第12話 スクランブル
長く更新できずにすみません。随分なやんで書き直したりしてました。
「AI、コンピューターはフル稼働しています。」
ユーモレスクのオペレーターの女性、モンティが知らせると副艦長のターナーと機関長のサブリが応えた。
「そりゃあそうだ。地球にバラ撒いた偵察ユニットだけじゃなく、セレンから提供された情報の解析までやってるからな。膨大なデータ量だろ。まあ、熱暴走の心配はない。やらしとけ。」
「おかげで、地球への突入のオペレーションは手動操作でやらなきゃならないがなあ。」
宇宙船が大気圏に突入する際には、熱の壁による空力加熱、断熱圧縮が発生し周辺温度は1万度以上になる。船体の表面温度でも3千度近いだろう。宇宙空間にある宇宙船は地球表面からの対地速度ではマッハ23で、地球への突入開始時の速度はそれ以上だ。
そして、クルズには、この空力加熱やコンピューターのフル稼働の過熱を防ぐ手立てがあった。後に地球側から『ジュールコンバーター』と呼ばれるその技術は、宇宙船ユーモレスクやドヴォルザークの動力機関に繋がれ、エンジンのオーバーヒートも防ぐ。熱エネルギーを運動エネルギー、動力に変換するという夢の動力機関である。
しかし、このジュールコンバーターが大きな騒動の元になるとは彼らも予想してなかった。彼らにとっては当たり前のことだったからだ。そして、これはセレンから見ても大変な技術であった。
クルズが地球上に放った偵察ユニットは各地の洋上に着水したが、太平洋、大西洋の幾つかは大国、先進国の軍、機関に回収された。地上に落下して被害を出さないようにとのクルズの気遣いであったが、セレンを含めた各勢力が地上に引き上げたおかげで、クルズが予想していたよりも遥かに多くの情報が集まった。偵察ユニットを調べようとした地球人が逆に調べられたのである。
クルズの宇宙船ユーモレスクは大西洋上、アメリカの東海岸に降下した。目指すはニューヨークの国連本部。地球に迫る危機、バイレットの存在を地球人に知らせるためだ。しかし、地球人はそんなことを知る由もない。たちまち米空軍の戦闘機がスクランブルして来た。F-35AライトニングⅡが4機。カリブ海の北の洋上でユーモレスクを追尾、警告して来る。
「4機の航空機が本艦を追尾、無線での通信が入っています。」
「AIをFASTモードからSLOWモードへ切り替え。翻訳できるか?」
「イングリッシュという、地球ではポピュラーな言語ですが、割と文法はシンプルなようです。問題はないでしょう。」
マルタと艦長スメタナのやり取りだが、全乗組員が緊張感を持って聴いている。4機のF35戦闘機からはレーダー波が照射されている。相手のアメリカから見たら、宇宙からの正体不明機なので仕方がないかもしれないが、レーダー波が当てられるというのは、「いつでも撃てる」「宣戦布告」とも解釈できる非常事態だ。ドヴォルザークのアーク、スヴァルガンのフブキとトーウ、そしてシレンのドヴォルザーク2号機とその支援機スヴァルガン2号機のパイロット、親父ギャグ大好きコンビのアラシとハヤタにも、いつでも発進できるようにコックピット内で待機するようにと指示がでた。米軍の戦闘機の行動によっては戦闘もありうる。ドヴォルザーク、ドヴォルガンという艦載機が出たら、その途端に攻撃される危険もある。彼らクルズの科学力は地球よりも相当に高いが、米軍の軍事力がどれ程なのかは、まだ計れない。偵察ユニットからのデータが集まり解析が捗れば可能になるだろうか。
ただ、それは地球側からも同様だ。地球の勢力の幾つかが、迂闊にもクルズの偵察ユニットを回収してしまった。クルズとしては海上・海中から遠巻きに情報を集めるつもりでいたのだが、地上から、とくに言語、文化、生活習慣、政治、軍事力に関するデータを収集を加速する機会を与えてしまう。技術者・科学者たちは、いきなり破壊や分解などはしない。まず外側を観察し形状・質量・寸法などのデータを採り、放射線などで検査をしたりと慎重に取り扱う。その時間がクルズに大量の情報を得るチャンスとなった。まして量子コンピューターやAIなどの性能は地球とは段違いに優秀なのだ。すぐに地球の情報がクルズに集まって、解析する作業が進められた。
「…領空を侵犯している。所属と目的を述べよ。」
米軍機からの無線も一部がクルズの言語に訳された。それを確認してジェイム・フラド・ギーバは応答した。セレンの代表者三好兵衛からの助言を実践した形だ。
「ワレワレハ ウチュウジン ダ。アナタガタ チキュウジン ニ ツタエネバ ナラナイ ダイジナ ハナシ ガ アル。 ワレワレ ハ ニューヨーク ニ アル コクレン ホンブ ヲ メザシテイル。」
報告を受けたスタンプ米大統領は猛烈に怒り、終いには笑い出した。
「『我々は宇宙人だ』だとお! 舐めてるのか! どこの諜報員だ? もっとマシな嘘はつけんのか!? 国連本部を目指すだと? 馬鹿め、あの敷地は国際的な不可侵領域だ。撃ち堕としてしまえ!」
スタンプ大統領はユーモレスクの撃墜命令をくだした。軽率な判断と言えるだろう。
丁度同じ頃、米軍のスチュワート空軍基地から常設国連軍の戦闘機ユーロファイターが緊急発進した。国連機であることを示す白く塗装された2機のイギリス製の戦闘機を駆るのは、プラチナブロンドの長髪を後ろに纏めて留め、サングラス代わりのゴーグルがトレードマークのアナベル・バトー少佐と、その実直な部下カリウス・オッドーネ軍曹。機体は今や最新鋭とは言えないかもしれないが立派な現役機であり、パイロットはエース級だ。しかし、いかに優秀なパイロットでも邂逅できければ意味がない。先に米軍のF-35A戦闘機が接触してしまっている。
大統領からの撃墜命令がでているが、米軍パイロットたちは躊躇する。未確認飛行物体のユーモレスクが未確認のままだ。レーダーが役に立っていない。ユーモレスクはF-35戦闘機以上に優秀なステルス技術を持っている。艦体そのもののレーダー波の反射率どうこうではない。電子戦の技術が根本的に違う。それでも命令は命令だ。攻撃。胴体下部の胴体内兵器倉が開き隠し持つように内蔵されたAIM-120アムラーム中距離ミサイルが牙をむく。4機のF-35Aが空対空ミサイル8発を発射した。
ユーモレスクの艦橋内に警報音が鳴り響く。耳障りな電子音であるあたりは、クルズ人も地球人と同様の感性を持っているようだ。操艦士のコクヨが操舵しながらオペレーターの先輩乗組員テンゼンに声を掛ける。
「あー。うっせえな。テンゼンさん、頼みます。」
「あいよ、まかせとけ。」
ECM(電子制御・情報管理)を受け持つオペレーターのテンゼンが制御卓を素早く操作すると、米軍の放ったミサイルの様子に変化があった。ヒョロヒョロと頼りなく蛇行して飛び、暫くすると失速して海に落ちた。
「なんだ! どうした?」
「電波妨害です! かなり強力な!」
「莫迦な! クレイジーだ!」
「どうしますか? 続けて攻撃しますか?」
F-35A戦闘機は胴体内兵器倉に4発のミサイルを積んでいる。2発ずつ計8発を発射して残りは半分。それを使うのかどうか判断を迫られた。
「いや、また避けられるかもしれない。不意打ちでなければな。」
「じゃあどうしますか? 隊長!」
F-35戦闘機にはおおきく分けて3つの仕様がある。通常離着陸型のA型。短距離離陸垂直着陸のB型。艦上機のC型である。このうちA型にだけは25ミリ機関砲を内蔵している。高価な空対空ミサイルを無駄にするよりも機関砲を使おうと考えたか。
「近寄れ。空中格闘戦だ! 電子戦でも機関砲は防げまい。それに相手のアンノウンはかなりの大柄な機体だ。こちらの動きについてこられるとは思えん。」
ユーモレスクはクルズの宇宙軍では哨戒艦、駆逐艦であり、それほどの大型艦ではないが、地球の航空機、ロケットとしては大きい。2機のドヴォルザーク、スヴァルガンを積んでいるため、その全長は地球の海軍の洋上艦とさほどかわらない。200メートル弱だ。米軍機は四方に散開した。別々の方向から一網打尽にするつもりだ。
「向こうは4機だ。モンティも手伝ってくれ。」
オペレーターのテンゼンが若いもう一人のオペレーターの女性モンティに指示を出す。今度はミサイルではなく戦闘機そのものに干渉する。
「敵機を堕としてはいけない。いや、『敵機』とは言わないわね。我々の目的は交渉だ。」
艦長のスメタナが窘めると「了解」と一言だけ返事をしてモンティが電子防護(ECCM)機能を全開にした。米軍機のレーダーではユーモレスクの影を捉えられなくなった。当然、機関砲の照準にも入らない。米軍機はユーモレスクとすれ違うとエンジンの出力が落ちた。それからアビオニクス(航空システム)の異常。垂直尾翼の方向舵が利かない。米軍機4機はアンノウンを追尾不能。全くレーダーに映らず、目標をロストした。機体を左右にロールして姿勢を立て直して編隊を再び組むが、追尾をあきらめたらしい。加速はしてこない。テンゼンはしてやったりという表情だ。
「ふう、やれやれだ。まだ援軍をおくって来るかな?」
「別の勢力かもしれませんが、機影2機を捉えました。音速で向かってきます。先程の航空機とは機種が違います。」
副長のターナーにモンティが報告するが、その2機の機影とは常設国連軍のアナベル・バトー少佐とカリウス・オッドーネ軍曹のユーロファイターであった。
今回のネタ。
アナベル・バトー少佐とは、ガンダム0083のアナベル・ガトー少佐と攻殻機動隊のバトー。どちらも声優は大塚さん。
カリウス・オッドーネは、やはりガンダム0083のカリウス・オットー軍曹。




