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ダメ若様のスローライフの終焉

割と前に書き初めていたもので、今のところ700行ぐらいあります。

それを出し切るまでは毎日投稿できると思います。

俺はその日、家の隣にある小さな畑で草むしりをしていた。


家は部屋が二つあるだけの粗末な建物。

畑は縦横それぞれ二十歩程度。


食料を自給自足するためというよりは、趣味で土いじりを楽しむことを目的としたものだ。


最低限度の生活を営む程度の食料は、実家から送られてくる。あと小遣い程度の現金も。


俺は十五になった年から、こうした生活を送ってきた。


いわゆるスローライフというやつだ。


本当の貧乏生活だと、小さな畑からの収穫やら税金やら長く住まうことによってあちこち壊れてくる家の修繕など、悩まなければならないことが星の数ほどある。


だが俺にはその一切がない。


適当に寝、適当に起き、適当に飯を食って、適当に土いじりをする。


そしてごくたまーにだが、近所の農家の娘と双方同意の上でイケナイことをする。


そういうお気楽な生活を、十五年も続けてきたのだ。


なんでそういうことができたかというと、それは俺の生まれが生まれだったからだ。


俺は魔界貴族のご令息なのだ。


しかも、魔界三大公爵と呼ばれる家の三男である。


この魔界において最高の権威を持っているのは魔王家であるセラーダ家だ。


魔王も代を重ねて、今の魔王は十三代目になる。

俺の家、世にいうミード公家は初代魔王の末っ子を始祖とする。当主は俺の長兄で八代目だ。


人間の世界でもそうであることが多いが、公爵家は一般的に王の兄弟姉妹を始祖とする。


読みが同じだが臣下からの成り上がりである侯爵とはここが決定的に異なるのだ。


まあ、魔界には魔王家との血縁がなくても勝手に公爵を称している連中もいるのだが。


俺の長兄は公爵家を相続し、次兄は他の侯爵家の養子となった。この場合の養子は、断絶しそうになった魔界貴族家の跡継ぎ用、という意味だ。正確な言い方をするのなら養嗣子ということになる。


俺には二人の弟がいる。彼らは分家の魔界貴族の家に養嗣子として入った。ちなみに伯爵級だ。


俺にも同様にいくつか養子の話があったのだが、父上がすべて断った。


最初から俺を兄上に何かあった時の予備にするつもりだったらしい。


兄上が何事もなく公爵家当主としての任をまっとうすれば、俺は生涯表の世界に出ることなく、ずっとここでスローライフを満喫することができる。


実はそんなに長く待つ必要もない。兄上に子ができ、その子が成人して兄上の後を継ぐことができるようになった場合にも、俺はお役御免ということで生涯スローライフ、ということになる。


魔界にも人間界にも、そして多分天界にも、スローライフを楽しみたい、と考える連中は山程いる。


ただ、一般人が考えるほど農業、しかも規模の小さいそれはイージーなものではない。


だからこの手のスローライフを成功させることができるのは、俺のような上級魔界貴族の余り物か、チートスキルとやらを持った一握りの異世界からの転生者しかいないということになる。


チートスキルなしで取り組むのなら、農業はあまり割のよくない重労働である。


経営面積が狭いと収穫の絶対量が足りず貧乏に苦しまなければならないし、面積が広すぎると仕事に追われて生活に余裕がなくなる。


一見、労働量と収穫のバランスが取れているように見えるような場合でも、農業には天候という不確定要素が存在する。


ちょっと雨が降り続いたり、気温が下がったりすると、収穫は激減してしまう。


農業は自分ではいかんともしがたい運にも似た要素に左右されてしまう。のんびり暮らすどころか、天を仰いで地を見つめて不安におののき胃に穴を開けてしまうようなストレスフルな職業なのだ。


スローライフというのは、理想と現実に違いがあるにも程があるようなシロモノなのだが、俺は実家の支援のお陰でほぼ理想的な状況をエンジョイしまくっているのであった。


こういう、正統後継者に何かあった時に備えて飼い殺す予備の息子を「部屋住み」という。


世間一般には、部屋住みと言えば一生うだつが上がらず夢も希望もない最低生物だと考えられている。


だが俺はこの生活が気に入っている。


何のリスクもなく好きなことをして生涯を送ることができるのだ。魔族だからそれこそ何万年も。


リスクがない、ということは誰にも支配されていないということでもある。


俺は自由なのだ。部屋住みバンザイ。


ちなみにこの世界で俺以外にスローライフをエンジョイしているはずの異世界からのチート野郎どもだが、実際に思惑通りの生活を営めているのはほぼいないらしい。


何しろあいつらは、前世において英雄だったり、最強魔術師だったりするのだ。


そういう経歴があるということは、要するにそういうものになりたい、と思った時期があったということだろう。


転生者どもは口を揃えて「もうそういうのは疲れた」と言っているのだが、そんなのがでまかせであることはちょっと噂を聞くだけでもわかる。


奴らはチート能力を駆使して本来ありえない効率で収穫を行い、地域経済を破壊しさらに国レベルで政治体制に悪影響を与えて「俺なんかやっちゃいましたかてへぺろ」などと言っているという。


このてへぺろが本心ではなく「俺ってやっぱすげぇんだぜ」という自己顕示欲のねじ曲がった発露であることは、リアルの人生経験が少ない俺でもすぐわかる。


まあ要するにあいつらにとってスローライフというのは目的ではなく、いろんなところからちやほやしてもらうための手段に過ぎない、ということだ。


その点心底スローライフを楽しみたいと思い、実際楽しんでいる俺とは根本的に異なる。

リスクなく好きなことだけを適当にする人生のなんと素晴らしいことか。


今夜はあれだな。久しぶりに近所の農家の娘とえっちなことでもするかな。


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