がこれでは道具も買えねぇ!テニス部に至ってはガットを買うなとでも言っているのか?ラケットが壊れても放置しろとでも!?」
「だから、今から俺がこれを少しずつ直しとるんや……」
ってゆうか熱海の声うっさいわ……。暑苦しいし。
「今すぐ直してくれ!これでは学校の運動部全てが滅ぶ!」
熱海にとっては結構大事なんやろうか……男泣きしとる。
「分かったから泣くのをやめぇや」
「わー、なんだか暑苦しい上に関西弁モドキが聞こえると思ったら、熱海くんと西嘉くんでしたか」
ちっこい奴が生徒会室に入ってきたと思ったら、書記の四夜やった。
関西弁もどきとか余計や。その人畜無害そうな小動物みたいな顔のどっからそんな毒舌吐けるんやろ。
「一体何をしてるんですか?」
「おお、四夜ぁー!これを見てくれ!運動部存亡の危機だ!」
「ああ、これ運動部の部費についてですか。昨日東くんがすごい勢いでやっていたやつですね」
どうして自分そんなに冷静なんや、自分は雪路か、とか言いたいわ……。
「たぶんですが、大体の部活の部費は一桁少なくなってますね。直すなら、すぐに終わると思います。西嘉くん、これ借りてもいいですか?」
「どうする気や?」
「10分くらい時間をください。すぐに直しますから」
「別にそんなんしなくてもええで?会計の仕事は俺らの仕事なんやし。自分、書記やろ?」
「いえ、昨日の東くんを放っておいた僕も悪いですから」
四夜がほほ笑んで言うのに俺は泣きたくなっとった。
「お前が会計やったらよかったのに……」
「全くだ、東のせいで運動部が消えるかもしれなかった所だった……」
熱海はまだ泣いとる。どんだけ自分運動部が大事なんや。
パソコンを使おて、10分ばかしで本当に四夜は部費のデータを直しおった。
「これで、直りましたね」
「よくやった、四夜!わしゃあ安心した、帰るぞ!」
まるで嵐のように帰ってゆきおった……。
「に、してもほんまおおきに。帰ったら東にも厳しく言うておくわ」
「言っても、直らないと思いますけど……」
そりゃあそうやな。今まで言って直らんかったんやから。これで言って直る訳なんかあらへん。
「あ、そういえば西嘉くんたちってアパート暮らしでしたっけ?」
「まあな。それぞれ一室ずつや。いくら隣同士とはいえあいつから解放されるから楽やわ」
「いつも思うんですけど、一室ずつで家賃大丈夫なんですか?」
「んー、時々バイトはしとるけど、俺らの住んどる所ってそこまで高くあらへんからな。むしろすごく安いから平気や。あ、しかも部屋広いんやで?」
四夜はほんまかどうか怪しんどるようやけど嘘やない。部屋の広さの割に安い。
「あの……大家さん、どんな人ですか?」
「なんや、四夜はアパートで暮らしたいんか?」
確か四夜は自宅から通っているとは聞いた気がする。
「いえ、ちょっと気になっただけで。格安アパートの大家さんってどんな人なのかなぁって」
「んー、ハゲの強面のおっさんやで。中身は結構優しい人やったけど」
「あ、そ、そうですか……」
四夜の顔が引きつっとるけど、強面なのがあかんのやろうか?
「で、では。どんな名前のアパートかお聞きしても?」
「携帯見てみ。赤外線で送った俺のアドレス帳に住所書いてあるやろ」
「ま、待って下さい……えっと……『ノッテ大和』?」
読み上げる四夜の顔がさらに引きつったが……名前がどうかしたんやろか?
「あ、ありがとうございます、それでは僕も帰りますね。東くんによろしくお伝えください」
そう言って四夜は帰り支度をして生徒会室を出ていってしもうた。
俺も帰ろうと思うて支度をしながら、俺は気付いた。
そういえば四夜の家を知らんなぁ、と。雪路や熱海ん家も知らん。
今度聞いてみよかと俺は学校を出た。
アパートへ着いたら東は戦隊物のアニメを見て口喧嘩した。
この後もまた東が同じヘマをやらかしたのは言うまでもない。
次話への布石をうった第三回。西嘉視点での東との関係を中心に。
会計は大体西嘉の仕事になってます。
アパートに対する四夜の反応は後々どうしてかはわかる予定です。
あ、アパート名のノッテ[notte]はイタリア語で夜という意味ですよ。