【31】魔法よりもっと―奇跡が日常になった日―
ワシントンD.C.国立分析研究所。
ノア・ドノヴァン博士はいつも通り、自分のオフィスでDNA解析に励んでいた。
パソコンを三台駆使し、片手で新作のポテトチップスを食べながら、解析されたデータを紐解くことに夢中だ。
すると、コンコンとノックの音がして、ノアが返事をする前にオフィスのドアが開いた。
顔を覗かせたのは、エリオット・ブレア博士。
古代パピルスの分析から現代の紙幣偽造まで見抜く、“紙”の天才だ。
「よう! お知らせを持ってきたぜ〜」
「……エリー……。
あのさ、ノックしたら普通は返事を待つんじゃないの?」
「……だから!! 僕をエリーって呼ぶなよ!
それに君に“普通”なんて最も遠い単語だろ!?」
「……ハイハイ……。
で、お知らせって何?」
ノアが面倒くさそうに、食べ終わったポテトチップスの袋をゴミ箱に投げ入れる。
エリオットはニヤッと笑うと、ノアのオフィスの窓際を指差した。
「……枯れてきちゃったな」
ノアの無機質なオフィスにそぐわない、白百合の花を生けた大きな花瓶。
「……うん……。
手入れはしてるけど……」
ノアが椅子から立ち上がり、枯れかけた白い花びらに触れる。
「でも! ここでお知らせ〜!
白百合の花束が受付に届いてるぜ!」
「……えっ!? ホント?」
ノアがくるりと振り返る。
「ホント、ホント!
受付まで取りに行けよ!」
「……は? いつも警備員が届けてくれるだろ?」
「何か今日は無理みたいだよん!
自分で行けって! じゃあな!」
エリオットは来た時同様、それだけ言うと突然去っていく。
ノアは「……何なんだよ、もう……」と呟きながら、自分のオフィスを後にした。
ノアがカードキーをかざし、研究棟を出て受付へ向かう。
しかし――
いつもは研究棟を出た瞬間に見えるはずの、大きな白百合の花束は、受付には無かった。
ノアが受付の係員に声を掛ける。
「ブレア博士に花束が届いてるって言われたんだけど?」
係員は「ご自分でお渡ししたいと仰って……」と言うと、玄関ホールの奥へ視線をやった。
ノアが反射的に、その視線を追う。
そこには、一人の男がノアに背を向けて立っていた。
その姿は陰になっていて、よく見えない。
けれど、ガラス越しの午後の光を受けて光る――
夕日のような髪。
次の瞬間、ノアは走っていた。
勝手に、足が動いていた。
どうしようもなくて。
ただ、その人に――
「……イーサン!」
男が振り返る。
アイスブルーの瞳が、やさしく細められている。
「……ノア……。
俺を覚えているのか?」
低い囁き。
むせ返る白百合の香り。
「覚えてる……!
覚えてるよ!」
涙まで、
勝手に、
瞳から零れ落ちる。
大きな手で抱き寄せられて、
ノアはイーサンに抱きついた。
「……イーサン!」
「ノア!」
どうして。
イーサンは違うんだろう?
「実は丁官にワシントンD.C.の出張を命じられて――」
どうして。
「空港に降り立ったら、ここに直行していた」
こんなにも、切ないんだろう?
「君は記憶障害を患っていたから……。
俺を覚えていないかもしれないと思うと……どうしても君に会えなくて」
どうして。
「俺は臆病だな……。
君にだけは」
こんなにイーサンが好きなんだろう?
「俺だって……怖くて……」
「……ノア?」
「イーサンは特別だって……知ったから」
イーサンがフフッと笑う。
ノアの大好きな笑顔で。
「俺が特別だって?
君こそ特別なんだよ」
ノアの身体がふわりと宙に浮く。
ホールの床に舞い落ちる、白百合の花束。
途端にノアが真っ赤になる。
「……なっ……何すんだよ!? 突然……!」
「もう、離さないと言ったら?」
「……え?」
「私は何があっても君を離さない。
君も離すな」
「……イーサン!」
イーサン、もう何も言わないで――
今度は俺から言うから――
ノアのグリーンの瞳に込められた想い。
イーサンはただ、ノアをやさしく見つめていた。
あの日、屋上で言った言葉を、
今度こそ守ると心で誓いながら。
〜fin〜
ここまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)
これにて完結です。
応援して下さった皆さまに、心より感謝を申し上げます。
最強捜査官として生きてきたイーサン。
彼が選んだのは、仲間でも、名誉でもなく――“魂の絆”でした。
その想いが少しでも皆さまの心に届いていたら、嬉しいです。
後は、皆さまの心の内に…。
またいつか、ノアとイーサンの物語を綴ります。
どうぞその日を楽しみにお待ち下さい♪
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次ページの【エピローグ】も合わせて読んで頂けると、
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