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第15話 結集前夜

 バイレットの旗艦(フラッグシップ)の司令部の奥にはバイレットの司令官アブドラーダ・ボッチャーの生活空間がある。身長2メートルを超え、相撲取りのような体形の大男が巨体を揺すり踊っている。スキンヘッドで耳が長くピンと起ち、先端は高く尖っている。太った体形のため二重顎なのだが、肩回りの肉に埋もれ、首があるのかないのか分からないような外見。青い肌に白いツナギを着て、両袖の下には幾条もの細長いヒラヒラがぶら下がっている。


「こうして腰を振ればよいのだなー? ほっほっほーぉ。」

「はっ、そのようです。ボッチャー様!」

「おーう、地球の文化とは面白いのーう。」


アブドラーダ・ボッチャーはエルヴィス・プレスリーの監獄(かんごく)ロックを大ボリュームで流して踊っていた。ボッチャーの傍らに屈む司令部幹部「一つ目ティターン」は思いの(ほか)機嫌の良さそうなボッチャーを見て、ここが話を切り出すタイミングだと思った。


「ボッチャー様、そういえばご報告がございます。」

「おお、なんだ? 言うてみい。」

「地球へ先に行かせた先遣部隊の駆逐艦(デストロイヤー)1隻が撃破されたようでございます。」


ボッチャーは黙って拳を振り上げ、部下一つ目ティターンの顔面、大きな目をぶん殴り、一つ目ティターンは、眼をつぶって、もんどりうって転げ回った。


「早く言わんかー! 怒っちゃうぞー!」

「お、怒らないでくださーい。」

「地球人など、1万2千年前には、やっと打製石器を創っている未開人だったではないか! たった1万2千年で大した軍事力を手に入れたようだのう。」


一つ目ティターンは立ち上がり、敬礼して答えた。


「そ、それが、そうとも限りません。DS(デス)亜空間(あくうかん))通信によるとクルズの兵器と交戦したようです。」

「なにぃ~?!それで、どうした?」

「艦載のメカニカルブーストを活用する暇もなく沈んだそうでございます。」


ボッチャーは自らの耳を疑った。クルズといえば、一年前に滅ぼしたはず。そのクルズが、次のターゲットの地球に現れた。DS(デス)ドライブ(亜空間航行)についてはバイレットよりも優れた技術を持っていたので考えられないわけではない。いや、軍事力そのものもあなどれなかった。

 バイレットは十二隻の宇宙戦闘艦の艦隊だったが、一年前に二隻を失った。巡洋艦(クルーザー)一隻と駆逐艦(デストロイヤー)一隻。その他、数十体のメカニカルビーストや数万の歩兵も。


(クルズの生き残りがいたか。大規模に宇宙移民などをしていたのだとしたら厄介なことになりそうではないか。)


ボッチャーは地球人を滅ぼすのだとしても一捻り(ひとひねり)だと甘く見ていたが、考えを改めた。地球を訪れるのは一万二千年ぶり。その間に地球の文明レベルは上がり、科学力・軍事力も上がっているがバイレットには及ばない。何よりまだ外宇宙には進出していないのだから、たいしたことはない。だが、クルズ人がいるとなれば、それなりの抵抗を覚悟しないといけないだろう。


 ボッチャーは、傍らの幹部司令官・一つ目ティターンに命じた。地球に派遣した先遣部隊に追加を出そうというのだ。


「おい、一つ目。テッド・ライアンを呼べ。そして、おまえら二人の部隊で地球に行くのだ。地球とクルズ人がツルんでいるのかどうか、調べて報告したまえ。」

「御意、ボッチャー!」


一つ目ティターンは踵を鳴らして敬礼し、慌てて走って司令部から出て行った。




 約500年前、母星を追われ地球のユーラシア大陸に辿りついたセレン人は、極東の島国、今の日本国と中央アジア、今のキルギス共和国に落ち着いた。ここは、そのキルギス共和国。数十年前には旧ソ連の一部だった山岳国。その首都ビシュケク。


白い民族帽のカルパックを被った二人のIT関係の仕事をする中年男性が、バイキングパブで酒を酌み交わしている。クムスという馬乳酒だ。


「はーっ、コニャックもいいが、やっぱり暑い日にはクムスだな。」

「おう、完全に同意見だ。酸味がサッパリするぜ。」

「ところでよお、テミルベック。例の件だ。本当に行くのか?」


 例の件とは、異星人バイレットの事だ。この男たちは二人ともセレンの末裔。恰幅の良い体形に口髭をたくわえたテミルベックは、四分の三がセレン人の血。あとはキルギス人である。もう一方のアイクという細身の男は、セレン人、キルギス人、カザフ人の混血だ。カザフスタンはキルギスと同様テュルク系民族を主体とした国でキルギスの北に接している。両国はどちらも旧ソ連として深くて複雑な関係である。そして、五百年前から地球人として暮らしてきたセレン人は地球人と交わり、今や純血の者はほとんどいない。

この男二人は、セレン人として自覚しながらも、先祖の無念を晴らすというより、第二の故郷となった地球を護るという意識が強い。もともとセレン人でも軍人ではなく民間の出身であり、平穏な暮らしを望み、当時戦乱の日本よりも放牧が中心の中央アジアを選んだ平和な人たちの子孫だった。民間人であった彼らがセレン人の血統を絶やさない役割があることで、バイレットが地球圏に現れたことを我関せずと冷めた目で見る者もいるのだが、テミルベックは違っていた。日本に行くことを選んだ軍人の子孫たちが、いざとなれば外敵と戦い死に絶えるかもしれない覚悟である事と己の立場を鑑み、自分たちだけが平和を享受していて良いのかと考えている。地球を…地球人を護るために戦うべき、という思いがあったのだ。そしてアイクもその思いを()んでいる。


「いつ、だ? 日本に行って “武家” と合流したいんだろう?」

「明日イシク・クル湖に行こうかと思ってる。」

「そうか。ちょっと急だな。じゃあ、餞別だ。俺の分身として戦場へ連れて行ってくれよ。心だけはおまえと一緒に戦うぞ。」


 アイクは布に包まれた弦楽器を差し出した。瓜実型の丸いボディに細いネックを持った二弦の撥弦楽器ドンブラ。お隣の国カザフスタンの代表的な民族楽器だ。

 テミルベックもお返しに自分の楽器を渡した。キルギスの民族楽器コムズ。薄く切った瓢箪のような形のボディに三弦で、日本にもミンミンという似たような楽器があるが、弾き方はまるで違う。


「じゃあ俺も。俺の魂の一部をビシュケクに置いていく。アイクが預かってくれ。」

「ちゃんと帰って来るんだろうな? 家族揃ってな。」

「勿論だ。ビシュケクの同胞のまとめ役を頼むぞ。」


互いの愛着を持つ民族楽器を交換し、追加のクムスを注文。あとは馬の世話と楽器の演奏の話で盛り上がった。あえて小難しい話題を避けていたのかもしれない。


 翌日、テミルベックは家族でビシュケクから車で四時間ほど東のイシク・クル湖へ向かった。琵琶湖の約9倍の面積を持ち、大きさでも水の透明度でも世界第二位の美しい『中央アジアの真珠』。イシク・クル湖の湖底にはセレンの宇宙船『ヤマサチヒコ』が隠されている。透明度が高いとはいえ、当然湖底など見えはしない。イシク・クル湖には水中遺跡などがある。湖底が見えたりしたら大騒ぎだろう。湖の南側に、湖底のウミサチヒコへ入る秘密の地下通路があるのだった。これはセレン人の末裔しか知らない。


【今回のネタ】 バイレットのボスキャラ アブドラーダ・ボッチャー は「無敵超人ザンボット3」の敵キャラ 「キラー・ザ・ブッチャー」 がモデルですが、そのキラー・ザ・ブッチャーのモデルになったのは、当時の悪役プロレスラーの「アブドラー・ザ・ブッチャー」。

バイレットの幹部司令官は、「仮面ライダー ストロンガー」の悪の組織 ブラックサタン の大幹部、「一つ目タイタン」と「デッドライオン」がモデルです。

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