キングサーペント討伐
アマーリエがうちに来てから、気づけば二週間経っていた。今では、アマーリエは仕事にすっかり慣れてしまった。商品の位置もすべて覚え、たいていのことに対してはアマーリエ一人で対応できるようになった。
また、アマーリエが来てから、確実に店に来てくれるお客さんの数が増えた。ある人から、聞いたところによると美人なエルフの女性がいる店として、冒険者たちの間で話題になっているようだ。
おかげで、売り上げが先月に比べて大幅に伸びている。これは非常に喜ばしいことだ。このことはオーレルにとって思いがけないものであったのでアマーリエに感謝した。
だが、喜ばしいことばかりではなかった。
「はあ~、困ったな」
オーレルはカウンターに突っ伏していた。
「そうだね。このままだと売り物が無くなりそうだね」
アマーリエは店内を見回しながらそう言った。
売上が伸びて、どんどん商品が店からなくなっていくのはいいのだが、問題は現在新しい武器を仕入れられない状態にあることだ。
なぜこんなことになっているのかというと、この付近に出現したというモンスターに起因している。そのモンスターとは以前ブラッドから聞いた蛇型のモンスターで、キングサーペントという名のモンスターだ。
キングサーペントはAランクの冒険者がようやく倒すことのできるモンスターで、それ以下のランクの冒険者が倒すのが難しい凶暴なモンスターだ。
そんなモンスターが現れたために、わざわざ危険を冒してまでこのあたりへ来るような行商はおらず、武器がこの町に入ってこない。それどころか、材料となる鉄鉱石なども入ってこないため、鍛冶師はいるものの、武器の製作ができないでいる。
こんな状態になっているならば、キングサーペントを倒せばいいだけなのだろうが、この付近はもともと弱いモンスターしか出ないので、Bランクの冒険者が数名いるだけでほとんどの冒険者がそれ以下のランクだ。
警備のためにこの国の騎士団もいるにはいるのだが、これまた大した実力のあるものはいないため、キングサーペントの討伐は難しい。
このままの状態が続けば、他の物資も不足してしまう。そのため、王都からそれなりに実力のある騎士や魔術師が派遣され、すぐに討伐されるだろうと甘く見ていたのだが、そうはならなかった。
聞いたところによると、国内の他のところで何やら騒動が起きたということで、実力のあるものたちはそちらに駆り出されており、こちらに人員を割く余裕がないそうだ。
オーレルは解決策を1つ思いついていた。なるべくならば、自分が関わらずにこの問題が解決してくれればよかったのだが、このままでは解決するのはまだまだ先になるだろう。
そこで、オーレルは腹をくくった。
顔を上げ、オーレルは立ち上がった。そのまま、オーレルは自分の部屋へと向かおうとした。
「急に立ち上がってどうしたの?」
アマーリエは後ろから追いかけてきた。
「いや、ちょっと用事を思い出したから出かけようと思ってね。そういうことだから、アマーリエには留守番を頼むよ」
「……わかった」
訝しむような目線を向けてきたアマーリエだったが、納得してくれたようだ。
オーレルは奥の方から昔使っていた剣を取り出した。この剣はただの剣ではなく、貴重な魔剣というものだ。魔剣とは、魔法のように魔力を使うことなく、特殊な能力を発動することができる剣のことだ。
この剣を持って、顔を隠せるようなフード付きのローブを身にまとった。
「じゃあ、行ってくるよ」
「いってらしゃい」
◇◇◇◇
オーレルはキングサーペントがいるという場所へとやって来た。辺りには草が生い茂っており、木もまばらに生えている。
オーレルはあたりを伺い、モンスターの気配を探った。いつもであれば、このあたりには多くのモンスターがいるはずであるが、不自然なほどにシーンとしている。これもキングサーペントによるものだろう。
突如、背後からバキッと木の折れる音がした。オーレルが振り向くと、木々の間から、キングサーペントが現れるのが見えた。
それは茂みからこっそり現れるようなかわいらしい大きさではなく、全長十メートル以上はあるように思われる巨大な蛇であった。
キングサーペントはオーレルと目が合うと、大きく口を開けて、オーレルへと襲い掛かった。この蛇の牙にかまれれば、毒によってあっという間に命を落としてしまうだろう。
オーレルはそれを軽々と避けると、魔剣を鞘から引き抜いた。
剣からは炎が上がり、オーレルは剣を構える。オーレルのもつ魔剣は『イフリート』という名前で、この魔剣には炎を生み出し、剣の使用者が炎を自由自在に操ることのできるようにする能力がある。
再びキングサーペントがオーレルへと襲い掛かった。
これに対して、オーレルは避けずに、剣を振り下ろした。
巨体を持つため動きの遅いキングサーペントはこれを避けることができず、真正面から受けた。
キングサーペントの体は真っ二つになり、切断面は黒く焦げていた。
蛇型のモンスターはこれによって絶命し、ピクリとも動かなくなった。
オーレルは魔剣を鞘に納め、このモンスターの死体をどうするか考えた。焼いてしまった方がいいだろうか。いや、それではキングサーペントが討伐されたことを証明できなくなってしまうな。かといって、これを冒険者ギルドにもっていけばいろいろと騒ぎになるだろう。
オーレルが悩んでいると、近くから誰かが近づいてくるのが分かった。どうやら、キングサーペントを討伐しようと意気込んでいるようだ。見た感じ、そこまで強そうではないので、彼らでとてもではないがキングサーペントには勝てなかっただろう。
だが、ちょうどいい。あとは彼らに任せてしまおう。
オーレルは音をなるべく立てないようにしてこの場から去った。
「なっ! こ、これは、キングサーペントじゃないか!」
「キングサーペントが頭から真っ二つになってるぜ」
「こんなことをできる人がこのあたりにいたのね」
「ギルドに報告しないと!」
キングサーペントを倒しに来た四人組が驚いている声が後ろから聞こえてきた。