神の存在を信じる悪魔は実在するんだ。信じろ。
事態をめんどくさくしている理由のひとつに、俺の家と神との関係というのがある。
魔王の親戚なのだが、俺の家はなぜか神を崇め奉っているのだ。
なぜか、とは言ったが、神と悪魔との本質的な関係からすれば、当然のことだろう。
本当の神は、この世を統べる各種の法則をひとまとめに概念化したものだ。
高いところで握っていた球から手を離せば、球は地面に落ちる。
朝になれば太陽が昇り、夕方になれば落ちる。
神というのはそういう自然法則の集合体なのだ。
これについて、「俺は神など認めない」とキレ散らかすのは無意味というものだろう。
だって自然法則だぜ。否定しても法則が変わることはない。
だから神の正体を知っている高位の魔族は、神を否定したりしないし、ましてや神を倒してそれに取って代わろう、などとは考えない。そもそも取って代われるものではない。
素直に神の存在を信じており、それが司る自然の法則に従っているのだ。
ただ、それに付随している人格的存在としての神’を無条件で信じているかというと、そういうわけではない。
あのおっさんは単に神が定め給うた法則に従って天界のどっかから生えてきた生き物に過ぎない。
で、天界にはあのおっさん同様に、自然発生した生き物たちがいる。
いわゆる天使だ。
そんでもってこのことを話すと驚かれるのだが、俺の身体には結構な割合で天使の血が流れている。
ミード公家は初代を除くと代々天使を正妻としてきたのだ。
俺の母上も、実は天使だ。
おばば様もひいばあ様もそのまたばあ様も天使なので、俺は肉体的には悪魔というより天使に近い。
そんな感じでほんとうの神への信仰が篤く、なおかつ血筋的にはほぼ天使なのだが、魔界三大公爵家の一翼を担っているというのが、俺の実家なのである。
魔王宗家の家臣どもは、これが面白くない。
だからなんとかしてより魔族の血の濃いものを、ミード公家にねじ込もうとしているのも理解できなくはない。
ミード公家でも、重臣たちが持参金目当てに魔王宗家からの養子がぜひ欲しい、と考えている連中がいることも先に述べた。
問題は、それらのリスクを乗り越えて、肉体的にほとんど天使の俺がミード公家を相続する意味があるかどうかってところだよなあ。