第3話 接敵
賢太郎が操縦するモノノフという鎧武者のような人型機動兵器は、航空宇宙機ソルバルウの上に腹ばいになって乗っかって飛行している。そんな流線形とは程遠い形状の物が空を飛んでも空気抵抗にあい、騒音や振動が酷く、スピードも出ない、はずである。
ところが、『タルケンシールド』という技術のおかげで音速を軽く超え、青森のトンネル工事の現場へ向け移動している。モノノフ、ソルバルウの機体の周囲に暗黒物質の粒子を撒いて繭状にし、外皮幕を造り抵抗を防いでいる。その超音速のモノノフを追いかけて来る物があった。もう一体、別のモノノフとソルバルウだ。
「賢太郎兄貴! あたしも行くよ! 」
「燈華。早かったな。お帰り。とりあえず、個人戦優勝おめでとう。」
「そんなのは後でいいよ。バイレットなら、さっさと行ってブッとばしてやらないと。」
「落ち着け。工事関係者や付近住民の避難誘導が第一だ。」
「じゃあ、それは兄貴がやって。」
「まったく、血の気が多すぎるよ、おまえは。兵衛爺ちゃんはカンギテンにいるんだな? 」
「いるよー。今はジェイスンと、一徳爺ちゃんと話してる。」
一徳は、長介、梅雀と共に上空500キロ以上の宇宙空間にいるはず。そして人工知能ジェイスンが加わっているのは、判断が難しいか先祖の知識の蓄えが必要か、困難な状況であろう。
それならば、兵衛の指示を仰がずとも現場の判断で対応すべきだと賢太郎は考えた。どうせ戦闘員としての訓練のまだ浅い燈華は、大した考えもなく突っ込んでいくだろうからと自らが避難誘導、戦闘の被害抑制に回る覚悟をする。
「燈華、目標を制圧、拿捕しろ。」
「ええっ! 何ハードル上げてんのよ? あんなデカブツ。 モノノフの3倍くらいあんじゃない? 単純にぶっ壊しちゃえばいいのよ。」
「貴重な資料だ。今後戦うためにデータが欲しい。ただ、アギュラシールドの使用は認める。マキシンガル装甲をぶった斬れるのか、試してみろ。」
「お。話せるじゃん。あたしが剣道や薙刀やってきたのは、メカニカルビースト叩っ斬るためだもんねえ。」
「喧嘩始めるのは、まだ少し待て。周辺の人たちを避難させるほうが優先だ。いいな!」
「はーいはい。早く頼んますよー。」
賢太郎のモノノフはソルバルウの上に立ちあがり、地上へ向け飛び降りた。メカニカルビースト『ギギャント』と横倒しになった工事用車両の間に立ちはだかった。そして両手に古武道の釵のような武具を構えた。赤い鎧武者のようなデザインだが、袖の部分は前面を向き、防御態勢をとる。
燈華のモノノフもカラーリングは同様に赤なのだが、仕様が違う。賢太郎の物は『モノノフ一式タケル』。総合力に優れ、主戦力となる。一方、燈華が乗り込んだ物は『モノノフ三式スサノオ』と呼ぶ。近接戦闘に特化し、一式タケルの前衛を担う。その赤いスサノオは一式タケルと共に『ギギャント』を挟み込むようにメカニカルビーストの背後に回り込み、太刀のような武器を両手に前に突き出した。中学剣道の神奈川県大会の個人戦優勝の燈華にはピッタリの武装だろう。
現場周辺の人は当然避難を始めているが、賢太郎は外部スピーカーを入れ、救助活動がやり易くなるように幹線道路の幅が広い場所へと誘導する音声を流す。足下に転がる工事用車両に人が乗っていないことを確認すると、前を向いたまま一歩一歩横に移動し幹線道路の前にタケルのボディで盾になるようにしてギギャントの通り道を塞ぐ。
釵を持った腕を大きく広げると、賢太郎は燈華に合図した。
「いいぞ、燈華。始めろ。」
「合点、承知の助。」
燈華は時代劇ファンであるために古風な物言いになる。
モノノフ三式スサノオが跳躍。ギギャントの後頭部を一刀両断にしようと太刀を上段に振りかぶり、それに応じて一式タケルも人間の鎖骨相当の部位にある40ミリ機関砲を撃った。賢太郎の予想通り、機関砲ではギギャントにそれほど大きなダメージは与えられない。とはいえ、それなりに効果あり。怯ませ隙を作るには十分であった。ギギャントは後頭部を鋼の太刀で打ち付けられたと思いきや、スイカ割のスイカのように頭を割られた。モノノフ三式の太刀は、先程の話しにあったアギュラシールドという技術で刃を形成している。ほぼ全ての物質を切り裂くことができる。
ただし、ギギャントは頷くように顔を下に向けたので後頭部は割れたが面はそのまま。ギギャントは振り返り、燈華のモノノフに掴みかかろうとする。だが、それこそ燈華の思うつぼ。左右に躱し、脚を斬りつけた。動きの鈍ったギギャントを賢太郎は見逃がさず、右手の釵を投げつけギギャントの背中に刺さり、釵を手放した手に銃器を持った。大型拳銃に似たその銃器はアギュラシールドの弾頭を装填している。ギギャントの胸部を撃ち抜いた。燈華も太刀を薙ぎギギャントの腹を割った。
「やった!ざまみろ。バイレットめ。」
「アギュラシールドは効くようだな。ご先祖様たちが研究した成果だ。」
メカニカルビースト・ギギャントはモノノフに比べて4倍くらいの質量がある。ソルバルウで運ぶには大きい。燈華は、太刀で斬りつけた胴体に再び斬撃を入れ、上半身、下半身に真っ二つに裂いた。二機のソルバルウに乗せ回収。ソルバルウ二機のみを帰投させた。
「さて、燈華。まだやるべきことはあるぞ。」
「わかってるって。」
「じゃあ言ってみろ。」
「宇宙の爺ちゃんたちの応援に行く。」
「馬鹿! 違うだろ。足下を見ろ。アスファルトの下から水が溢れてる。破断した水道管を探してモノノフで握り潰せ。漏水を止めるんだ。冠水してるぞ。」
「えー、そんな面倒くさいことやらなきゃあならないの?自衛隊とか消防隊の仕事でしょ。」
「こっちでやるほうが早い。」
ここで兵衛の声が割り込んだ。
「ばっかもーん! 燈華! 我が孫ながら情けない。今まで何を学んできた? ご先祖様たちの無念を晴らしつつも、地球人を守らなければならんだろ! それが済む頃にはソルバルウがそちらに戻る。そうしたら謎の宇宙船から射出されて地球に降り注いだ物体の調査に行け。」
「う、うわっ、そんなに怒鳴らないでよ。兵衛爺ちゃん。やりますよ。やりゃあいいんでしょ。」
宇宙の三爺たちは予想外のことに戸惑っていた。地球に近づいたエイリアンクラフトが、彼らが警戒していた存在ではないとしても、彼らの先祖セレンの言語を解し、さらには接触を求めてくるとは。
「俺達は、地球の代表とは言えねえなあ。」
「兵衛さんならセレンの代表とはいえるんじゃないかなあ。長老だからなあ。」
「長さん、一徳さん、そう返事するよ。」
「じゃあ、接触方法とか、話しを詰めないとなあ。セレン語が通じるのは助かるけどな。」
「はいよ。交渉は任せてくれ。兵衛さんを呼び出すよ。」
兵衛たちの勢力の先祖の言語、セレン語での交信が始まった。地球は二百余りの国に分かれ、思想や政治、文化、風習、宗教など統一されず、まとまっていないこと、強いて言えば国連が代表であることや、自分たちセレンの勢力が地球に間借りしている事などを説明し、お互いに敵意のないことを確認しあった。
フブキ、トーウが乗り込む多目的輸送機スヴァルガンもアークのドヴォルザークも勇んで発進したは良いが、出番を失ってしまい拍子抜けしたが、その途端にユーモレスクでも梅雀のライコーでも警告音が鳴った。
ユーモレスクの艦長スメタナが
「どうした?」
と問い、副長ターナーが答える。
「DSアウトの反応! おそらくこの質量だとバイレット!メカニカルビーストか哨戒艇でしょう!」
小柄な男性オペレーターのテンゼンが追加情報を伝える。
「メカニカルビーストではDSを行える機種は少ないはず。小型の高速艇の可能性があります。」
艦の指揮権は持たないが、彼らの中でも身分の高いジェイムがスメタナに問う。
「艦長、どうするね?」
「放って置くわけにはいきません。情報を掴まれないうちに撃破しましょう。」
「うむ。そうだな。」
DSドライブとは亜空間飛行。(Dimension Space Drive)。DSアウトは亜空間離脱。通常空間と違うべつ次時限の亜空間を経由して超光速移動を可能にする。亜空間を高速で航行してきたエイリアンクラフトが通常空間に現れたということだ。
マルタが梅雀に連絡。
「すみませんが、敵に追尾されたようです。当方はこれより敵機と交戦します。巻き込むわけにはいきません。避難してください。幸い、そちらのステルス能力は高いようです。」
一方、『カンギテン』の人工知能ジェイスンは三爺にもその「敵機」に攻撃命令を出すのだった。
ユーモレスク、スメタナ等の名前は、考えたときには意味があったはずなのですが、忘れてしまいました。
カンギテンは「観喜天」または「歓喜自在天」。仏教の守り神、天部に取り入れられたヒンドゥー教のガネーシャです。