凄腕の鍛冶師
「じゃあ、僕は行ってくるよ。すぐに帰ってくるとは思うけど、僕のいない間は店を頼んだ」
オーレルは店の入り口でアマーリエとリリスに声をかけた。
「うん、任せて」
「安心して、たくさん武器を売ってみせるわ」
アマーリエとリリスが頼もしい返事をしてくれた。オーレルも安心して出かけることができる。
昨日、ヘルマンから武器を大量に安く売ってほしいと頼まれたので、さっそく行動を起こそうと思ったオーレルはダーリエの町の近くにあるコスモスの町へと向かうことにした。
目的はもちろん、コスモスの町に住む知り合いの鍛冶師だ。
近くにあるといっても、この国にある町はひとつひとつが離れて存在しているので、行くのには少し時間がかかる。それに途中でモンスターに出くわすこともあるので、油断はできない。
オーレルがコスモスの町へ向かう途中でもモンスターに遭遇したが、このへんのモンスターなど元Sランク冒険者であれば恐れるに足りなかった。
オーレルは襲い掛かってくるモンスターを一撃で撃退し、目的地まで向かっていった。
無事にコスモスの町へとやって来た。といっても、町並みはダーリエの町とほとんど同じだ。住んでいる人の数もダーリエの町とそう変わらない。
オーレルは町に入り、鍛冶師であるティルマンのもとを訪れるために歩いた。
ティルマンはオーレルの王立学園時代の先輩だ。学年は違うものの、学園では数少ない平民同士、すぐに仲良くなった。
学園の卒業後もオーレルはティルマンとは付き合いがあり、彼の製作した武器を仕入れて、オーレルは自分の店で売っている。
ティルマンの鍛冶屋としての腕前は優れたものだ。ティルマンのつくった武器は鍛冶が得意なドワーフのつくる武器にも引けはとらないだろう。
オーレルはティルマンの家へと無事に着いた。
「先輩、オーレルです。先輩に用事があって来ました」
オーレルはドアをノックして声をかけた。
しばらくすると、家の中から汗だくでところどころ服が黒くなっている男が出てきた。この男こそティルマンだ。ティルマンの青い髪は汗で濡れていた。部屋の中は熱気が充満している。
「すまないな。今、剣を打つのがちょうど終わったところだったんだ」
「いえ、かまいませんよ。こちらこそ突然訪ねてしまい、申し訳ありません」
ティルマンは口数が少なく、無愛想に見える人物で、今もにこりともしてないが、話してみると実に良い人物だ。
「特に何もないが、中に入ってくれ、立ったままだと疲れるだろう」
オーレルはティルマンに二階へと案内された。ティルマンの家は一階が工房になっており、彼自身は二階に住んでいる。オーレルの店と同じだ。
ティルマンは着替えてくると言って、姿を消した。
その間、オーレルは部屋に置いてある武器を眺めていた。ここにあるのはすべてティルマンが製作したものだ。
武器好きのオーレルにとってはたまらない空間だ。短剣や槍、騎士が使うような剣が置いてある。どの武器も非常に出来の良いものだ。
オーレルがにやけながら武器を眺めていると、ティルマンが戻って来た。
「待たせたな。それで、俺に用事ってなんだ、オーレル?」
ティルマンは単刀直入に聞いてきた。
「実は武器を大量に欲しいというお客さんが現れまして、先輩から武器をたくさん仕入れたいなと思って来たのですが」
「どのくらい必要なんだ?」
「詳しいことは追って知らせると言われたのですが、かなりの量になると思います。それも数百、数千とかになると思います」
「そんなにか。その客は戦争でもするつもりなのか」
ティルマンは驚いた顔をしていた。彼の言う通り、戦争に備えてのことなのだが、ここでそれを言うわけにはいかないので、オーレルは何も言わなかった。
「わかった。いいだろう。ただし、それ相応の見返りはもらうぞ」
「はい、もちろんです」
おそらく、収支はマイナスになるだろうが、仕方ないと思ってオーレルは割り切っていた。
「ただな、今、少々困ったことに巻き込まれていてな」
ティルマンは珍しく表情を変えていた。それほどのことらしい。
「俺の鍛冶の腕をどこかで聞きつけた貴族に武器の製作を頼まれたんだ。まあ、それは別にかまわないんだが、問題はその注文内容なんだ」
「どんな内容なんですか?」
「それが純魔鉱石を使って作れということなんだ。前までは俺も純魔鉱石を持っていたんだが、それを切らしてしまってな。それで新しく仕入れようとしたんだが、全然出回っていないんだ。それで、依頼を断ろうとした」
ティルマンの言う純魔鉱石とは、空気中や地中に存在する魔力が結晶化したもので、魔力の濃度が高いところでしか取れない。
「断れたんですか?」
「それが、無理だったんだ。その貴族様はどうにかしてつくれと言ってきた。ないものはどうしようもないんで、困っているんだ。もし、できなかったら命はないかもしれないな」
はあ、とティルマンはため息をついた。
「貴族様のわがままには困ったものだ」
「このへんで純魔鉱石が取れるのは……」
「妖精の森しかないな」
ティルマンの言った妖精の森というのはエルフたちの住む集落、エルフの里がある場所で、どの国にも属していない特殊な場所だ。そこに人間が立ち入るのは難しい。なぜなら、その森の周囲には結界が張られており、エルフとエルフに認められた者しか入ることができない。
「……」
オーレルは考えた。ティルマンに死なれるのは困るので、どうにかしなければならない。エルフの里か……。
「純魔鉱石ですが、手に入れられるかもしれません」
オーレルは控えめに言い放った。