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シャッフルワールド!! 番外編集  作者: 夙多史
【時系列】未来
7/18

遥か未来のある日の出来事

三題噺のお題「三つの世界・宦官の証明・七リーグ靴」から書いた話です。

※シャッフルワールド!!本編の未来の話です。ネタバレ注意。

 とある世界に広がる密林の上空に、縦一直線に引かれた次空の裂け目が出現した。

 混沌渦巻くその奥から――ザバァッ! 一隻の中型ヨットが勢いよく飛び出してくる。どこにでもあるような普通のヨットではない。船首から船尾や帆に至るまで、鋭く禍々しい『剣』で作られた異質な船だった。


 重力に逆らって空中を走るヨット。

 その前方。地上からミシミシと木々を圧し折る音を立てて、全長八十メートルはあろうかという大蛇が鎌首をもたげた。恐らく密林の主だろう。ヨットをエサだと認識したのか、大蛇はその大口を開いて飲み込もうと襲いかかってくる。

 すると、ヨットの船首に人影が立った。


〈魔武具生成〉――空中生成。遠隔操作。絶技・巨剱驟雨(きょけんしゅうう)


 刹那、密林のさらなる上空に無数の剣が出現した。一本一本が巨人の武器と言われても大きすぎるほどの巨大さ。それらが一斉に大蛇に向かって降り注ぐ。

 避ける暇はない。あったとしても、避けられる範囲ではない。巨剣の雨はいとも容易く大蛇を細切れの肉塊に変え、大地に突き刺さり、衝撃波が周囲一帯の木々という木々を地面ごと抉り飛ばした。

 ヨットがすっかり()()()()密林の中心へゆっくりと降下していく。その船上に立った黒コートの青年は、左手を翳すと――


「……魔力還元術式、起動」


 大地に突き刺さった無数の巨剣が透明な光の粒子へと変わり、彼の左掌に展開された魔法陣へと吸い込まれていった。

 全ての粒子を回収した青年は降下し続けるヨットから飛び降り、大蛇だった肉塊の一部を見上げた。


「今日の飯はこれでいいか。――生体変換術式。起動。蛇の血を魔力に」


 青年が肉塊に向かって左手を翳すと、滴っていた大蛇の血が蒸発するように霧となり、やはり青年の左手へと吸い込まれていく。

 血抜きを完了した青年は、右手に鉈のような肉切り包丁を生成して肉塊を解体し始めた。

 と――


「まーたそんなゲテモノ食べる気? どんな毒があっても今のお兄さんならへっちゃらだろうけど、ちょっとサバイバルに慣れすぎじゃない? せっかく人間がいそうな世界なんだから街でも探せばいいのに」


 完全に着陸したヨットから一人の少女が呆れた様子で歩み寄ってきた。白い布で裸身を包んだだけの彼女に、黒コートの青年は蛇肉を切り分けながら振り向かずに答える。


「簡単に入れる街とは限らないだろ。まだこの世界の常識や法律(ルール)がわかってないんだ。いつぞやの世界みたいに、身分証明できないからって盗賊扱いされちゃ敵わん」

「キヒッ、ボクたち『魔王』を盗賊扱いだなんて笑っちゃったよね」

「あとそれだ。俺たち魔王はここでも『世界の敵』を演じなきゃいけないかもしれないんだ。この世界の人と必要以上に関わらない方がいい」

「これまで三つの世界を滅ぼしかけたことだってあるのに、いつまで経ってもお兄さんはお兄さんだね。お優しいことで」


 諦めたように肩を竦めた少女は周囲を軽く見回すと、適当な切り株を見つけて腰を下ろし――瞬き一つする間に、その切り株が豪華な安楽椅子に変わっていた。さらにテーブルやテント、火のついたバーベキューコンロまで出現している。


「夢の具現化。まったく便利なものだな」

「はちゃめちゃ具合ならお兄さんの生成術には敵わないよ」


 皿に盛った一口大の蛇肉を青年はバーベキューコンロで焼いていく。ジュージューと油が弾ける音を立てて香ばしい匂いが漂い始めた。


「で? お前はなんの用だ、『呪怨の魔王』?」


 蛇肉をトングで引っ繰り返しながら青年は前方を睨む。そこにはいつの間にか赤いシルクハットが落ちていた。


「ヒャホホ! やはり気づかれていたか。ご機嫌麗しゅう。魔帝よ。相変わらず見惚れてしまいそうな素晴らしい技であった」


 赤いシルクハットから生えるようにして道化師の格好をした男が姿を現した。わざとらしくオドケてみせる男を胡散臭そうな目で睨むも、青年は取り分けた蛇肉の皿を彼に投げ寄越す。

 道化師の男は焼けた蛇肉をシルクハットから取り出した焼肉のたれにつけて口に運ぶ。「んー、デリシャス!」と満足そうな声。流れるように毒見役を押しつけた青年は、ひとまず不味くはないことにホッとする。


「わざわざ俺を追いかけてこんな辺境の世界まで来て、ご苦労なことだな」

「魔帝の耳に入れてもらいたい報告があってな。良い報せが一つ。悪い報せが一つ。面白い報せが一つ。この世界の情報。どれから聞きたい?」

「ボクは面白い報せからがいいな。キヒッ」


 白布の少女も蛇肉を受け取りつつ、愉快そうにそう言う。


「ヒャッホホ、ではそこから話すとしよう! 先日、巷を騒がせている『極光の勇者』と『魔王食い(サタンイーター)』に出会ったのだ」

「『極光の勇者』……悠里が設立した勇者学校の生徒だったか」

「『魔王食い』は文字通り魔王を食って力をつけている魔王のことだね。連合に加入していた奴も何人かやられてるらしいよ」

「俺の〈吸力(ドレイン)〉みたいな奴だな。で? そいつらと出会ったことがどう面白いんだ?」


 タンパクかと思えば脂っこい蛇肉を噛み千切りながら青年は問う。道化師の男は笑いを堪えて口元を手で覆い、言葉を発せる状態になってから大仰に両手を広げた。


「一定距離を離れられない呪いをかけてやった! ヒャホホ! 勇者と魔王にだ! ああ、もちろん私は『勇者に敗れた』という体で攻めていた世界からは撤退したがね。そこは今の魔王連合、ひいては我らが魔帝の理念通りに事は運んでいる。安心するがいい」


 ここで道化師の男がその二人ごと世界を徹底的に滅ぼしたとでも言えば、青年は彼の体をその身に纏う『呪い』ごと切り刻んでいただろう。


「キヒヒヒ、それは確かに面白いね。行動を共にする魔王と勇者。まるでかつての誰かさんみたいだ。ボクも是非リアルタイムで見たかったよ。君が勇者にやられるところも含めてね」


 白布の少女がニヤついた顔で青年を見る。お前も他人のこと言えないだろうと嘆息し、青年はジト目で道化師の男に視線を刺す。


「お前の悪趣味を俺は面白いと思わん。他の報告を聞かせろ」

「ふむ。その二人が関係しているのだが……悪い報せは『巨峰の魔王』が討たれてしまったことだ」

「ゴライアスが?」

『巨峰の魔王』ゴライアス。新生した魔王連合に快く賛同してくれた巨人の魔王だ。旧魔王連合との戦いでも力を貸してくれた。魔王らしい残虐さもあるが、武人の心を持つ傑物だったと青年は記憶している。

「そうか。あいつは立派に『世界の敵』を……『必要悪』を演じてくれた。いつかは散ることも含めて、俺たち『魔王』の役目だ。問題はない」


 黙祷を捧げる青年。白布の少女はつまらなそうに安楽椅子にもたれかかる。


「それで、良い報せはなんなの?」


 道化師の男は「よくぞ聞いてくれた!」と少し湿っぽくなった空気を吹き飛ばした。


「『劔龍』の件が片づいた! 標準世界も近い世界も全て無事だ! ヒャホホ、魔王が世界の無事を『良い報せ』とは、なんたる皮肉であろうか!」

「相変わらず被害を最小限の最小限まで抑えることが得意だよね、あの世界」


 そこに関しては青年も同意だった。青年がまだあの世界にいた時ですら何度も世界の危機は訪れていたが、その悉くをなんやかんやで退いていたのだ。


「今回はなんと『紅蓮』のお嬢ちゃんが精力的に働いてくれた! 標準世界にはなにやらご執心のオトモダチがいるらしい!」

「へえ、あの引き籠りが珍しいな。いいように労ってやってくれ。蛇肉持って行ったら喜ぶかな?」

「キヒッ、やめときなよ。また冷凍庫扱いするなって怒られるのがオチさ」


 白布の少女に止められて舌打ちする青年。この大蛇は大きすぎて絶対に腐らせてしまうが、彼女の『停滞』の力があれば永久に保存しておけるのだ。勿体ない。


「そういや、お前はこの世界の情報も持ってるんだったか?」

「ヒャホホホ、情報収集は私の得意分野でね!」


 道化師の男は恭しく一礼すると、シルクハットを目深に被り直してから言の葉を紡ぐ。


「どうも、連合に加わっていない新参の魔王が悪逆非道を尽くしているようだ。ヒャホホ、魔帝が倒したこの蛇も奴の魔力に影響されて変異した存在。この世界の人間が一致団結しようとも、まだ対抗できるほどの力はないだろう。無論、勇者召喚などという高度な術式も組めまい。このままでは遠からず滅びることになる」

「なるほど、それは俺が掲げる『必要悪』の埒外だな。どんな魔王だ?」

「『腐刑の魔王』を名乗っている男だ。魔王が持つ破壊衝動の代わりに男性器を切り落としてコレクションしている変態である」

「お前が『変態』と言うからには相当だな」

「含みを感じるぞ、魔帝」

「気のせいだ」


 道化師の男以上の変わり者を青年は数えるほどしか知らない。


「まあよい。奴はこの世界の男に自らのナニを献上させ、それを宦官の証明として眷属化している男色家である。女は奴隷とし、どちらにもならぬ者は容赦なく殺す。そうして既に世界の四分の三を手中に収めているようだ」

「嫌すぎんだろ。激しく会いたくないんだが……仕方ねえか。ちょっと話をつけてくる」


 現魔帝として、他の魔王がやりすぎないように管理することも仕事の一環だ。人類の生存圏が四分の一まで減っているこの世界に『悪』は存在しなくていい。話し合いで解決できないなら、力づくで出ていってもらうしかないだろう。


「ヒャホホ、場所は?」

「だいたいわかる」


 この世界に来た時から感じている強大な魔力。青年はその方角に体ごと視線を向ける。それから両足に魔力を集中させ――


〈魔武具生成〉――異能付与。七リーグ靴(セブンリーグブーツ)


 ペロー童話集の一つである親指小僧に登場する、一歩で七里(約35km)の長距離を一気に跨ぐことができる異能の靴である。代償として疲労が溜まりやすくなってしまうが、青年であればこの靴で星を十週しても息切れしないだろう。


「お供しよう、魔帝よ」

「ふわぁ、ボクは面倒臭いから船番してるね。いってら〜」


 シルクハットを被った鳩に変身して青年の肩に留まる道化師の男。白布の少女は安楽椅子に揺られながら寝息を立て始めた。『悪夢』の概念である彼女が『眠る』ということは、ただ怠けているわけではないと青年は知っている。


「まったく、過剰戦力だろ」


 苦笑し、青年は目的地の方向へと一歩踏み出した。


 そして、たったの数歩で大きな都の前まで辿り着く。どんよりと曇った空は禍々しく稲光を迸らせ、荒んだ街並みを悍しく彩っている。街のあちこちに眷属と思われる魔力の気配がひしめき合っており、中央に聳える魔王城からは隠す気もない力の波動が威嚇するように放たれていた。

 青年たちの出現には気づいているはずだ。

 その証拠に、張ったばかりと思われる強靭が結界が魔都全体を覆っている。薄桃色の淡い光がドーム状に展開されているのがそれだ。


「ふむふむ、ただの結界ではないぞ。触れるだけで奴の権能によってナニが消失する」

「もはや意味がわからんな。だが、その程度の権能なら俺でも斬れる」


 青年は腰を屈め、まるで居合い切りでもするように右手を左脇の下へと持っていく。


〈魔王武具生成〉――白峰刀(はくほうとう)零刃(れいじん)


 生成されたのは、白い刀身を持つだけのシンプルな日本刀だった。あり得ないほど莫大な力が込められているその刀を、青年は踏み込みと共に抜き放つ。


 斬ッ! と。

 魔都を覆っていた結界が、遠くの魔王城ごと横真っ二つに両断された。


「ヒャホホ、お見事!」

「笑ってないで早く変身を解け。来るぞ」


 鳩の翼で拍手喝采していた道化師の男を掴んでぶん投げる。ポフン、と間抜けな音を立てて彼が元の姿に戻るのと、斬られた魔都から武装した魔人がわらわらと出てきたのは同時だった。

 去勢されたこの世界の男性たちだが、既に魔に汚染され切っている。ならば容赦する必要はない。

 と――


「ちょっとちょっとぉ〜! あんたたちなぁ〜にしてくれてんのよぉ!」


 地面に薄桃色の魔法陣が出現したかと思えば、筋骨隆々とした半裸の男が転移してきた。分厚く化粧した顔が非常にケバい。見ているだけで吐き気を催しそうだ。

 この底しれない膨大な魔力は、眷属などではない。


「あらやだよく見たらけっこういいオトコ❤ 食べちゃいたい❤」

「『腐刑の魔王』だな。そちらから来てくれて助かるよ。話があるんだ」

「いきなりアタシの城ぶった切っといてなぁ〜に言ってんのよぉ!? あんたたちは勇者……じゃないわね、この魔力。遠くの密林地帯に現れた力と同じだわ。何者よ名乗りなさい!?」


 一瞬くねくねして薄桃色のハートを飛ばしてきたから気持ち悪かったが、青年は冷静さを崩さずに対応する。


「『千の剣の魔王』と言ったらわかるか?」

「は? なによそれ。魔王はアタシ一人で充分よ! ナニだけ置いて死になさい!」


 眉を潜めた『腐刑の魔王』は右手から薄桃色の破壊光線を撃ち放ってきた。開幕の魔力砲は挨拶みたいなものだとはいえ、交渉はできなさそうだ。


「ヒャホホ、どうやらまだ他の世界を知らない魔王のようだ。しかし、力は本物。旧魔王連合の候爵ほどはあると見える」

「やっぱり過剰戦力じゃねえか。まあ、それならそれで圧倒的な力の差を見せつけてやれば大人しくなってくれるか」


 青年は白刃の日本刀で薄桃色の光線を縦にぶった切ると、体の内にある()()()()()を同時に練り上げていく。


〈魔王武具生成〉――冥王の大戦斧(デス・ファラブノス)

〈魔王武具生成〉――蛇蝎剣(アラクランジ)

〈魔王武具生成〉――聖絶の十字架(セインオルナ)

〈魔王武具生成〉――憤魔の死弾(サタニック・ブレッド)


 青年の周囲に死の瘴気を放つ巨大斧、蠍の尻尾のような連接剣、十字の形をした頑強な盾、鉄色をした二丁の拳銃が出現した。


「武器がいきなり……ど、どんな魔法よ!?」

「悪いが、本番はここからだ」


 警戒する『腐刑の魔王』に、青年はニヤリと笑って更に魔力を練る。


〈眷属生成〉――『棺の魔王』ネクロス・ゼフォン。

〈眷属生成〉――『蛇蝎の魔王』フィア・ザ・スコルピ。

〈眷属生成〉――『贖罪の魔王』エルヴィーラ・エウラリア。

〈眷属生成〉――『鐡の魔王』MG-666。


「……は?」


『腐刑の魔王』が硬直する。それぞれの武器を手に、四体の人物が魔力から顕現したのだ。砂色の髪をしたディーラーのような少年は戦斧を、蠍の尾を持つ暴走族風の男は連接剣、白い修道服に身を包んだ金髪美女は十字盾、頭部以外が機械化された男は二丁拳銃を握る。


「どいつもこいつもアタシ以上の魔王級じゃないのよぉ!? どういうこと!? なにが起こってるの!?」

「安心しろ。こいつらは俺が一度シメた奴らだから」

「なにを安心しろと!?」


 混乱する『腐刑の魔王』を横目に、青年は顕現した四人の魔王に告げる。


「この世界にある『腐刑の魔王』の勢力圏を徹底的に蹂躙しろ。必要なら自分の眷属を召喚してもいい」

「殺しは?」


 そう訊ねたのは、砂色の髪の少年だった。


「奴隷以外なら構わん」

「アハハ、変わったね。敵に容赦がなくなった」

「ギャハハ違いねえ! まあ、根本は甘ちゃんのままだがなぁ」

「悪しき魔王は塵芥も残さず滅びましょう」

「……ハラヘッタ」


 四者四葉の反応を見せる魔王たち。かつて死闘を繰り広げた彼らは、今や青年の忠実な眷属である。正確には青年に奪われた魔力から生み出された本人と変わらない偽物だ。なんなら青年が魔力を溜めに溜めまくったおかげで今ではオリジナルより強くなっているまである。

 彼らが四方へと飛び去っていくと、さっそく近場からちゅどぉおおおおおん!! と凄まじい爆音が魔都まで響き渡ってくる。大暴れだ。


「くぷ、ふふふふふ! いいのかしら? せっかく呼んだ仲間を散り散りにしちゃって?」

「問題がないからそうした。ここは俺だけで……は? いや、あんたまで出てきたら本当に過剰戦力なんだよ!? あーもうわかったわかった!? いい年した人の親がみっともなく駄々捏ねんな!?」


 青年が頭痛を覚えたように頭を抑えて独り言を喚き始めた。


「なにを、やっているの?」

「おお! あのお方にお会いできるとはなんとも僥倖! ついてきた甲斐があったというもの! ヒャホホヒャッホーッ!」


 混乱に混乱を重ねる『腐刑の魔王』を余所に、状況を察した道化師の男がテンションを爆上げする。


〈魔王武具生成〉――魔帝剣ヴァレファール。


 空中に波打つ刃を持つ黒い大剣が出現。

 そして。


〈眷属生成〉――『黒き劫火の魔王』アルゴス・ヴァレファール。


 その剣を握り、長い金髪を風に靡かせた赤い眼の男が出現した。頭部に生えた悪魔の角と、蝙蝠に似た一対の翼。先端がスペードのような形をした尻尾がくねっている。

 秘められた力は、先程顕現した四人の魔王とは比べ物にならない。


「出てきたんならしっかり働いてもらうからな」

「承知している。この程度の()()()に時間を割いてなどいられん。貴様には早く娘を見つけてもらわねばならんのだ」

「まあ、そのための旅だからな」


 青年と金髪男が少し言葉を交わしたかと思えば――轟ッ!! 凄まじい熱気が『腐刑の魔王』の背後から立ち上った。


「ふぁ!?」


 振り返った『腐刑の魔王』は、さっきまでそこにあったはずの魔都が黒い炎によって包まれている光景に唖然とした。


「さっさと降伏してくれると手間が省けるんだけど」

「ふ、ふざけんじゃないわよ! これ以上アタシの庭で好き勝手させるもんですか! あんたたち、やっておしまい!」


 生き残った魔人たちに『腐刑の魔王』が指示を飛ばすが、とっくに無駄だ。


「あーあ、ここまでするならボクが加勢する必要なかったんじゃない?」


 背後に控えていた魔人たちは全て、その姿を白布の少女へと変貌させていたのだ。彼女の本体は今もヨットがある場所で眠っているが、夢の中から現実に干渉している。『腐刑の魔王』の眷属が実は全て白布少女だったという不整合な『悪夢』の現実化。まさに『現夢の魔王』の真骨頂である。


「あり得ない……あり得ないわ……本当になんなのよあんたたちは!?」

「俺たちは新生魔王連合〈試煉の担い手(ペイラスモス)〉」


 青年が白い刃の切っ先を『腐刑の魔王』に向ける。その周囲の空間に無数の刀剣が狙いを定めるように出現していく。


「新たな魔王の在り方を示す者だ」


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