第2話 メッセージ
地球人、ブリトン人にそっくりの彼ら宇宙人は、自分たちを『クルズ』と呼ぶ。そのクルズの宇宙軍で哨戒任務を担う駆逐艦が、彼らが地球圏へ乗りつけた宇宙船『ユーモレスク』。哨戒用の装備を持っているため、レーダーなどの各種センサー類は最新鋭。
だが、そのセンサー類が役に立っていない。航空宇宙機ライコーには電子戦装備が通用しない。それを補うために艦載機を活用する。駆逐艦であるユーモレスクは、ある程度の攻撃力も有している。その戦力のメインは艦載機である。多目的輸送機二機と汎用大型機械化兵、所謂戦闘用の巨大ロボットが二機。ユーモレスクの船体の大半が、これら艦載機の格納庫だ。
「フブキ。トーウ。1号機でサポートを。」
「了解。任しといてください。」
「最悪でも無人偵察機をばら撒いてきますよ。」
汎用大型機械化兵『ドヴォルザーク』のアーク、多目的輸送機『スヴァルガン』のフブキ、トーウ。三人の男女がユーモレスクから飛び立った。ドヴォルザークは四十メートルもある巨人で、駆逐艦としてのユーモレスクの主戦力。四本の角を持ち、太い手足と胸部には武装が隠されている。円盤状のスヴァルガンは翼が小さくても胴体そのもので揚力を得られる全翼機に近い形状をした航空宇宙機で、ドヴォルザークの支援機として行動できる。三爺が乗る航空宇宙機ライコーに近づく。
「なんか出た。あの宇宙船、後ろ半分くらいは荷室だな。」
「おいおい、梅雀さんよぉ。なんかってなんだい。」
「長さん、何か分からないから、なんかって言ってるんじゃないかなー。」
「おう、そりゃそうか。じゃあ探りに行こうか。」
三爺はユーモレスクに近づき、通信を試みる。当然、相手がどのような宇宙生命体であるのか、ないのか、言語、メンタリティ、目的等、何も分からない。とりあえず、武力の行使はしない、コミュニケーションを望むという意思表示をしなければならない。地球には六千九百ほどの言語があると言われている。まさか、その全てでメッセージを送ったとしても、それでは嫌がらせにしかならないだろう。まず、自分たちが日常に使う日本語、それから英語、そしてもう一つ。五百年前まで彼らの先祖たちが使っていた言語の三つ。内容はこうだ。
『あなた方が目指している惑星、地球には知的生命体が暮らしている。あなた方は何処から来たのか、地球を目指す理由は何なのか。』
クルズ側はある程度予想はしていたものの、どう対応すべきか議論となった。もめたのは、まず、三つの言語がバラバラであることだ。中心人物シレンの妹、マルタは通信士で言語学に明るいが、彼女の知識でも艦に積まれたAIでも、共通性が見つけられない。しかも、最後の一つは、地球以外の他の文明の言語である。
「先の二つの言語ですが、短文ですからサンプルが少なすぎて解読は不可能です。ですが、まったく別の言語です。共通性がまるでない。」
「三つ目のは、訳せそうなの?」
「それが、三つ目のは、他の星系の言語です。セレンの言語。」
「マルタ、間違いないのね? それなら訳せるわね? 」
「はい、艦長。」
何故、他の星セレンの言語が使われているのか? セレンと交流があるのか。セレンそのものか。三つの言語で通信してきたということは、こちらはセレン人ではないと判断しているのか、どうなのだろう?
しかし、文面に怪しいところはない。艦長のスメタナはセレンの言語で返答するようにと指示。
「まず、明言しておく。『敵意はない。』
我々は、クルズと称する。同じ天の河銀河だがサジタリウス腕の星系から来た。あなた達地球人に重要なメッセージがある。お互いの代表者同士で会談の機会を持ちたいが、いかがなものか?」
横須賀アリーナでの中学生の剣道大会。閉会式・表彰式と大会後の監督の有難いお説教が終わると、兵衛は燈華の手を引いてそそくさと帰ろうとする。
「ちょっと待ってよ、爺ちゃん。」
「そうですよ、お父さん。せっかく燈華は個人戦優勝したし、男子は総合優勝なんですから。これから皆で食事に行くんですよ。ファミレスなんだから、そんなにお金も掛からないし、お父さんも行きましょ。」
「そうはしていられない。ついにヤツらが来たかもしれん。」
「えっ、爺ちゃん、ヤツらって? ひょっとして? 」
「それじゃあ、急いで帰る? 燈華は皆と食事に行ってらっしゃい。あんた主役なんだから。」
兵衛の娘、燈華の母である与志江が燈華を置いて帰ろうとするが、燈華は、さっさと剣道部員たちのもとへ行ってしまった。監督や男子主将の啓吾に話している。
「お婆ちゃんが具合悪いみたいなんです。すぐに帰ります。」
「そうか。大事にな。」
燈華は小走りに引き返してくると兵衛と与志江の手を引いて駐車場へと向かう。与志江が車を運転し走り始めるとすぐ、兵衛のスマートフォンに着信。賢太郎からだった。大きな災害がニュースになっているとの事だった。
「兵衛爺ちゃん、大変ですよ。思いもよらない事になってます。」
「与志江、暫くカーナビは使わず、そのコンソールの画面をワンセグのテレビのニュースにしてくれんか?」
「はい、何かあったのね。燈華、頼むわよ。」
燈華がモニターをテレビに切り替えると、特撮の怪獣映画のような映像が見えた。高さ五十メートル以上、十五から十六階程度のビルと同じ高さの巨人が動いている。
「これは映画ではありません! 青森県津軽の現場から当局の記者たちが命懸けでお送りしている本物の映像です! 勿論、超望遠レンズやドローンなど様々な手段を用いておりますが、鉄の巨人が暴れて危険極まりない現場で、記者やカメラマンたちが…。」
テレビ局のアナウンサーがけたたましく騒いでいる。何事かと思えば、東北リニア新幹線のトンネル掘削工事で、トンネル掘削機が異物を掘り当ててしまったそうだ。その異物が動き出したら鉄の巨人だった。暴れ回ってシールドマシンを鉄塊と変え、工事中のトンネルの上にある道路はアスファルトが陥没し、水道管が破裂。水が溢れている。地下共同溝の中にある電気、通信のケーブル、ガス管も裂けており危険な状態だ。横転したトラックや自家用車もテレビ画面に映っている。
「爺ちゃん! あれ、メカニカルビーストじゃないの!? なんで地下から出てくんのよ? 」
「俺にも分からんわ。この五百年、地球にバイレットは来ていないはず。それよりも前に地球に来て、置いて行ったのかもしれない。」
スマートフォンで話す賢太郎からの意見では、こうだ。
「爺ちゃん! ジェイスンからの進言です。 あの現場、青森の五所川原の付近には氷河期の地層がある。八千年以上前のバイレットの軌跡は分かっていないので、それより前に地球に来ていたのならば、矛盾はないだろうと。大昔に地球に来ていたバイレットが遺したメカニカルビーストが氷河期の地層に埋もれて、それを掘り当ててしまったんじゃないですか? 」
ジェイスンとは人工知能の名前である。そしてデータベースには、鉄の巨人についての記録もあるのだと。
「五百年前のデータにもあります。あれは『ギギャント』というタイプです。」
「五百年前に我々のご先祖が戦ったメカニカルビーストは、八千年以上も前から使われていたというのか。信じられん。そんな旧い物、普通は壊れて動かないだろ。」
「兎にも角にも対応しないといけないですね。自衛隊や米軍、国連軍で抑えられるか分からないでしょう。僕がモノノフで出ます。」
「待て、賢太郎。カンギテンには、おまえ一人ではないのか? 誰が指揮を執るんだ? 」
「婆ちゃんたちがいますよ。」
モノノフとは、突然地下から現れた鉄の巨人にも対抗できるであろう機動兵器。二十メートル程の人型。鎧武者のような姿をしている。ライコーに似た無人の航空宇宙機『ソルバルウ』に乗り、また太平洋上に浮上した潜水艦のような物『カンギテン』から北へ飛び立っていった。
三爺の長介、一徳、梅雀が航空宇宙機ライコーに乗り、宇宙へ。
宇宙には「クルズ」の駆逐艦。メッセージがある、と。
賢太郎がモノノフ、ソルバルウで青森に向かう。
青森には「メカニカルビースト」。