Cブロック予選で
三題噺お題『二人三脚・肉弾戦車・ドロップアイテム』
※読むのに気合いが必要な文章量です。お時間のある時にでもごゆっくり。
開始時間が迫り、Cブロック予選の選手たちが入場口から続々と闘技場へと集まっていく。彼らの登場に再び満席となった観客席が盛大な歓声を上げた。
参加人数は百五十二名。Cブロックからは飛び入りも多く加わっているため、休憩時間に参加者リストの更新と再配布を間に合わせた運営は褒めてしかるべきだろう。
――雑貨屋WING〈魔帝城〉出張店。
「おっすおっす。あれ、兄貴は?」
「お、梓。予選通過おつかれ!」
「羽黒さんならCブロックの飛び入りだって」
「え、結局出るの?」
「なんでも10年くらい前に決着つけられなかった相手を見つけたらしいですよ。左目の縦傷の礼だと息巻いてました」
「ああ、なんかいつの間にかこさえたアレ。今ほどじゃないにしても兄貴に傷つけるってどんなバケモンよ」
「確か、『壊し屋』グレアムとか?」
「そんなことより皆さん店回してくれません!? 紫1人で串焼きパック詰め会計は無理です!?」
――ラ・フェルデ王国来賓席。
「ふむ、人数も増えてより戦局が面白くなってきた」
「陛下、飛び入りされたのでは?」
「抽選の結果、Dブロックに組まれたのだ。控室より、ここからの方が戦場を広く俯瞰できる。ああ、それとジークフレアは実によく健闘していたな」
「……しかし、負けてしまいました。申し訳ございません、お義父様」
「構わん。未熟のまま勝てる相手ではない。だが、気にはしろ。その敗北がお前の次の強さに繋がる」
「は、はい!」
「まあ、陛下が仇を取ってくれるわよ」
――観客席。標準世界・紅晴市一行。
「……飛び入りの登録をしたなら、Cブロックでも参加できるんじゃないのか」
「何が悲しくてこんなところでまで獄卒とやり合わなきゃなんねえんだ」
「え、なに、冥官だけじゃなくて獄卒とまでやり合ってんの?」
「……。そうだな、今度てめえも連れてってやる。阿鼻でじっくり相手してもらえ」
「やだ聞いただけで帰りたい!?」
「獄卒さんって、確かこの間梓ちゃんとやり合ったって鬼さんだよね? 頼んだら筋肉揉ませてもらえるかなー?」
「いや崎原さん、今のやりとりは流石に放っておいたらダメだろ!?」
「梓……今度ちょっと相手してもらえないかなー……」
小山ほど大きな亀のモンスターから親指サイズの小人まで、ABブロック同様に多種多様な猛者たちが出揃った。
『ヒャホホホ! 遅刻なし! 開始前乱闘なし! お行儀のいいことでなによりだ! それでは時間となった。始めさせてもらう!』
休憩を挟んで余計にウザったいテンションで叫ぶ司会兼実況。彼は方々から向けられた殺意を振り払うように片手を挙げ、一気に振り下ろす。
『Cブロック予選。レディ……ファイッ!』
***
開戦の合図と同時に、灰色の風が選手たちを撫でるように吹き抜けた。
「へ?」
誰かが間抜けた声を漏らす。
彼らは一瞬で全身が黒ずみ、なにが起こったのかも理解できないままボロボロと崩れ、そして塵も残らず〝無〟へと帰した。
歓声がピタリと止まる。
ほんの数瞬の出来事だった。そんな瞬きをする間に、百五十二名いたはずの選手たちが半数まで減っていたのだ。
「=L、<p@%(GY5……」
焦げたように暗黒物質化した地面の中心。そこに不自然な灰色の旋毛風が逆巻いていた。
『おおーっと! 開幕から「退廃の魔王」ラスト・エンプティネスがやらかしてくれた!』
「〝虚無〟の概念魔王たる奴は掠っただけで万物も万象も関係なく消し去っていくんだよ。奴が通過した跡を見ればわかる通り、迷宮の床ですら触れていなくてもその魔力で『虚無物質』へと変わっちまうのさ」
虚無物質とは、なんのエネルギーもなければ質量すら持たない意味不明な物質である。炭化したように黒く見えるのも、『有るのに無い』という矛盾を人の脳と視覚がどう処理していいかわからずエラーを起こした状態に過ぎない。
「9&%……」
このまま吹き荒ぶだけで決着がついてしまいかねない存在のラスト・エンプティネスだが、どういうわけかその場で留まり続けている。言葉はわからないが、なにかを逡巡しているようにも見えた。
莫大な魔力が練り上がる。
かと思えば、旋毛風から灰色の魔力砲が全方向に対してビュンビュン放射され始めた。無論、ただの魔力砲ではない。掠っただけで〝虚無〟となる光線に選手たちがさらに減っていく。図体のでかい巨大亀など真っ先に消えていた。
「ふむふむ、昔戦った『瘴り神』の百倍はやばい感じですね。アレとは私が求める『戦い』にはなりそうにないです」
舞台の中央で消滅魔力砲を打ち続けるギミックと化した『退廃の魔王』を、ジークルーネは遠巻きに眺めていた。
ラスト・エンプティネスは敵を狙って撃っているようには見えない。本当にただただ選手たちの戦いを妨害するだけの装置となっている。避けながら他の選手と戦うことは可能だが、流石にアレは邪魔すぎるだろう。
どうしたものかとジークルーネが頭を悩ませていると、数名の魔王たちが果敢にもラスト・エンプティネスに挑みかかった。
「我が名は『粉塵の魔王』ダストぎゃああああああああああああッ!?」
「拙僧は『仙撃の魔王』国舅ぎょわああああああああああああッ!?」
「妾は『天蝶の魔ほぎゃああああああああああああああああああッ!?」
近づくこともできなかった。全員が灰色の光線に呑まれて塵芥も残さず消え去った。
「ぬう、面妖な真似を」
「アンタ、今はとにかく回避だよ!」
地獄の赤鬼と青鬼――朧と盈月も魔力砲を避けることに専念している。
「『退廃の魔王』は厄介です。先に壊滅させましょう」
『壊滅の天使』デストロエルが左右の砂時計をくるりと回転させ、ラスト・エンプティネスに向けて無数の光弾の雨を降らせる。
「あーくそッ、鬱陶しい! 奴から『喰』うぞ!」
「呼吸を合わせて、陽炎! 二人三脚を忘れないで!」
『魔王喰いの魔王』逢坂陽炎の背中から黒紫色をした魔力の触腕が生え伸び、『極光の勇者』久遠院姫華が同時に振るった剣から光の斬撃波を飛ばす。
「厄介故、先に潰すのである」
「……奴は放置できん」
さらに『七つの次空の覇者』ザドラグが振るったダイスが巨大化して圧し潰しにかかり、『狼王』フェンリオスが口から極寒のブレスを吐き出す。
「+U&()~43K|?」
その全ての同時攻撃を、ラスト・エンプティネスは避けることなくその身で受け――消滅させた。最初から攻撃などなかったかのように旋毛風は平然と巻き上がっている。
『これはどうしたものか! 「退廃の魔王」に攻撃が通じない! 困ったぞ! これではただのレイドバトル! バトルロイヤルの体をなしていないではないか! ヒャホホ、だが面白い!』
『彼の魔王を攻略する方法ならあるよ。でも、参加者がそれを実行できるかは別の話だよ』
その時。
フッ、と灰色の光線が撃ち止んだ。魔力切れかと誰もが期待したが、君主クラスの魔王がガス欠を起こすなどあり得ないとすぐに思い直す。
案の定、ラスト・エンプティネスは再び灰色の魔力砲を同時に全方向へとぶっ放した。
だが、それは途中で不自然にねじ曲がり、ラスト・エンプティネス本人へと帰っていく。〝虚無〟と〝虚無〟が衝突するが、0+0も0×0も0。なにも起こらなかった。
白い布が一歩、灰色の旋毛風へと近づく。
「キヒッ、この魔王は超特殊な厄介体質をしているのさ。概念攻撃か、概念に干渉する攻撃しか通用しないんだ」
悪戯っ子のような笑みを浮かべる白い少女は――『現夢の魔王』ゼクンドゥム。君主の魔王に対し自分自身に攻撃するような設定の〝夢〟を見せたのだ。
彼女の〈白昼夢〉はすこぶる強力な技だが、ある程度の強さがあれば自力で破ることは可能である。しかし、ラスト・エンプティネスは剣や魔法といった通常攻撃は一切受け付けない代わりに、概念攻撃に対する抵抗力は〝虚無〟なのだ。
よって、ゼクンドゥムの〝夢〟も通用する。
「このブロックにも何人かできる人はいるだろうけど……まあ、ボクがやる方が手っ取り早そうだね。というわけで、ボクがこの子と遊んでるから君らは勝手に潰し合ってなよ」
言うと、ゼクンドゥムとラスト・エンプティネスが純白の光に包まれて消えた。Aブロックでランニィ・ヴェーチェルが見せた幻想空間のように、〝夢〟の空間へと存在ごと移動したのだ。
半数以下になった選手たちが状況を呑み込むまで数秒。すぐにどこかでちゅどん! と爆発音が鳴り響き、ハッとなって戦闘を再開するのだった。
※※※
「やれやれ、めんどくせぇのがいなくなってようやく殴り合いができるな!」
パシンと拳を自分の掌に打ちつけた強面サングラスヤクザ――瀧宮羽黒が、黒コートを翻しながら狂暴な笑みを浮かべる。
「なぁ、『壊し屋』グレアム。俺のこと忘れたなんて寂しいこと言わねえよな?」
彼と対峙しているのは、マロンクリーム色の髪をした作業着姿の中年男――グレアム・ザトペックだった。両手に特注のトンファーを握る彼の方も、愉快そうに歯を見せて笑っている。
「俺的に、当然覚えているぞ。さっきトランプをしたばかりだからよォ」
「いやそうじゃねえよ」
「ん? 待て、それでも俺様が忘れていると思われたってことか? 心外だ。俺的に心外だ。まだボケる年じゃないんだが、てめェは俺様をそのくらい年寄りだと勘違いしたわけだ。もしくは、俺様の年でボケる事例がある? それを一発で見抜くとはてめェは医者かァ? だとすれば診察ミスだ。俺的にボケは来ていない……はずだ。まさか自覚がないだけか? どうなんだ先生よォ!」
「クク、ぶつぶつ喧しいのは治ってねえみたいだな。ちょっと安心したぜ」
ヒュン、と羽黒の姿が消える。
次の瞬間――ガキィン! と甲高い金属音のような音が鳴り響いた。
羽黒の拳をグレアムのトンファーが受け止めていたのだ。
「この硬ェ拳は……ッ!」
「思い出したか?」
ニィと悪い笑みを浮かべる羽黒に、グレアムは少し逡巡してから申し訳なさそうに眉を顰めた。
「悪いな。俺的に悪い。俺様は人の顔を覚えることがどォーも苦手らしくてよォ。誰だっけ?」
「……一度会って俺の顔を覚えられなかった奴は初めてだぞ」
ガッ! ガッ! ガッ!
素手とトンファーの打ち合いが続く。
「いや待て! 待て待て! 俺的に思い出しそうだ! ここまで来てるここまで!」
「そういう時は喉を示すもんで、デコを指差したら通り過ぎてんだわ」
二人の戦闘の余波が衝撃波となって周囲に拡散し、漁夫の利を狙って近づいていた選手たちを薙ぎ飛ばす。
羽黒の足払いをグレアムは飛び上がってかわし、そのまま空中で一回転して踵落とし。羽黒は頭上で両腕を組んで受け止める。
ちゅどぉおおおん!
爆音が響き、闘技場の床が大きく陥没した。
「あー、アレか? うん、たぶんアレだ。その顔の傷。火傷じゃねェ方。十年くらい前に俺様がつけたやつだな? 痕が残っちまったか。俺的に悪かった」
「やっと思い出しやがったか。そういや俺の方はちゃんと名乗ってなかったか? 瀧宮羽黒だ。傷のことは気にすんな。寧ろ箔がついて仕事がやりやすくなったからよ」
グレアムがトンファーを捨てる。羽黒のことを認め、ステゴロで戦り合おうという意思表示だ。羽黒もそれに乗っかり、魔術もなにもなしでただひたすら殴り合う。
「俺的にオーケーだ。ちゃんと覚えたぜ。てめェとは楽しい勝負ができそうだなァ! タツノオトシゴ!」
「瀧宮羽黒だ!」
※※※
流麗な軌跡を描く大鎌の凶刃が猛者たちを次々と斬り伏せていく。
「だーれーにーしーまーしょーかー」
風のように闘技場を縦横無尽に疾駆するジークルーネは、眼中にない選手を片手間で倒しながら襲いかかる相手を選別している。
目をつけていた作業服の男とヤクザ風の男は互いに戦い始めてしまったから、今は置いておく。楽しそうに戦っているところに水を差されることは、ジークルーネがやられて一番腹の立つタブーだからだ。
赤い肌をした強そうな男は捨て難いが、アレは人化した赤鬼。神界所属のジークルーネが試合とはいえ冥府の獄卒と戦えばなにかしらの問題が起こりそうである。
「手合わせ願います!」
「ぬっ!」
まあ、知ったことではないのだが。
「えへへ、やっぱり血沸き肉躍るこの感覚はサイコーです♪」
「神界の武人と見受けられる! 此度は互いに非公式の場。所属によるしがらみは無しと参ろうぞ!」
ボロボロの刀と大鎌が激しく打ち合い火花を散らす。自由自在に大鎌を振り回すことで凄まじい手数を生み出すジークルーネに対し、赤鬼――朧は表情一つ変えることなく全てを捌き切っている。
衝撃。斬撃。音撃。
あちらで戦っている瀧宮羽黒とグレアムもそうだが、強者同士のタイマンはそれだけで超攻撃的な結界を張っているようなもの。並の実力では近づくことすらままならない。
と、乳白色の光の柱がジークルーネと朧の脳天から降り注いだ。
「むむ?」
「何奴!」
ジークルーネと朧は同時に弾かれるようなバックステップで光の柱を回避する。彼らの戦いに割り込んだ者は、金縁の豪奢な修道服を纏う美女だった。
「天も地も関係ありません。存在するだけで人は罪を背負う。さあ、滅びを持って償うのです」
『贖罪の魔王』エルヴィーラ・エウラリア。神父とシスターの眷属を一人ずつ侍らせた彼女は、祈るように手を合わせると、周囲に無数の光球が出現。それらから乳白色の魔力光線が不規則に発射される。
それらに合わせて神父とシスターが疾走し、全く同じタイミングでジークルーネへと挟撃を仕掛けた。神父の剣とシスターの杖をジークルーネは大鎌の刃と柄で器用に受け止める。
「邪魔しないでもらいたいですが……いいでしょう。そういうルールです。全員まとめて相手して差し上げます!」
大鎌を振り回して神父とシスターを弾くジークルーネ。だが、両者とも軽やかな身のこなしで受け身を取った。彼らは上位魔王に従う四天王レベルの眷属。そこらの魔王と同等かそれ以上の実力を持っている。
ジークルーネが神父とシスターの相手をしている間に、朧がエルヴィーラへと仕掛けた。猛然とした突撃で光線を蹴散らし、大上段に振り上げた刀で一撃必倒の技を繰り出す。
「――全ての邪悪を滅断せよ、〈聖絶の十字架〉」
エルヴィーラの翳した手に十字の大楯が出現する。鋼をも容易く両断できるだろう朧の一撃だったが、鉄壁の楯は易々と受け止めた。
一撃、二撃、三撃……いくら叩き込んでも楯には罅すら入らない。
「ぬぅ、なんという硬さだ」
「十分でしょう。〈聖絶の十字架〉よ、彼の罪を還しなさい」
ズドン、と。
鈍い音と共に十字楯から放たれたとてつもない衝撃が朧を大きく弾き飛ばす。朧自身が楯に与えた攻撃の威力が、数撃分を蓄積した状態で全て跳ね返ったのだ。
「アンタ!?」
他の選手を青き鬼火で焼き尽くした盈月が吹っ飛ぶ旦那に叫び声を上げる。床をバウンドしながら転がり飛ぶ朧だったが、すぐに体勢を立て直し、両の足で地面を砕いて衝撃を受け切った。
「……心配無用! 盈よ、助太刀も無用だ!」
そんな朧の目の前を、大鎌で斬られた神父とシスターが無残な姿で吹き飛んでいく。
「えへへ、えへへへ、楽しくなって来ましたね♪」
「相手にとって不足無し!」
「全員、すべからく滅びましょう」
蕩けるような笑顔を浮かべるジークルーネ。襤褸刀を中段に構えて気合いを入れ直す朧。大楯を地面に立てつつ手で十字を切るエルヴィーラ。
睨み合う三者。
沈黙は一瞬。
動いたのは、全員同時。
三者は地面を蹴り、そして激しく衝突した。
※※※
その時、『波濤の魔王』ラギは後悔していた。
いくつもの世界を滅ぼし、何人もの勇者や守護者を返り討ちにしてきた彼は、ヘルメスレコードの脅威度でもSSSS認定されるほどの強大な魔王である。無論、自らの力には絶対的な自信も持っていた。
彼の名前を聞くだけで震え上がる世界はいくらでも存在する。
たとえかつて〝君主〟と呼ばれた最上位の魔王だろうと、それこそ〝魔帝〟だろうと圧倒的な力で捻じ伏せられると信じて疑わなかった。
甘かった。
甘すぎた。
上には上が存在することを、彼はこの大会に出て初めて思い知った。
自分よりも脅威度の高い魔王たちがゴロゴロいたのだ。いや、それ自体に絶望感はない。所詮はただの指標であり、彼とて活動していればどんどんランクアップしていくはずである。
ただ、今は自分より上にいる連中ですら、Aブロックでは暴力的な武力と火力の前に成すすべなく散っていった。Bブロックでは勇者でもない人間になにが起こったのかもわからない一瞬で斬り倒された。そして今回、己が参加するCブロックでは、開幕で抵抗すら許されずあっさり消滅していく猛者たちの姿を間近で見せつけられた。長年培った自惚れも崩れ、考えなど容易く塗り替わるというものである。
『退廃の魔王』の虚無砲を凌げたのは、単に運がよかっただけだ。
彼は他の連中のように挑むことも反撃することもできなかった。
ただただ消される恐怖に振るえていた。魔王である自分が、だ。
勝てるわけがない。さっさとリタイアすべきだ。頭ではわかっているのに、絞り粕のようなプライドが邪魔をしてそうすることもできずにいる。
どうすればいいのかわからないまま、彼はヤケクソになって生き残っている同格以下の選手と戦っていた。そいつらを倒したところで自信は回復しない。寧ろ虚しさだけが募っていく。
「やあやあ、お客様! お悩みのようだな。そんなあなたがすぐに強くなれる武器があるのだが、いかがいたしましょう?」
なんか胡散臭い爺さんに絡まれた。
「全てを押し流せ、〈流巖大波〉!」
咄嗟に魔王武具の槍を顕現させ、膨大な水流を纏わせて爺さんを突き刺した。だが、そこに爺さんの姿はなく、背後からトンと軽く肩を叩かれる。
「アッハッハ! まあまあ、落ち着きなさい。その程度の魔王武具では心もとないだろう。どうかな? この伝説の魔剣を振るってみるつもりはないかね?」
「伝説の魔剣、だと?」
「一振りで星を割り、二振りで世界を断ち、三振りで次空の果てすら切り開く。魔剣ソーウダピヨン! いかがかな?」
爺さんが差し出してきたものは、確かに凄まじい魔力を感じる宝剣だった。一目でわかる。彼の魔王武具でもその剣には到底及ばないだろうと。
「……なんのつもりだ?」
「私は『砲哮の魔王』ゾイ・ローア。武器商人だ。聞いたことくらいはあるのではないか?」
あるにはある。人間に過剰な武器を渡して争わせ、最終的に世界を滅ぼしていた酔狂な魔王だ。奴が扱う武器は『本物』だという話も聞いている。
「私は商売のためにこの大会へ参加したのだよ。君のように力不足で悩んでいる者の助けになろうとね」
「その剣を俺に売ってくれるというのか?」
「アッハッハ、まさにその通りだ。だが、今は大会の最中。持ち合わせなどなかろう。その点に関しては、君が優勝した暁に賞品から払ってくれればよい」
優勝賞品は確かに天文学的な価値のある宝の山だ。流石にあの説明は誇張がすぎるだろうが、強力な武器であることは間違いない魔剣ソーウダピヨンの支払いを行ってもおつりがくる。
「自分で使って優勝すればいいだろう?」
「私は武器商人だが、生憎と自分で振るう才はないのだ。現に私は自分の魔王武具すら顕現させられない。自分で予選を突破することができないことくらい承知しているのだよ」
だから、代わりにラギを優勝させて利益を得る魂胆というわけか。
「ただ……ふむ、後払いで差し上げてもトンズラこかれては私も商売上がったりだ。担保として、君の魔王武具を預からせてもらおう」
「なんだと?」
「構わんだろう? この剣があれば使うこともあるまい」
確かに、より強力な武器が手に入るなら使う必要はない。それに魔王武具は魔王の魔力に紐づけられた、言わば分身のようなもの。仮に預けたとしてもすぐに取り返すことはできる。
「もし俺が負けたらどうなるんだ?」
「この魔剣を使って負ける? アッハッハ! 万が一にもあり得ない話だが、その時は剣を返してもらうだけ。私も君も得はしないが損もしない」
怪しい話だが、今は藁にも縋りたい状況である。魔剣ソーウダピヨンさえあれば、失った自信も取り戻せるかもしれない。
「わかった。その取引に応じよう」
「毎度ありがとう! 潔いお客様は好きだぞ!」
魔剣を受け取り、槍を渡す。
握った瞬間、物凄い力が体に流れ込んでくるのを感じた。
「これはすごい! すごいぞ! フハハハハハ! 今の俺なら誰だろうと負ける気はしない!」
力が漲る。まるで魔剣自体が体の一部になっていくようだ。
「魔剣ウソダピョーン……じゃない、魔剣ソーウダピヨンをお買い上げいただいたお客様はあなたで五人目。そろそろよいでしょう」
「は?」
なにか聞き捨てならない言葉が聞こえた刹那――ギョロリ。魔剣の鍔に装飾されていた宝石が、大きな目玉へと変化した。
「うわっ!? な、なんだこれは!?」
黒い触手が魔剣から伸び、ラギの腕から体へと巻きつき呑み込んでいく。体が言うことを聞かない。溢れていた魔力が全て魔剣に吸い取られていく。
「アイテムに化ける魔物はご存じで? こいつらはその最終進化系にして滅亡級モンスター――」
巨大化するもはや剣とは呼べない黒い不定形のバケモノへと吞み込まれたラギを、ゾイ・ローアは咆えるように笑って見上げる。
否、ラギだけではない。他にも四ヶ所で同様の怪物が選手を喰らってその巨体を現していた。
「カタストロフィ・ミミックである! アッハッハ!」
混沌を極める戦場に、ゾイ・ローアの哄笑が高らかに響き渡った。
※※※
五体のカタストロフィ・ミミックの出現は選手たちに大きな混乱をもたらした。
『これはこれは、「砲哮の魔王」の策謀によって大変な魔物が解き放たれてしまった! それも全部で五体! ヒャホホ! 流石の選手たちも骨が折れるのではないかな?』
『カタストロフィ・ミミックとは厄介だね。ミミックってのは本来、主にダンジョンなんかで宝箱などに擬態して近づいた獲物を捕食するタイプの魔物だよ。そいつが長い年月をかけて魔力を溜め、進化を重ねた成れの果てがカタストロフィ・ミミックさ。魔王を喰らったことで一気に進化したようだね。性格は非常に凶暴で残忍。知性はあるけど理性がない。ほら見な、もう触手を伸ばして観客を襲おうとしているよ。まあ、結界があるから届きはしないんだけどね』
解説が語っている間にも、黒い不定形のバケモノは大きな単眼をギョロギョロさせながら観客を捕食しようと触手を伸ばし暴れている。最終進化系ともなれば獲物を狩るために擬態する必要もなく、目につくあらゆる生物を喰らいながら移動を続け、最後には世界を滅亡へと追い込む災厄だ。
通常であれば、そうなる前に討伐されるため滅多に出現することはない。ディメンショナル通信社の資料にも、ヘルメスレコードのデータベースにも、最後にカタストロフィ・ミミックが現れたのは五百年ほど前と記録されている。
だが、『砲哮の魔王』は剣に擬態させたミミックを飼い続けていた。頻繁に武器として売り渡し、戦乱の中で莫大な魔力を溜め込ませ続けたのだ。
「チッ、戦っていた魔王がいきなり喰われたかと思ったらそういうことかよ!」
逢坂陽炎は目の前に聳え立つ黒い不定形の怪物を見上げ、忌々しげに舌打ちをした。
「十八番を奪われたわね、『魔王喰いの魔王』さん」
「うるせえよ。俺と魔物を一緒にすんじゃねえ」
ギョロリ。
怪物の目玉が陽炎と姫華を捉える。無数の触手が凄まじい速度で降り注いできた。触手の先端は鋭い牙がびっしりと並んだ気色の悪い口となっており、大きく開かれたそれらが陽炎たちを丸呑みにせんと迫り来る。
「俺らも喰おうってか? とんだ悪食だな。逆にてめえが取り込んだ魔王ごと喰ってやるよ!」
陽炎は黒紫色の魔力の触腕でカタストロフィ・ミミックの触手を握り千切っていく。姫華も極光の輝きを纏う聖剣で迫り来る全ての触手を叩き切った。
だが――
「こいつ、再生すんのか!?」
斬り口からすぐに顎の触手が生え伸びたのだ。しかも、それだけではない。斬り落とした方もうねうねと蠢き続け、中型の四足獣のような形状を取って選手たちに襲いかかっていく。
「くっ、分裂もされたんじゃ迂闊に斬れないわよ!?」
「だったら跡形もなく消しさりゃいい!」
「それもそうね」
陽炎が黒紫色の魔力砲を撃ち、姫華が聖剣の極光を放つ。それらは飛びかかってきた四足獣の群れを丸ごと呑み込んで、宣言通り跡形もなく消滅させた。
「ちまちま削るのは面倒だ! おい姫華、上は俺が行く! てめえは下からやれ!」
「わかったわ!」
体を霧状に変化させた陽炎が一瞬でカタストロフィ・ミミックの頭上へと移動した。魔力を練り上げ、カタストロフィ・ミミックの巨体を圧し潰せるほど巨大な魔球を作り出す。
地上からも姫華の極光ば爆発する。
カタストロフィ・ミミックの単眼がカッ! と見開いた。
不定形の体の全身から、触手の先端にあったものと同じ口が出現。パカリと開いたそれらの口から、とてつもない威力の爆撃光線が無差別無造作に放射された。
ちゅどぉおおおおおおおおん!!
上空の陽炎も地上の姫華も技を決める前に光線が直撃してしまった。観客席にも飛来する光線が結界に阻まれて凄まじい爆発を連続させる。
観客たちから悲鳴が上がった。
光線は他のカタストロフィ・ミミックにもあたるわけだが、どういう理屈か不定形の体を擦り抜けるためダメージはない。寧ろ連動するように他四体のカタストロフィ・ミミックも体中から無差別に光線を吐き出し始めた。
これでは開幕でやらかした『退廃の魔王』の再来である。
※※※
「どりゃあッ!!」
気合いの掛け声と同時に、一体のカタストロフィ・ミミックを巨大なダイスが圧し潰す。しかしすぐにうにょうにょと反り上がり、大きな目玉が海賊帽を被った男を見据えた。
「不愉快故、七つの次空にもこれほどのバケモノは存在しなかったのである」
『七つの次空の覇者』ザドラグは顔を顰めつつ腰に差していた二丁拳銃を抜く。光線をバックステップでかわし、銃弾の代わりにサイコロを撃ち出した。
回転する賽の目が、真っ直ぐ飛んで行きながらピタリと固定される。二個とも『一』の目が上を向いたピンゾロ。
次の瞬間、カタストロフィ・ミミックの巨体を呑み込むほどの爆発が発生した。
「我は幸運故、ここぞという時に最大の役が揃うのである」
このサイコロは、出た目の役によって攻撃の威力や種類が変わる魔導具だ。拳銃はただの撃ち出す装置でしかない。
もっとも強い役であるピンゾロならカタストロフィ・ミミックを存在ごと消し飛ばせる――彼はそう思っていたが、甘かった。
爆発で多少は形が削り歪んだものの、カタストロフィ・ミミックはすぐに再生してしまった。
「ぐぬ、驚愕故……」
呆然とするザドラグの背後から触手の大口が迫る。気づいた時には既に遅く、大きく開かれた顎にザドラグは呑み込まれる寸前だった。
だが、その触手は唐突に吹きつけてきた極寒のブレスによって一瞬で凍りついた。
美しい青き毛並みをした狼人がザドラグの隣に立つ。
「……試合前に遊戯を共にした仲。一度だけ助けよう」
「感謝する故、『狼王』フェンリオス殿」
拳を合わせる二人の男に、カタストロフィ・ミミックは容赦なく触手と光線を放つ。
※※※
そんな中、『砲哮の魔王』ゾイ・ローアは光線をひょいひょい身軽にかわしながら落ちている武器や魔導具を拾い集めていた。
「アッハッハ! いいぞいいぞ! もっとやれ! カタストロフィ・ミミックの餌食になった連中のドロップアイテムが拾い放題だ!」
拾ったアイテムは異空間に繋がっているらしいスーツケースに次々と放り込んでいく。今やっている行いはBブロックの『釛床の魔王』と大差ないことに、彼は気づいていない。
ドゴン! とゾイ・ローアの目の前に光弾が落ちる。
「ぬおっ!?」
カタストロフィ・ミミックの攻撃ではない。明らかにゾイ・ローアを狙ったものだ。
ばさりと翼を羽ばたかせる音が聞こえ、二つの砂時計を従えた赤髪の天使が降臨した。
「滅亡級エネミーの召喚者を発見。『砲哮の魔王』ゾイ・ローアを神敵と認定します。壊滅開始」
くるん、と左右の砂時計が反転。
大きく広げられた翼からいくつもの光弾がゾイ・ローアに向かって射出される。
「アッハーッ! 武器を使わない君はお客様とは言えないのだがね、『壊滅の天使』デストロエル! いや、その砂時計はもしかすると希少な魔導具かなにかかな?」
光弾の爆撃ものらりくらりとかわすゾイ・ローア。おちょくった態度だが、デストロエルは無感情。天使の輪を輝かせ、上空に幾多の魔法陣を展開して光柱の雨を降らせる。他の選手諸共にゾイ・ローアを滅しようとするも、まあ当たらない。
「……逃げ上手だということは認めましょう」
邪魔をするように伸びてきたカタストロフィ・ミミックの触手を砂時計の回転で弾き、手から放った光弾で消し飛ばす。
グサリ、と。
デストロエルの胸から水流纏う槍が突き出した。背後には、一瞬の隙をついてデストロエルが浮遊する高さまで飛び上がったらしいゾイ・ローアが、先程奪った魔王武具を握っていた。
「かはっ」
吐血し、デストロエルは地上へと落下する。
「いやはや、堕ちた天使とはどうしてこうもそそる絵面なのだろうね。私が美術商だったらこの光景を有名画家に描かせていたところだ」
力なく赤い翼を垂れて血に這い蹲るデストロエルに、カツンカツンと靴音を響かせてゾイ・ローアが歩み寄ってくる。
彼の周囲には、剣に槍に斧から弓まで合計十三本もの様々な武器が浮遊していた。
「私は予選を通過する気がないと触れ回っていたが、アレは嘘だ。見たまえ! 今大会で私が獲得した魔王武具たちを! Cブロックだけじゃないぞ。AとBの敗退者からも取引させてもらったのだ!」
この大会に雑魚はいない。たとえ雑魚のように簡単に蹴散らされた魔王でも、一つの絵物語のラスボスを張れる力を持っている。敗退者だからと言って、その力の結晶である魔王武具が侮れるレベルのナマクラであるはずがない。
一本一本が神話級に匹敵する。
それが、十三本。
「私自身の魔王武具が存在しない点は本当で、似たようなことができる〝魔帝〟と比べて武術に明るいわけでもない。だが、それでも、私はこれらの能力を自在に扱えるのだよ。もはや優勝候補と言っても過言ではあるまい!」
大仰に腕を広げて演説するゾイ・ローアを、デストロエルは力を振り絞って立ち上がろうとしながら睨みつける。
「……よく、喋りますね」
「夢は大きく。優勝して〝魔帝〟の〈白峰刀・零刃〉をいただきたいものだ! アッハッハ!」
※※※
――雑貨屋WING〈魔帝城〉出張店。
「うふふ、羽黒がとても楽しそうですね」
「いや兄貴とグレアムって人、こんな状況でもまだ殴り合ってるんだけど」
「なにが起こってもずっと瞑想してた梓おばさまは他人のこと言えないです」
「観客がちょっとしたパニックになって客足遠のきましたね……」
「衝撃すら抜けてこないんだから、本当にすごい結界だなあ」
――ラ・フェルデ王国来賓席。
「あわわ、あんな怪物が解き放たれたらやばいなんてもんじゃないわよ!」
「Cブロックの残りの選手たちだけでなんとかなるだろうか? 陛下、どう思われます?」
「あのような手合いには必ず弱点が存在する。それを発見できるかどうかだろう」
「お義父様ならどうなされますか?」
「ふむ、丸ごとなにもない空間に封じる。アレほどの悪食だ。獲物を捕食できなければすぐに餓死するだろう」
「弱点関係ないわね」
――観客席。標準世界・紅晴市一行。
「よく見たらルーネ先輩出てる! がんばってー! ジムで鍛えた筋肉を見せつけてください❤」
「この状況でなんであの怪物が目に入らないの帰りたい!?」
「ねえ竜胆さん、先輩ってだーれ?」
「いや、俺もなんか崎原さんの職場の人ってくらいしか」
「クク、なんか懐かしい生態の化け物だな。逃げ足速そうなウサギを捕まえるより、アレを数匹飼っててめえの魔力を喰わせ続けるのはどうだ?」
「……わかって言ってるだろう? 破裂すればいい方で、下手すると更なる進化系を発見してしまう。いや、それはそれで興味深いか」
「場合によっちゃアレの再来だな」
「今となっては確実に滅する方法もあるから問題はないだろう」
「いや怖い帰りたい!?」
――主催者席。
「めちゃくちゃじゃねえか!?」
「そうしていいって言ったのダーリンだろ?」
「言ったけども!? てかなんでお前が主催者席にいるんだフェイラ!?」
「ケチケチすんなよ、ダーリン。ウチにも特等席で見物させやがれ!」
「『煉獄の魔王』フェイラ・イノケンティリスさんですね! 是非予選通過のインタビューを!」
※※※
まともなバトルロイヤルとは言えなくなっている戦場で、『贖罪の魔王』エルヴィーラ・エウラリアは顔を曇らせていた。
彼女は本来の『贖罪の魔王』と同人格同魔力だが、〝魔帝〟の眷属として生成された別個体だ。ただ能力に関しては〝魔帝〟の成長と共に強化され、今では本来を遥かに上回る力となっている。
この大会に出場したのも主の命令だった。他の眷属魔王たちも同様だ。強制ではなかったものの、他の連中と違ってそこまで好戦的ではないエルヴィーラは乗り気ではなかった。彼女は戦いの過程よりも結果を大事にするタイプ。相手を滅ぼせても復活するのでは救いにならないわけで、どうにもやる気が出なかった。
主が大会を利用して成そうとしていることも、彼女には理解ができない。アレは放置していた方が救いになる。であれば寧ろ邪魔をした方が『彼女』としての筋は通る……のだが、そうはならずこうして選手として出場している。
理由は至ってシンプルだ。
眷属からの解放。
とはいえ、普通の魔王に戻るわけではない。今の〝魔帝〟はある意味『救うために滅ぼす』を体現しているため、眷属であることに不満もない。ただ、彼女はかねてより己が救われることを望んでいる。すなわち、自身の消滅だ。
大会に出場し、優勝すれば、主が彼女を滅ってくれる。〝贖罪〟の機会を与えてくれる。
周りから見ればトチ狂った考えだろうが、彼女にとってはこれ以上ないご褒美だった。
「ここで魔物の餌になることは、私の救いにはなりません」
赤鬼と戦乙女との三つ巴はあのカタストロフィ・ミミックが出現したことにより中断され、散り散りになってしまった。
共に参加していた眷属は既に全滅。他の選手の数もかなり減っている。死んでも救いにならないとは〝魔帝〟も酷な真似をするが、今はそこに抗議している場合ではない。
「一体のみであれば私だけでも動きを封じることは可能でしょう。その間にあなた方で処理していただけますか?」
言葉は背後に投げかける。
そこには乳白色の光に包まれた二人の選手が立ち上がるところだった。
「チッ、借りができちまった以上はしゃあねぇか」
「……陽炎以外の魔王に手を貸すことになるなんてね」
逢坂陽炎と久遠院姫華。『魔王喰いの魔王』と『極光の勇者』のコンビこそが現状でもっとも火力を出せる存在だとエルヴィーラは考えた。故に彼らがカタストロフィ・ミミックの攻撃を受けそうになった時、結界でその身を保護していたのだ。
「あなた、あのバケモノの弱点は知ってるの?」
姫華がエルヴィーラに問いかける。
「いいえ。なにせ滅多に出現することのない滅亡級モンスター。ただ、奴に次元を渡る力はありません。五百年前に出現した時はその世界を喰らい尽くし、そして勝手に自滅したと聞いています」
「討伐記録はねぇってことか。厄介だな」
「普通のミミックだったら擬態ごと叩き斬れば倒せるんだけれど」
「あの解説が親切に教えてくれるわけがねぇ。他に知ってるとすりゃまあ、『砲哮の魔王』か」
「この戦乱の中を探している余裕はありません」
「そうね。弱点がどこだろうと関係ないわ。わからないなら、全部消し飛ばせばいいだけよ!」
「お前けっこう過激だよな。勇者のくせに。そりゃ俺の台詞だろ」
「うるさいわね!」
微笑ましい痴話喧嘩にエルヴィーラはまだ人間だった頃を思い出しそうになる。穢れを知らず、盲目的に世界を信じていたあの頃を。もはや戻れやしないあの時を。
思い出しても関係ない。
滅びが救いだという信仰が揺らぐこともない。
「――始めましょう」
フッと蠱惑的に微笑み、エルヴィーラは魔力を練り上げた。
※※※
硬く握られた拳の右ストレートが、腕をクロスさせた防御態勢の瀧宮羽黒へと叩きつけられる。
ドカァン!! と人体を殴ったとは思えない音が響き渡り、彼らを中心に奔る衝撃波が闘技場の地面に罅を入れていく。
「ハハッ、この肉弾戦車が。マジで衝撃が龍鱗の内側まで響いて来やがる。これが魔術も異能も使えないただの人間だなんて冗談としか思えねえな!」
羽黒は即座に身を捻って回し蹴りを放つ。グレアムはガードが間に合わず吹っ飛び――かけたところで、片足を地面に突き刺して堪え切った。
普通の人間なら吹っ飛ぶ前に体が爆散するほどの威力が込められた蹴りだった。なのに、グレアムは龍鱗すらない生身で受けた上で獰猛に笑う。既に何度もノーガードでダメージを負っているはずなのに、倒れる気配がない。タフさも常人離れしすぎている。
「俺的に、てめェはそういうの使っても全然いいんだぜ?」
「やなこった! てめえとの決着は拳でつけるって決めてんだ!」
だからこそ、面白い。
瀧宮羽黒と純粋な肉弾戦ができる相手などそうそういないのだ。大抵は羽黒がワンパンするか、羽黒にダメージが通らない。これほど楽しい殴り合いができるのは、それこそ十年振りである。
二人は横から襲いかかってきた触手を飛んでかわし、空中で互いに十発ずつ入れて着地する。
すぐさま地面を蹴ってお互いが頭突きで体当たり。文字通り頭が割れるような痛みに笑みを零しながら、飛んできた光線を拳で殴り飛ばし、触手を踏み潰す。
不細工な黒い四足獣が牙を剥いて襲いかかってくるが、二人はそれらを鷲掴みにしてドッジボールを始めた。
触手と光線の雨が苛立ったように降り注ぐ。
「「さっきから――」」
ピタリと戦闘を止めた羽黒とグレアムが、彼らを喰らおうとしているカタストロフィ・ミミックを睨み上げた。
「「邪魔だゴルァアッ!!」」
触手と光線の雨を搔い潜り、二人はカタストロフィ・ミミックの胴体を両腕で抱き込むように掴む。ぐぐぐ、と。ウルトラな怪獣よりも重量のある巨体が持ち上がり――
「「どっせぇえええええええいいオラァアアアアアアアアアッッッ!!」」
思いっ切り、ぶん投げた。
『ヒャホホホ! 山ほどでかいカタストロフィ・ミミックが腕力だけで投げ飛ばされた! 下敷きになった選手がどれだけ消えたことか!』
『あそこの〝喧嘩〟にはもう決着つくまで手を出さない方が賢明だよ』
※※※
「ぴえっ」
巨体が倒れた爆音が闘技場全体に響く中、情けなさすぎる悲鳴が微かに聞こえた。
「……朧ぉ……どこぉ……」
土煙が舞い上がる中を『地獄の青鬼』盈月がおっかなびっくりとした足取りで彷徨っている。あの怪物が現れてからバトルロイヤルどころではなくなり、広すぎる闘技場で朧とも逸れてしまった。
周りは土煙ばかりで誰もおらず、彼女の凛とした佇まいはすっかり影を潜めて素が漏れている。彼女は喧嘩こそ強いが、実はメンタルがクソザコの絹豆腐なのだ。本来ならこのような大会に出るような性格ではない。
あれは、朧が全次元で最も強者が集まるこの大会に出場することが決まった時だった。「朧凄い絶対優勝するぅ!」と実家の鬼婆にテンション高く語ったのだが――
『アンタも一緒に出場してちょっとは距離縮めてきな! 妻のくせにこの二十年でやったことと言えばおにぎりを届けたくらいなんだよ!』
『はひぃいいい!?』
といった具合に無理やり参加させられることとなった次第である。素を隠している彼女は旦那の前でも澄ました顔をしていたが、内心では心臓バクンバクンだった。
土煙を突き抜けて恐ろしい口を開けた触手が襲いかかってくる。スッと表情を引き締めた彼女は青い鬼火を触手にぶつけ、爆散させた。
本体から分離した触手は獣のようになって動き始めるが、彼女の鬼火は敵を焼き尽くすまで消えることはない。分裂を防ぐ有効打として機能している。
「見事故、その力であれば彼の怪物を殺せるのである」
と、人間のくせに男鬼並の巨躯をした海賊帽の大男が歩み寄ってきた。
「……ザドラグ殿、だったか」
「いかにも故。そちらは確か、盈月殿だったと記憶しているのである」
互いの確認の最中だったが、盈月の横から何本もの触手が伸びてくる。一瞬反応が遅れてしまった盈月だったが、そこに割り込んだ狼男が鋭い爪で細切れに引き裂いた。あまりに小さく切断されると四足獣にはなれないらしく、カタストロフィ・ミミックの破片はうにょうにょ動いて本体へと戻っていく。
狼男――『狼王』フェンリオスが冷たい息を吐く。
「……手を組みたい」
「我々では奴に対する有効な手札がない故」
フェンリオスの隣にザドラグも並ぶ。どうやらこの二人は既に組んでいる様子だが、カタストロフィ・ミミックに対して防戦一方を強いられていたようだ。そんな時に盈月の力を見て、勧誘に来たといったところだろう。
「……」
警戒する盈月に、ザドラグが困ったように立派な髭を擦る。フェンリオスも肩を竦める。
「心配無用故……と言っても無駄であるか。我らは魔の者ではない故、アレを倒すまでは貴女を裏切らぬと誓うのである」
「……火の粉は我らで払う」
宣言通り、襲い来る触手の群れをザドラグとフェンリオスは同時に攻撃して跳ね除ける。両名とも鬼ならば頭領を張れるほどの猛者であることは間違いない。盈月を守ると約束したのであれば、死んでもそれは果たしてくれるだろう。
だが――
「手は貸そう。しかし、お前たちが私を守る必要はない」
盈月が守られたいのは、この世にもあの世にもたった一人だけ。
「うむ、妻の身は拙者が守る!」
カタストロフィ・ミミックの目玉から発射された特大の光線を、飛び込んだ赤い影がボロボロの刃で一刀両断した。
「すまん、盈よ。触手が邪魔で遅くなってしもうた」
「朧!」
人間に化けた姿だが、それでも大きく頼りになる赤い背中に、盈月は心の中で大歓声を上げるのだった。
※※※
ジークルーネは襲い来る触手を適当にいなしながら飛翔していた。
「さてさて、どうしましょうか。モンスターと戦うのは面白くないですけど、邪魔されるのも嫌ですし……」
大鎌で斬れば斬るほどカタストロフィ・ミミックは分裂&再生していく。しかし、斬れば斬った分だけ本体の質量が減ることも判明した。分裂させた四足獣を本体に合流させないよう、確実に処理していけばいずれは倒すことが可能だろう。
ただ、その方法では七日七晩あっても足りやしない。
スライムに代表される不定形のモンスターには、それを形作っている『核』が存在していることが多い。核を破壊すれば体が霧散して死に至る。恐らく、カタストロフィ・ミミックにもどこかに核となるなにかが存在するはずだ。
それが、奴の弱点。
だが、肝心の核の場所はさっぱりわからない。見上げるほどの巨体の内部を動き回っている可能性だってある。限定的な運命操作を可能とする戦乙女の能力を使ったとしても、『運よく核に攻撃があたった』という結果を引き寄せることは難しいだろう。
「おや? あれは?」
ふと横を見て、ジークルーネは楽しそうな笑みを浮かべた。
※※※
「それはどういうことかな?」
目の前で胸の傷が治って飛び上がる『壊滅の天使』デストロエルに、『砲哮の魔王』ゾイ・ローアは怪訝そうに眉を顰めた。
砂時計の片方が反転している。
デストロエルの傷が治り始めたのはそれからだ。否、治ったというより巻き戻ったといった方が正しそうである。
「説明不要です。これから壊滅するあなたには関係のないことでしょう」
「アッハッハ! なんのための砂時計かと思っていたが、そういうことだったか! 私を壊滅させる? やってみるがいい、小娘よ!」
アレは自身の時間を戻す、もしくは進めることのできる魔導具だろう。時間に干渉するアイテムはとても貴重だ。是が非でも入手しておきたい。
「こちらには上位魔王の魔王武具が十三本もあるのだよ! 敗れる要素など皆無ではないか!」
水流に雷撃に火炎などなど。わかりやすいエレメントだけでも様々な特性を纏える強大な武器が一斉にデストロエルへと攻撃を仕掛けた。
水流纏う槍が彼女の腹を貫き、雷撃纏う斧が翼を捥ぎ、炎纏う剣が四肢を跳ね、弦の引かれた弓から射出された霊子の矢が魂を砕く。
だが、砂時計の片方――左側がくるんと反転するだけで、彼女の体は逆再生するように戻っていく。
復活した翼からいくつもの光弾が降り注ぐ。強靭なバリアを張るラウンドシールドの魔王武具で全弾を易々と受け止める。
「もう一度、地に堕ちなさい!」
重力を操る鞭を振るい、上空の赤い天使を地面に強く叩きつけた。
ぐしゃりと肉体が潰れる音。
それでも、左の砂時計が反転すれば彼女は完全復活を果たす。
「アッハッハ、これは些か反則ではないかな? あちらの『贖罪の魔王』も今大会でそういうのは自重しているというのに!」
「反則はありません。全ての能力を使っていいという旨を〝魔帝〟は口にしていました」
まったくもってその通りだ。不死だろうと構わず斃せる力がなければ予選通過などできやしない。それ即ち概念に干渉するということ。概念魔王、もしくは上位魔王の中でも一握りしか扱えない絶技である。
無論、そこまで武を極めてなどいないゾイ・ローアには扱えない。
だが、解決方法がないわけでもない。
「対象の異能を無効化する魔王武具。『霧消の魔王』から頂戴した〈天賦欠落〉の出番だ」
動かしたのは、投擲用のショートソード。ぶっちゃけ砂時計を破壊すれば早い話だろう。だが、それを回収したいゾイ・ローアにはこうするしかなかった。
真っすぐに左側の砂時計に飛んで行くショートソードだったが――ガキィン!
唐突に横から割り込んできた大鎌によって弾かれてしまった。
蒼銀の髪を靡かせる戦乙女が、ゾイ・ローアとデストロエルの間に浮かんでいた。
「ちょっとお邪魔しますね! えへへ、できれば戦いに来たって言いたかったところですけど、この子少しだけお借りできませんか?」
「は?」
「……なにを?」
いきなり来て意味のわからないことを告げるジークルーネに、ゾイ・ローアとデストロエルが顔を顰める。
「ん-、私、説明とか苦手なんですけど……いえね、あのモンスターをどうにかしたいんですけどちょっと面倒臭いんですよ。そこでこの子、正確には右の砂時計を使わせて貰えないかなって」
「右だって?」
「……知っているのですか?」
さらに眉間へと皺を寄せるゾイ・ローアは、瞠目するデストロエルを見て段々と嫌な予感が募ってきた。
「えへへ、オーディン様に聞いたことがあるんです。『壊滅の天使』は行き過ぎた文明を破壊し、原始に戻す役目を持ってると」
「……まさか」
ジークルーネの言葉で、嫌な予感はほぼ確信に至る。
「左は自己の時間操作。右は対象の時間操作ですよね? その力であのデカブツを進化前まで戻せませんか?」
「右はずっと動いていない。いや、私と対峙した時に一度だけ。触手を回転で弾いたのも全て左で行っていた……ッ!?」
ゾイ・ローアは、既に右の砂時計によって時間操作を受けている。
ハッとして自分の体を改める。が、若返ってもいなければ年を取った様子もない。手足の皺の数まで今日のままだ。
「いや、それはそうだ。私はこれでも魔王。長い時を生きて来たし、これからも生きる。仮に私を無力化するほどの時を戻すとなると相当な時間がかかるはずだ」
「はい。ですが、対戦中にも武具を集めていたあなたの弱体化は可能と判断しました」
「なん――ッ!?」
今度こそデストロエルの狙いがわかった。ゾイ・ローアの時を数時間でも戻せれば、今日回収したばかりの魔王武具たちは持ち主の下へと帰っていく。
振り返ると、今の今まで十三本浮かんでいた魔王武具が一本もなくなっていた。
「わ、私が集めた魔王武具が!?」
膝から崩れ落ちる。苦労して集めたのに、せっかくカタストロフィ・ミミックという温めていた切り札を切ったのに、この大会に出た意味が全て水泡と帰してしまった。
「なんかお爺様が絶望のポーズをしていますが、とにかく今はあっちの方です。同じ神に仕える者同士、手伝ってくれませんか?」
「……了解しました」
「あと終わったら戦ってください♪」
「……了解しました」
悔しげに地面を殴るゾイ・ローアを放置して、ジークルーネとデストロエルは目下の敵の方へと飛んで行った。
※※※
各選手たちがそれぞれで徒党を組み、五体ものカタストロフィ・ミミックへの対抗策を確立し始める。
混乱していた戦場が、反撃の色へと変わっていく。
まずは一体のカタストロフィ・ミミックが乳白色の結界に包まれた。『贖罪の魔王』が生み出す強靭強固な結界はいかに滅亡級モンスターといえども簡単には破れない。触手と光線で暴れまくるが、結界は軋むだけで割れることはなかった。
そこに逢坂陽炎と久遠院姫華が同時に攻撃を加える。極光と黒紫色の魔力がユニゾンし、結界を擦り抜けてカタストロフィ・ミミックを呑み込み、核が目玉であることにも気づかないまま一気に消滅させた。
続けて朧・盈月・ザドラグ・フェンリオスのチームとジークルーネ・デストロエルのチームも攻撃を仕掛け――ようとした、その時だった。
カッ! と。
突然、闘技場の中央に純白の輝きが出現したのだ。
その輝きを割るように中から放射された灰色の魔力砲が、直線状にいた二体のカタストロフィ・ミミックを無情にも一瞬で消滅させる。
あれだけ苦労した滅亡級モンスターが、コバエを振り払うような手軽さで消し飛んだ。
誰もが起こったことをすぐには理解できず呆然とする中――
「いやぁ、いくらボクでも『退廃』を抑えとくのは流石にそろそろ限界かな。さて……うん、選手はいい具合に減ったみたいだね。変なのは増えてるけど」
純白の輝きから飛び出した白布少女――『現夢の魔王』ゼクンドゥムが周囲を見回してニヤリと笑う。
「J(=Pー%$G#!!?」
続いて飛び出した灰色の竜巻――『退廃の魔王』ラスト・エンプティネスは、なにやら不愉快そうな感情が乗った音を発している。
そんな両者に、動けない選手に変わって残り二体のカタストロフィ・ミミックが襲いかかった。
だが――
「夢と共に覚めるといい」
「K0%&##@E!」
一匹はゼクンドゥムが指を鳴らすや体が白化して崩れて消え去り、最後の一匹は灰色の風が撫でただけで無に帰してしまった。
『大暴れしていたカタストロフィ・ミミックがあっさり倒されてしまった! ヒャホホホ! もっと他の選手の見せ場があってもよかっただろうに!』
けたたましく実況がマイクに向かって叫ぶ。
『ヒャホホ、だが丁度いい。ここに来て経過を発表するとしよう! 残りの選手は十四名だ!』
『Bブロックの時はなんか一瞬で持って行かれちまってできなかったからね』
パッとスポットライトがまずはゼクンドゥムを照らす。
『今見ているものは現実か、それとも夢なのか! 現実で夢を見させるという意味のわからないチートは〝悪夢〟の概念! 「現夢の魔王」ゼクンドゥム!』
「ほとんどいなかったんだけどね、ボクは」
『地面と睨めっこしているが大丈夫か? カタストロフィ・ミミックも魔王武具も全て失った哀れな武器商人! 「砲哮の魔王」ゾイ・ローア!』
「アッハッハッハ! もうどうにでもなーれ!」
『龍の鱗は物理防御最強! 標準世界で雑貨屋を営む強面ヤクザ! 「餓蛇の魔王」瀧宮羽黒!』
「どりゅあああああああああああああああッ!!(バキベキ!)」
『触れるモノ全てぶっ壊す! 破壊神が宿っているようで、なんとただの人間! 「壊し屋」グレアム・ザトペック!』
「うるぉあああああああああああああああッ!!(ボキブキ!)」
『君ら殴り合いちょっとやめない!?』
選手紹介している間も忙しなく動き回る二人にスポットライトがまったく追いつかない。実況は諦めて次に行くことにした。
『極寒で鍛え上げた優美にして屈強な肉体! 獣人たちの絶対にして至高の存在! 「狼王」フェンリオス!』
「……フン」
『これまでどれほどの過酷な旅を乗り越えたか! 様々な賭博魔導具を駆使して戦う次空海賊! 「七つの次空の覇者」ザドラグ!』
「魔王に次空海賊とか言われたくない故、冒険家と言ってほしいのである」
『火力とは言えない圧倒的な消滅力を誇るかつての君主! 翻訳の術があってもなに言ってるのかわからない〝虚無〟の概念! 「退廃の魔王」ラスト・エンプティネス!』
「+X*&~||$㌖!」
『絶対防御の盾と結界術! 堕ちた聖女は世界を滅ぼす! 「贖罪の魔王」エルヴィーラ・エウラリア』
「騒音は罪です。滅んでください」
『空駆ける美しい戦乙女! しかして手にする武器は命を刈り取る大鎌! 「蒼銀の死神」ジークルーネ』
「えへへ、砂時計は使う暇なかったですが、これで楽しく戦えそうです♪」
『無情の破壊と回帰を齎す神の使徒! 砂時計が回転したらご注意だ! 「壊滅の天使」デストロエル!』
「……」
『魔王を喰って力を吸収してきた我らが怨敵! 呪われて勇者と過ごす毎日はどんな気分? 「魔王喰いの魔王」逢坂陽炎!』
「絶対殺すから首洗って待ってろ!」
『「魔王喰いの魔王」が怨敵ならばこちらは天敵! 聖光と聖剣で幾多の魔王を狩ってきたが、呪いで繋がった相棒は情が湧いたのか殺せないようだ! 「極光の勇者」久遠院姫華!』
「絶対滅してあげるから首洗って待ってなさい!」
『冥府は阿鼻地獄からはるばるやってきた屈強な鬼! 人の姿で戦うことで力の底をまだ見せていない! 「地獄の赤鬼」朧!』
「……い、言えぬ」
『同じく冥府は摩訶鉢特摩地獄の鬼頭! 夫を支えて共に戦う良妻賢母! 「地獄の青鬼」盈月!』
「りょ、良妻だなんて……ハッ!? フッ、当然のことです」
『さあ、彼らはどのような戦いを見せてくれるか! ヒャホホ! 最終ラウンドを始めよう!』
――雑貨屋WING〈魔帝城〉出張店。
「朧は未だ人化解かず、か。これは本気出した時が楽しみね」
「……なあ、朝倉、アレって……」
「……言わない方がいいよ……」
「パパー! ナイスファイトです! そのまま決勝までいっちゃえー!!」
「いえ、飛び入りはともかくさすがにスポンサーが決勝に出るのは良くないんですが」
――ラ・フェルデ王国来賓席。
「なんとか落ち着いた……ってことでいいのかしら?」
「さて、開幕で暴れた『退廃の魔王』が出て来ている。どうなることか、私でも予測できん」
「それよりグレアム殿はずっと同じ相手と戦っていないか!?」
「確か、紫のお父様ですよね?」
――観客席。標準世界・紅晴市一行。
「いや、何やってんだあの人……」
「えへへへ、さいっこうに見応えある❤ しかも変なのいなくなったからもっと楽しくなりそうだし、幸せー!」
「もうやだこの変態、帰りたい!!」
「……本当に、何をしているんだあの二人は」
「なんで武器も使わないで殴り合いしてるんだろうねー?」
「脳筋が脳筋拗らせてるだけだろ」
――主催者席。
「どうにかここまで持ってこれたか。まあ、ゼクンドゥムとラスト・エンプティネスならカタストロフィ・ミミックごときこんなもんだろうけど」
「もうその二人が予選通過するんじゃないか、ダーリン?」
「さあな。どうなるかは最後までわからんぞ」
「あれ? ラスト・エンプティネス様が勝った場合、インタビューどうすればいいのでしょう!?」
※※※
一部を除き、全ての戦いが仕切り直されたまさに最終ラウンド。選手たちは各々がどう動けばいいのか模索し、数秒の沈黙が下りる。
最初に動いたのは、『壊滅の天使』デストロエル。
「『砲哮の魔王』にトドメを――ッ!?」
ではなかった。
突然横から薙ぎ払われた凶刃を左の砂時計で受け止める。頑丈なはずの神造魔導具にピキリと亀裂が走った。
そこには満面の獰猛な笑顔で大鎌を振るう『蒼銀の死神』ジークルーネの姿が。
「どういうつもりですか?」
「え? 約束したじゃないですか。終わったら戦ってくれると」
「終わっていません。まだ元凶が残ってい――」
「えへへ、私、機械の天使としか戦ったことがなかったので楽しみです♪」
翻弄するようにデストロエルの周囲を高速移動するジークルーネに聞く耳などなかった。青い閃光となって三次元の様々な角度から斬撃を浴びせてくる戦乙女もとい死神に、赤い天使は己の鮮血でより赤々と染まっていく。
砂時計が反転し、刻まれた傷が全て消える。
「邪魔をするのでしたら、壊滅させるまで」
デストロエルは赤い翼を広げ――バチリ、と。激しくスパークするエネルギー弾を全方位に向かって射出した。
上空で青と赤が激しい攻防を繰り広げる中、地上でもチームが解散したことによる争いが勃発しようとしていた。
『贖罪の魔王』エルヴィーラ・エウラリアと対峙するのは、『魔王喰いの魔王』逢坂陽炎と『極光の勇者』久遠院姫華の二名。あとから現れた概念魔王たち以外で、協力してカタストロフィ・ミミックを討ち倒した唯一のチームだった彼らも今や敵同士である。
「あとで復活するのでこの場だけになりますが、あなた方にも滅いの光を与えましょう」
十字の盾を構えるエルヴィーラを警戒しつつ、陽炎と姫華は視線を交わす。
「まだやれるな、勇者様? 滅亡級モンスターとは別ベクトルで厄介な相手だぞ」
「誰に物を言っているの、魔王様? まだまだ余裕に決まってるでしょ!」
乳白色の閃光と、極光と黒紫の魔力砲が放たれたのは同時だった。それらが衝突すれば、二対一の差でエルヴィーラが競り負けることになるだろう。
しかし、そうはならなかった。
衝突すらしなかった。
突然、二方向の攻撃の間に灰色の竜巻が吹き上がったからだ。
「=+UT&@#++!」
聞き取ることのできない風切り音のような声が響く。
「『退廃の魔王』……ッ!? チッ、てめえを相手にするのは他の魔王を喰ってからにするつもりだったが……」
陽炎が忌々しげに舌打ちする。彼は過激な性格をしているが、意外と冷静で計算高い。Cブロックの予選が終わるまでなら〝魔王喰い〟で己を強化できることは確認している。かつて〝君主〟と呼ばれていた最上位魔王の中でも最凶の消滅力を誇るラスト・エンプティネスを相手にするには、少しでも力を上げなければ厳しいと判断していた。
「待って、様子がおかしいわ!」
姫華が警告する。割って入った灰色の竜巻は、落ち着くどころかさらに荒々しく巻き上がり始めたのだ。
魔力が、信じられないほど強大だった魔力が、さらに跳ね上がっていく。
空気がピリつく。周りの空間が軋む。その存在だけで結界が悲鳴を上げているようだ。
「ああ、成るのですね。ここで」
悟ったらしいエルヴィーラが数歩後ずさった。
次の瞬間、灰色の竜巻が盛大に弾け飛ぶ。
そこから現れたのは、美しい銀髪を靡かせる悪魔のような角を生やした黒衣の少女だった。どこを見ているのかもわからない虚ろな紅い瞳。灰色の風を纏うその姿は、禍々しくも神秘的な雰囲気を醸し出している。
『退廃の魔王』の、第二形態。
桁違いに魔力と存在感を増した彼女が、小さく口を動かす。
「シ肖すナニ″レナナょら、簡単。τ″も、ξれτ″レよ〝魔帝〟@意レニξ<″ゎナょレヽカゝら……夲気出す」
かろうじて人の言葉らしきものは聞き取れるようになったが、結局なにを言っているのかわからなかった。
第二形態となった『退廃の魔王』に注目が集まる中、闘技場の別の場所でも手を組んだ者同士の戦いが繰り広げられていた。
屈強な両腕から振るわれる高速の氷爪を、巨大化し積み上がったサイコロの壁が防ぎ切る。
「昨日の友は今日の敵故、手加減はせぬのである!」
「……同じく」
序盤から手を組んでいたザドラグとフェンリオスが衝突する。
氷の息吹をトランプの盾で受け流したザドラグは、二個のサイコロを転がすと同時に腰に佩いていた蛮刀を抜いて躍りかかる。
フェンリオスは破裂して散弾と化すサイコロを爪で捌き、大上段から豪快に振るわれた蛮刀を牙で受け止めて弾く。
「やる故」
「……お主も」
実力を認め合う両者。
その時――ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ、と地鳴りのような音が聞こえてくる。
「なに故、この音は?」
「……待て、あちらからなにか」
猛烈な勢いで巻き上がる土煙が二人へと急接近してくる。
「オラァいい加減倒れやがれてめえぇえええええええええッ!!」
「俺的にてめェが倒れてくれてもいんだぜぇええええええッ!!」
それは、殴り合い蹴り合いながら猛進する瀧宮羽黒とグレアム・ザトペックだった。
前方が見えていないのか、見えていて気にしていないのか、戦いを止めず突き進む彼らはザドラグとフェンリオスにまっすぐ突っ込み――
「ぐべっ!?」
「がふっ!?」
屈強な巨体を誇る二人を、いとも容易く弾丸のごとき勢いで撥ね飛ばした。錐揉み回転しながら左右の結界にそれぞれ頭から激突した二人は、当然のことながら即死である。
『おーっと! 最終ラウンド早々に二名が脱落した! ヒャホホ、いいのかこんな交通事故で!』
『それはBブロックのお題だよ。でもそうとしか表現できない残念な末路だよ』
『ヒャホホ、お題とは?』
『アンタが気にすることじゃないよ』
※※※
青い鬼火が朧の脇を掠めた。
チリリと赤い肌を焦がして燃え広がりそうになる火を、朧は咄嗟に気を纏った手で払い消す。目の前を睨めば、ゆらりと危うげに立ちながらも凍えるような殺気を放つ盈月の姿があった。
「やめろ、盈よ!? なぜ拙者を攻撃する!?」
殺意を向けられていても相手は妻。朧は刀を構えられず困惑している。
盈月の様子がおかしい。しかし、誰かに操られているといった雰囲気でもない。その眼は怒りで揺らいでいるが、彼女の意思をハッキリと感じられる。
「わかってるだろう? おにぎりしか作れない私のことなんか、アンタはとっくに見限ってるんだからさ」
「そんなことはない!」
「じゃあ、どうして……どうして……」
盈月の目尻から一滴の涙が零れた。
「衆合地獄の伽耶殿と不倫したんだい!?」
「ふ、不倫だと!?」
驚愕の言葉に朧の顎が外れた。長い時を鬼として生きてきた朧だが、不倫も浮気もした覚えは一切ない。そもそも、そんなことができる甲斐性が自分にないことを彼はよくわかっている。
そこは盈月も理解しているはずだ。
やはり、なにかがおかしい。
「二人で楽しそうに食事してるところを見たんだよ!? 私がおにぎり持って行ってるのに!? 修行と言ってアンタから会いに来なかったのも、本当はそういうことだったんだろう!?」
「違うぞ、盈よ。落ち着くのだ。アレは同じ山ン本一派の同僚として仕事の話を――」
「嘘だッ!? ちっちゃいのがいいのか!? アンタはそんなにちっちゃい娘が好きだったのかい!?」
「そんなわけ」
「ええい、問答無用!」
朧の周囲に無数の青い鬼火が点火される。爆発し、激しく撒き散った火の粉を転がってかわす。盈月の殺意は本物だ。本気で朧を殺しにかかっている。
怒りの感情が沸々と込み上げてくる。
朧の方とて、妻に対して不満が一切なかったわけではないのだ。
「くっ、ならばこちらも言わせてもらおう! 盈よ、お主こそ摩訶鉢特摩の男衆にチヤホヤされて満更でもない様子だったではないか!」
「そ、それでも私はアンタ一筋だったんだよ!?」
「拙者もだ!?」
迫る鬼火を刀で払い除ける。朧から攻撃することは決してないが、それでも互いに体力も気力も消耗していく。
『ヒャホ、これはどういうことだ? 赤鬼と青鬼が急に夫婦喧嘩を始めてしまった! 今が大会の最中だということも忘れているのではないか!』
『こんなことができるのは奴だけだよ。本当に趣味が悪いね』
夫婦喧嘩をする鬼たちの傍ら。体に巻いた白い布をはためかせ、愉快そうな笑みを浮かべて彼らを見物する少女がいた。
「いやぁ、ボクもまさか地獄の鬼たちがこんな人間味溢れるドロドロな喧嘩を始めるなんて思わなかったよ。キヒヒ。まあ、そういう設定の〝悪夢〟を最初に与えたのはボクなんだけどさ」
『現夢の魔王』ゼクンドゥム。
どんなに不整合な〝夢〟でも、気づかなければ見ている者にとって現実と変わらない。彼女は相手の意識を現実に繋いだまま、そういった設定を植えつけることができる〝悪夢〟の概念魔王だ。
――〈白昼夢〉。
現実での恋人が憎い相手となったり、尊敬する上司が黒幕になったり、絶望的な過去があったことにされて自殺するよう意識を誘導されたり。矛盾に気づき、〝夢〟だと理解し、精神力で跳ね除けられなければ決して抜け出すことのできない幻術系で最悪クラスの異能である。
「赤鬼の方は効きが悪いね。もうすぐ自力で目覚めるかな? でも、青鬼の方はそうじゃない。ここまで生き残れる強者のくせに、精神面は意外と雑魚みたいだね。キヒヒ」
朧は表情からして違和感に気づき始めている。盈月は〝夢〟にどっぷりハマってしまっており、朧憎しの感情ばかり表に出て冷静な考え自体を放棄している様子だ。元からそういう疑念や不安があればあるほど勝手に暴走し、〝夢〟から抜け出せなくなるのだ。
「これ以上はもう面白い展開になりそうにないね。そろそろ次のステージに移行しようか」
盈月の鬼火を朧が刀で防ぐというループになってしまっている。眺めるのも飽きてきたゼクンドゥムは、片手を天に翳し、魔力を収斂させる。
「儚き夢に散れ――〈泡沫の悪夢槍〉」
純白の長槍が彼女の手に出現する。相手の肉体を消し去り、意識だけを永遠の〝悪夢〟の世界に閉じ込める凶悪な魔王武具だ。
振り回すことはしない。
ゼクンドゥムは槍を魔力で操って投げるだけ。
朧と盈月が直線上となるような起動で真っ直ぐ飛翔する純白の長槍。彼女は二人纏めて串刺しにするつもりだったのだが――
「ぬぅん!」
急に自分自身をぶん殴った朧が、振り返り様にボロボロの刀で槍を弾き飛ばした。
「あらら、もう起きちゃったか」
槍がゼクンドゥムの手元に戻っていく。朧は青い鬼火を背中で受けながらも、頭を振って気丈にもゼクンドゥムを睥睨した。
「貴様か、拙者たちにあのような術をかけたのは!」
人化していても凄まじい眼力にゼクンドゥムは僅かに頬を引き攣らせる。
「ボクに怒るのは当然だけど、パートナーは放置してていいのかな?」
「朧ぉおおおおおおおおおおッ!!」
鬼火をやめた盈月が背中を見せた朧に飛びかかる。だが朧は冷静に彼女を受け止めると、その鳩尾に拳を叩き込んだ。
「……すまぬ、盈よ」
「かはっ」
嗚咽を漏らして膝から崩れる盈月は、その衝撃でようやく〝夢〟から覚めたらしい。きょとりとした顔で周囲を、そして目の前で悲しそうな表情をしている朧を見る。
「あ、あれ? 朧、私は……?」
「全て奴が見せた質の悪い〝夢〟だ。忘れるがいい」
盈月の頭をくしゃりと撫でると、朧はゼクンドゥムに振り返る。赤い額に何本もの青筋を作って。
「赦さんぞ。目覚めさせるためとはいえ、拙者に妻を殴らせたこと……」
空間が揺れるほどの怒気。頭の束ねていた髪が重力に逆らい天を衝く。その身体が徐々に肥大化しているように見えるのは、彼の怒りによる幻覚でもなんでもない。
「断じて赦さんぞぉおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
咆哮。
一本の角が伸び、牙が生え、耳が尖り、黒かった髪が逆立つ白に変わった。凄まじい妖力が赤いオーラとなって吹き荒れる。
細身だった人間の姿とは真逆の、筋骨隆々とした大鬼がそこに存在していた。
「朧、アンタ戻れたんだね!」
盈月が思わず歓喜の声を漏らす。
「『地獄の赤鬼』……へえ、これが本来の姿なんだね。キヒッ、とんでもない迫力だ」
「見た目が女子供とて、貴様は魔王。容赦はせぬ!」
ボロボロの刀を強く握り締め、朧は地響きを轟かせながらゼクンドゥムへと突撃する。元々人の身には大きすぎた太刀が、鬼の姿となったことでしっくりと嵌っていた。
「はぁあああああああああああああああああああああッ!!!!」
大上段に振り上げられた必殺の刃を見上げ、ゼクンドゥムは放心せざるを得なかった。
「なんて……」
張り裂けそうな筋肉。ボロボロながらも凄まじい念の籠った妖刀。これが『鬼』だと語るような怒気と覇気、そして闘気が目の前に迫る存在をより大きく幻視させる。
なのに――
「なんて、隙だらけなんだ」
ゼクンドゥムは刀が振り下ろされる前に朧との間合いを詰め、その胴体に軽くタッチ。
「あっ」
朧の体が純白の輝きに包まれ、薄れて消えていく。現実と夢の反転。朧という存在が〝夢〟となり、儚く消失しているのだ。
「む、無念……二十年振りの鬼の姿ゆえ、刀の振り方を忘れてしもうた!」
「なにやってんの朧ぉおッ!?」
光の粒子となって完全に消え去った朧に盈月が悲鳴を上げた。
「いやいや、それでも見事だったよ。もし人の姿ままだったらボクの方が斬られていたかもね」
賞賛の拍手を送るゼクンドゥムが泣き崩れる盈月を見やる。
「で? 青鬼のお姉さんはどうする? 予選が終わればどうせ復活するけど、夫の仇を取る?」
問われ、盈月は涙を拭ってすっと立ち上がる。凛とした表情を作り、夫を消した敵を力強く睨みつける。
「アンタには胸糞悪い悪夢を見せられた。だが、そのおかげで朧は鬼の姿を取り戻せたんだ。恨みはしないが感謝もしないよ」
「ふぅん、それで?」
「朧がいなければ、私がこれ以上戦う意味はない。――リタイアしよう」
そう宣言し、盈月は退場口へと歩いていくのだった。
※※※
左右の砂時計が同時にパリンと砕け散った。
時を操れなくなったデストロエルが、大鎌の一閃を正面から受けて鮮血を散らす。
「……あなたの、勝ちです」
「えへへ、楽しかったですよ。対戦ありがとうございました♪」
地に落ちていくデストロエルを眺めるジークルーネだったが、彼女も光弾を何発も受けて満身創痍だった。
『ここまで生き残った猛者たちも各所で次々と倒れていく! Cブロックを通過できる者は二名だ! ヒャホホ! 誰と誰が勝つだろうか!』
『状況を見ればやっぱり「退廃」と「現夢」が優勢だね。彼女たちは開幕からずっと二人だけの空間で戦っていたわけだけど、どちらもダメージを負っていない。両者とも力の特性が〝消失〟だからね。なかなか決着がつかない相性なのさ』
実況と解説を聞き流しながら次の対戦相手を決めるべく空を駆けるジークルーネ。すると、上空に膨大な魔力が集束していくのを感じた。
灰色の竜巻が無数の槍となって降り注ぐ。
「やばっ!?」
一触即滅の竜巻群は、ジークルーネ単体を狙ったものではない。闘技場全域を範囲としたマップ爆撃である。恐らく世界規模で展開できる技。それを闘技場という限定された空間に絞ることで簡単には相殺できない魔力の密度となっている。
無論、犯人は『退廃の魔王』ラスト・エンプティネスだ。
「アレは戦いを楽しめるという次元にいないんですよねぇ」
掠るだけで消される。こちらの攻撃は概念に干渉できなければ無効。もはやレッドカード物の反則である。灰色の魔力で技が可視化されているため、避けやすいことだけがせめてもの救いだろうか。範囲は馬鹿だが。
似たような理由で『現夢の魔王』とも戦いたくはない。〝魔帝〟が異世界邸に立ち寄った時に何度か顔を合わせているから知っているが、肉を切って骨を断つ戦いに楽しみを見出す戦闘狂にとって彼女は最悪の相手と言える。
闘技場の端でなにやらこそこそしている『砲哮の魔王』には興味がない。
できればあっちでずっと楽しそうに殴り合いを続けている二人に混ざりたいところだ。しかし、今さら行っても水を差すだけ。そこに関しては空気が読めるジークルーネである。
となると、残りの相手はもう限られる。
闘技場の中心地で『退廃の魔王』に翻弄されつつも応戦している『贖罪の魔王』か『魔王喰いの魔王』か……
「えへへ、やっぱり戦うなら人間の英雄ですよね!」
ジークルーネは竜巻をアクロバティックにかわしながら猛スピードで飛翔し、蒼の軌跡を描いて人間の英雄――『極光の勇者』久遠院姫華の眼前に舞い降りた。
「えっ!?」
「対戦、よろしくお願いします!」
いきなり突っ込んできた蒼い死神に面を喰らう姫華。遠慮の欠片もなく振り下ろされるデスサイズを、彼女は極光纏う聖剣で受け止める。
戦争の真っ只中で両陣営の武将に片っ端から喧嘩を吹っ掛けていく大迷惑な戦乙女は、本大会でもしっかり健在だった。
「おい、姫華!?」
「こっちは気にしないでいいわ! 陽炎は『退廃』と『贖罪』に集中して!」
大鎌を弾いて姫華はジークルーネの懐へと踏み込んでくる。長柄の武器では戦いにくい。歴戦の英雄は自分が有利になる間合いを熟知し即座に対応するものだ。姫華もその域に十分達しているだろう。
だが、そういう戦いならジークルーネも数え切れないほど経験している。
姫華が間合いを詰めるのと同時に大鎌を引き、彼女が来る場所へ予め蹴りを置いておく。それを避けた彼女に短く持った大鎌の刃を突きつける。多少名が広がった程度の英雄であれば、それで首が飛んでいたことだろう。
姫華は倒れるように身を屈め、間一髪で大鎌をかわす。そのまま屈伸運動のバネで跳ね上がり、身を捻ってジークルーネの胴へと蹴りを入れた。
さらにそのまま空中で回転し、一撃目で宙に浮いたジークルーネの逆の胴に二撃目の蹴りを放つ。そして三撃目は聖剣での回転斬り。格闘ゲームのコンボのように華麗に技を決めた。
「噂に聞く『極光の勇者』……流石ですね!」
ジークルーネもただ無防備に技をくらったわけではない。一発一発に受け身を取り、最後の回転斬りも脇腹を掠めた程度で終わらせたのだ。
「今はあなたと戦っている場合じゃないんだけど!」
「いいじゃないですか。私だってあなたが楽しい戦いをしていたのなら邪魔するつもりはありませんよ。でも、そうじゃなさそうだったので」
「どこにでもいるものね、戦闘狂って」
大鎌と聖剣による激しい剣戟が続く。ジークルーネにはデストロエルとの戦いで負ったダメージもあるが、寧ろそのおかげでアドレナリンが出まくって痛みも疲労も感じていない。
止まない剣戟音。弾ける火花。斬っては斬られ、斬られては斬る。
久遠院姫華との戦いは想像以上に楽しい。
願うなら、このまま永遠に戦い続けていたいくらいだった。
「――〈限界突破〉! 三層解放!」
姫華が纏う極光が倍、いや三倍に膨れ上がった。さらに髪の色が黒から金へと変色し、両目もルビーレッドの輝きを放つ。凄まじい魔力と闘気の圧にジークルーネは手足が痺れるのを感じた。
「いいですね。えへへ、すごくいいですよ。まだ強くなるんですね♪」
「諸刃の剣だけどね」
純粋かつ狂気的に笑うジークルーネと、極光のオーラを纏って金髪紅眼となった姫華が、同時に地面を蹴って衝突する。
横薙ぎに振り払われる大鎌を、姫華の聖剣が一本の矢となって突き貫く。
一瞬の拮抗もなく大鎌の刃が砕ける。衝撃がジークルーネの体を強かに打ちつけ、後方へと砲弾のように吹っ飛んだ。
「えへへ、素晴らしいです。武器は壊れましたがすぐに再戦を――」
言いかけて、ジークルーネは背後から灰色の光が迫っていることに気づいた。『退廃の魔王』が乱射している魔力砲の一つが、丁度ジークルーネに直撃するコースだった。
吹っ飛んでいる途中であり、自由が利かない。
「残念、ここまでですか……でも、とても楽しい戦いでした♪」
フッと満足気に微笑んだジークルーネを、灰色の巨大な閃光が容赦なく呑み込んだ。
***
ラスト・エンプティネスは有り余る魔力に物を言わせ、天から竜巻の群れを落とし、地面には侵食する虚無物質を広げ、中間は掠ることすら許されない魔力砲を全方位に撃ち放っていた。
そこに狙いをつけるような意志は存在していない。ただただ子供があたり散らすように暴れているだけだ。
人型の第二形態になっても変わらない〝虚無〟さ。
しかし、一見無意味に思える行動にも彼女なりの意図があった。
敵を消し去るだけなら簡単だ。一撫ですれば済む。だが、それでは〝魔帝〟がこの大会に望んでいる『戦い』にはならない。
未来を識る『流転の魔王』が教えてくれた。
この闘技場は、戦いによって生じる様々なエネルギーを集めるための舞台装置になっている。選手たちだけではない。観客の熱狂すらもなにかしらの力に変換している。そういう術式が隠されているのだ。
開幕、選手たちを半数まで減らしたラスト・エンプティネスは悟った。
『あ、これじゃエネルギーが生じない。〝虚無〟だ』と。
だから、戦い方を切り替えた。魔力を無駄に消費し、〝虚無〟からでもエネルギーが発生するように、他の選手たちも〝戦い〟になるようにしてみた。手加減は苦手なので、せめて狙いをつけないように目を瞑っていた。
戦いも終盤。第二形態となり、より強力な攻撃で同じことをしてみた。
超絶チートな範囲爆撃だが、流石にここまで残った猛者たちには狙いのつけない攻撃なんてほとんど当たらない。あちらで殴り合っている二人などは攻撃を見ることもなく全て神回避している。アレはアレでちょっと悔しい。
しかも当たらないだけではなく――
「自ら無へと滅びなさい」
乳白色の結界がラスト・エンプティネスを包み込む。『贖罪の魔王』エルヴィーラ・エウラリアだ。概念をも通さない結界は灰色の魔力砲を反射し、ラスト・エンプティネス自身へと跳ね返した。
「……無馬太ナょ⊇ー⊂を」
自分の攻撃で自分が消滅することはない。第一形態の時にも見ていたはずだ。となれば、これは次の攻撃へと繋げるための目眩ましだろう。
予想通り、結界が解けると同時にエルヴィーラが目の前に迫っており、十字の盾でバニッシュ。ラスト・エンプティネスの体を大きく弾き飛ばす。
吹っ飛びながらも体勢を立て直すラスト・エンプティネス。そこへ、真横から逢坂陽炎が魔力を纏った拳で殴りかかってきた。
飛んで行く軌道が無理やり九十度捻じ曲げられる。さらに陽炎は両の手を翳し、十本の指先から極細の魔力砲を放射した。
五本はラスト・エンプティネスに。もう五本はエルヴィーラ・エウラリアに。
細いながらも超高密度の魔力砲だったが、ラスト・エンプティネスは灰色の風で吹き消すように相殺した。エルヴィーラの方も十字盾で防ぎ、乳白色の魔力砲で反撃。陽炎は舌打ちして後ろへ飛んでかわした。
「埒が明かねぇ。どいつもこいつも攻撃の通りが悪すぎんだろ」
「滅びを受け入れなさい。さすれば救われます。一時的に、ですが」
「ー⊂″ぅゃら、禾厶カゞちゃωー⊂単戈っτもレヽレヽ木目手@ょぅナニ″」
ラスト・エンプティネスはランダム爆撃をやめた。目の前の二人を対戦相手だと認め、ここからは明確な意志を持って攻撃に転じることに決めた。
右手を前に翳す。
「無ょ丶)出ずゑ最後@刃――〈終焉劔〉」
魔王武具の名前だけはきちんと発音できた。出現したのは一振りの、なんの装飾もない簡素な灰色の直長剣。ただ、その刃の周囲は空間が消滅しているのか、黒い穴が開いているように誰もが錯覚する。
「やばそうな武器を出しやがったが、それがどぉーしたぁ!!」
陽炎が背中から二本の魔力腕を伸ばす。ラスト・エンプティネスを左右から叩き潰すように挟撃するが――ヒュン、と。
灰色の剣が軽く振るわれただけで、魔力腕は地面ごと、空間ごと、抉り取られて消滅した。残ったのは、空間すら存在しないことを表す黒いナニカで引かれた二本の直線だけだった。
「ン欠レよぁナょナニナニちカゞ⊇ぅナょゑ番」
ラスト・エンプティネスは剣を構え、灰色の風に乗って超高速で陽炎との距離を詰める。即座に反応した陽炎は地面を殴りつけ、砕いた大地の破片を天へと降り注ぐ雨に変えた。
それはかつて彼が喰らった『巨峰の魔王』の技だったが、ただの物理攻撃だ。ラスト・エンプティネスには通用しない。大地の雨は彼女に触れた瞬間消えて無くなる。
無論、陽炎もこんな豪快なだけの技が通じるとは思っていないようだ。自身が巻き上がった大地の破片に飛び乗ることでラスト・エンプティネスから距離を取る。
「くたばりやがれ!」
陽炎は両手と、背中から生えた二本の魔力腕から特大の魔力砲を同時に放射する。とんでもない魔力密度だ。アレは概念にもダメージを与えるだろう。
だが、問題はない。終焉劔を振るえば〝虚無〟へと帰す。
慌てず、冷静に、無感情に、ラスト・エンプティネスは右手を振り上げ――振り下ろせなかった。
乳白色の結界が右手だけを囲ったからだ。
「ぁぁ、『贖罪@魔王』……ぁナょナニもレヽナニね」
彼らはラスト・エンプティネス相手に徒党を組んでいたわけではない。隙あらば互いが互いを攻撃し合っていた。今回も示し合わせた連携ではなく、単純にラスト・エンプティネスを倒すチャンスを狙っただけに過ぎない。
ラスト・エンプティネスは左手で灰色の魔力砲を放つ。
「――なッ!?」
結界を張った一瞬の隙。避けられないと悟ったエルヴィーラは咄嗟に十字盾を構えるが、灰色の魔力砲は無情にもその防御ごと彼女の体を半消滅させた。半分だけだったのは、盾によって僅かに軌道を逸らされたからだ。
右手を封じていた結界が解ける。
だが、もう遅かった。
四本の魔力砲がラスト・エンプティネスを呑み込んだ。闘技場の地面にこれほどの大穴が穿たれたのは、Aブロック以来だった。
着地し、地面に膝をつく陽炎。
「ハァ……ハァ……やったか?」
「キヒッ、それはやってないフラグだから言わない方がよかったね」
「――ッ!?」
突然のからかうような声に陽炎は反射で拳を振るう。そこにいた白布少女――『現夢の魔王』ゼクンドゥムはひょいっと簡単にかわした。
「ボクに構っている場合かい? 言った通り、まだやってないよ」
ゼクンドゥムが足下を指差す。陽炎を中心に、闘技場の地面がみるみる黒ずんでいく。
「くそっ!?」
バッ! とその場から離れた瞬間、虚無物質の塔が立ち昇って天を貫いた。なにも存在していないはずの黒いナニカの内部を、銀髪の少女が泳ぐように登ってくる。
虚無物質の塔から飛び出したラスト・エンプティネスが、終焉劔で陽炎を真っ二つに消し去った。
「キヒッ、それは〝夢〟だよ」
「ぁナょナニレよすご<面イ至リτ″、女兼レヽ」
忌々しそうな感情を微かに表したラスト・エンプティネス。その鳩尾に、本物の陽炎が魔力纏う拳を叩き込んだ。
結界に背中から叩きつけられるラスト・エンプティネスだが、倒れることはない。彼女としては背中よりも腹のダメージの方が深刻だった。逢坂陽炎は概念を殴れるのだから。
「さてさて、次はどっちにちょっかいを出した方が面白いかな?」
「邪魔はさせないわよ」
両手の親指と人差し指でカメラのジェスチャーをするゼクンドゥムに、極光の刃が突きつけられた。
「あなたは私と遊んでなさい」
「極光のお姉さん、か。あれ? 黒髪じゃなかったっけ?」
「あなたたち魔王お得意の変身みたいなものよ」
「キヒヒ、ボクは二段階目とかないけどね。まあ、彼女の教え子がどの程度育ってるのか見ておくのも一興か」
「悪いけど、お喋りに付き合う気はないわ!」
久遠院姫華の容赦のない刺突を、ゼクンドゥムは愉快そうな笑みを貼りつけて横へ体をずらしてかわした。
※※※
その時、『砲哮の魔王』ゾイ・ローアは粉砕された地面の盛り上がった岩盤に隠れて息を潜めていた。
あれだけ戦場を引っ掻き回した彼だったが、切り札を悉く失った今となっては誰からも見向きされていない。いつでも倒せる取るに足らない相手。放っておいても巻き込みで死にそう。そもそもまだいたの? くらいな認識のされ方だった。
だからこそ、誰にも警戒されていない。
彼はまだ諦めてなどいなかった。
そうでなければとっくにリタイアしている。
彼は武器商人の魔王だ。魔王武具には及ばずとも、使える武器や魔導具は空間収納の中に腐るほど眠っている。それらを駆使すれば戦いの隙を突いて誰か一人くらいなら暗殺することもできるはずだ。
まだゾイ・ローアを除いて六人も生き残っている。
一人暗殺したところですぐに殺されるだろう。今は動く時ではない。
「……だが、もしもだ。もしもアレが手に入るとするなら、話は別だ」
岩陰から戦場の様子を窺う。彼の視線は、灰色の風を纏う最強格の魔王に向けられていた。
正確には、その手に握っているものを。
※※※
聖剣の薙ぎ払いが白布少女の胴体を両断する。
パリン、と。視界がガラスを砕いたように割れ、目の前に五体満足の『現夢の魔王』が意地の悪い顔でニヤニヤしていた。
「また、〝夢〟……嫌になるわね」
彼女と戦っているといつの間にか〝夢〟を見せられる。自分が優勢になってトドメを刺したのにただ踊らされていただけ。逆に自分が追い詰められ、殺されてから目を覚ますこともあった。
なにが現実で、なにが悪夢なのか。咄嗟に判断できない。
これほど戦い難い相手はなかなかいないだろう。
息が切れる。心なしか体が重い。
限界突破は能力を跳ね上げる分、消耗も激しいのだ。長くは戦い続けられない。
「早く、決着をつけないと……」
「焦っているね。キヒヒ、その姿はだいぶキツイんじゃないの?」
ゼクンドゥムも姫華の状態に気づいている。だからこうして遊ばれているのだろう。英雄学校の理事長から話を聞いていた通り、いい性格をしている。
「〈白昼夢〉ばかりじゃお姉さんも飽きるよね。こんなのはどうかな?」
ゼクンドゥムが指を鳴らす。すると、姫華の目の前に逢坂陽炎が出現した。これはあからさま過ぎる。陽炎は向こうで『退廃の魔王』と戦っているのだ。今、姫華の目の前にいるはずがない。
つまり、〝夢〟。
「……芸がないわね」
姫華は感情を無にして夢の陽炎を聖剣で薙ぎ払う――ことはできなかった。長く共に戦ってきたパートナーの姿に躊躇ったからではない。
姫華の剣を、夢であるはずの陽炎が指で摘まむようにして受け止めたのだ。
「キヒヒ、確かにそれはボクが作り出した〝夢〟さ。ただ、今までお姉さんに見せてきた〈白昼夢〉とは別だよ。もしそっちだったらお姉さんは最初から疑問なんて覚えていない。いくらでも不整合な設定を植えつけらっるからね」
夢の陽炎が聖剣ごと姫華を持ち上げてぶん投げる。豪快で怪力なところはそっくりだ。空中で身を捻り、〈天馬の靴〉――宙を駆けることができる靴型の魔導具――を起動。その出力で強引に勢いを殺して停止した。
「えっ!?」
姫華は目を見開く。彼女の周囲を、何人もの逢坂陽炎が取り囲んでいた。
「これは〈正夢の傀儡〉。お姉さんのじゃなく、ボクの〝夢〟の具現化さ。ボクが知っている設定しか盛り込めないけど、魔力が尽きない限り無限にコピーを生み出せる」
全ての陽炎が背中から魔力の腕を伸ばして姫華に襲いかかる。勇者である姫華が彼の〝魔王喰い〟で吸収されることはないが、これだけの魔力で圧をかけられては容易に押し潰されてしまう。
「くっ、〈限界突破〉――四層解放!」
姫華の纏う極光が爆発し、迫っていた全ての魔力腕を陽炎たちごと影のように掻き消した。静電気を纏うように金髪が跳ね、青白くスパークするプラズマが彼女の周囲の空間を焦がす。
姫華の赤い瞳から、一滴の血が零れ落ちた。
「確かに、これはあなたが作った陽炎ね。本物と同等だったなら私は今の攻撃でやられていたわ」
短く息を吐き、姫華の姿が忽然と消える。
次の瞬間、ゼクンドゥムの右腕が斬り飛ばされていた。
「……わぁお」
切り口から血が勢いよく噴き出すも、ゼクンドゥムは痛みを感じていないのか涼しい顔をしていた。
「限界突破は知ってるよ。彼女も使っていたからね。『守護者』の力の重ね掛けだろう? つまり、今のお姉さんは四つの世界を背負っているようなものだ。正直、かなりキツイんじゃないの?」
「魔王相手に負けるよりは、マシ!」
「キヒヒ、勇者の鑑だね。まあ、彼女は百や千くらい余裕で背負ってたから、教え子ならそのくらいやってもらわないとね!」
ゼクンドゥムは左手にいつの間にか出現していた純白の槍を握る。魔王武具だ。警戒しつつ、姫華も聖剣を中段に構えた。
「今、楽にしてあげるよ」
「こっちの台詞!」
激突する両者。
純白の槍と極光の聖剣が競り合う。しかしそれも一瞬のことであり、あまり腕力はないらしいゼクンドゥムから武器を絡め取った。
流れるような動作で、姫華はゼクンドゥムの首を刎ねる。
視界が砕け散った。
「あああああもう!!! 鬱陶しい!!!!」
現実に引き戻された。どこからが夢だったのか本当にわからない。少なくとも、ゼクンドゥムの右腕はくっついていた。
「キヒヒ、たぶんお姉さんがそのまま自滅する方が早いよ」
「だったら、もう〝夢〟は見ないわ」
「へぇ、なにをする気だい?」
余裕ぶってニヤけるゼクンドゥムを睨みつけ、姫華は大きく深呼吸を一つ。
それからカッ! と目を見開いた。
「〈限界突破〉! 全層解放!」
宣言した瞬間、彼女が纏っていた極光のオーラが天を衝くほど高く高く立ち上った。金髪は重力に反しているように逆立ち、青いプラズマも激しさを増す。目だけでなく、全身の血管が張り裂けたように血を吹き出した。
明らかに肉体の許容を大幅に超過している。
持って数秒。それ以上は姫華の命に関わるだろう。
「はぁあああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!」
聖剣を構え、ゼクンドゥムへと真っ直ぐ突撃する姫華。彼女自身がとてつもないエネルギー体となっており、一歩踏み出すごとに高層ビルが崩れ飛ぶほどの衝撃波が闘技場を吹き荒れる。
当然、ゼクンドゥムには攻撃をまともに受ける気などさらさらない。今までのように〝夢〟に捕らえて翻弄するだけ……
「〈白昼夢〉が効かない? まさか、狂化状態? キヒッ、なるほどね。端から意識をトばしちゃったか」
姫華の赤く血走った両眼には、殺意以外の意思を感じられなかった。『守護者』の力に溺れ、ただ魔王を討つだけの人形へと自ら堕ちた。
普通なら馬鹿な戦い方だと一笑に付すだろう。
だが――
「正解だよ。ボクにとって、そうやって戦われるのが一番困るからね」
諦念の笑みを浮かべたゼクンドゥムは、姫華の姿にかつて見た彼女を重ね――抵抗することなく、その刃を受け入れるのだった。
※※※
何重にも展開された魔力障壁を〝虚無〟の光線は構わず掻き消して襲いかかってくる。どれだけ魔力を継ぎ込んで硬くした障壁だろうと、陽炎にはほんの一瞬の回避する時間を作るだけで精一杯だった。
一息つく暇はない。左右から灰色の竜巻の槍が間髪入れず襲い来る。浮遊魔術で上空に飛んで回避。衝突した二つの竜巻が一つに融合し、飛び上がった陽炎を追いかけて立ち昇る。
「チィイイッ!? デタラメすぎんだろ!?」
背中から生えた魔力の両腕で竜巻を挟み潰す。竜巻と魔力腕が同時に雲散霧消したところに、いくつもの魔力砲が時間差で連射される。陽炎は魔力障壁を何度も張り直しながら紙一重で避け続けるが、これでは敵の本体に近づけやしない。
ラスト・エンプティネスは先程から遠距離攻撃ばかりを繰り返している。陽炎を近寄らせたくないという意思をひしひしと感じるほどだ。
「ハン、よっぽど俺に殴られるのが嫌みてぇだな」
「〝魔王喰レヽ〟レよ、ぇ斤⊃″レナナニらレヽレナナょレヽ。喰ゎれレよιナょレヽレナー⊂″、痛レヽカゝら」
その場を動かずラスト・エンプティネスは右手の剣を大振りに、下段から上段へと払うようにスイング。斬り消された空間が虚無物質と化し、扇状の軌跡を描きながら陽炎へと迫る。
虚無物質自体は触れたところでなにも起こらない。なにせ〝なにもない〟のだから。しかし、そこにラスト・エンプティネスの魔力が介入すると一気に侵食する〝虚無〟へと変わる。
「ん? アレは……使えるな」
飛翔して虚無物質から逃げていた陽炎は、『それ』を見つけるや否や脳内で戦略を組み立てる。己の体を黒紫の霧に変化させて文字通り霧散し、虚無物質をかわしてからラスト・エンプティネスの背後で再構成した。
「……ぁナょナニもちょ⊇まカゝー⊂面イ至リ臭レヽ」
ラスト・エンプティネスは振り向くこともなく正確に陽炎を狙って魔力砲を放つ。陽炎も両手の指から十本の魔力砲を放って応戦。半分でラスト・エンプティネスの魔力砲を相殺し、もう半分で本体を狙う。
爆撃音が連続する。爆煙がもうもうと立ち込める。
分散した技だ。概念への干渉力は弱い。それでも目潰し程度の効果はあるだろう。
その間に陽炎は見つけた『それ』へと駆け寄った。
体の右半分が存在しない半消滅状態で倒れながらも、微かに息のある『贖罪の魔王』へと。
「まだ消えてなかったとは重畳だ。てめえの力、寄越しやがれ」
魔力の腕がエルヴィーラ・エウラリアを掴み取り、握り潰す。半分とはいえ上位魔王の膨大な魔力が陽炎に流れ込んでくる。
――〝魔王喰い〟だ。
魔王を吸収することで魔力と能力を奪い、永続的に際限なく強くなっていくぶっ壊れ異能。この大会では戦いが終われば返還されてしまう制約はあるものの、戦闘中なら問題なく強化できる。
「ξ⊇!」
爆煙を吹き消した灰色の迅風が迫る。陽炎は右手をその場で振り、魔力を乗せた風圧だけで相殺した。
さらに、黒紫色の結界がラスト・エンプティネスを覆う。
「⊇れレよ……『贖罪@魔王』を喰っナニ@カゝ」
ぐっと陽炎は右の拳を握り締める。それに合わせて結界が縮小し、中に閉じ込めている存在を圧殺しにかかる。
「無馬太ナょ@レニ。ゎカゝらナょレヽ@ね」
ラスト・エンプティネスが終焉劔を振り上げる。それだけで結界は容易く斬り消されてしまった。陽炎とて今ので倒せるなどと微塵も思っていない。喰ったばかりの力の実験だ。少しくらい隙を作れるかと期待はしたが、不意を突かなければ厳しそうだ。
と、その時――
どこからか伸びたマジックハンドが、ラスト・エンプティネスが振り上げていた終焉劔を掠め取っていった。
「アハハハハハハッハッハ! やったぞ! ついに、ついに『退廃』の〈終焉劔〉を手に入れた! この一本は失った十三本より遥かに価値がある!」
奪った剣を握って大はしゃぎしているのは、陽炎もラスト・エンプティネスもすっかり存在を忘れていた『砲哮の魔王』ゾイ・ローアだった。
「……ぇ反ιτ!」
「アッハッハ! たぶん『返して』と言ってるのだろうが、やなこった!」
スタコラサッサと剣を持ち逃げしようとするゾイ・ローアを、ラスト・エンプティネスが灰色の風となって追いかける。
老人とは思えない身軽さで駆けていくゾイ・ローアだが、本気で追跡する『退廃の魔王』を振り切ることはできなかった。あっという間に追いつかれ、目の前に回り込まれてしまう。
「├″┐″ネス″彡カゞ。無∧リ帚れ」
「君から逃げられないことくらい承知しているよ」
ザクッ!
ゾイ・ローアが突き出した終焉劔が、ラスト・エンプティネスの左胸を貫いた。彼女は吐血し、纏っていた灰色の風がブレる。
剣が抜かれても、虚無物質が彼女の心臓に刺さった状態で残り続けている。
「第二形態の君は確かに強力だが、人の姿を取れば存在感を増してしまっている。そこに間違いなく『在る』ものならば、君の剣で傷をつけることは可能だろう? アッハッハッハ!」
だらりと脱力するラスト・エンプティネスを見てゾイ・ローアは高笑いする。だが、すぐに異変に気づいた。
「は?」
確かに致命傷を負ったはずのラスト・エンプティネスだが、その魔力は少しも揺らいでいない。それどころか、彼女が纏っていた灰色の風の勢いが増している。
「――ξれカゞー⊂″ぅιナニ?」
虚空を映す赤い瞳が、ゾイ・ローアをじっと見据えた。
「⊇@人@姿レよイ反ネ刀。心月蔵を朿リ、ナれナニ<らレヽτ″、禾厶レよ歹ヒナょナょレヽ」
「――ッ!?」
言葉は上手く聞き取れなかったが、ゾイ・ローアは自分が犯した大きな間違いを悟った。人間の姿は『退廃の魔王』が力を振るうための端末に過ぎなかったのだ。
本体は、纏っている灰色の風の方である。
「……あ……あぁ……」
殺される。
消される。
逃れられない消滅の未来が、すぐそこまで来ている。
「……シ肖ぇ去れ」
灰色の風が、恐怖で竦んでいたゾイ・ローアを包み込む――寸前、横から割り込んできた魔力の腕がゾイ・ローアを掻っ攫った。
「はっ! カハァ! な、なんだか知らんが助かっ――ってない!?」
「悪いな、クソジジイ。あんたを奴に消させるのは勿体ねえから、俺が喰ってやるよ。死ぬほど不味そうだけどな!」
ゾイ・ローアを攫った腕は『魔王喰いの魔王』の異能。つまり、魔王である彼は掴まれた時点で養分確定である。
「く……そ……せっかく、チャンスを掴んだと思ったのかぺっ」
握り潰され、彼の魔力が全て逢坂陽炎へと吸収される。
「まあ、あの『退廃』に小さくねぇダメージを与えたのは褒めてやるよ。おかげで、俺が勝てそうだ!」
陽炎は背中から腕を生やす。一本ではない。二本、三本、四本……数えられないほどの魔力腕の大群をラスト・エンプティネスへ躍りかからせる。
「すごレヽ魔力。τ″も、全部シ肖せレよ″レヽレヽナニ″レナ」
終焉劔を回収したラスト・エンプティネスが、虚無物質を左胸に刺したまま応戦。連続で斬りつけて魔力腕を次々に消滅させていく。
だが、終わらない。
消されても消されても、魔力の腕はラスト・エンプティネスを襲い続ける。全方位から彼女を握り潰さんとする腕の方が、消すスピードよりも明らかに速くなっている。
徐々に、ラスト・エンプティネスが押されていく。
「終わりだ! 喰らいやがれ!」
「レヽレヽぇ、糸冬ゎゑ@レよぁナょナニょ」
ヒュオッ! と。
陽炎の魔力腕を掻い潜るようにして、灰色の風が眼前へと迫った。ラスト・エンプティネスが腕に掴まれるよりも陽炎が無へと帰す方が圧倒的に、早い。
避けるために攻撃を緩めれば、その瞬間に隙を突かれ敗北する。
かと言って避けなければ、〝虚無〟の風に撫でられてやはり敗北する。
万事休す。
「――させない!!」
声と共に長い黒髪を振り乱し、一人の勇者が陽炎と灰色の風の間に割って入った。全身血塗れのボロボロで、どうして動けているのかわからない少女――『極光の勇者』久遠院姫華は、陽炎を庇うように大きく手足を広げて立ちはだかる。
「馬鹿か!? やめろ姫華!?」
「いいの。今の私にはもう、このくらいのことしかできないから」
灰色の風が、姫華を包み込む。
「勝って、私の魔王様……」
消失していく彼女は、最後に陽炎を振り返ってにこりと微笑んだ。
プツリ、と陽炎の中でなにかが千切れた。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!!!」
壮絶な咆哮を放ち、魔力が限界を超えてさらに爆発的に上昇する。腕の数も勢いも数倍に膨れ上がり、対応し切れなくなったラスト・エンプティネスが――ついに、無数の腕に押し潰された。
「ξωナょ……馬鹿ナょ……」
ラスト・エンプティネスの存在が本体の風ごと〝魔王喰い〟で吸収され、逢坂陽炎の魔力へと変換される。
『これはすごい! ヒャホホ! まさか「退廃の魔王」が敗れるなどと誰が予想できただろうか!』
『まるで決勝を見ているような素晴らしい戦いだったよ』
誰も文句の言えない、紛うことなき決着だった。
『ちなみに捕捉が一つ。「魔王喰い」と「極光」は片方が死ぬともう片方も死ぬ呪いをかけられている。ヒャホホ、私がかけた呪いだがな! この大会では死や消滅が〝曖昧〟になるため発動しなかったようだ』
『それは誰に対する捕捉だい? 観客で知ってる奴はほとんどいないよ』
※※※
そして、もう一つの戦いにも決着がついていた。
「ほがっ!?」
「むごっ!?」
Cブロック予選の間ずっと二人だけで殴り合いを続けていた瀧宮羽黒とグレアム・ザトペック。彼らはお互いの拳を顔面に受けたクロスカウンター状態で沈黙していた。
十秒ほどそのままの姿勢で固まっていた二人だったが、やがてどちらともなくドッと背中から倒れる。
「カーッ、くっそ! 最後のは効いたぜ!」
「俺的に、年は取りたくねェもんだ」
「おいおい、年のせいにすんじゃねえよ。俺より年下だろお前」
むくり、と起き上がる羽黒。グレアムは大の字で寝っ転がったまま満足そうに笑っている。戦いの結果は引き分けのようなものだったが、確かに満足いく喧嘩だった。
「なあ、このあと飲まねえか? 丁度うちの店で酒とツマミを出してて……」
ニヤリと笑って盃を飲むジェスチャーをする羽黒だったが、周囲が異様に静かになっていることに気がついた。
ようやく視線をグレアムから外す。
Cブロック予選で戦っていた選手たちはいなくなり、一人の少年だけが闘技場の中心に立っていた。
「……」
右を見る。誰もいない。
「……」
左を見る。やっぱり誰もいない。
「あー……やっちまった」
困ったように頬を掻く羽黒。スポンサーである自分はそこそこ楽しめたらリタイアするつもりだった。なのに今、闘技場の上で立っているのはあの少年と自分だけ。
つまり――
『というわけで、Cブロック決着! 予選通過者は「魔王喰いの魔王」逢坂陽炎と、「餓蛇の魔王」瀧宮羽く』
「待った待った待った!? リタイアだ!? 俺はここで降りる!?」
慌てて両手を挙げて降参のポーズを取る羽黒。グレアムとの戦いが思いの外楽し過ぎて周りが全く見えていなかった。このまま勝ち上がってしまうのはいろいろとまずい。
『おやおやおや、さてこれはどうしたものか。ヒャホホ、困った』
『悩む必要はないよ。Cブロックは一人勝ちってことでいいじゃないか』
ルール上は問題ないが、それでは大会が盛り上がらない。実況のグロルが腕を組んで唸っていると、勝ち残っていた少年が急に苦しみ出して膝をついた。
「く、そ……喰われたくせに……暴れ……」
彼の背中から魔力の腕が一本だけ伸びる。その掌から、ビュオッと灰色の風が吹き出した。まるで食べた物を戻すように吐き出された灰色の風が、一点に収束して銀髪の少女の姿に変わる。
「……歹ヒぬカゝー⊂思っナニ」
少女はすぐに臨戦態勢を取ろうとするが、周囲の様子に気づいて風を引っ込めた。
『おやまあ、「退廃」が復活しちまったよ。この場合はどういう判定を降すんだい?』
『ふむ、まだCブロックの終了宣言はしていない。瀧宮羽黒がリタイアした以上、今立っている者を正式な勝者と看做すべきだ。ヒャホホ! おめでとう、「魔王喰いの魔王」逢坂陽炎、そして「退廃の魔王」ラスト・エンプティネスよ!』
【Cブロック予選結果】
通過者二名
・『魔王喰いの魔王』逢坂陽炎
・『退廃の魔王』ラスト・エンプティネス
――雑貨屋WING〈魔帝城〉出張店。
「んじゃ」
「あれ、梓もう行くのか?」
「教会で朧を一言おちょくりに。そのままDブロックは向こうの席で観戦するわ」
「じゃあ梓ちゃん、また後で。……決勝、頑張ってね」
「おう!」
「もう行っちゃった。梓おばさまとパパの決勝も見たかったですけどねー」
「ふふ、残念ながらそれはもう叶いませんね。二人とも姓は変わっても根元は『瀧宮』ですから」
「??? どういうことです、ママ?」
「いつか紫にも分かりますよ」
――ラ・フェルデ王国来賓席。
「なんかもう、ハラハラしっぱなしだったわ」
「こんな決着もあるのですね。なぜ紫のお父様はリタイアされたのでしょう?」
「彼はどちらかと言えば運営側の人間だからでしょう。それよりグレアム殿とあそこまで殴り合えるとは……」
「さて、そろそろ控室へと出向くとしよう」
――観客席。標準世界・紅晴市一行。
「ほんと何してたんだあの人ら……」
「徹頭徹尾殴り合いだったねー……」
「うふふ、Bブロックに引き続き最高だったよー❤ なんか気持ち悪い方はよくわかんなかったけどー」
「あれガン無視とかどうかしてる帰りたい!」
「……補足で言われていた呪いで思い出したが」
「あん?」
「もしかして、眷属でも参戦可能なのか」
「は? ……あー、そういやいたな、こういうの死ぬほど好きそうなやつ」
――主催者席。
「一時はどうなるかと思ったが……」
「なあ、ダーリン。闘技場で死んだりした奴が悪魔教会で復活するんだよな?」
「そうだが?」
「魔物も?」
「ギャー!? 大変です〝魔帝〟様!? 教会の天井を突き破ってカタストロフィ・ミミックが!?」
「ああ、大丈夫大丈夫。負けた腹いせに暴れる奴とか絶対出てくるから、教会にはあの親馬鹿を置いてるんだ」
「ギャー!? カタストロフィ・ミミックが五体とも黒い炎で消し炭に!?」