第1話 遭遇
新連載開始。今回はSF。やっぱり巨大ロボットが暴れます。
じつは、最近身体を壊し入院していたもので、この連載は、ゆるいペースでじっくりやっていくつもりです。
よろしくお付き合いください。
地球人類が火力発電を止めにし、発電のほとんどを原子力と幾何かの自然エネルギーにすることで、なんとか地球温暖化を緩やかにして凌いでいるくらいの近未来。核融合エネルギーを研究してはいるが、まだコスト面などから実用には至っていない。
やがて枯渇するであろう資源を月や火星に求め、航空宇宙分野の研究開発には、多くの先進国、新興国が予算をつぎ込んでいる。またロシア、中国といった大国が経済的、政治的に行き詰まり崩壊。シベリアや内モンゴルなど幾つかの国に分裂したことで、国連の影響力が多少強くなっている。
猛暑の神奈川県。七月の横須賀アリーナ。中学剣道の神奈川県選抜大会が開催中だ。
三好 燈華の通う中学は剣道の強豪校。とはいえ、それなり。決して常勝とか、優勝の常連とかいう訳ではない。女子剣道部主将の燈華自身も、本当は剣ではなく薙刀が専門。男子は必ず神奈川県でベスト8、ときにはベスト4には入り、毎年全国大会を狙っているが、女子は今一つ振るわない。
「また女子団体は、主将以外は負けちまったか。」
「三好のヤツが一人で頑張ってるような試合だったね。」
「アイツだけ強過ぎだよな。」
「三好以外は暑さでバテちまってる感じ。」
観客席から女子部の応援をしていた男子部員たちの会話だ。
「まあ、いいじゃねえか。俺達男子が優勝すればよ。女子だって個人戦なら勝てるだろ。」
こう言い捨てるのは、男子の主将、明星 啓吾。彼の三歳上の兄、慎吾が主将のときには見事に全国大会で優勝した。慎吾の弟啓吾が主将となり、周囲の者たちは当然のように三年ぶりの優勝を期待する。
燈華の六歳上の兄が主将だったときにも全国優勝しているが、女子部は優勝経験がない。同じ剣道部でも男女で期待と精神的重圧には差があった。
それでも、啓吾は個人戦、団体戦とも勝ち抜き優勝した。大した胆力だと言えるが、実は啓吾よりも燈華の方が数段上だった。
燈華には、別の大きな目標があった。彼女には、剣道、薙刀は目標に向けての手段でしかなかった。優勝に興味がないわけではない。優勝は当たり前で、その先に目指すものがあった。個人戦は優勝。団体戦は優勝できずとも、それは仕方がない。これは、燈華の兄、賢太郎も同様だ。
その大きな目標とは、兄妹の先祖、武家の一族のアイデンティティに関わる。目標の達成は、一族の五百年に渡っての悲願である。
この日は男女とも団体戦の二回戦までと個人戦が決勝まで。翌日の最終日に団体戦が決勝戦までと表彰式、閉会式が行われる。
大会の日程全てで燈華の祖父三好 兵衛が応援に来ていたが、最終日には燈華の出場する試合がないこともあってか、盛んにスマートフォンの操作や電話での遣り取りをしていた。ときどき応援席を離れては憤慨して電話の相手に怒鳴り散らしている。
「ばっかもーん! 何故そんなに近づくまで放っておいたんだー! 」
「まあまあ、兵衛爺ちゃん。大丈夫ですよ。三爺が出てくれます。隠密行動もバッチリやってますから。」
「いや、あの三人では心配だ。どうにも緊張感が足りぬわ。」
「そんなことないですよ。ああ見えてしっかりしてます。ああ。もうライコーの発進シークエンスに入るから切りますよ。」
「あー、待ちなさい。おい! 賢太郎! 」
何を慌てているのか? 実は地球に正体不明の宇宙船が近づいている。彼らは光学での観測によって相当前から存在を把握できていたのだが、持っていたデータと照らし合わせた結果、警戒の対象からは外していた。ところが、予想に反して真っ直ぐに地球に向かうコースを取り、しかも加速した。さらには小さな物体を幾つか射出し、その物体は地球の洋上に降り注いだ。この降下物体は、世界各国の軍や宇宙開発機関、気象観測機関でも、ある程度の情報を掌握したはずである。
そして、その何処の国や組織にも属さない三好兵衛たちの勢力が、何か手を打とうとしている。太平洋、静岡県沖に浮上した潜水艦のような物。潜水艦にしてはおかしな形状をしている。むしろ洋上艦、いや航空母艦や強襲揚陸艦に見える。その甲板にエレベーターで箱状の物が出てくると、一面が口を開け、風変わりな航空機のような物が飛び出して行った。青、黒、赤と色違いが三つ。
「爺ちゃんたち、ライコーの調子はどう? 」
「やれやれ、人使い荒いんじゃねえのかい? 賢太郎。年長者を労わりなさいよ。」
「長さん、そう言うなよ。現役世代は、皆仕事で忙しいんだ。」
「そうそう。僕たちは普段、暇だからね。良い暇つぶしでしょ? 」
賢太郎が『三爺』と呼んだ長介、梅雀、一徳の三人の老練の飛行士が賑やかに話しながら、どんどん高度を上げていく。上空五百キロを超えた。大気圏のうちの外側の層、外気圏をも振り切った。スペースシャトルや国際宇宙ステーションが飛行するのは上空四百キロあたりなので、『ライコー』という機体が、いかに飛び抜けたスペックなのかが分かるだろう。ブースターロケットさえ使用していない。地球の重力を振り切って宇宙まで上がるにはマッハ三十、時速三万七千キロを越えなくてはならない。
そして、もっと恐ろしいのが隠密行動。太平洋上に顔を出した潜水艦のような物も、この三機の航空宇宙機も、どの国の軍のレーダー、軍事衛星、気象衛星の探知にも反応せず、天文台にも観測されない。三好兵衛たちの勢力が持つ航空宇宙機には、三種の動力源があり、暗黒物質をエネルギーとして運用している。その暗黒物質の効果により、様々な電磁波を操れる。
「一徳さんや、前に出て俺と並んでくれ。逆三角形の編隊を組むよ。」
長介が指揮を執るようだ。梅雀とも話す。
「梅雀さんは、操縦をオートパイロットに切り替えて、俺たちに追従するようにな。観測を頼むよ。」
「はいはい。承りましたよー。センサー類の操作に専念させてもらう。」
何よりも観測データが大事。梅雀の前に長介と一徳が出ることで盾になるつもりだ。隠密性の面からも、長介と一徳の機体で後方の梅雀の機体を隠せる。
その観測の対象となる物、宇宙船に近づいた。ラグビーボールを扁平にしたような形状。言ってみれば『笹かまぼこ』のような形の宇宙船だ。
「長さん、一徳さん。ありゃあ過去のデータにない。どうやら、未知との遭遇ってヤツみたいだぞー。」
「おおう。宇宙人とご対面って事かー。日本語が通じるといいなあ。」
「一徳さん、前向きだな。地球に喧嘩売りに来たのかもしれんぞ。」
三爺は改めて気を引き締めた。とはいえ、最初から戦闘になるとの覚悟は持って宇宙に上がったのだった。
一方、『笹かまぼこ』の宇宙船の中でも、地球からあっと言う間に航空宇宙機が上がってくるという想定外の出来事に、どう行動すれば良いのか乗組員の意見が割れていた。地球人の科学力が考えられていたよりも高度なものだと思われたためだ。
驚いたことに地球人、とくにケルト人、ブリトン人にそっくりな容姿を持った宇宙人たちが意見を交換している。
「凄い隠密性、通信妨害の技術です。受け身のレーダーでは捉えられません」。積極性のレーダーで、やっと反応しますが、それでもやっと。」
「ああ。数も質量も分からない。光学系の観測では二つに見える。だが、これもあてにして良いものか? 」
「どうする? 一旦退こうか? 」
レーダーや通信を担うオペレーター二人の報告に、副長ターナーは慎重な態度を見せる。だが艦長の女性は、そうではない。
「いや、退いても何も解決はしないでしょう。アークはどう思う? 」
長身で端正な顔立ちの青年が応える。シートから立ち上がりつつ。
「艦載機の出番でしょう? ストレートに発進しろって命令してくださいよ。」
「そうか。発砲するなよ? 」
「勿論です。」
三爺、「長介」「梅雀」「一徳」は、モデルになった芸能人がいます。
共通するのは、著名なベーシストということです。