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【完結】最強捜査官、呪いすら科学で解き明かす 〜悪魔も天使も魔術無効の街セレニス州〜  作者: 久茉莉himari


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【5】科学という剣で挑む潔癖の影――羽と涙と、名もなき夜明け

中には、グリーンのグラデーションにゴールドが吹き付けられた、鳥の羽のような物が入っている。


イーサンが証拠袋を手に取る。


「これはサンドラが泊まろうとしていたモーテルに落ちていた物だな?

仮面の一部かもしれない」


「そう。

スリーカードはモーテルといっても安宿じゃない。

駐車場の周りに木や花を植えて、綺麗に飾っているの。

その植え込みに落ちていたのよ」


「孔雀の羽のようだが――人工物だな。

だが…奇妙だ。

孔雀の羽を模すにしては配色が不自然すぎる。まるで異国の儀式具の様な…。

これはオーダーメイドかもしれない。

残留物は?」


「無いわ。

指紋も皮膚片も、ゴミすら無い。

普通、人間が行動すれば必ず何らかの物質が移動するはずなのに」


イーサンのアイスブルーの瞳がギラリと光る。


「犯人像は極度の潔癖性ということか?

では使い回しの針は?

極度の潔癖性ならば、使い回しの針にすら触れたく無い筈だ」


しんと静まり返る部屋。


その沈黙を破ったのはバレスの大声だった。


「いや、証拠はこれだけじゃない!」


「バレス、何だ?」


「チーフ、監禁されていた男ですよ!

暴行をする時に、カーニバルの仮面や防毒マスクをする馬鹿はいない。

もししていたとしても、身体に刺青や特徴があったかもしれない!

彼は唯一の目撃者だ!」


カリスタがため息をつき、冷静に言う。


「そんなこと、皆分かっているわ。

それに、彼が発見された時に採取した体液も、彼自身のものしか出なかった。

DNAも採取したけど、サンドラと同じく、どこのデータベースにも一致する人物はいなかった。

争った形跡も無いから爪に残留物も無いし、彼の皮膚にも犯人の物とおぼしき指紋も無かった。

それに、彼は記憶喪失なのよ?」


バレスも負けじと声を張る。


「記憶を取り戻させればいいじゃないか!

心理カウンセリングでも何でも受けさせて!」


その時、イーサンの冷たい声が響いた。


「バレス、彼の話はこれで終わりだ」


「でもチーフ!

それが一番手っ取り早い――」


「バレス、聞こえなかったか?

彼の話は終わりだ。

我々は戦士だ。科学という剣でしか戦わない。

そしていついかなる時も、科学捜査官として行動する。

起訴できる絶対的な証拠を迅速に集め、犯人を逮捕する。

それが出来ないなら、外れろ」


その声は凍るような凄みを帯び、ミーティングルームは一瞬で静まり返った。


「皆、今日はご苦労だった。

ヴィヴィアン、明日、羽が落ちていた周辺を、もう一度バレス達と徹底的に洗え。

では、明日」


イーサンは誰とも視線を合わせず、ミーティングルームを出て行った。





黒のSUVが、一軒の家の前で停まる。


その家はセレニス・ベイらしくない、シンプルなデザインだ。


イーサンが車から降り、助手席のドアを開ける。


「さあ、降りて」


促され、彼は頷き、ゆっくりと助手席から降りた。


「…ここ、どこ?」


警戒心を隠さない声に、イーサンが柔らかく答える。


「俺の家だ。

君は退院の許可が出たので、どこかに泊まらなければならない。

だが君は傷を負い、記憶喪失にもなってしまった。

それに、犯人の君に対する執着は異常だ。

取り返しに来る可能性が高い。

そして君は、たった一人、犯人の素顔を見た可能性がある。

そこらのモーテルや五つ星ホテルでも、俺は安心できない。

それに、君の治療を手助けする許可も主治医からもらっている。

俺は一人暮らしだから遠慮はいらない。

うちでのんびり過ごすのはどうだ?」


彼は、イーサンが用意したグリーンのサマーニットを、もじもじと触りながら答える。


「で、でも俺、事件の関係者だし……。

警察の人間の家に泊まったら、イーサンの立場が悪くならねぇ?」


イーサンは微笑んだ。


「心配性だな。

判事の許可も取ってある。安心しろ。

それより、荷物を運ぶのを手伝ってくれ」


イーサンが荷台を開ける。


中には、ブランド物の紙袋と、食料の入った紙袋が混じっている。


彼が紙袋を両手に下げ、申し訳なさそうに言った。


「こんなに買う必要ねーのに。

下着とシャツが二、三枚とジーンズ一本があれば十分だよ」


イーサンは食料の袋を抱え、クスッと笑いながら荷台を閉め、玄関へ向かう。


彼は慌てて後を追った。


「……今、笑っただろ?」


拗ねた声に、イーサンは「ああ」とだけ返す。


「何でだよ?」


「そうやって気を遣うのが、君らしいと思って」


玄関に入り、荷物を置いたイーサンは、防犯装置をセットする。

そして、軽く彼の肩を叩きながら言った。


「大丈夫だ。ここは安全だ」


イーサンはノアを二階の客間に案内した。


アイボリーを基調とした暖かみのある部屋で、ダブルベッド、大型テレビ、小さな冷蔵庫、バスルームとシャワー室まで揃っている。


イーサンがクローゼットを開け、買ってきた紙袋をそのまましまう様子を、彼はベッドにうつ伏せになって頬杖をつき、じっと見ていた。


「これは明日片せばいい。

それより夕食は何がいい?」


彼はニコニコしながら即答する。


「チーズハンバーガー、オニオン大盛りとベーコンも付けて!

あとピザが食べたい!

あ、ドーナツも食べたい!」


イーサンは笑顔で頷いた。


「分かった。馴染みのレストランに頼もう。

――その前に、君に話があるんだが」


ニコニコ顔だった彼の表情が、急に曇る。


「……なに?」


「座っていいかな?」


「いいよ」


イーサンはベッドの端に腰を下ろし、彼を見つめる。


「君の名前は不明だから、今は書類上『ジョン・ドゥ』になっている。

だが、私は君をそう呼びたくない。

それで――『ノア』と呼ぶのはどうかな?

被害者の一人が、君の名前は『ノア』かもしれないと証言してくれた」


瞬きもせず、彼はイーサンを見つめる。


「いいよ」


即答すると、グリーンの瞳がみるみる潤んだ。


「嫌なら……」


その瞬間、ノアはガバッとイーサンに抱きついた。


「イーサン……気を使ってくれたんだろ?

ありがとう。

……全部、ありがとう」


イーサンは、そっとノアの背を支えた。

その声は静かに、確かな温度を帯びていた。


「私は被害者の君に、最善と思えることをしているだけだ」


「でも、ありがとうって言いたいんだ……」


イーサンの手がわずかに震える。

その胸中に、冷たく沈んでいたものが少しだけ溶けていく。


「その名は、希望を感じさせる。

夜明けのように、新しい始まりを思わせる」


ノアはイーサンの腕の中で、静かに涙を零していた。


そしてイーサンは――

やはりこの名が相応しい。

混沌の中で彼が示す光は、確かに夜明けに似ている。


と思うのだった。

ここまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)

明日も17時更新です☆

Xはこちら→ https://x.com/himari61290

自作のキービジュアルやキャラクターカード貼ってます♪

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