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ヘルマン・フォン・ヴァイス

 最後のお客さんが帰り、今日の営業も無事に終了したなと思った。


「アマーリエ、おつかれさま」

「オーレルもおつかれ。今日もお客さん多かったね」

「そうだね。これもアマーリエのおかげだよ。今日は疲れただろうからあとは休んでくれ」

「じゃあ、そうさせてもらうよ」


 アマーリエは階段を上って、二階へと向かった。

 オーレルは店を閉めようとして、外に出た。


「今日はもう終わりかい?」


 突然、オーレルは後ろから声をかけられた。オーレルが振り向くと、意外な人物がいた。


「ヘルマン! いや、ヘルマン様。どうしてこちらに?」

「やあ、オーレル。久しぶりだね。ここには誰もいないし、昔のようにフランクに話してもらってかまわないよ」

「それじゃあ、そうさせてもらうよ」


 オーレルの前に現れた男は、ヘルマン・フォン・ヴァイスという名の人物で、子爵家の三男だ。

 オーレルとは学園時代からの仲だ。貴族とは関わり合いになりたくないと思っていたオーレルだったが、唯一この男とは仲良くなった。


 理由は、この男がオーレルと同じ転生者であるからだ。

 このことはある事件をきっかけに知ったのだが、今はその説明を省こう。


 もちろん、ヘルマンはオーレルが元Sランク冒険者であることを知っている。普段は王都で騎士団の一員として働いているはずだ。そんなヘルマンがどうしてこの町にいるのだろうか。


「とりあえず、中に入ったらどうだ?」

「ありがたいね。そうさせてもらおうか」


 オーレルとヘルマンは店の中に入った。

 店に入ると、ヘルマンは店内の商品に目を向けた。手に取りながら、見ていたのでその間にオーレルはお茶を用意した。

 一通りヘルマンが武器を見終えると、満足そうにしてオーレルの方へ近づいてきた。


「さすが、オーレルだな。ここの武器はいいものばかりだ」

「それはどうも。でも、どうして、ヘルマンがこんな王都から離れた田舎にいるんだ?」

「ちょっと仕事でね。オーレルもキングサーペントのことを知っているだろう?」

「ああ、もちろん知っている。そのモンスターのせいで物流が滞って、商売をしている僕としては非常に困ったよ。そのことでこの町に来たのか? できることならもっと早く来てほしかったが」

「俺としてもそうできればよかったんだけど、忙しくてね。それで、こっちに来てみればすでにキングサーペントが倒されているという話じゃないか」

「この町では誰もが知っているけど、フリッツのパーティーが討伐したんだ」

「果たしてこの町の冒険者にあのキングサーペントを倒せるだろうか。聞いたところによると、そのフリッツとやらはこの前までCランクで、キングサーペント討伐前にようやくBランクに上がったという話じゃないか」


 ヘルマンは何か含んだ目をオーレルに向けてきた。


「何が言いたいんだ?」

「いいや、ただ俺はそんな冒険者にキングサーペントを倒すなんて無理じゃないかと思ってね。そこで、俺は思ったんだよ。そういえば、この町には元Sランクの冒険者がいたなと。その男ならば、キングサーペントなんていとも簡単に倒せるだろうと思ってね。――キングサーペントを倒したのは君だろう、オーレル?」


「さあ、どうだろうね」

「ははっ、どうやら当たりのようだね。まあ、この町でキングサーペントを倒せるのはオーレルぐらいだよね」


「誰にも言わないでくれよ」

「学園時代から変わらないね。そんなに貴族が嫌かい?」

「ああ、いやだね」


 ここで、ヘルマンはお茶をすすった。


「まあ、気持ちはわからなくもないな。貴族である俺が言うのもなんだが、貴族はくずみたいなのが多いからな」

「ところで、仕事の方はどうなんだい? たしか、学園卒業後は騎士団に入っていたよね」

「ああ、順調だよ。このままいけば、騎士団のトップに上り詰めることだって夢じゃないね」

「それはいいね」

「そういえば、ここに来る前に仕事で学園に行ったんだが、そのときにエドナ先生に会ったよ。そのときに先生から君の店のことを聞いたんだ」

「実戦演習をこのへんでするということでこの町に来たときに、この店に来てくれたんだよ」

「そうらしいね。エドナ先生が言っていたよ」


 このとき、二階の方から物音がして、階段を下りてくる音が聞こえた。


「オーレル、そろそろご飯にしな……」


 アマーリエはオーレル以外に誰かがいるとは思っていなかったようだ。オーレルの前に人がいるのが分かると、しばらく固まってしまった。


「えっ! お客さんいたの。ごめんなさい」

「いや、いいよ。この人は僕の友人だから」

「そうだったんですか」


 そんなオーレルとアマーリエのやり取りの横で、驚いている人物が一人いた。


「えっ!? どういうことだ? あの武器にしか興味なかったオーレルが女性と親しげに話している? 学園時代には女子に見向きもしなかったあのオーレルが?」


 なぜかヘルマンは困惑していた。


「オーレル、彼女とはどういう関係なんだ?」

「彼女はアマーリエ。少し前からここで従業員として働いてもらっているんだ」

「アマーリエです。よろしくお願いします」

「そうなのか……。おっと、名乗り遅れてしまったな。俺は、ヴァイス子爵家三男ヘルマン・フォン・ヴァイス。王都で騎士として働いている。そこのオーレルとは学園時代からの付き合いだ。よろしく」

「貴族の方なのですか」

「ああ、だが、他の貴族と違って、俺は身分は気にしていない。アマーリエさんもオーレルと同じように砕けた口調で話してもらっていいよ」

「それじゃあ、そうさせてもらうよ」

「このへんでエルフは珍しいよね。エルフということはアマーリエさんも魔法が得意なのかい?」

「いえ、魔法はあまり……」


 このとき、アマーリエの表情が暗くなった。オーレルだけでなく、ヘルマンもこの変化を感じ取ったのだろう。気まずい雰囲気が流れた。


「すまない。気を害してしまったようだね」

「いや、気にしないで」

「さて、夜も更けてきたことだし、俺はそろそろ宿に戻るよ」


 ヘルマンは立ち上がった。


「オーレル、アマーリエさん、また来るよ」

「ああ、待っているよ」

「いつでも来てね」


 ヘルマンはこうして店から去っていった。

 それにしても、さっきの様子を見るに、アマーリエに魔法のことを聞かない方がよさそうだな。何かわけがありそうだが、オーレルは踏み込まない方がいいだろうなと感じていた。

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