Aランク冒険者フリッツ
キングサーペントが討伐されて以来、ダーリエの町には平和な日常が戻っていた。
オーレル武器屋は相変わらず繁盛している。
「いやー、最近はフリッツのパーティーの話題で持ちきりだな」
オーレルの前にいるのは店の常連であるブラッドだ。ちなみに、フリッツのパーティーというのはキングサーペントを倒したとされているあのパーティーのことだ。
「そうですね。彼らはキングサーペントを倒した功績でAランクに上がったそうですからね。話題にもなりますよ」
「そうなんだよ。あいつらがこの町で唯一のAランクパーティーになるなんてな。あいつらのことは駆け出しのころから知っているが、あの頃はあいつらにランクを追い抜かれるとは思ってなかったからな」
ブラッドは昔のことを思い出しているのか、懐かしむような顔をしていた。
「ところで、オーレル。最近はお前の店もだいぶ繁盛してきたな」
「そうなんですよ。最近はブラッドさんの紹介で来たという方も多くて、これもブラッドさんのおかげですよ。ありがとうございます」
「いやいや、俺の影響なんてたいしたことないだろう。それよりも、アマーリエちゃんの影響の方がでかいだろう。最近冒険者たちの間でフリッツたちの話題の次くらいには話題になっているぜ。オーレルの店には美人なエルフの店員がいるってな」
「ははっ、たしかにアマーリエのおかげもあって、お客さんが増えましたね。彼女には感謝ですよ」
「そうだろう。――おっと、俺はそろそろ行かないとだな。それじゃあ、また来るぜ」
「はい、お待ちしております」
ブラッドが出ていくと、新たにお客さんが入ってきた。本当に最近はたくさんの人が来るなとオーレルは思った。
ちょっと前までは、暇な時間が多く、ブラッドなどと世間話をしていたこともしばしばだ。
まあ、たくさんの人が来てくれるのは嬉しいことであるから、いいのだが。
そんなことを考えるとまた人が入ってきた。今度は四人組だ。
「ねえ、フリッツ。ここが話題になっている武器屋よね」
「ああ、そのはずだよ。たしか、美人なエルフの店員がいるとか」
「あの人じゃない?」
「おお、噂通りすっげー美人だな」
その四人組は先ほどブラッドと話していた。フリッツのパーティーだった。
四人は各々自分が使う種類の武器を見ていた。
「へえ、この剣はいいな」
「ねえ、フリッツ、こっちの弓もすごいよ」
「この杖買おうかな」
「おお、斧も置いてあるぜ。しかも使いやすそうだ」
どうやら、四人ともこの店の武器が気に入ったようだ。
「キングサーペントの討伐で大金は手に入ったし、せっかくだから武器を買い替えようかな」
「それはいい考えね。私はこの弓を買うことにするわ」
「じゃあ、私はこの杖にしようかな」
「俺はこの斧に決めたぜ」
それぞれ、気に入った武器を持って、カウンターにいるオーレルの方へやって来た。
「支払いはまとめてでよろしいですか?」
「ああ、それで構わないよ」
先ほど仲間からフリッツと呼ばれていた男がお金を出そうとした。
「じゃあ、私の分はあとで払うよ」
他の二人もフリッツに同じようなことを申し出た。
「いや、その必要はないよ。日ごろから三人にはお世話になっているし、Aランクに到達することができたのはみんなのおかげだからね。ここは僕からみんなへのプレゼントということで」
フリッツが仲間たちにかっこよく言い放った。
「いいの? ありがとう!」
「フリッツさん、ありがとう!」
「ありがとな、フリッツ。これからも一緒に頑張ってこうぜ!」
仲間たちは嬉しそうにしていた。
「これで頼むよ」
フリッツは懐からスッと、小金貨二枚を出した。小金貨一枚は大銀貨十枚と同じ価値だ。
「おつりはいらないよ」
こう言って、フリッツは店から去っていった。
オーレルはつい呆然としてしまった。
フリッツは計算を間違えたのだろうか。彼らが購入した武器の値段は4つ合わせて小金貨二枚と大銀貨一枚だ。ただ、ここであんなことを言い放ったフリッツに「大銀貨一枚足りないですよ」などと言ってしまったら、彼はいたたまれない気持ちになるだろう。
それはかわいそうな気がするので、オーレルはおまけしておくことにした。
彼らにはキングサーペントを討伐した功績をなすりつけてしまったから、その分の礼もかねてだ。
周囲にいた他の客からはフリッツに尊敬のまなざしが向けられていたような気がする。