第13話 常設国連軍
常設国連軍としてアナベル・バトー少佐とカリウス・オッドーネ軍曹の駆るデルタ翼機ユーロファイター タイフーンが一歩遅れてではあるが、カリブ海上空に到達。クルズの宇宙船ユーモレスクを視界に捉えた。
「なんだ、あの大きな飛行物体は? 常識では考えられないものだ。」
「宇宙空間から突入してきたのです。常識に囚われないほうがよろしいかと。」
「ああ。分かっている。幸い米軍の戦闘機はいないな。我々のスチュワート基地に誘導しよう。」
「イエッサー。しかし、米軍機はどうしたんでしょうか。」
「衛星や艦船からの情報を解析中らしい。ミサイルを使ったような光が見えたがな。司令部からの指示があるまでは距離を保って監視だ。」
このユーロファイター タイフーンは普及の売り込み競争ではアメリカのF-35に敗北し、各国への導入は見送られたが、アメリカのF-22ラプター戦闘機をも凌駕する空戦能力を有するともっぱらの評判の万能戦闘機である。
「あえて背を見せてやろう。こちらは攻撃の意思がないと示す必要がある。」
バトーはユーモレスクの脇をすり抜けユーモレスクの前方、いや真正面に出た。簡単に撃墜される位置へ。ユーモレスクがどのような攻撃手段を持っているのかも分からないが。
「少佐、相手は自称『ウチュウジン』です。あまりにも無警戒です。お止めください。」
といいつつも。カリウス軍曹はバトーに続き、バトーを庇うように間に入った。バトーはよくやった、と内心思った。これでユーロファイターが2機とも、相手からすればいつでも排除可能である。こちらからは攻撃の意思がないと知らせることが出来た。バトーは機体を左右に揺らし「我に続け。」という合図を送った。それが宇宙からの訪問に通じているかは疑問だが、向こうからの攻撃の意図は、ひとまず無さそうだ。見た目にも米軍のF-35が大きな主翼で2枚の垂直尾翼を持ち、従来の戦闘機に近い構造。対するユーロファイターは三角翼。その主翼の前の機体下部、コクピットよりも機首寄りに先尾翼を持つ特徴的な外観だ。『ウチュウジン』からも間違えにくいだろう。
バトー少佐は、これで、常設国連軍の駐屯基地、スチュワート基地に誘導できるかもしれないと半分安堵した。スチュワート空軍基地は、国連のものではない。地位協定によって米軍基地を国連軍で間借りしている。とはいえ、国連には米軍でも手出しはできないはずだ。
「あの白い航空機2機が向かっている方向は、ニューヨークです。」
「セレンの兵衛殿からの情報どおりだな。いいぞ。」
航海士ウーピーと実質的責任者ジェイムの会話に艦長スメタナが割って入る。
「ニューヨークに向かっているのは良いですが、この後はどうしますか?」
「重力や大気の分析はできているな? 私が上陸する。」
「陛下。危険です。」
ジェイム・フラド・ギーバはクルズの王族の一人。今は崩御しているであろう王の弟で、王位継承権第2位。現在は王といっても差し支えない。とはいえ、臣民はもはやユーモレスクの乗組員だけかもしれない。ジェイムにとっては、今は王位の継承ではなく、軍人としての矜持が優先であった。
「ドレル将軍がバイレットのことを他の星系に知らせよと命じられたのだ。異星人の力を借りてでもバイレットに対抗せねばならない。いや、この惑星の大気圏に入る前後のことを鑑みれば、この地球という星の民は、まだまだ幼い。我々が護らなければならないかもしれん。私ならば、何かあってもこの艦の運用には問題はない。クロウを護衛に連れていく。それで良いだろう?」
クロウ・ライドルは王族としてのジェイムの秘書官。秘書官として優秀なだけでなく、要人警護の訓練も受けている。筋骨隆々な中堅の政府執務官。ただでさえクルズ人は身体が丈夫だ。クルズの母星は質量、重力が地球よりも大きく、骨格も筋肉も頑丈だ。重力が大きければ、それは乗り物、航空機やロケット、宇宙船なども出力が大きいということだ。ユーモレスク、ドヴォルザークなどもセレンの兵器群よりも一回り図体がでかく、基本的なカタログスペックは上だろう。ユーモレスクは小型艦ではあるが。
ユーモレスク艦長のスメタナは、海面スレスレに高度を下げさせた。また別の米軍機、その他の別勢力の戦闘機の攻撃に備えるためだけでなく、追加の偵察ユニットの展開も考慮しての指示だっだ。
常設国連軍のバトー、カリウスも新たな偵察ユニットの射出に気付いてはいたが、撃墜するわけにもいかず、放っておいた。これによりクルズとしては地球のデータを早く集めることができた。
ただし、地球側でも宇宙空間でのクルズ、セレン、バイレットの邂逅の光学観測のデータの解析作業を進めていた。三つの勢力とも情報妨害の技術は駆使していたが、全ての情報を誤魔化せるはずもない。ドヴォルザークがロケットパンチを使いバイレットの先遣部隊を撃破したことなどは特に注目されていた。使い捨てでない『再利用が可能な飛道具』として後には『サステナブルミサイル』という名前まで付けられてしまう始末。
そして勿論、国連機には手を出せないとしても、2機のユーロファイターとユーモレスクには監視が付いた。多くの国、勢力、勿論セレン人たちの注目も集める中、国連本部を目指し進む。
米軍だけでなく、大国の軍や情報機関はユーモレスクの観測データに不思議な点があることに築いていた。ステルス性能に優れ、レーダーなどでは感知できず。騒音もないのだが、サーモセンサーでは若干の反応があり。それも艦影はぼやけ質量も形状もハッキリせず、なんらかの電磁波妨害があるのは間違いない。だが、ぼんやりとした影、というか、陽炎のような物がモニターに映し出される。
ユーモレスクの周囲だけ気温が低いのだ。ユーモレスクが飛行した後方には、所謂飛行機雲が筋をひく。水蒸気が白い雲となる。
ユーモレスク、いやクルズの機動兵器は三つの動力源を持つ。一つはタキオンエンジン。DSドライブ(亜空間航行)に使用される推進器。一つは核融合エンジン。核分裂、原子力とは違い汚染がなく、出力は申し分ない。実はこの二つはセレンでも使っている技術である。だが、もう一つのジュールドライブエンジンはクルズだけが持つテクノロジー。熱エネルギーを動力・推力に変換する。恒星、太陽のエネルギー、核融合で出す熱を無駄にすることなく、さらに動力として活用する。ゆえに高出力、一つくらいの動力源を失っても平然と動き続ける。
なまじレーダーが利かないことで、どの勢力もサーモセンサーを注視した。レーダーのようにハッキリとした位置が分かるわけではない。周辺の低温になった一帯が繭のごとく大きく広く固まりとして見える。その繭の真ん中に宇宙人の乗り物があると仮定してみるしかない。
国連機のユーロファイターに先導されては、どこの勢力も手を出せず、また国連機がいなくても正体不明の航空宇宙機は怖くて手が出せず、ユーモレスクはスチュワート空軍基地へ到着した。
アナベル・バトー少佐とカリウス・オッドーネ軍曹は駐機場に戦闘機を留め置くと、周囲の国連職員、軍人が制止する間もなく、ユーモレスクに駆け寄った。迂闊とも言える行動だが、二人ともエイリアンクラフトに対する興味を抑えられなかった。
その二人のヘルメットのレシーバーに五十代男性の低い声が入った。スチュワート基地司令のエギー・デラーズ少将。茹で卵のようなスキンヘッドに褐色の口髭、顎鬚が特徴のラグビー選手のような大男だ。
「バトー、カリウス。客人と言って良いものか。宇宙人のセキュリティチェックをして講堂に連れて来い。」
「敵意はないものと思われますが。」
「それは君たちの判断することではない。」
ブツッと雑音が入り、通信がとだえた。
「ああ、一方的な命令で切りやがったな。ハゲが。」
「まあ、仕方がないですよ。あのタマゴ頭は。」
「フッ、そうだな。気持ちを切り替えよう。」
バトーとカリウスが半分愚痴のような会話をしている間に常設国連陸軍の治安維持が小銃を持ってユーモレスクを包囲した。バトーとカリウスは治安部隊員に突き飛ばされ転倒。緊張感が走る。
と同時に、ユーモレスクのハッチが開き、タラップが降りて来た。そして二人の人影。かなり背が高い。身体つきから察するに、人間ならば男性らしい。




