小説家スランプ
いつからだろう、小説を書けなくなったのは──
◇
2025年の6月頃であったか。
会社でPCを使用して業務をこなしている私は、仕事で使用するアプリの参考書を求め本屋に立ち寄ることが多くなった。
しかしどの店に行ってもお目当ての本は見つからず、本屋には"冷やかし"に行っている状況が続いていた。
このままでは本屋に申し訳ない──
私はいつしかこう考えるようになり、ふと平積みで並んである【2025年 本屋大賞】の"カフネ"を手に取って自宅で読み始める。
私は活字は読まない。理由は特にない。
難しそうで手が出なかったからが一番しっくりくるだろうか──
そんな理由で本を読んでいなかったが、カフネを読み私は3回ほど涙を流した。
内容は割愛するが素晴らしいストーリーだった。
『私もこんな素晴らしい作品を書いてみたい!』
思い立ったが吉日。私はカフネを読み終えたその日に、昔登録だけして放置していた"小説家になろう"のアカウントにログインした。
◇
最初に投稿したのは女性同士の恋愛を描いたR18作品であった。
後に"魔境"と呼ばれる部門で初の執筆。
そこでは評価をされ、感想までもついたのだ。
これに気を良くした私は、次に全年齢版での投稿も始めた。
『私には才能がある! いずれかは書籍化……いや、アニメ化なんかも夢ではない!』
当時の私はこんな甘い考えを持って執筆していた。
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正直家になろうに投稿してから約2ヶ月後、私は6作品ほど執筆した。
1話3,000文字程度で全9話程であったが、今の私からしてみれば驚異的なスピードである。
この頃から【Twitter】改め【X】で自分の作品を全面的に公表し、読んでもらうことに尽力する。
その甲斐あってか、ある作品は10,000PVを突破し、この時の私は天狗そのものになっていたが、これはただの作者がゴリ押していただけの結果だったと言うことに気がついていなかったのだ。
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そんなある日の事。
Xのフォロワーさんへリプを返しているとある事を指摘される。
『あなたは自分の作品だけ売りこみ、他の人とは積極的に交流していない』
文章は違うがこのような内容であった。
その時はそれを見て『SNSサイトで自分の作品を売りこむだけの何が悪いのか! 間違っているのはお前だ!』という自論を持っていた。
しかしどこかその言葉が引っかかり、ふとフォロワーさんの作品に目を通す……面白い。
そして他のフォロワーさんの作品も……
全ては読み切れてはいないが、どの作品も面白く個性のあるものばかりだ。
それもそのはず、小説を書く目的はプロを目指す者や趣味で書く者、多種多様に存在するが一つだけ彼らに共通するものがある。
それは"自分の作品は面白い!"と思いながら執筆している事であった。
いつからか私はPV数目当てだけで、技術や作品の題材となる物への下調べなどを怠っており、その状態で執筆した作品は初回はいいものの、中盤からほころびがうまれ、物語が完結する頃には駆け足の打ち切り状態になっていたのだ。
これではダメだ、もっと他人の作品を読もう!
そして私は他のフォロワーさんの作品を引き続き読み始めたのだった。
今にして思えばこれがスランプになった"キッカケ"であった──
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作品を読み進めていくうちに、その作家さんと交流を深めるようになり、いつしか宣伝用に使用していたXは交流を深める場へと変貌を遂げた。
これは悪い事ではない、同じ書き物として共感し合える仲間と切磋琢磨し成長する事ができるからである。
私もそうだが、中には馴れ合いのような関係もあるがこれはこれで良い。SNSとは得てしてそういうものなのだから。
◇
そんな毎日を過ごしていたある日の事。
新作を描き始めようと、いつものようにサイトを立ち上げ執筆を開始しようとするがなにも書けない──
実際には何か文章を書くのだが、他のフォロワーさん達の作品が頭にちらつき、私にはあんな素晴らしい文章やストーリーは書けないというマインドに陥る。
ついにはやっとのことで書き上げた新作。約3,000文字の作品も全て消していた。そしてまた執筆、他人と比べ劣ってると思い削除、そしてまた……
気がつけば書き溜めていた作品はあったが、新作が書けなくなっていた。
長編はおろか、短編でも書こうとすると負の感情が爆発しそうになるのだ。
『こんな駄作公開するの?』『他の人なんて見てくれないよ』『自分が面白いと思えてるならそれでいい! ……でも何が面白いのか分からない』
こんな考えが頭の中を駆け巡るのだ。
◇
このマインドはX内の交流にも影響した。
普段は明るい内容を投稿するのだが、弱音を吐き出す投稿をしてしまう時もある。
前までは積極的に自分の作品を売りこんでいたが今は消極的。
最近になり朗読を配信する方のところへお邪魔するようになり、私も自分の作品を自分自身で朗読を行ったり、また朗読をしてもらったりする機会もあった。
その時感じたこと、それは他の人より私の作品が劣っていることであった。
他の方の作品を朗読し、聞いていた皆は『この作品の~が良かった!』『感動した!』など賛美のコメントがあったが、私の作品にはそれがない。
それから私は、作品を自分から読んでもらおうなどと考えることもやめた。
◇
今の私は、ろくに新作も執筆せずいるのに一丁前に"物書きしてます!"とアピールしている事に疑問を覚えている。
この作品を執筆している最中も、これを世に出していいのか……こんな駄文を……
そんな気持ちでいっぱいなのである。
これを名付けるなら"小説家スランプ"か。
これはあなただけが苦しんでいるわけではない、私も……もしかしたら皆同じ悩みをもっているのかもしれない。
そう思い私はこれを書き上げたのだ。
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そして小説家スランプは現在も続いている。
乗り越えるために試行錯誤しているが、なかなか自信が持てない。
恋愛のトラウマを解消するには恋愛するしかないように、小説家スランプを克服するには書いて書いて書きまくる! しかないのだろうか……
未だ解決策は見つかっていないのである。