【19】虹色に揺れたシャボン玉、秘密の約束
その日、イーサンが昼休憩で自宅に戻れたのは、午後2時半を過ぎていた。
玄関を開けると、ジニーが扉の前に立っていた。
「ジニー? 何をしてる?」
「あっ、あのね!
僕、イーサンにどうしても話さなくちゃいけなくて!
でもノアには話さないでって頼まれて!
でも僕の仕事中に起きた事だから、ボスのイーサンに報告するのが義務だと思って!」
早口でまくし立てるジニーに、イーサンは微笑んだ。
「ノアが困らせたんだな。
話はノアの薬を済ませてからにしよう。ありがとう、ジニー」
そう言って寝室へ向かう。
ノアはベッドでテレビを観ていたが、イーサンを見るなりガバッと起き上がった。
「イーサン! お帰り!
なあ俺、昼にサンドイッチ作ったんだ!
ジニーも美味いって言ってくれた。
イーサンも絶対食べてけよ!」
「分かった。じゃあ薬を注入しないとな。
俺はすぐ署に戻らなければならない」
「うん!」
ノアの無邪気な笑顔。
その背後にある──見逃せない“何か”を、イーサンの鋭い目は捉えていた。
薬の注入を終えると、ノアは少し話をしてから、いつものように鎮静剤で眠りに落ちた。
語った内容は他愛もない。
サンドイッチをいかに美味しく作ったか。
ジニーと古いコント番組を観て大笑いしたこと。
ノアの寝顔を確認してから、イーサンはキッチンへ向かう。
テーブルには『イーサンへ。冷蔵庫へどうぞ!ノア』と書かれたメモ。
その横にジニーが立っていた。
ジニーはイーサンの顔を見て、ホッと息を吐く。
「イーサン、コーヒー飲む?」
「ああ、頂こう。だがサンドイッチはここで食べている時間が無い。
ジニーの話を聞いたら包んでくれないか?」
「分かった!」
ジニーがカップにコーヒーを注ぎ、イーサンの前に置く。
イーサンが一口飲むと、静かに問うた。
「それで報告というのは?」
ジニーは小声で前置きする。
「出来れば僕から聞いたってノアに言わないでね」
そして早口で続けた。
「午前中、裏口の扉を拭いてたら、ノアが来たんだ。
『ジニーの休憩まで歩く練習してる』って言って。
それで『裏庭にプールがある?』って聞かれて、僕が“あるけど今は使ってない”って答えたら……ノアはニコッて笑って、『プールを掃除して、イーサンをビックリさせよう!』って言い出したんだ!
僕は“プール掃除は業者に頼むからノアはしなくていい”って止めたよ?
でもノアは『プールの掃除くらい俺にだって出来る!』って笑って……」
ジニーは両手を胸の前で握りしめる。
「それでガレージに行って、洗車用の洗剤とデッキブラシと、針金ハンガーを見つけて……。
僕は必死に止めたけど、ノアは裏庭に出ちゃったんだ。
だから僕、イーサンに言われた通りクロスボウを持って裏庭を見張ってた。
そしたら──ノアがそのハンガーを曲げて、大きなシャボン玉を見せてくれたんだ!」
ジニーの目が輝く。
「ノアは魔法使いみたいに次々とシャボン玉を作って……。
太陽に照らされて虹色に光って……本当に綺麗だった!
ノア自身がシャボン玉みたいにキラキラしてて……ギリシャ神話のアポロンみたいだった!」
ジニーの声が震える。
「でも、その後ノアが『真面目に掃除しなきゃな』って言って、デッキブラシを持った瞬間……」
イーサンが静かに言葉を継ぐ。
「転んだ、だろ?」
ジニーは涙目になり、力いっぱい頷いた。
「僕、凍りついたみたいに動けなかった……。
でもノアはすぐ起き上がって、『尻もちついただけ、大丈夫! でも頼むからイーサンには内緒にして』って……。
そのあとシャワーを浴びて、心配させたお詫びにサンドイッチを作ってくれた。
痛そうじゃなかったけど……きっと明日も掃除する気だよ!どうしよう!?」
イーサンはジニーの手をポンポンとやさしく叩いた。
「ジニーは心配しなくていい。悪いのはノアだ。もう掃除はさせない」
「ホ、ホント……?」
「ああ、安心していい。さあ、サンドイッチを包んでくれ」
ジニーはやっと笑顔を取り戻し、力強く頷いた。
「分かった!」
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