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ある日のお仕事その①

 01.


「あぁ、憂鬱だな……」


 アランはボディスーツを着込みながら自身のロッカーに向かって独り言ちた。

アランは今年入隊したばかりの新人であり、入隊後は首都に駐在する予備戦力として

この戦争の間待機し続けていた。つまりはこれが初の実戦となるわけだが憂鬱なのはそれが原因ではない。


「お前、トレバにはよく行ってたんだっけか」


 隣で着替えていた先輩が同じく着替えながら独り言に突っ込みを入れる。

まだ真新しいアランのロッカーとは違い内側にグラビアが貼られたロッカーの扉が目に入った。


「えぇ、良い国ですよあそこは。長閑(のどか)で穏やかで、本当に別世界に来たような気になれますし」


 それがアランが憂鬱な理由だった。

平時に幾度も観光に訪れた大好きな国、いつか年を重ねたら帝国を離れ

終の住処(すみか)にしてもいいとすら思えたし、過去出会い親切にしてくれた人々ととった写真は

いまでもふとした瞬間に眺める大切な思い出だ。その国に、今から攻め込む。

気が乗らないにもほどがある。


「だったらあの国の事は知ってるだろ? 大丈夫さ、大したことにはならない。

 俺たちがぞろぞろ向かうのも戦力差を見せて戦いにならないってことを示すためだ。

 実際には無血開城に近いだろうさ」

「だといいんですけどね」


 言いながら手首のボタンを押すとスーツ全体に描かれたラインが小さく明滅して僅かな駆動音を上げ始める。

基本的なパイロットスーツの操作である。少なくとも()()()()では当たり前の行いであった。


「だから大丈夫だって、上もそう考えてるからわざわざこの状況で俺達を動かすんだろうよ」

「それは、まぁそうですね」


 現在帝国は戦争中だ。戦線は広がり複数の敵国から同時に責められ2正面を余儀なくされている。

それでも現時点では優位に立ちまわれているがいつ戦況が変わるかもわからない。

そんな中戦線を維持するためにどちらにも、あるいはあらたに発生するかもしれない三つ目の戦線にも

即時急行し対応するための予備戦力が彼らの部隊の役割だ。にも関わらず部隊を現在戦闘状態にない第三国に派兵するというのは愚行、あるいは蛮行と呼ばれてもおかしくない行為である。

だが帝国側でその点について心配してる者は上から下まで誰も存在しなかった。


「まっすぐ首都に向かって降伏させてそれで終わりさ」


 遅れて着替えを終えた先輩が気楽に言って手首のボタンを押してヘルメットを被り

更衣室をでてハンガーへ向かう。その背中を追ってアランも格納庫に鎮座している機体に向かう。


「……はぁ、さっさと終わらせよう。今回のだけじゃなく、この戦争自体を」


 なんて思っていた。思っていたのに!


『うあぁぁぁっ!!!』


 誰かの最後の叫びが通信に乗って、その直後ノイズに切り替わる。

密閉されたコクピットの中、外の状況を映し出すモニターには爆発四散する友軍の姿が映っていた。


「どうなってるんだよ!?」

『知るか! いいから撃ち続けろ!』


 思わずでた言葉に誰かが答えた。

なにがどうなってるのかまるでわからない。

最後にトレバに観光に行ったのは戦争が始まる直前で、その時もそれまでと変わらない様子だった。

文明の発展に置いて行かれた国、帝国で一番の田舎といわれる場所とすら比べ物にならない発展度合い。

今回の派兵でこちらに損害が出るなんて誰も考えていなかった。なのにっ!


「くそったれっ!」


 言いながら思わずコンソールをぶったたく。

当初の嫌な予感はある意味的中し圧倒的戦力差による虐殺がこの場で行われていた。

予想と違うのは()()()()()()()()()()()()()、ということ。

しかも、しかもだ。目まぐるしく動く画面に表示される映像はさらなる混乱をこちらに寄越し続ける。


 まるでそれ自体が光ってるような美しい金髪を靡かせた少女が拳を振るい友軍が吹き飛ぶ。

紅い髪と瞳の少女が虚空から槍を取り出して振るえば鋼の戦車がバラバラに切り裂かれる。

こちらの物と少し似たパワードスーツを身にまとった女性が、しかし性能は比べ物にならないことを示すように片腕で仲間たちを薙ぎ払う。

エキゾチックな民族衣装の少女が足を強く踏みしめれば地面が割れ、蹴とばした岩で戦車がひっくり返る。


「なんなんだ! こいつら!」


 先ほどコンソールをぶったたいた所為か、叫びはスピーカーを通して外部に出力されて。


「やっぱこの世界には《加護持ち》は居ないみたいだな」


 それを聞いて男が独り言を言いながら悠然と歩いてきた。


 こいつだ。

すぐにわかった。戦いに参加せず、壊れた機体を興味深そうに眺めている男。

服装も、年齢も、立ち居振る舞いも仲間たちを思うままに容易く蹴散らす彼女たちと明らかに違うこいつが指揮官だ。

思うが早いかそいつに向かってトリガーを引いた。最後の一発残った炸裂弾をこの銃弾飛び交い爆音轟く戦場でこちらを見向きもせず我が物顔で自身の庭の如く歩く男にぶち込んで――。


「あー、丁度火を探してたんだよ。ド派手なライターサンキュー」


 薄く輝く光の壁の向こう、黒煙も爆風も届かないその向こうで平然と煙草を燻らしていた。


「それと、さっきの質問の答えだけど。俺はこいつらをまとめて魔法少女って呼んでるよ」


 紫煙を吐き出しながらそう男が呟いたと同時、横からの強い衝撃を受けて俺の意識はそこで終わった。

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