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オーレルの過去

 オーレルがキングサーペントを倒してから数日後、今まで通り行商たちが行きかうようになり、武器や鉄鉱石がこの町に入ってくるようになった。

 また、キングサーペントを倒したとして、あるパーティーが一躍有名になった。彼らはオーレルがキングサーペントを倒して立ち去る際に近づいてきた者たちだ。


 オーレルとしては、手柄はいらないので、それでよかったと思っている。

 ここで、どうしてオーレルがキングサーペントを倒すことができたのかということだが、実は、オーレルの冒険者ランクはSなのだ。いや、正確には元Sランクだった。

 どうして冒険者ランクがSだったのか、そしてどうしてそのことを隠すのか、それには理由がある。

 

 


 オーレルには、前世の記憶がある。


 オーレルの前世は日本人で、22歳まで生きた。

 前世において、彼は模造刀やモデルガンなどを集めるのが趣味だった。当時大学生だったのだが、バイト代はすべてそれらの収集につぎ込んだ。おかげで、部屋中武器のレプリカだらけになっていた。


 どうしてそんな趣味ができたのかというと、それは中学校の時の修学旅行で買った木刀がきっかけだった。

 修学旅行から帰ってきてからは、それを部屋に飾ったり、ときには振り回したりしていた。


 だが、次第に本物の刀はどんなものなのだろうかと興味を持つようになった。本物の刀を手に入れたいなと思ったこともあったがそんなことは不可能であると思い、あきらめた。


 しかし、いろいろと調べているうちに模造刀というものがあることを知った。

 前世のオーレルはすぐに行動を起こした。当時お年玉でたまっていたお金をすべて模造刀の購入につぎ込んだのだ。


 模造刀を手に入れてからというもの、すっかり虜になってしまった。それからというもの、お金がたまるたびに模造刀を買った。

 年を重ねるうちに刀だけでなく、銃にも興味を持つようになり、モデルガンも集めるようになった。


 思えば、前世で死んだ日もモデルガンを買いに出かけていた。目的の品を手に入れて意気揚々と歩いていた前世のオーレルは喉が渇いたので飲み物を買いに、近くにあったコンビニへ入ろうとした。これが前世のオーレルの運命を分かつこととなった。


 運の悪いことに、前世のオーレルがコンビニに入ろうとしたとき、ちょうど包丁を持った男が出てきた。わきに大きなカバンも抱えていることから、コンビニ強盗だろう。


 男は、「邪魔だ!」、と言って、血走った眼をしながら前世のオーレルを包丁で突き刺した。そのまま、男はどこかへ逃走していった。

 前世のオーレルは腹部を深くまで刺され、痛みのあまりその場に倒れこんだ。そこから、意識がだんだんと薄れていった。


 これが前世のオーレルの最後だ。何ともあっけない死に方だった。


 さて、今度はこの世界に転生してからのことを話そう。

 コンビニ強盗に刺されて、死んだオーレルであったが、気づけば赤ん坊になっていた。突然のことにオーレルはわけがわからなかったが、しばらくして自分が転生したという考えに思い当たる。


 そう言えば、前世で異世界に転生してなんか主人公が無双するというような話が人

気になっていたなとオーレルは思った。

 オーレルは少しの不安を覚えたが、それはある考えによって吹き飛ぶ。


 異世界に来たということは、もしかするとモンスターなんかもいるのかもしれない。ということはだ。当然、モンスターを倒すには武器が必要だ。つまり、レプリカなどではなくて本物の武器を自分の手に取ることができるということだ。

 こう考えると、オーレルはわくわくしてきた。


 今は動くこともできないほど小さいが、早く成長して自由に動けるようになりたいなと思った。


 月日はあっという間に過ぎていき、オーレルは五歳になっていた。この年になれば自由に動きまわることができた。それと同時にこの世界の状況も知ることができた。

 オーレルが生まれたところはメローネ王国のヴィンデという町であった。大して大きな町ではなく、今オーレルが住んでいるダーリエの町からは少し離れたところにある。父はそこで兵士として働いている人物だった。オーレルには兄が一人と妹が一人おり、兄の方は今では父と同じように兵士として働いている。それに母を加えて小さい頃は五人で暮らしていた。


 父が兵士だったので、もちろんだが家には本物の剣があった。といっても、父はオーレルに触らせてくれなかったが。

 オーレルは本物の剣を間近で見ることができて感動した。このときに、オーレルは将来絶対に武器に関わる仕事をしようと決意した。


 さらに月日は流れて、オーレルは十五歳になった。

 前世ではそれなりの国立大学に入っていたので、勉強は得意な方だった。そのおかげかわからないが、平民生まれだったオーレルは勉強の機会が少なかったものの、この国で一番の学校であるメローネ王立学校に入れてしまった。


 この国には前世と違って、身分制度があり、平民が貴族に逆らうことはできなかった。もし、そんなことをすれば死ぬ可能性だってある。

 王立学園では学生のほとんどが貴族の子供で、平民の子供は少なかった。


 学園は、身分に関係なく平等に、というようなことを言っているが、そんなことは不可能である。貴族の子供が学園の中でも威張り散らし、もしも気に食わなかったことがあれば、平民か自分よりも身分の低い貴族にきつく当たる。

 それだけでなく、学園の教師たちも平民と貴族で露骨に差別することが多い。それでも、オーレルのクラスの担任であったエドナは教師にしては珍しく平民も貴族も平等に扱ってくれたものの、中には平民の子供を無視するような教師もいる。


 そんな環境で生活するなど、オーレルは嫌だったので学園には行かずに商売の道に進もうとしていたのだが、学園に受かったオーレルのことを誇らしげに周囲の人に語っていた家族を見て、辞退することができなかった。

 オーレルは学園での生活で、貴族に目を付けられないように目立たず過ごした。勉強においても他のことにおいても全体の平均くらいの成績をとるようにしていた。


 そのおかげか、学園では余計ないざこざに巻き込まれずに過ごすことができた。

 とはいえ、良かったこともある。学園の中で、貴族たちを間近で見ていたので、改めて貴族の権力を認識することができたことだ。オーレルは学園での経験から、貴族との関わり合いは可能な限り避けようと思っていた。そのため、オーレルは学園卒業後、貴族がめったに訪れることのない王都から離れたダーリエの町に店を構えた。


 また、オーレルが元Sランクの冒険者であることを知られれば、貴族に目を付けられる可能性が高くなる。それは、Sランク冒険者がこの国では数えるほどしかいないからだ。貴族の中には冒険者に仕事を依頼する者もいる。何度か請け負ったこともあるが、貴族が依頼する仕事は大概が面倒なものだ。

 だが、貴族に指名されて依頼されれば、断るのは余程の理由がない限り無理だ。


 ということで、オーレルは冒険者を引退し、実力を隠して今ではただの武器屋の店主をやっている。

 この前のキングサーペントとの戦いは久しぶりの戦闘だった。学園を卒業するのと同時に冒険者も引退したので、約一年ぶりに剣をふるった。腕は鈍っていなかったので少し安心した。


 こんな感じの理由でオーレルは元Sランクであるということを隠している。

 だが、そもそもどうしてオーレルにSランクになるほどの実力があるのか。

 オーレルは家を出て、学園に通い始めたころから、武器の収集を始めた。とはいえ、武器はひとつひとつ値段が高い。そのため、趣味の武器収集にはお金がかかる。


 そこで、オーレルは手っ取り早くお金を稼げる方法がないかを考えた。

 オーレルは冒険者業が一番稼げるという結論を出す。


 実家に住んでいたころに父から剣を習っていたので、弱いモンスターであれば簡単に倒せる程度の実力はあった。

 したがって、オーレルは学園の授業が終わると、モンスターを討伐してお金を稼ぐというのを毎日繰り返していた。すると、オーレルの実力はメキメキと上がっていった。


 あっという間に、E、D、C、Bと冒険者ランクが上がっていった。

 冒険者ランクがBに上がったのはオーレルが二年生になる少し前だった。この頃から、オーレルは正体を隠して冒険者業を行っていくことにした。


 名前は、最初に冒険者ギルドで登録するときに偽名で登録しているので名前で正体がばれることもなかった。ちなみに、偽名で登録する人は多いのであまりおかしなことではなかった。


 その後も着実にオーレルは強くなっていき、オーレルが三年生になるころにはSランクに到達していた。

 周囲の人には何やら中二病じみた二つ名がつけられていたが、そのことは今は置いておこう。


 当初は剣を使って戦っていたが、武器の収集をしていくうちに、それらも実際に使ってみようと思って、槍や弓などだいたいの武器は使えるようになった。だが、魔法だけはいまだに使うのが苦手なので、杖はほとんど使わない。

 こんな感じで、オーレルはSランクの実力を身に付けたというわけだ。

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― 新着の感想 ―
読ませていただきました。 オーレルは転生者だったのか。話の途中で開示する構成は斬新ですね。参考になります。 私もモデルガンの収集癖があるので主人公に親近感が湧きました。しかし武器代稼ぐために冒険者にな…
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