ある日のお仕事②
02.
「ん-」
杏子は唸っていた。
粘土かなにかを練って成型して焼いた、所謂土器に盛られた多くの果物の前で
うんうんと唸っていた。理由は金銭的理由でも質を見定めてるわけでも他店との比較でもない。
この上なくシンプルに――
(なんだこれ)
と思って唸っていた。
なにせ盛られた果物と思しきいくつかの物体はどれも杏子にとって初めて見るものであった。
親指と人差し指で作った輪っか程の大きさの黄色い球体が房になっているもの、
青紫の楕円形の何かに真っ赤な細長い何か。なにか、なにかなにか。
味も食感も想像つかないそれらを眺めながら彼女はうんうん唸っていた。
どうせ時間も有り余ってる。自分は会議には参加しないし、暇だ。
だからまぁ観光がてら城下町を見て回りつつ土産の一つでも買っていこうかと思っていたけれど
こうも知らないものばかりだと何を買えばいいかの検討もつかない。
まぁ、新しい世界に来るたびのことであるから動揺は別にしないけれど。
「食べてみるかい?」
そんな杏子を見かねてか女性が話しかけてきた。
どっしりとした恰幅の良い身体の妙齢の女性だ、多分店主かなにかだろう。
「おっ、いいの?」
「いいよいいよぉ。服を見ればわかるさ、余所の人だろ? 観光客なんて珍しいからねぇ、サービスくらいするさ」
(観光客じゃねぇんだけどな……)
と口の中で呟きながら果物を受け取り頬張る。
「おっ、うめぇ」
サクッとした食感にほのかな酸味、それに口いっぱいに広がる爽やかな甘さ。
始めてみる食べ物でハズレを掴んだ経験も少なくない中これは間違いなく当たりの部類だった。
「こりゃあいつらへの土産に丁度いいや。ここにあんのまとめて買うよ」
「おやまぁ、そりゃありがたいけどいいのかい? 結構な金額になるよ」
「大丈夫。金ならそこの家主にそれなりにもらってるからな」
杏子が指を指したのはこの国の王城であった。そこの家主が誰なのかは言うまでもない。
「かーっ驚いた! まさかあんたが御使い様かい! この間からお城に御使い様が来たとは聞いてたけどこんな女の子だったとはねぇ!」
一瞬(御使い様?)となりはしたがまぁそれがこの世界においての自分たちの呼ばれ方なのだろうと理解した杏子は知った風に首肯して笑いながら
まだ価値の判断もつかない硬貨を適当に一掴みして店主に渡す。
「こんだけありゃ足りるかい?」
「ととっ、むしろ多すぎるよ!」
「いいからとっておいてくれ、じゃあこれもらってくぜぇ」
どうせこの世界でしか使えない通貨なんて持って帰っても仕方ないからと釣りを受け取らずに
さっさと紙袋に詰めてもらった果物をもって去ろうとする背中に。
「なんの用で来たのかは知らないが、大事なことなんだろう? トレパをよろしくねぇ!」
「あぁ、うちのボスに伝えておくよ!」
言いながら杏子は丁度良く小さな砂埃を巻き上げながらこちらに向かってくる馬車に向かって歩き始めた。




