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神と神’と俺との関係は実に簡単…ではないよなあ

兄上、つまり当代のミード公が戦死した、とアイは俺に言った。


同母の兄とは言うものの、俺は兄上と会ったことは数えるほどしかない。


それはそうだろう。生まれた時から嫡男として父に次いでミード大公爵家の屋台骨を背負っていた兄上は多忙にもほどがあった。


実弟とはいえ部屋住みの厄介ものと会う時間など作れるはずもなかった。


会った回数は片手で数えるほどしかないのだが、それでも俺はこの人は俺に悪意を持ってはいないということを確信できた。


その兄上がもうこの世にはいない、と思うと、やっぱり悲しくなる。

それとあんな人格者が長生きできないこの世の理不尽に、腹も立ってくる。


「意外でした」


俺の顔を横からじっと見ていたアイが言った。


「兄上様に兄弟の情を持ってらしたんですね」

「いい人だというのはわかっていたからな」


そういえば門閥派の重臣どもが予算の無駄だから俺の身分を家臣に下げるか、いっそのこと庶民に落としてどこかの村に押し付けてしまえ、と騒いだことがあった。


その時兄上は「自分は武人であるからいつ命を落とすかわからない。だから予備は必要なのだ」と主張して俺の追放案を却下したという。


兄上に関わる記憶は、どれもこれも俺にとってありがたいものばかりだ。思い返すほどに涙が出て止まらなくなる。


「アイ」

「なんでしょう」

「半刻ほど一人にしてくれないか。泣く」

「……承知いたしました」


きっかり半刻経ってから、アイが部屋に入ってきた。

一旦泣き始めるとどんどん悲しくなって、最後にはおんおん声をあげていたのだが、アイの気配を感じた時にはもう泣くのをやめて、顔を拭いて平常運転の俺に戻した。


「では用件を」

とても十七歳の少女とは思えない能面のような表情で、アイが言う。

「相続のことか」

「はい。わたしどもの仲間は、すべてナリャーキ様こそ次代のミード公にふさわしいと考えておりますが」

「が、ということは、そう思ってない連中もいるということだな」

「左様にございます」

「重臣どもだな」

「御意」


俺はふうとため息をついた。

一応俺は父上によって兄上に何かあった時の予備として育てられた。


その兄上が亡くなったのだから、俺が後を継ぐ、というの一見自然なように見える。


だがそう簡単に物事が進まないのが世の中というものだ。人間界でも天界でも魔界でも。


いや特に魔界においてはよりめんどくさいことになっていると言えるだろう。


そのためにはまず、悪魔と神との関係から語っていかなければならない。


悪魔と神が対立する存在だ、というのは大嘘だ。


実のところ、神の本体というのは天界にいる人格的な存在ではなく、その背後にある概念なのだ。


これは宇宙はどうなっているのか、物体にどのように力を加えればどのように運動するか、という物理や化学法則の集合体のようなもので、それ自体に人格はない。


わかってくれば本当に簡単なことなのだ。


この完全なる概念の代弁者としての存在があり、こちらも神と呼ばれている。


一般大衆に普遍的な概念などと言ってもまず理解してもらえない。

その代わりに一人の人型の生き物を高い台の上に載せ、これこそが神である控えるがいい、と言った方がわかりやすいのだ。


この結果、一般の人間や天使や悪魔は神と言われるとこちらの人格的存在の方をイメージするようになる。本当の神とは微妙に異なるのだが。


いちいち説明するのが面倒なので、人格を持っている方の神をこれからは神’と呼ぶことにしよう。


さてこちらの人格的存在の神’だが、一応生物なので生まれもすれば死にもする。


とは言っても恐ろしく長命で、世界が始まって以降まだ数代を重ねただけに過ぎない。平均寿命は十億年以上ってとこだろうか。


人格のある方の最初の神’は概念である方の本当の神が理屈不明の自然現象の結果として生み出したものだ。


原初の悪魔も、同じようにして生みだされた。あと天使も。


本当の神からすれば悪魔も天使もほぼ同じもので、生命体として差はないらしい。

それが証拠に堕天して悪魔になった天使も多い。


あと、悪魔と天使は交配可能だ。


悪魔は神と比べるとその寿命は短い。戦いで死ぬのも多いしね。

で、魔王の総本家では、四代目ぐらいから寿命が短い当主が続き、それが問題になっている。


小さい頃から日常生活の細かいところまで人任せで、魔王様魔王様と過保護に育てられるので、ひ弱になってしまったらしい。

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