【18】ツギハギ車と柄物スーツ、馬鹿の集まり
パウダーを付けた刷毛をくるくる回すと、数個の指紋が浮かび上がった。
イーサンはそれを採取し、バレスに渡す。
バレスが目を見開く。
「そうか! ナンバープレートか!」
イーサンは静かに答えた。
「そうだ。人間の習慣というのは、そう簡単に変わるものじゃない。
いかにもナンバープレートを頻繁に変えていそうな連中だ。
だが掃除の前か後かは分からんが、外す時に素手だった可能性が高い。
なぜなら今まで、指紋を残すことに無頓着だったからだ。
そして──警察相手に指紋が重要だと“最近”知った、初心者だ。
それに見ろ。車体外側の拭き掃除……四角い所を丸く拭いている。
掃除慣れしていない。つまり車の整備に詳しくない。
だからナンバープレートを外した重要な作業は、車に詳しい者の役目だった可能性が高い。
バレス、最優先で調べろ」
「はい!」
バレスは駆け足でラボの地下駐車場を出て行った。
そこへカリスタが笑顔で首を傾げる。
「それでチーフはどこに行ってたの?」
イーサンは短く答えた。
「解体屋だ」
「収穫は?」
イーサンの口元に皮肉げな笑みが浮かぶ。
「あったよ。奴らは本物の大馬鹿者達だ」
回収屋が語ったのは、こうだった。
第一印象は「セレニス・ベイの住人には見えない」連中。
キャップを被った髭面の年配男のTシャツは、ビーチの露店で5ドルで売っているような代物。
そして──真っ黒なベンチコートを頭からすっぽり被った男。
ファスナーを襟元まで閉め、フードまで被る。
そんな格好、セレニスでは怪しさしかない。
髭面の男は声を掛けられると動揺した。
だがベンチコートの男は冷静に回収屋を“観察”していた。
まるで試されているようで、回収屋はぞっとしたという。
次の瞬間、ベンチコートの男が口にした。
「この男は人間だ」
その言葉に、髭面の男は心底ホッとした様子で、回収屋へ仕事を頼んだ。
報酬はキャッシュで500ドル。
だが回収屋は、それ以上のものを見ていた。
グレイタウンの入口にレッカー車ごと潜ませ、二人を尾行したのだ。
──そこに現れたのは、一台のグリーンの車。
キャデラック・エメラルド1967年型。
回収屋は息を呑んだ。貴重すぎるその車を、初めて目にしたからだ。
キャデラックは湿地帯に入ったかと思うと、すぐに引き返して行った。
暗がりで誰が乗っていたかは分からない。
しかし回収屋は思い切って、ハイビームを当てた。
キャデラックが急加速で走り去る。
その一瞬、後部座席がはっきり見えた。
髭面の男。
そして派手な柄物スーツを着た男。
──間違いない。ベンチコートの男だった。
イーサンの説明を聞いたカリスタが、腑に落ちない顔をする。
「ベンチコートで隠してたのに、その下が派手な柄物スーツって……。余計に目立つじゃない」
マドックスも腕を組み、眉をひそめる。
「しかも夜でも一発で分かるような柄スーツだろ。セレニスじゃお偉いさんでも着てないぜ。……お洒落のつもりか?」
その時、バレスがファイルを抱えて飛び込んで来た。
「チーフ! ナンバープレートを外した跡の指紋が一致しました!
アーチボルト・サーストンです!『リオ・ゴードン』を迎えに来た髭面の男です!」
イーサンはファイルを受け取り、冷ややかに言った。
「アーチボルトは元教師だが、ナンバープレートの付け替えくらいは出来る。
だが──スーツは脱げても髭は剃れなかった。
髭はアーチボルトの拘りなんだろうな。
柄物スーツの男も同じだ。
ジーンズに着替える気すらない。
だからわざわざベンチコートを羽織る。だが、ベンチコートを着ること自体が不審がられるとは考えない。
要するに……警察に追われているという危機感が全くない。
やっていることが、あのツギハギの車と同じ。
統一性が無い。
──馬鹿の集まりだ」
「チーフ、これからどうしますか?」
バレスが身を乗り出す。
イーサンは短く命じた。
「キャデラック・エメラルド1967年型を追え」
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