【エピローグ】
【エピローグ ~リオの場合~】
自宅に戻ったリオは、靴を脱ぎ捨てると、そのままふかふかのベッドにダイブした。
天井を見上げ、大の字に手足を広げて、しみじみ思う。
――何だったんだろう……。
もう、それしか言葉が出てこない。
アーチボルトに休暇に誘われて、「せっかく兄貴とバカンスだ!」って張り切って行ったのに。
本物のヴァンパイアに出会うとか……あり得ないだろ……。
その上、血を抜かれるとか、警察に追い回されるとか……悪夢過ぎて笑えるよ……。
でも帰ってみれば、チームメイトもコーチも専属トレーナーでさえ、みーんな普通で。
俺がいない間、地球はどう回ってたんだ……?
リオは今まで考えたこともない“宇宙の神秘”に思いを馳せながら、
気付けば眠りに落ちていた。
【エピローグ ~アーチボルトの場合~】
自宅で年代物のウィスキーをぐびぐび飲むアーチボルト。
普段は香りや味わいをじっくり楽しむのだが、今日くらいはぐびぐび飲んでもバチは当たらないと思う。
ノアが戻ってホッとした。
何だかんだ言っても、ノアとリオはかわいいし、立派に育ったな……。
だが!
このわしが精魂こめて書き上げた、あの犯行声明文……!!
なんでみんなしてブーイングの嵐なんだ!?
「やり過ぎだ」だと? よく言うな!
じゃあお前らで書け!!
“それっぽく書け”と言ったから、ベストセラー作家の名に恥じぬよう完璧に書いたというのに……!!
それに、愛車がセレニス・ベイ署の証拠保管駐車場に置かれていると思うと、忌々しいことこの上ない!
いつか取り返してやる!
その前に科学捜査について知識を深めねば……!
ウィスキーの入ったグラスを片手に、
分厚い『科学犯罪捜査~入門編~』というタイトルの本に、ブツブツ言いながら付箋を貼りまくるアーチボルトであった。
【エピローグ ~ロクシーの場合~】
某州のモーテルの一室。
ロクシーは金髪から黒髪に戻してご機嫌だった。
まあ色々大変だったけど、私のハッカーとしてのスキルが無ければ、ノアを取り戻せなかったのは事実だし?
そう考えると、セレニス州での戦いは私の大勝利ね!
大変だったけど、終わってみると楽しかった~!
ノアとリオは弟みたいなもんだし、付き合うのは楽しいから良いんだけど、毎回毎回お金にならないのよね~。
ま、イーサンとノアのあの再会シーン?
正直ちょっと泣いたし? ……でも内緒♡
さあ、次の仕事先を探さなきゃ!
そうしてイレイナから渡された小切手を眺めつつ、
ラップトップのキーボードを凄まじい勢いで叩くロクシーだった。
【エピローグ ~ルチアーノの場合~】
地獄の王の間にて。
最高級のシャンパンを飲みながら、こっそり部下に撮影させていたセレニス州での自分の行動の動画を観て悦に入るルチアーノの姿があった。
「やっぱり俺様が居なきゃ、あの兄弟は駄目だ駄目!
兄弟っつーか……あいつら全員ボケナスだからな!!」
あ~能力があるって逆に辛いな~。
あ~人望があるって逆に辛いな~。
ロクシーに掛けられた悪夢撃退スプレーのせいで包帯まみれの姿でも、
次の香水の制作に余念の無いルチアーノであった。
「……次は“永遠に忘れられない香り”を作ってやるさ」
【エピローグ ~ルシアンの場合~】
ノアがリオと握手をして、リオがノアを引っ張り、
ノアの身体の一部がセレニス州から1ミクロンでも出たら、
その瞬間に私の力でワシントンD.C.まで飛ぶ作戦は見事に成功した。
ノアは記憶を失っていたが、私がきちんと“手当”をしてやったので、
記憶も戻り、元のノアに戻った。
白いローブに金の装飾、そして何故か花柄のマフラーと縞々柄のネクタイを重ねた“柄on柄”の出で立ちで、
天使ルシアンは静かに祈りを捧げていた。
【エピローグ ~イレイナの場合~】
イレイナは秘書とタンゴを踊った後、
ジャクジーにゆっくり浸かり、心地良い疲労感を感じながら年代物の赤ワインを飲んでいた。
「リオ達にノアが連れ戻されるのは当然だと、私も思っていたのよ?
なんたって家族なんだし」
それにしても――イーサン・クロフォードが昔助けた、あの双子の母親の申し出には驚かされたわ。
『イーサン・クロフォード捜査官は自宅に匿っている証人を愛している。
どうか幸せにしてあげて欲しい。
今年は50万ドル上乗せするから』
……って、どうやって情報を掴んだのよ!?
お金と権力を持った人間の能力は凄いと、改めて再確認させられたわ……!
でも私は最高の天才魔女。
イーサン・クロフォードの“幸せ”とは何かを考えて、きちんと行動したの。
イーサン・クロフォードを侮ることも、絶対にしなかった。
彼がキャデラックから私を突き止める事も、ちゃんと計算済み。
イギリスに行ったのは私の分身と本物の秘書。
勿論、イーサン・クロフォードに裏を取られても良いように、
“イギリスに行った事実”が必要だったのよ。
私は身を潜めて事の成り行きを見守っていた。
そしてリオ達のプランB案を知って、
イーサンとノアが結ばれたのも知って、
もう私が手を出すのは潮時だと思ったの。
だからノアがセレニス州から消えた後、
イーサン・クロフォードのスマホに魔術を使ってメッセージを送った。
たった一行――『N ワシントンD.C. 国立分析所』とだけ。
これだけでも、イーサン・クロフォードなら理解してくれると確信していた。
そしてその通りになった。
イーサン・クロフォードはワシントンD.C.のノアが務める国立分析所に白百合の花束を送った。
だから私は白百合の花束に魔術を掛けた。
ノアが白百合の花束を手にした瞬間、
セレニス州での真実の記憶が蘇り、イーサン・クロフォードの愛が伝わるように。
でも、その魔術はノアがイーサン・クロフォードを愛していなければ発動されない。
ま、当たり前のフォローよね。
そして――魔術は発動された。
ノアもイーサン・クロフォードを愛していたの。
でもノアにとって、イーサンは初恋の相手。
初恋にIQ178って、邪魔よね〜……面倒くさい。
何も書かれていない絵葉書を送るなんていう、ノアらしからぬロマンチックな方法を取った時、
私は感動したのなんのって……!
あと、ジニーって男との友情も、ノアにとっては大切な“人と人との繋がり”だったのよね……。
私の強力な魔術は、ルシアンにも絶対に気付かれないわ!
ルチアーノごときは問題外。
イーサン・クロフォードが白百合の花束を送り続け、
ノアはイーサンとジニーに絵葉書を送り続ける――
愛し合う二人の間に、邪魔者は要らない。
そして、イーサンは行動できる男ってこと!
でも、いつかノアに教えてあげたいわ。
あの朝、窓辺に立って朝日を浴びていたノアを、
イーサン・クロフォードが“光に溶けそうな美しい妖精”のように思ったことを。
『儚く、美しい、何か』のせいでね……。
そしてロウィーナの空のワイングラスが、そっとバスタブの縁に置かれたのだった。
――切ないカチンという音と共に。
〜fin〜
ここまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)
みんな…頑張ってた!!(爆笑
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