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【完結】最強捜査官、呪いすら科学で解き明かす 〜悪魔も天使も魔術無効の街セレニス州〜  作者: 久茉莉himari


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【10】束の間の安らぎ、知らぬ惨劇

そしてイーサンの推理から、病院の警備はさらに厳重になった。


生き残った被害者達は、皆が敗血症を患っているため、滅菌室で治療を受けている。


その病室に入れるのは家族のみ。

しかも、家族であっても滅菌室に入るたびに身分確認が必須だ。


今回の事件の被害者達がいる滅菌室は、警官五人が二十四時間体制で見張っていた。


一方、弁護士のオフィスを調べたバレスとマドックスも、犯人の痕跡は何ひとつ見つけられなかった。


防犯カメラは停電後に侵入されたため、そもそも稼働しておらず、映像記録も残っていなかった。


イーサンのスマホが鳴る。


「どうした、ベック」


『イーサン、本物のオーナーと会計士の部屋を見つけた。

大家が協力的で中を見せてくれたが…家具も食料も、歯磨き粉すら、タオル一枚も無い。

しかも二人とも、今朝のうちに部屋を解約していた』


「だが今の証拠では家宅捜索は出来ない。

大家も、捜査済みの部屋は貸しにくいだろう」


『そうなんだよな…。

まあ、ここも指紋も髪の毛一本も落ちてない気がするけどな』


「同感だ。

彼らはクラブを買った時から、全てのアジトが露見する事態まで想定していたんだろう」


『クソっ!

じゃあ捜査はどん詰まりか?』


ベックの悔しげな声に、イーサンは落ち着いた声で答える。


「いや、そうでもない。

切り札が残っている。

あの血を抜かれていた大男の敗血症は重くないらしい。

明朝の検査で良好なら退院できるそうだ。

主治医に確認した。

誰かが迎えに来るかもしれない。

そいつら共々、大男を逃がすな」


『了解!』


そう告げると、イーサンはS.A.G.E.のオフィスを後にした。





玄関を開けた瞬間、ジニーの声が響く。


「イーサン!良かったあ!」


家に入ると、ジニーがソワソワとリビングを歩き回っていた。


「ジニー、なぜここに?

勤務は17時までだろう」


イーサンが穏やかに問いかけると、ジニーは早口でまくし立てた。


「ノアがおやつにドーナツを食べた後、階段を登って寝室に行こうとして…落ちたんだ!

二、三段踏み外しただけだから大丈夫って言われて、連絡しないでくれって。

いちいち電話したらイーサンの仕事の邪魔になるって言われて、それもそうだなって思ったんだ。

でもその後、ノアが部屋から出てこなくなって…。

心配で、帰ってくるまで待ってた!」


「ジニー、施設には連絡したのか?」


ジニーは胸を張る。


「勿論!

施設長のメアリー先生に電話して、イーサンの病気の友達の具合が悪いから留守番したいって言ったら、良いですよって。

それと、明日でいいからイーサンから連絡が欲しいって」


「分かった。

ジニー、本当にありがとう。

ノアの様子を見てくるから、もう少しここで待っててくれ」


「うん!」





イーサンは階段を駆け上がった。


「俺だ」


ノックもせず扉を開けると、部屋は空。

ベッドにも、バスルームにもノアの姿がない。


その時、小さく「イーサン…?」と声がした。


安堵の息をつき、「そうだ。開けるぞ」と言ってクローゼットの扉を開く。


小さく折り畳まれたように、闇に溶け込むノアの姿があった。


「ノア…おいで」


しゃがみ込み、手を差し出す。


「イーサン…」


泣き腫らした顔に胸が痛む。それでも穏やかに言った。


「大丈夫だ。もう何も怖くない」


震える手が、そっとイーサンの掌に乗る。次の瞬間、ノアの身体がぐらりと傾いた。


「危ない!」


イーサンは反射的に腕を伸ばし、抱き留めた。

体温と浅い呼吸が腕に伝わる。


「足に……力が入らない……」


「言わなくていい。今は動くな」


そのまま抱き上げる。

力任せではなく、極めて慎重に――まるで割れ物を扱うように。


「ジニーが心配してる。下の部屋で休もう」


「イーサン……ごめん……」


「謝るな。守るのが俺の仕事だ」


その声は静かで揺れなかった。


「ジニー、一階の部屋を頼む!」


『了解! すぐ整える!』


リビング横の部屋は、簡素だが落ち着いた造りだ。

ジニーがカーテンを開け、加湿器を置く。


「ノア! 大丈夫!? 顔が赤いよ!」


イーサンはベッドにそっとノアを降ろす。


「ここで休め。明るくて静かだ」


ノアはブランケットに包まれ、ホッと息をついた。


「ありがとう、イーサン」


「礼はいい。まだ治療は始まったばかりだ。ジニー、夜の薬を頼む」


「任せて!」


イーサンは二人の笑顔を見つめ、静かに誓った。


――必ず守る。ノアも、ジニーも、そしてすべての被害者も。二度と、あの恐怖に晒しはしない。


――幸せな三人は知らない。明日の滅菌室で起こる惨劇を。

ここまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)

明日も17時更新です☆

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自作のキービジュアルやキャラクターカード貼ってます♪

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