婚約者になるはずの人が隣国の王女とイチャイチャしていて、私は蔑ろです
お久しぶりです。
第一王子が成人を迎えた誕生日パーティーにて、複数人の女性がある女性の周りで祝いの言葉を述べていた。
「本日は、正式にフィリップ第一王子様の御婚約者様が発表される日ですわね。エレン様は幼少期から婚約者第一候補。エレン様で決定のようなものですわね」
「公爵令嬢様とフィリップ第一王子様、なんてお似合いのお二人なんでしょう」
「お二人のお幸せを心よりお祈りしていますわ」
祝いの言葉を述べられた女性は、幸せそうな笑顔で返す。
「皆様にそう言っていただけて嬉しいですわ」
幸せそうな、ワンシーンである。表向きは。
◆◇◆
フィリップ様の誕生日パーティーの一ヶ月前のある日の夜。
私の専属メイドのベッキーとティータイムをしている時、ある侍女が手紙が届いたと言って持ってきた。
手紙を渡す人物が何か言ってなかったか聞くと、
「『え、君は新しい侍女さんかな?これ、君のところのお嬢さんに渡して欲しいんだ。んー、君が中を見てはダメだよ』と言っておられました」
聞いた感じ彼女が言った、手紙を渡す人物が言った内容は実際と一言一句違わないだろう。侍女としているのが不思議なくらいに、優秀なことだ。才能の無駄遣いだよ…。
手紙の内容は、こうだった。
「今日、君のところにはいけない。ま、君なら大丈夫だよな。今日というか今日からしばらく、君とは会わない。あ、君と一緒にパーティーにも出れない。未来の王妃には、君にはそんなことで文句は言わせ、君ならまぁ、この後はわかるよね。まぁそんな感じ。あ、待って、君の忘れ物だけ、届けさせたから」
そして、一緒に入っていたのは、彼の誕生石でもあるアクアマリンの宝石だ。
「相変わらず下手ですわね」
そんな私の小さな呟きはベッキーの怒号によってかき消された。
「な、なんですかこれはああああああああ。許せません。私すぐに旦那様に報告します」
そう言ってベッキーは私が何かを言う前にドタバタと部屋を出て行った。
いや、そこまでの話ではない、とも思ったけれど、彼からの手紙的にはお父様に報告する方がいい選択かもしれない。
ふぅと息をつき、手紙が届く直前にベッキーが入れていた紅茶を飲み始める。しばらくすると、バンっと、ドアが空いた。
「えれんちゃああああん、今すぐ、婚約者候補の筆頭から外れよおおおおおお」
そう言って、お父様が私の部屋に入ってくる。その後ろにはお母様とベッキーがいて、
「あなた、いくら娘の部屋とはいえ、ノックくらいして入りなさい。ただ候補筆頭から外れるのは賛成よ。ほぼ決定と言われていたから内々に進んでいるものはあるけれど、そんなのいくらでも止められるわ。今すぐ王家に行きましょう」
「そうだね。明日の仕事は一旦放棄だ」
「ほんとうよ、あなた」
「お父様、お母様、それは…!」
それはまずい。そもそもそんな大事な案件ではない。
加えて、両親は娘のことになるとポンコツだが二人とも国の中枢の主力を担う官僚である。二人が一度に仕事を抜けるのは国政的にまずい。
なんとか、二人を説得して最終的に、明日私がフィリップ様に会いに行くことで話が終わった。
次の日、2人が出勤した少し後にフィリップ様の元に向かった。
一緒の時間に出ると、一緒にフィリップ様のところへ行くと言いかねないからだ。王城に行くとそのまま彼の執務室へと向かった。
しかし、困ったことが起こった。まさかの門前払いである。
「困りましたね…」
両親にバレたら本当に一悶着起きかねないので、致し方なく王城の図書室へと向かう。私は王城で暇になると必ずここにきていた。
一人で本を読んでいると上から聞き馴染みのある声がした。声の主はフィリップ様である。
「何をやっているんだ、お前は」
その言葉に私は驚きで反応ができなかった。目を瞬かせていると、彼の腕に巻き付いている何かが喋った。
「フィリップぅ、彼女はぁ誰ですかぁ?」
「あぁ、こいつか、こいつは、俺の婚約者だ。お前、俺の紹介がないと彼女に挨拶もできないのか?呆れたやつだな」
ようやく追いついてきた頭をフル回転させる。
フィリップ様、そう言うことですのね…。
「も、申し訳ありません。私、マール公爵家令嬢のマール・エレンと申します」
私は、手を震えさせ、少しぎこちない風にカーテシーをする。
「ふん、行こうか、ナタリア」
「うん、フィリップ」
そう言って、フィリップと彼の腕に巻き付いている女、隣国の王女ナタリアは去って行った。
そしてそれ以降、本当に私は蔑ろにされた。
しばらくしても私の状況改善されず、一ヶ月が過ぎた。進展があったように見えるのはナタリア様とフィリップ様の仲だろうか。
両親は、王家と公爵家の間で進んでいた婚約話を白紙に戻すことを求めては仕事をボイコットしようとしていたが、それは、流石に防いだ。
2〜3日は二人の暴走を止められない日もあって国政が混乱しかけたが、官僚二人がいないくらいで揺らぐ国の体制が悪い、と罪悪感から逃げた。
そんなこんなでやってきた、第一王子の誕生日パーティー。
私の今回のパートナーはお父様。お母様は、仕事があるから、と言って欠席だ。
私のパートナーをお父様にするために気を遣ってくださったのだろう。
パーティーの会場に入ると、私は好奇の目にさらされる。理由は簡単だ。
第一王子の婚約発表日ではないかと言われる第一王子の誕生日パーティーに今まで婚約確実と言われていた、私のパートナーが第一王子ではなく、実の父親だからだ。
「エレンは、今日もかわいいね」
そんな視線を私に感じさせないようにするためか、お父様は私に優しく話しかける。
「あら、お父様も素敵でしてよ。素敵なお父様を独り占めしたい気持ちは山々ですが、お父様と話したい方がたくさんいるようですわね」
官僚として優秀なお父様だ。それは、取り入りたい人、胡麻を擦りたい人がたくさんいる。
「あんなやつら、放っておけば」
お父様は私ファーストだ。私を守ろうとするだろう。でも、
「お父様、人脈作りは仕事のうちですわよ。そして、私は守られるだけの弱い女ではありません。なんてったって、お父様とお母様の娘ですから」
私はお父様に力強く宣言する。そんな私に
「覚悟は決まっているんだね」
お父様は小さく呟くと、
「じゃぁ、行ってくるよ。エレンも頑張るんだよ」
「はい!」
そう言ってお父様と別れた。
お父様と離れた途端にお祝いの言葉を述べるようで、私についているであろう「第一王子に捨てられた」と言う心の傷を抉りにこようとする令嬢に囲まれた。
「本日は、正式にフィリップ第一王子様の御婚約者が発表される日ですわね。エレン様は幼少期から婚約者第一候補。決定のようなものですわね」
彼女は先ほどまで自分の取り巻きにいかに自分が第一王子の婚約者としてふさわしいかを説いていた。私を貶してね。
「公爵令嬢様とフィリップ第一王子様、なんてお似合いのお二人なんでしょう」
彼女はギリギリまで私とフィリップの婚約を邪魔していた。なんなら、今もさりげなく毒針で私の命を狙っている。
「お二人のお幸せを心よりお祈りしていますわ」
彼女は、私に聞こえるように、フィリップは現在、隣国の王女ナタリア様に夢中だと言っていた。
そんな人たちに私は幸せそうな笑顔で応える。
「皆様にそう言っていただけて嬉しいですわ」
その後何人もの、私の婚約を全く祝福していない令嬢からのお祝いの言葉を受け流した。
「そろそろかしらね」
つぶやいた私の声は王の宣言によってかき消された。
「大切な発表をする」
壇上で王様が高らかに言う。その隣にはフィリップ様と、フィリップ様の腕にまとわりついているナタリア王女がいた。
「フィリップの婚約者は…」
ナタリア様は私の方を見て可愛らしいお顔を歪ませ、勝ち誇ったように、にこりと笑う。
「フィリップの婚約者は、マール公爵家、エレン令嬢だ」
そう王様が断言した瞬間に、会場が動揺に包まれた。誰もがこの一ヶ月でフィリップ様が婚約者を鞍替えしたのだと思っていたのだ。
一番早く口を開いたのはナタリア王女だ。
「え…?どう言うこと?私がフィルの婚約者では、ないの?フィルだって私にたくさんの贈り物をしてくれて、たくさん愛してくれたのに、どう言うことなの?しかも、蔑ろにしていた女じゃない。そんな女より私を優先していたじゃない」
「父上に指示されていたからな。一度もお前をエレンより優先したいと思ったことなどない。ただ、エレンには合わせてもらっていただけだ」
フィリップは淡々と答える。
「どう言うことですか?侍女を侵入させて監視していても、お二人が連絡を取り合うのなんて一度きりで、その手紙も、そんな内容ではなかったし。その後も、そのようなそぶりは…」
侍女を侵入…。手紙を届けた侍女だろうな。手紙が届いてから侍女が手紙の内容を見たのだろう。
「暗号文ですわよ。その1通の手紙は暗号文だったのですよ。相変わらず下手くそな暗号文でしたが…。文章もぎこちないですし、『うまくあはせて』って、「は」と、「わ」が違いますしね」
侍女が手紙を受け取った人物から聞いた言葉、その言葉は、『君』と言う言葉の前の1文字ずつを取ると『エレン』となった。
同じことを受け取った手紙にも適用すると、『うまくあはせて』となるのだ。
おそらく、フィリップ様の誕生石は誕生日まで待ってくれと言う期間を示したものだったのだ。
「ごめん、きっと、エレンならわかるかな、って思って」
「全くもう」
「は?女の方はフィリップの言いなりじゃないの?それに、フィリップ、口調が全然違うじゃない」
「あぁ、あの時はエレンが僕の演技に合わせてくれただけだよ。頭のいい婚約者を持って僕は幸せものだね。ちなみに、僕の素の喋り方はこっちだよ」
「は?この女、フィルとあった時、オドオドしすぎて反応できていなかったじゃない?」
「私は普段とフィリップ様の喋り方が違いすぎたので戸惑っていただけです」
フィル、フィルって…。なんなのよ…。と思い、私は少し機嫌悪く、つんと答える。
「は?どう言うこと?じゃぁどうしてフィルは私とずっと一緒にいたの?私が好きだからでしょ?」
フィリップ様はこめかみに手を当てながらため息をつき、呟く。
「二ヶ月前くらいかな?君の国が我が国を占領しようとする不穏な計画を察知してね。そのタイミングで怪しい国の王女が我が国に来るんだ。警戒も監視もするさ。父上は僕に色仕掛けさせて君が知っている内容を聞き出させようとしたんだよ。君は僕が聞けばペラペラと話してくれるから調査が早く進んだよ。ありがとう」
「は、え?は?」
「隣国からのスパイを捕らえよ」
そして、そのままナタリア様は衛兵に連れて行かれた。
「フィル様」
「初めてフィルって呼んでくれたね!なんだい?」
フィル様は嬉しそうに顔を綻ばせる。
「いち段落ですか?」
「いや、最後の難関が残ってる」
「最後の難関?」
「あぁ、マール公爵夫妻だよ」
「あぁ、そうですわね」
両親の顔を思い出し、フィリップ様と顔を見合わせて苦笑いをした。
この作品と出会い、読んでくださった皆様に感謝です。
ハイファンタジー日間、短編で4位、日間総合すべてで37位を獲得しました!ありがとうございます( ˊ̱˂˃ˋ̱ )
1日で8,300PVと見たことのない数値が出てきて、手が震えております笑
皆様本当にありがとうございます!!
自分で読み直し、誤字の多さに驚きました。それでもなお届く誤字報告…、本当にありがとうございます。そして、すみません…。