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【1】血の惨劇で出会った青年と最強捜査官

氷のように冷徹な「証拠」

炎のように熱い「呪い」

科学で割り切れない「奇跡」

運命に抗えない「呪い」


異色の科学捜査 VS ファンタジー!


新感覚BLファンタジー小説をどうぞ!!


更新は毎日17時予定です。

その若い男は、屈辱的な格好をさせられ、目を閉じていた。


俺は直ぐに、手袋をした指で首筋から脈を取った。


彼は生きていた。


俺は叫んだ。


「生存者一名確認、救急班!」


「生存者一名発見!

救急班!」


その時、その若い男が、ゆっくりと瞼を開けた。


エメラルドを彷彿とさせるグリーンの瞳が、眩しそうに俺を見た。


そして彼は、呂律の回らない口調で言った。


「……好きなだけやれよ…

だけど弟の血抜きを止めてからだ…」


俺は、一語一語、明確に返した。


「私はS.A.G.E.特務科学捜査官。

君を助けに来た。

もう大丈夫だ」


「……助け…に…?」


「そうだ。

もう大丈夫だ。

良く頑張ったな」


俺がそう言うと、彼はまた瞳を閉じた。


ゆっくりと。


長い睫毛が頬に影を作る。


そして、その影から、一粒の涙が頬を伝ってゆく。


俺は反射的に、愛用している白いハンカチで涙を拭った。


こんな最悪の現場にいても、まるで彼は穢れを知らない百合の花のように美しい。


俺は彼に上着を掛けてやりたくて、堪らなかった。


だが、彼の下半身に装着されている『物』にも、犯人の痕跡が残っているのは明らかだ。


バレスが走ってやって来る。


バレスは「……酷いな…」と言って顔を顰めると、早速、証拠写真を撮り始めた。


俺も、証拠採取用の綿棒で、彼の下半身から素早くサンプルを採取する。


救急隊員は当たり前だが、俺達の仕事よりも人命を最優先する。


証拠を汚染させる事など、彼らには取るに足らない事なのだ。


勿論、俺も、人命を救う事を優先することに異存は無い。


そうして我々は、時間との戦いになる。


S.A.G.E.―特務解析庁―特務科学捜査官として。





「生存者は今のところ六名だ。

遺体が三体。

生存者の一人は、ここから逃げ出したと思われる女性。

それにイーサンが見付けた男性一名。

残りは二十歳前後の女性が三名と、二十代半ばから三十代の男性一名。

この四人は全員、両手を頭の上で吊られ、爪先立ちをさせられていた。

そして全員、血を抜かれている真っ最中だった。

凶器は点滴袋。

一体、犯人は何がしたかったんだ?」


セレニス・ベイ署、ハロルド・ベック刑事が、怒りの滲んだ口調で言う。


イーサンはサングラスを外すと、ジャケットの胸ポケットに掛けた。


「一見、変質者の犯行らしいが、変質者というのは群れない習性がある。

今回は特殊なケースだろう。

何故なら、犯人は複数犯だからだ。

足跡から分かる。

カルト教徒の可能性も高いだろう。

奴らは人間の血を飲むことで、永遠の若さや命や美を保てると信じている場合がある。

俺はシンクレアの遺体検案に立ち会ってくる。

それと…」


「何だ?」


「私が見付けた、あの拘束されていた青年はどうだ?」


ベックが、ため息をつく。


「明らかに拷問だろう。

可哀想に…。

シンクレアも“アレ”を外す時、珍しく怒りを露わにしてたよ。

但し、彼はただ一人、血を抜かれた形跡が無い。

今は他の被害者同様、病院で検査中だ」


イーサンは「ありがとう、ベック」と言うと、歩き出した。





その事件は、白昼のセレニス・ベイ中心部で明らかになった。


若い女性が首から血を流し、裸足でボロボロの赤いホルターネックと黒いミニスカート姿で、ヨロヨロと、昼食を楽しんでいた人々の前に現れたのだ。


彼女が現れた通りは騒然となり、皆、911に通報した。


最初に現場に到着したのは、ベックと救急隊員だった。


ベックは必死に、何処から来たのか、女性から聞き出そうとした。


女性は担架に乗せられると、「…クラブ・ジョー…まだ人が捕まってる…」と言って、意識を失った。


その数分後には、セレニス・ベイ署長から要請を受けたS.A.G.E.のイーサンと、直属の部下カリスタ・ベネット、ヴィヴィアン・ドレイク、セレニス・ベイ署から鑑識課のチーフ、エリオ・バレスとルーク・マドックスが現場に到着した。


イーサンはベックに、まだ監禁されている人間がいると知らされると、SWATを出動させた。


被害者女性の言った『クラブ・ジョー』は、会費年間1万ドルの超高級会員制クラブで、今は改装の為、閉店している。


そしてイーサンの指揮の元、『クラブ・ジョー』に突入した捜査官とSWATは、地獄のような光景を目にした。




『クラブ・ジョー』の店内、調理場、オフィスには誰も居なかった。


まるで清掃されたばかりのように清潔だ。


「クリア!」という声が、店内の至る所から響く。


だがイーサンは、見落とさなかった。


オフィスの本棚の床に、何かを引きずったような半円状の跡が、微かに残っていたのだ。


イーサンは、クラブのオフィスにそぐわない書籍──経理書に挟まれた聖書を、本棚から取り出した。


その聖書はくり抜かれ、鍵が隠されていた。


しかし、鍵穴のような物は何処にも無い。


イーサンが「手を貸せ」と言って、本棚の片方を掴む。


そこは半円状の跡が残っている場所だ。


SWATの一人が、本棚の反対側を掴む。


「そのまま支えてろ」


そう言って、イーサンが本棚を手前に引く。


本棚は、あっさりと動いた。


そして、鉄の扉が現れた。


イーサンはSWATを待機させ、鉄の扉に鍵を差し込んだ。


カチャリ、と鍵の開く音がする。


ドアノブを掴むと、扉をほんの少しだけ開ける。


「セレニス・ベイ署だ!

誰かいるか!?」


部屋は静まり返っていた。


「突入!」


イーサンが再び叫ぶ。


SWATがなだれ込み、銃を構えたイーサンとカリスタ、ヴィヴィアンも、その後に続く。


そして入った部屋の中は、正に惨劇としか言い様のない有り様だった。





部屋には、四人の『生きている』被害者と、『動かない』被害者以外、誰も居なかった。


窓の無い部屋は、ゴージャスな造りで、かなり広い。


高価な空気洗浄機が目立たぬよう何台も設置され、ひと目で分かる高級な赤いカーペットが敷き詰められている。


イタリア製のブランド家具が置かれ、バーのカウンターは大理石だ。


ただし、カウンターの後ろにある酒棚には酒が一つも無く、磨き上げられた高級グラスが何種類も並んでいた。


そして部屋の中央にある円形ステージには、女性が三人と男性が一人、鉄の手錠で吊り下げられ、爪先立ちのまま首から点滴針を刺されていた。


四人の意識は朦朧としており、ベックとイーサンの質問にも答えられない状態だったが、何とか生きていた。


救急隊員が到着し、四人を病院へ搬送することになる。


まず、救急隊員が四人に装着されていた点滴を抜いた。


その点滴は体内に注入するものではなく、四人の血液を採取するためのものだったからだ。


SWATが鉄の手錠につながる鎖をボルトカッターで切り、別の隊員が被害者を支える。


そして救急隊員は、四人を素早く担架に乗せて搬出した。


そのステージ脇には、女性が三人、無造作に折り重なるように『置かれて』いた。


遺体だ。


S.A.G.E.の検死官シンクレアが、「まだ若くて綺麗なのに…可哀想に」と言って、遺体を並べる。


「シンクレア、死後どのくらい経っている?」と、イーサンが訊く。


「この硬直具合と肝臓温度からして、死後10時間以上は経ってるわ。

亡くなったのは今日の0時から3時の間ね。

検死すればもっと正確な時間が分かるでしょう。

薬物検査も全てやっておく。

終わったら直ぐに知らせるわ」


「死因は?」


「見たところ、出血性ショック死。

腕に筒状に残った跡は、生存者からして多分ステージの手錠の跡ね。

爪先の傷も同じ。

必死に爪先立ちしていたんだわ。

他には抵抗した跡も無いし、弾倉も無い。

死因になったのは、多分この首筋に残った小さな穴。

生存者から推測するに点滴針ね。

今言えるのはそれだけ。

後は解剖を待って」


「分かった。

ありがとう、シンクレア」


二体の遺体が袋に収められ、シンクレアは部屋を出て行く。


その時、写真を撮っていたカリスタが、「あれ、何の音?」と言った。


イーサンが首を傾げる。


「……カチャカチャとした音だな。

金属音のような」


「そんな音する?」


ヴィヴィアンも耳を澄ます。


少しして、「私にも聴こえた。鉄みたいね。

でも被害者は全員、運び出されたはずよね?」と、ヴィヴィアンが周囲を見渡す。


イーサンが「隠し部屋だ」と、確信に満ちた声で言い、音のする方へ歩き出す。


「でもチーフ、この部屋自体が隠し部屋なのよ?

隠し部屋に隠し部屋を作るなんて…何か変だわ」


イーサンのアイスブルーの瞳が、研ぎ澄まされたナイフのように光る。


「そうだ、カリスタ。

この事件は全てがおかしい。

そして、隠し部屋に隠し部屋を作るのは──最も大切な物を隠すためだ」

よろしければ、この小説の前日譚

『扉を叩いたのは天使でも悪魔でもない―ヴィジャボードが開いた禁じられた記憶―』

も読んで下さると、本編ががもっと楽しめます!(^^)

一万字ちょっとなのでサクッと読めます♪


※作中に登場する S.A.G.E. は架空の組織です。

正式名称は Special Analysis for Global Enigmas(特務解析庁)。

FBIと同様に州を跨いだ捜査権限を持つ設定です。

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