【4】証言で浮かぶ仮面の男、羽一枚の証拠
被害者の女性は十九歳で、サンドラ・ジャクソンと名乗った。
ID番号もスラスラと答える。
カリスタがその場でタブレットで確認すると、サンドラの言うことは本当だった。
サンドラは、セレニス・ベイに住む親戚の家を訪ねるために来たという。
カリスタがやさしく尋ねる。
「ねえ、サンドラ。
あなたはどうやってあの部屋に連れて行かれたのかしら?」
サンドラは涙を浮かべた瞳で、ちらちらとカリスタを見ながら答えた。
「私、セレニスにある親戚の家に遊びに来たの。
大学も休みだったし、親戚に同い年の女の子がいて親友だから…。
私の家はユタ州だけど、毎日のようにテレビ電話で話してたの。
それで…私、ついこの前失恋しちゃって…。
すごく落ち込んでたら、その子が“うちに遊びに来れば”って誘ってくれて。
おじさんもおばさんも大歓迎って言ってくれたし、両親もその子の家なら良いって許可してくれた。
でも、その前にどうしてもやっておかなきゃならないゼミの論文の草稿があって…。
教授はメールで良いって言ってくれたし、とにかく早く街を出たかったから、その子の家に着く予定より三日前にセレニスに来て、モーテルに泊まって草稿を終わらせようとしたの」
「モーテルの名前は?」
「スリーカード。
モーテルに到着してフロントで手続きを済ませて、部屋のキーを受け取って、部屋に入ろうとした時だった…。
首筋に何かが刺さったの…!」
わっと泣き出すサンドラに、カリスタがサイドテーブルのティッシュをそっと膝に置く。
「ゆっくりでいいのよ。
今、話せることだけ話して」
サンドラはティッシュで涙を拭き、続けた。
「チクッとした瞬間、首筋に手を当てたわ。
針みたいな感じだった。
でも廊下にも駐車場にも誰もいなかった!
本当よ!」
カリスタが微笑む。
「ええ、信じるわ」
「ありがとう…。
そしたら急に眠くなって、気付いたらあの部屋で吊られて…首に点滴の針が刺さってた…」
窓際にいたイーサンが、カリスタの横に立つ。
「サンドラ。
君が吊られていた時、他にも吊られていた人はいたかな?」
サンドラが唇に指を当て、考える仕草をする。
そしてハッとしたようにイーサンを見上げた。
「女の子が…たぶん七人いたわ!
私とそんなに年は変わらないと思う!
みんなガリガリに痩せて…ボロボロだった。
でも…」
「でも?」
「男の人が一人いた。
その人は…他の子と扱いが違った…。
それにガリガリって程じゃなかった…。
まるでベネチアのカーニバルみたいな仮面を被って、防毒マスクをした男がやって来て、こまめに何かをされてた…。
そうしたら…次々と三人の女の子が動かなくなって…!
すると、私の隣にいた女の子が、仮面の男がいない間、何か首を動かしてた…。
私は何が何だか分からなかった。
そして、その子の点滴の針が抜けて、首から血が吹き出した…。
直ぐに仮面の男がやって来て、二人は酷く揉めてた…。
そして仮面の男がいなくなった途端、その子が手錠から手を抜いて、走って逃げていった…。
それからあなた達が来て助けてくれた…」
また泣き出すサンドラの肩に、イーサンがやさしく手を置く。
「サンドラ、とても参考になった。
ありがとう。
ゆっくり休んで」
穏やかにそう言うと、サンドラが「あっ」と声を上げ、イーサンの腕を掴む。
「待って!
思い出した!
男の人が仮面の男に言ってたわ!
兄貴はどこだとか…ノアに手を出すなとか…!」
「兄貴…ノア…か。
ありがとう、サンドラ。
よく思い出してくれた」
サンドラは涙を流しながらも、強い視線でイーサンを見る。
「犯人は…!?
逮捕してくれるのよね!?」
「約束する。
奴は必ず逮捕する」
毅然と答えたイーサンは、「カリスタ、後は頼む」と言い残し、静かに病室を後にした。
ミーティングルームで、カリスタが話し出した。
「サンドラは免許証を持っていた。
それなのに、その記録がデータベースに無かったの。
それで指紋もDNAも採取させてもらって、あらゆるデータベースにかけたけど――サンドラが覚えていた社会保障番号以外、彼女が実在している情報は何一つ出なかった。
そこで考えたの」
一旦言葉を切ると、カリスタは皆を見渡す。
「もしかして犯人は、被害者達を拉致した時に身分証から身元を特定して、警察やFBI…もっと言えば陸運局や司法省のコンピューターをハッキングして、被害者達の情報を次々と消した。
だから捜索願いが出ていた被害者も分からなかったし、犯罪歴があって直ぐに身元が割れる被害者も、調べても出なかったのよ」
イーサンが頷く。
「筋は通っているな。
それに犯人が用心深く、執念深いことの証明にもなる。
何故なら行方不明の捜索願いは、どのタイミングで出されるか分からない。
きっと毎日チェックしているんだろう。
――で、ハッカーは特定出来たのか?」
カリスタは残念そうな表情を隠さず、首を左右に振った。
「お手上げ。
うちでも調べたし、私の仮説を話したらFBIも司法省も陸運局も、すぐにハッカーを追ってくれた。
でも駄目だったわ。
痕跡すら残っていない。
凄腕すぎて、皆落胆するより感心する始末。
それに、そもそも情報があったかどうかすら分からないくらい、完璧に出処も消されてた。
手の打ちようがないの」
「では遺体から採取した指紋やDNAも、役に立たなかったんだな?」
「ええ、そうよ。
遺体から分かったのは、殺害時刻が今朝の午前0時から2時の間ということ。
そして三人の被害者は、ほぼ同時に亡くなっていることだけ」
「じゃあ今、犯人に繋がる手掛かりは――この羽だけね」
ヴィヴィアンが言い、テーブルの上に証拠袋を置いた。
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